退職や異動の際、
「引継ぎマニュアルを作成してください。」
と言われる会社は少なくありません。
業務の流れ。
システムの使い方。
年間スケジュール。
取引先一覧。
ログイン情報。
前任者が時間をかけて資料を作成し、後任者へ引き継ぎます。
しかし、引継ぎが終わった後も、こんな場面をよく見かけます。
「前任者さんに聞いてみます。」
「○○さんなら知っていると思います。」
「マニュアルはあるんですが、一応確認してみます。」
私は、この状態を見るたびに思います。
問題は、マニュアルではなく運用の構造にあるのではないかと。
マニュアルはある。でも読まれていない
マニュアルを作ることは、とても大切です。
業務を言語化し、会社へ知識を残すことができます。
しかし、
マニュアルが存在することと、
マニュアルが活用されることは別の話です。
分からないことがあれば、
まず前任者へ聞く。
その方が早い。
そうした文化が残っていると、マニュアルは次第に読まれなくなってしまいます。
人は「読む」より「聞く」を選びます
これは後任者が悪いわけではありません。
人は分からないことがあると、
資料を探すより、
知っている人へ聞いた方が早いと感じるものです。
だからこそ、
「前任者に聞けばいい。」
という環境を作ってしまうと、
マニュアルは会社に残っていても、運用されなくなります。
そして新しい担当者も、
「まず調べる。」
ではなく、
「まず聞く。」
という習慣が身についてしまいます。
前任者も、次の仕事があります
前任者は退職したり、異動したり、新しい仕事を担当したりしています。
本来であれば、新しい役割へ集中する時期です。
それにもかかわらず、
「あの業務はどうしていましたか。」
「このフォルダはどこですか。」
「例年どう対応していましたか。」
と連絡が続けば、
前任者はいつまでも以前の仕事から離れることができません。
以前の記事でも書きましたが、
退職・異動後の運用責任は会社にあります。
前任者の善意で支え続ける状態は、長く続けられる仕組みとは言えません。
前任者は、会社の情報を持ち続ける前提ではありません
退職や異動の際には、
会社のカード。
ログイン情報。
管理者権限。
会社で使用していたファイル。
こうしたものは、会社へ返却・移管することが基本です。
個人のパソコンで管理していたデータも会社へ移管し、個人端末や個人アカウントから削除する。
これは、情報管理の観点からも大切な運用です。
だからこそ、引継ぎ後も前任者へ繰り返し質問することを前提にしてしまうと、
「もう一度ログインして確認します。」
「昔のデータを見てみます。」
という対応が発生する可能性があります。
しかし、本来であれば、前任者は会社の情報を確認したり、保有し続けたりする立場ではありません。
必要な情報は、引継ぎの時点で会社へ移管され、現担当者だけで運用できる状態になっていることが理想です。
前任者への問い合わせを前提とした運用は、情報管理の面でも望ましいとは言えず、情報漏洩などのリスクにつながる可能性もあります。
前任者の立場を守ることも、会社の責任です
前任者へ質問が続くことで困るのは、業務の負担だけではありません。
例えば、
後任者が前任者へ確認した内容を、そのまま社内へ伝えた結果、
「前任者からこう聞きました。」
「前任者はこう対応していたそうです。」
という話が独り歩きしてしまうことがあります。
しかし、前任者はすでに担当者ではありません。
現在の運用や会社の方針を決める立場でもありません。
それにもかかわらず、前任者の回答が会社の正式な見解のように扱われてしまうと、認識の違いが生まれたり、前任者の信用や立場に影響を与えてしまう可能性もあります。
だからこそ、
前任者に聞けば解決する仕組みではなく、
前任者に聞かなくても仕事が回る仕組みを作ること。
それが、本当の引継ぎだと私は考えています。
マニュアルより先に、運用ルールを決める
私は、マニュアルを作る前に、
マニュアルをどう使うのかを決めることが大切だと思っています。
例えば、
・分からないことがあれば、まずマニュアルを確認する。
・マニュアルで解決しなければ、後任者同士で確認する。
・それでも解決しない場合は管理者へ相談する。
・前任者へ確認するのは、会社が必要と判断した場合だけにする。
ここまでルールが決まっていれば、
「とりあえず前任者へ聞こう。」
という流れは少なくなります。
マニュアルを作るだけではなく、
マニュアルを使う順番まで設計することが大切なのです。
マニュアルも育てるものです
もう一つ大切なのは、
マニュアルは完成したら終わりではないということです。
業務は少しずつ変わります。
システムも変わります。
運用ルールも変わります。
それなのに、
引継ぎ時に作ったまま更新されないマニュアルでは、現場とのズレが生まれてしまいます。
だから私は、
マニュアルは「作るもの」ではなく、
「育てるもの」だと考えています。
使いながら更新する。
気付いた人が修正する。
誰でも改善できる状態を作る。
そうすることで、マニュアルは会社の資産として成長していきます。
私が構造を見る理由
私は、マニュアルを否定したいわけではありません。
むしろ、知識を会社へ残すために欠かせないものだと思っています。
だからこそ、
マニュアルを作ることだけではなく、
マニュアルを使う文化まで設計することを大切にしています。
引継ぎ資料は残せます。
しかし、
引継ぎの運用は、設計しなければ残りません。
前任者に聞くことを前提にするのではなく、
誰が担当になっても、自分たちで調べ、判断し、運用できる状態をつくること。
それが、担当者が変わっても仕事が止まらない組織づくりにつながると考えています。