「分からないことがあれば、詳しい人に聞けばいい。」
一見すると、とても合理的な考え方です。
経理のことなら経理担当者へ。
判断に迷ったら社長へ。
案件について分からなければ、詳しそうな人へ。
直接聞いた方が早く解決することもあるでしょう。
しかし、組織で仕事をする場合、
「詳しい人に直接聞く」が、必ずしも正解とは限りません。
私は、誰に相談し、誰が判断し、どこを通して仕事を進めるのかという「指揮系統」を整えておくことも、組織設計の大切な要素だと考えています。
支店の社員が、本社経理へ直接問い合わせる
例えば、複数の支店がある会社で働いている社員が、給与について確認したいことがあったとします。
給与のことだから、本社の経理担当者へ直接聞く。
一番早く答えが返ってきそうです。
しかし、本来その社員を管理しているのは支店の管理者です。
社員から直接本社へ問い合わせが入り、本社経理との間だけで話が進んでしまうと、支店の管理者はその問題が起きていること自体を知らないかもしれません。
さらに、各支店の社員が同じように直接問い合わせを始めたらどうでしょうか。
本社経理には、各地から個別の問い合わせが集まります。
同じ質問へ何度も回答する。
支店ごとの事情を確認する。
場合によっては支店管理者へ確認し直す。
結果として、
直接聞いた方が早かったはずなのに、組織全体では仕事が増えている
ということが起こります。
支店で解決できることは支店で対応する。
本社への確認が必要なら、管理者から問い合わせる。
または、問い合わせ窓口やルールをあらかじめ決めておく。
指揮系統とは、遠回りをするためのものではありません。
情報が必要な場所を通るための仕組みです。
上司の指示を、社長へ確認する
もう一つ、よくあるのが、
上司から仕事の指示を受けた社員が、
「〇〇さんから、こうするように言われたのですが、これでいいですか?」
と社長へ確認するケースです。
社員としては、念のため確認しているだけかもしれません。
社長に聞けば間違いない。
そう考えるのも分かります。
しかし、社長がそこで、
「それじゃなくて、こうして。」
と別の指示を出したらどうなるでしょうか。
上司の指示は、社長によって簡単に覆されることになります。
これが繰り返されると、社員は学習します。
「上司から指示を受けても、最後は社長に確認した方がいい。」
すると、上司には責任だけが残り、実際の決定権はなくなっていきます。
社長には、現場の細かな確認が集まり続けます。
そして上司も、
「どうせ社長が決めるから。」
と、自分で判断しなくなるかもしれません。
以前、社長が現場を任せることについて書きました。
現場を任せるのであれば、判断する権限も一緒に渡す必要があります。
上司の判断に問題があるのであれば、社員を通して修正するのではなく、社長と上司の間で認識を合わせる。
それが管理者を育てることにもつながります。
紹介者がいる案件を、別の人へ相談する
これは上下関係だけの話ではありません。
例えば、Aさんからお客様を紹介してもらったとします。
Aさんは、
なぜ紹介したのか。
お客様が何に困っているのか。
これまでどんな話をしているのか。
どんな条件で話が進んでいるのか。
その背景を知っています。
ところが、案件で分からないことが出てきたとき、Aさんを飛ばして別の詳しい人へ相談する。
相談された人は、善意でアドバイスしてくれるでしょう。
しかし、その人は案件の経緯を知りません。
その結果、
Aさんと話していた内容。
別の人から受けたアドバイス。
自分の判断。
複数の話が並行して進み始めます。
そして気付けば、
案件をつないだAさんだけが、現在どうなっているのか知らない
ということも起こります。
紹介案件では、紹介者も大切な関係者です。
別の専門家へ相談する必要があるなら、
「この部分について〇〇さんにも相談したいと思っています。」
と共有しておく。
誰を通して始まった案件なのかを忘れないことも、仕事を円滑に進めるためには大切です。
指揮系統は、上下関係のためにあるのではありません
「まず上司を通してください。」
と言われると、
面倒なルールだと感じる人もいるかもしれません。
でも私は、指揮系統は「偉い人の順番を守るため」にあるのではないと思っています。
誰が情報を持っているのか。
誰が判断するのか。
誰が結果に責任を持つのか。
それを明確にするためにあります。
ここが曖昧になると、
指示を出す人と責任を持つ人が違う。
管理者が知らないところで話が進む。
同じことを複数の人が対応する。
最後は社長に判断が集中する。
そんな状態が生まれます。
「誰に聞けばいいか」まで設計する
社員から、
「これは誰に聞けばいいですか?」
という質問が頻繁に出るのであれば、社員の問題だけではないかもしれません。
相談先が決まっていない。
判断者が決まっていない。
管理者の権限が分からない。
例外時の相談ルートがない。
そんな組織側の問題が隠れている可能性があります。
だから私は、業務を設計するとき、
「誰が作業するのか。」
だけではなく、
「困ったとき、誰に聞くのか。」
まで決めておくことが大切だと考えています。
通常は担当者。
判断が必要なら管理者。
一定の条件を超えたら社長。
専門的な内容なら専門部署。
この経路が分かっていれば、社員も迷わず相談できます。
最短距離が、最短時間とは限りません
経理に直接聞いた方が早い。
社長に直接確認した方が確実。
詳しい人に聞いた方が解決する。
一件だけを見れば、その通りかもしれません。
しかし、それを全員が始めたら、組織はどうなるでしょうか。
情報があちこちへ飛び、
管理者が状況を把握できず、
同じ確認が何度も発生し、
最後には一番詳しい人や社長へ仕事が集中します。
人への最短距離が、仕事の最短距離とは限りません。
誰を通して仕事を進めるのか。
誰が判断するのか。
誰が責任を持つのか。
その流れを整える。
私は、指揮系統とは人を縛るためのルールではなく、人も情報も迷子にしないための導線設計だと考えています。