NY文化・風土録(井上竜仁)
愛と憎しみがテーマの映画「ドゥ・ザ・ライト・シング」。この映画の中で、年寄は若者に「正しいことをせよ」と諭します。キング牧師は言いました。「人は果てしない憎しみのらせん階段を転がり落ちると、暴力に行き着く」と。
「ドゥ・ザ・ライト・シング」の風景は、闘う力を得たぞ!と扇動的に歌パブリック・エナミーの曲がラジカセから流れてくれば、遠くの方でサルサのビートが聞こえてきます。
角にイタリア系移民のピザ屋があって、その向かいには韓国系移民の経営する商店がある。そんなごく当たり前のニューヨークが舞台です。そこに住む人間の不満と利害は、夏の暑さで自然発火を起こしながら密林の地をはっている根のようです。それほど複雑に絡み合いながら、発火の時を待ちます。
映画は暴動が起こるまでをそれぞれの立場から丁寧に、時にはユーモアを交えて語っていきます。しかしながら、ヒーローは存在しません。だれもが間違いをおこすし、まただれもが正しい。多様性を認め合うのは口で言うほど簡単ではないのです。
愛と憎しみの二重らせんの中は、黒人の生んだ素晴らしい音楽でいっぱいです。ルイ・アームストロング、アレサ・フランクリン、マイルス。音楽はいつでも渇いた心を癒し勇気づけてくれます。この映画の真のヒーローは音楽かもしれません。
直近でNYに滞在した当時は、地元の有力紙ニューヨーク・タイムズ紙を愛読していました。そのとき、同紙は「真実が今ほど重要なときはない」との広告を流しました。メディアを「偽のニュース」と非難するトランプ氏に対抗。ハリウッドなどの他のリベラルメディアと共同戦線を張った形でした。
さて、同じニューヨーク映画として思う浮かぶのは、意外なことに「GODZILLA/ゴジラ」(1998年米)です。ローランド・エメリッヒ監督。マシュー・ブロデリック主演。
核実験の影響で生まれた巨大生物ゴジラが、ニューヨークで軍隊を相手に壮絶な戦いを繰り広げます。