SaaSの導入プロジェクトに関わっていると、営業力とプロジェクトマネジメント力は、必ずしも比例しないと感じることがあります。
優秀な営業担当者が顧客との関係を構築し、導入に必要な調整まで進めてくれる場合もあれば、契約後のマネジメントが十分に行われず、導入担当者やPMOに負荷が集中する場合もあります。
私は以前、SaaS導入に関わるPMOの仕事を経験しました。
その中で、プロジェクトを前に進められるPMOと、管理業務に追われて機能しなくなるPMOの違いについて考える機会がありました。
今回は、特に重要だと感じた5つの視点を整理してみます。
1. 営業がマネジメントしないなら、誰が引き受けるのか
営業担当者が顧客との調整や導入工程の管理に十分関与しない場合、その役割は誰かが担わなければなりません。
そこで重要になるのがPMOです。
ただし、PMOが営業の仕事をすべて肩代わりするという意味ではありません。
顧客との合意事項、導入に必要な作業、社内の対応体制、意思決定の期限などを整理し、プロジェクト全体が前進する仕組みを作ることが重要です。
営業機能が弱い環境ほど、PMOには単なる進捗管理以上の役割が求められると感じます。
2. 半年の導入計画を、今日の仕事まで分解できるか
例えば、SaaSを6か月で導入するとします。
半年後の稼働日を設定し、工程表を作成するだけでは、十分なマネジメントとはいえません。
私が重要だと考えるのは、時間軸を複数の粒度に分解することです。
- 3か月先:大きな工程の到達点と重要な意思決定
- 1か月先:完了すべき成果物と顧客側の準備
- 直近4週間:作業順序、担当者、依存関係
- 1週間:実際の営業日を考慮した実行計画
- 1日:今日、誰が何を完了させるのか
特に重要なのは、3か月後の目標と今日の作業がつながっていることです。
未来のマイルストーンを理解していなければ、今日の優先順位を正しく決めることはできません。
逆に、今日の作業だけを追いかけていても、数か月先の稼働にはつながりません。
PMOの仕事は、未来の計画を現在の行動に変換することだと思います。
3. 複数顧客を同時に管理する難しさ
SaaSの導入では、複数の顧客案件が同時に進行することも珍しくありません。
ここで難しいのは、単純な案件数ではなく、それぞれの案件が異なる工程に存在していることです。
ある顧客は要件定義中、別の顧客はデータ移行中、さらに別の顧客は本番稼働直前という状況です。
このとき、すべての案件を同じ粒度で管理していては、重要な問題を見落とす可能性があります。
PMOには、未来のマイルストーン、現在進行中の工程、直近4週間の課題、そして個々の担当者が今日実施する作業を、バランスよく把握する能力が必要です。
また、複数案件が同じ技術者や開発担当者に依存している場合、案件単位では問題がなくても、組織全体ではリソース不足が発生することがあります。
個別案件の進捗と、組織全体のリソースを同時に見ること。
これがマルチプロジェクト環境におけるPMOの重要な役割です。
4. マイルストーンは、設定するだけでは意味がない
工程表にマイルストーンを設定すること自体は、それほど難しくありません。
問題は、そのマイルストーンに到達できる見込みを、どこまで具体的に把握しているかです。
例えば、顧客から必要なデータが提出されない場合。
単純に「データ提出が遅れています」と報告するだけでは、プロジェクトは進みません。
いつまでに提出されれば間に合うのか。
提出が遅れた場合、先行できる作業はあるのか。
代替手段はあるのか。
誰に、どのタイミングで判断を求めるべきなのか。
こうしたフォローの方法まで考える必要があります。
また、マイルストーンには、遅延したときの影響度の違いもあります。
後工程に大きく影響するものと、多少の調整が可能なものを区別することも重要です。
すべての遅延を同じ重さで扱うのではなく、重要度と達成見込みに応じて対応を変える。
その判断がPMOの力量を左右するのだと思います。
5. PMOは、どこまで自分で手を動かすべきか
最後に、私が特に重要だと感じていることがあります。
それは、PMO自身が実務にどれだけ介入するかという問題です。
進捗会議を開催し、課題管理表を更新し、担当者に対応を依頼する。
これらは必要な仕事ですが、それだけでプロジェクトが進むとは限りません。
例えば、要件が整理されていなければ、自分で論点をまとめる。
設計資料の理解が不足していれば、自分でも内容を確認する。
顧客との調整が進まなければ、関係者を集めて解決の道筋を作る。
こうした実務への介入が必要な場面もあります。
一方で、PMOが実務に入り込みすぎると、今度はプロジェクト全体を俯瞰する時間が失われます。
つまり、重要なのは何でも自分でやることではありません。
マネジメントに使う時間と、自ら実務に介入する時間を、状況に応じて配分できること。
これが、機能するPMOに必要な能力だと考えています。
PMOは進捗を報告するためだけに存在するのではない
PMOという仕事は、組織によって役割が大きく異なります。
進捗管理や会議運営を中心とする場合もあれば、複数案件のリソース調整や顧客対応まで担う場合もあります。
ただ、どのような環境であっても、私が重要だと思うのは、プロジェクトを成立させるという視点です。
営業が十分に機能していないのであれば、何が不足しているのかを明確にする。
工程が曖昧であれば、今日の作業まで分解する。
複数案件が競合するのであれば、全体のリソースを調整する。
遅延が発生しそうなら、先回りして対応策を考える。
そして必要な場面では、自分自身も手を動かす。
こうした積み重ねが、PMOの価値を作っていくのだと思います。
できるPMOと、できないPMOの違いは、管理資料の完成度ではなく、プロジェクトを前に進める力にある。
SaaS導入の現場を経験して、私はそう感じています。