戦後日本と文化的な国際貢献 - 田村泰彦
サミュエル・P・ハンティントン教授はフォーリン・アフェアーズ誌(1993年)で、冷戦以後の「文明の衝突」について論文を書きました。彼は文明の衝突こそ、新世界秩序下の世界政治の中心問題になると主張しました。すなわち「人類の大きな分裂、紛争の主要な根源は文化的なものだ」というのです。
戦後の日本はイデオロギーや政治を回避しようと努め、経済上の戦いに全精力をつぎ込んできました。
しかし、彼によれば、新時代の対立は「七つまたは八つの大文明間の相互作用」によって、より多様化したものとなるそうです。ここに、新しい世界的文脈の中で日本にとっての新たなテーマがあると考えます。すなわち、経済的、政治的目標達成のための文化的アプローチです。
「政治の安定と継続性」が日本式成功の主要な前提条件だったとすれば、今や対決的で摩擦を生じやすい政治シナリオができ、日本にとって事態は悪化の方向に向かっていることになるでしょうか。
そういうわけではありません。あらゆる兆候から見て、日本は経済的優位を保ちながら、新しい政治的不確実性を処理していくことが可能でしょう。その秘密はまさに日本の文化的強さにあるかもしれません。
日本はこれまで、アジア的繊細さを備え、慈愛とバランス感覚を持った特有の「日本文化」の明確なアイデンティティーを提示してきました。それによって、どれだけ文化的貢献ができるかを把握することはあまり得意ではなかったようです。
アジアに強固な協力・協調関係を造り上げ、真の意味で適切な世界的なバランスをつくり出すには、日本の役割は重要です。
一方、世界は、経済上の平和を維持するため、日本が世界全体の負担の大きな部分になるよう求めています。
日本が新しい世界の挑戦にどう対応していくか、行動日程表を作り上げる必要があります。世界に秘密を打ち明けること、真に国際的な視野を持つこと、予想される「文明の衝突」を防ぐために新しい文化現象の出現を助ける役割を強調することなのです。
日本は、この領域でリーダーとなっていくだけの経済力を持っています。この重要な貢献を実現しようとする政治的意思と精神的理解力を持たなければなりません。
「改革」という言葉は、新たな方向感覚や大胆なビジョンをつくり出すことにつながらなければなりません。そして日本が欧米に対して、より独立したアプローチをとり、他のアジア諸国に対しては、真に現実的で親切な政策を実施するのに必要なダイナミズムを生もうとする全面的努力をも意味するアプローチでなければならないでしょう。