“売れる売場”より、作りたかったもの。
「なんで自分は、あの舞台の上にいないんだろう」
好きなアーティストのライヴを観にいく時、
自分の中に浮かぶのはいつもそんな感情でした。
もちろん、大好きなPerfumeやBABYMETALみたいに
ダンスが上手いわけでも、歌が上手いわけでも
神バンドみたいに楽器が上手いわけでもないから
舞台の上には立てないのは当然なのですが、
たくさんの人の気持ちを感動で動かしたいし、
自分が関わった事で、その人の人生を屈曲させたいという想いは、
ライヴにいくたびに常に感じる感情でした。
ただ同時に、自分の中に湧き上がってきたのは、
PerfumeやBABYMETALは、一瞬で一万人の感情を動かし、
目をキラキラさせることができるけれど、
それが出来ない自分も、決して舞台の上の人たちより劣っているのではなくて、
一人ずつではあるけれど、
私は売場を通して、感動で目をキラキラさせる事や、
人生を動かしていく事ができるのだと言う想いから、
リスペクトする人達を憧れで見るのではなくて、
自分にとっての“ステージ”は売場なんじゃないかと思う様になったのです。
では、
なぜ、自分はそこまで“感動”に惹かれるのか。
それを考えた時、
自分の中で大きかったのは「サプライズ」でした。
音楽が好きな私には、音楽でのターニングポイントが何回かあります。
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、Perfume、BABYMETAL
高校生でメタルにどっぷり浸かってから紆余曲折を経て、
いろいろな音楽を聴く様にはなりましたが、
大きなターニングポイントはこの3つのアーティストとの出会いで、
それは、単に好きなアーティストを見つけたと言うより、
時代が動いている瞬間を好きになった様な体感でした。
THEE MICHELLE GUN ELEPHANTは、座席指定が一般的だったコンサートを
あれよ、あれよという間にスタンディングのライヴに変えて行き、
その後ROCKバンド文化が停滞しはじめる中、
Perfumeは、大きなステージに生バンドもいなければ、バックダンサーもいない空間を
3人だけのダンスでROCKし、
BABYMETALは、様式美が重んじられるメタル業界に、一流のダンスと一流の演奏という
リスペクトを持った破壊を以て、
新しい価値観が生み出されて行く瞬間に、
私は、時代が動いている感覚をとても感じて感動し、
自分の中の感情メーターが、一気にレッドゾーンまで振り切れた感覚がありました。
それまでの世の中の流れからは予想できないこの3組を見た時には、
“カッコイイ”とか“凄い”を通り越して、
「なんじゃこりゃ」と言う言葉が、真っ先に出てきたのが率直な感想でした。
そしてこれは、
実は自分が売場で目指している事と同じなのかもしれません。
ただ商品説明をするのではなく、
「え、なにこれ?」
「そんな考え方があるんだ」
と、お客様の感情が一気に動く瞬間をどう作るか。
そのために私は、
“説明よりも先に体感する”ことを大切にしていました。
感動は、偶然生まれるものではなく、
意図して起こせる技術、構造として設計できるものだと思っています。
感動を生み出す3要素「サプライズ」、「プロの技」、「ホスピタリティ」。
私は今までの仕事の経験の中で、
これらをどの様に、どのタイミングで、どういう順番で使って行く事で、
その人の感情メーターをどうすれば振り切らせられるかを常に考えて行動してきました。
特に「サプライズ」は、衝動買いと言う言葉があるくらい、
お客様の感情メーターを一気に振り切らせ、大きな感動を作り出せると考えているため、
その瞬間を最大化できるような設計を心がけ、
“知る”より先に、
“感情が動く瞬間”を作りたい。
だから私は、
あえて“説明しすぎない”ことを大切にしています。
じゃあ売場で具体的にどう設計しているのか。
常に私は、お客様には半歩先の未来を提案することを心がけています。
二歩先の未来はトレンド最先端かもしれないけれど、自分ごとには捉えられない。
一歩先の未来でも今の自分からだと、結構頑張らなければいけない。
だから、今の自分のままでもちょっとした考え方の変化で
想像できるし、それを試している自分を想像出来る半歩先の提案は、
お客様にも現実味のある、自分ごととして夢見れる提案だと思っています。
ただ、
ここでひとつ自分の中では葛藤がありました。
感動を生み出せる瞬間は増えて行くけれど、
それが偶然というよりは、
自分のアクションで必然的に発生させられていると考えていたため、
「なぜ、この売場では感情が動いたのか」
「なぜ、この接客ではお客様の目が変わったのか」
それを、もっと理解したい。
感覚ではなく、言語化したい。
自分の中で強くなっていったのは、
“接客を科学したい”という感情でした。
感覚だけで“できる人”で終わりたくなかった。
自分だけができても意味がないし、
再現できてこそ、自分以外のスタッフも計画的に感動を生み出すことができる様になって
本当に価値になる。
だから私は、
売場・接客・VMD・数値・人材育成を、
感覚ではなく“構造”として捉え、言語化するようになっていきました。
その考え方が、
自分の中で最も大きく成果へ繋がった経験があります。
靴屋の店長時代、
当時ほとんど売れていなかったインソールを、
年間約2000点販売した時のことです。
それまで、インソールは売れても各店月に10点程の埋もれた商品でした。
多くのお客様はインソールを目的に来店されるわけではなかったため、
お客様が本来目的にしている靴と、今までお客様が履かれている靴の違いを
わかりやすく体験していただくツールとして説明に使い、
例えば、「歩きやすくなる」「疲れにくくなる」という機能だけを伝えるのではなく、
その先にある未来を想像していただくことを大切にしていました。
快適に歩けることで、
外出すること自体が楽しくなるかもしれない。
今まで「疲れるから」と避けていた場所へ、
自然と行きたくなるかもしれない。
誰かと会う時間が増えるかもしれない。
新しい友達との繋がりが増えるかもしれない。
つまり私は、
“インソールを売りたかった”のではなく、
その人の行動や日常が、少し前向きに変わるきっかけを提案したかったのです。
その結果、インソールの提案は、単なる機能提案ではなく、
お客様の生活や未来に対する価値提案として受け入れていただけるようになり、販売数の向上につながりました。
元々は、他の店舗の店長が話していた成功事例を基に
もっと簡単に、詳しいことが説明しきれない新人スタッフでもできる様にアレンジして
始めた事ではありましたが、
最初は、やはりスタッフもなかなか継続して取り組んではくれませんでした。
今までの売り方とは違う。
しかも、インソールを入口にして未来を提案するという接客は、
当時としては少し特殊なやり方だったと思います。
だからまずは、自分自身が売場で実際にやって見せることを続けました。
お客様が、
「え、そんな考え方あるんですね」
と驚かれる瞬間。
インソールを試したあと、
表情が変わる瞬間。
それを、スタッフに見える場所で、
何度も繰り返していきました。
すると少しずつ、
「なんか面白そう」
「自分もやってみたい」
と言ってくれるスタッフが現れ始めました。
もちろん、
最初から全員が上手くできたわけではありません。
途中で言葉に詰まるスタッフもいましたし、
決定まで繋がらないこともありました。
でも私は、結果だけではなく、
“やってみようとしたアクション”そのものを評価したいと思っていました。
だから、たとえ途中まででも、チャレンジしたことをしっかり褒める。
必要な時には、横に入ってフォローする。
そうやって、「できた」という小さな成功体験を、少しずつ積み重ねていきました。
そして、
最初のフォロワーが生まれてから、売場の空気は一気に変わり始めました。
そう言った成功事例を積み重ねて行くうちに
個人での成功から、チームでの成功に目が向く様になっていきました。
チームでの成功を意識し始めたことは、
自分にとっても、よりスタッフ個人個人の価値観や特性の違いを尊重し、
如何にひとりひとりを輝かせるかを考え抜いた時期でもありました。
販売員は、何故かどこでも4番バッターを目指す事が求められて、
4番バッターが一番偉いって思いがちな部分があります。
自分がチームを見る様になって一番感じたのは、
それとは逆の「全員を4番にしなくていい」ということでした。
野球でも2番バッターの犠牲バントで得点が入ることも大切な1点にもなり、
バッティングよりも、守備が得意な選手のおかげで失点免れたことで勝てる日もあったり、
声出しが一番大きくて、チームの元気がなくなった時にも
その人の声で「諦めないぞ」とチーム全体が一丸となったりする様に、
役割によって人は輝き、販売員でも4番バッター以外の特性も認められるべきであって、
そのスタッフが一番輝けるのが何番なのかを見極めて、
意図的にそのスタッフが“輝ける配置”を作り、
ヒーロー体験を意図的に設計することでモチベーションアップや、
もっと頑張りたい、もっと覚えてもっと売りたい
という気持ちを醸成することがリーダーの役目であると自分では考える様になりました。
気づけば、自分が本当に作りたかったのは、
“売れる売場”だけではありませんでした。
お客様の感情が動く瞬間や、スタッフが自分の可能性に気づく瞬間が、
自然と生まれていく空気そのものを、作りたかったのかもしれません。
自分が好きな音楽の世界のセッションの様に、
お客様のことを理解し、次どんなふうに展開してくるのかを予想しながらも、
期待の先を上回る様な半歩先の提案で、お客様も笑顔になり、
そのお客様の笑顔で、自分もスタッフもこの仕事をして良かったなぁと感じる様な、
商品の価値以上の記憶に残る様なコトを提供し続ける事で、
「あなた達に出会った事で、その後の人生が変わってしまった」と言ってもらえるほどの
感動を与え、お客様自身だけでは見られない景色を見せられるお手伝いをしたい。
そんな景色を、これからも売場で作っていきたいと思っています。