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Gaudiyが慶大・坂井教授と共同で、ブロックチェーン上で発行されたコンテンツを販売するための、新オークション方式を開発 〜マンガIPでの実証結果を元に論文公表へ〜

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株式会社Gaudiyは、デジタルコンテンツの販売に適した新オークション方式を、市場設計の第一人者として知られ、ビジネス実装の経験を豊富に持つ坂井豊貴・慶大教授と開発。実際に人気マンガアプリ「GANMA!」のコンテンツに対し、オークションを実施しました。

その新方式(Gaudiy-Sakai方式)は、競り上げ式オークションをベースにしながら、発行枚数と価格がともに調整される画期的なもので、ブロックチェーンを活用したアセットの発行に適しています。

設計の意図と骨子については、坂井教授とGaudiyのチームが以下の論文(PDF)にまとめました。
“A Two-stage ascending auction protocol for digital goods ∗” Toyotaka Sakai, Takuya Goto, and Yuya Ishikawa, June 8, 2020
https://prtimes.jp/a/?f=d35719-18-pdf-0.pdf

【論文発表の背景について】
これまでインターネット上では、基本的にデータは無限にコピーできるものでした。しかしNFT(Non-Fungible Token)というブロックチェーン技術により「世の中に十個しか存在しない」ようなデジタルアイテムの発行が可能となり、希少性の概念が本格的にデジタルの世界で実現されました。

これにより、例えば「熱量の高いファン」が初期しか手に入れられない限定アイテムを購入して、作品の発展を支援できるようになります。その後、その作品の人気が上がると、限定アイテムの値上がりでリターンが得られます。こうして制作者とファンとの間に、新しい共創のあり方が生まれます。

(2019年度にサービスを開始したブロックチェーンTCG「クリプトスペルズ」での事例)
クラウドセール 初日で売上600ETH(およそ2000万円)を突破。一部カードの価格が30ETHほどまで高騰。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000041264.html

今回の坂井教授との取り組みは、Gaudiyが目指す、「ファンによる創作や応援から生まれる価値を評価・還元することで、コンテンツが単なる娯楽ではなく「人々の生活や自己実現を支える基盤」となる社会である、”ファン国家”の構築に大きく寄与するものです。

【現行のオークション方式における問題点】
◉ダッチオークション(競り下げ式)
これまでNFTの販売には、価格が初期の高い設定から下がり続け、入札の先着順で落札していく「ダッチオークション方式」が主に用いられてきました。また、ダッチオークション方式に修正を加え、価格が上がったり下がったりする不明瞭な仕組みも使われてきました。そうしたオークションは、(1)ユーザーが競り落とせるか否かに「運任せ」の要素が強い、(2)発行枚数の決定がうまくできていない、(3)一物一価の公正が達成されない、といった問題点を抱えています。

◉Gaudiy-Sakai方式(競り上げ式ベース)
新方式(Gaudiy-Sakai方式)は、価格が初期の低い設定から上がり続ける「競り上げ式」をベースに設計されています。ダッチオークションが抱えていた問題点を、軒並み解消しています。また、NFTには資産性があるため「他者の評価」が、自分の評価に影響します。これはオークション理論では相関価値(affiliated values)と呼ばれています。競り上げ式だと、プロセスのなかで他者の様子が分かるため、それにより自分の評価を更新できます。これまでの方式と比べ、参加者が適正な評価による入札ができる、公正でユーザーフレンドリーな設計を実現しました。

今回のオークションでは実施期間を2つに分けました。

1.参加者の需要に応じて発行枚数を決定するための事前入札期間
2.アイテムの価格を決めるオークション当日

この 「二段階方式」をとることで、価格と発行枚数を適切に調整できる仕組みになりました。

また、価格の決定にヴィックリー方式のアイデアを採り入れることで、入札の締め切り間際に起こる「駆け込み」が起きなくなります。これは理論的にそうなるのですが、実際に活用したところ、「駆け込み」は起きませんでした。ユーザーから見ると、面倒かつ神経を使う駆け込み行動をしなくてよくなったということになります。

【ブロックチェーンでの実装上の利点】
これまでブロックチェーン上で「競り上げ式」によるオークションは困難でした。主なネックは2点あります。入札のたびにGAS代がかかること、入札の更新に時間が要り迅速な競り上げに向いていないことです。よって、競り上げ式を導入するためには、少ない入札回数(理想的には一回)で満足のいく入札ができる方式であらねばなりません。なお、競り上げ式はオークションの理論と実務の双方で評価が高く、ブロックチェーン上でも導入すべきものです。

今回のGaudiy-Sakai方式は「第二価格方式」のアイデアを取り入れることで、この難問を解決しました。一言でいうと、「安心して高い入札額を付けられる」仕組みにしました。高い入札額で競り落としても、支払額はそれより低く済む。だから最初から高い入札額を入れておいて損をしません。締め切り間際に競り上げ合戦をするような、時間と神経を使う作業もしなくて済みます。

このように、私たちの新オークション方式は、オフチェーンのみならず、オンチェーンでの実用にも向いた仕組みとなっています。

【実施結果】
先日、業務提携を発表したコミックスマート株式会社の運営するマンガアプリ「GANMA!(ガンマ)」(累計1400万ダウンロード)で連載中の漫画『猫娘症候群』(かとるすしんどろーむ)とクリプトスペルズのコラボで誕生したデジタルアイテム(NFT)を、新オークション形式で販売しました。

販売したアイテムは、二次創作したイラストやそれを利用したグッズを自由に作成できる「二次創作権」と、限定漫画の閲覧と収益の分配を受け取れる「配当権」がセットになった限定の会員権です。これは会員権でありながら、ブロックチェーンゲーム「クリプトスペルズ」でカードアイテムとして併用できます。ブロックチェーンの特徴を活かした、新しい形態のデジタルコンテンツです。

これらアイテムの購入には、コンテンツを支援する、クラウドファンディングのような側面もあります。ただし一般的なクラウドファンディングのように短期的かつ謝礼品ありきのものではありません。将来的にコンテンツが盛り上がるほど、所有者にも配当という形で還元が行われ、コンテンツとファンとの長期的な関係性を築けるものとなっています。こうした新しい形のデジタルアイテムを販売するために、今回のGaudiy-Sakai方式を活用しました。

その結果、「500円」から入札を開始したアセットが、最終的には発行枚数「129枚」、落札価格が「9000円」となりました。

【今後の発展】
本方式を今後、マンガコンテンツ以外にも、チケットや会員権、限定のコンテンツなどの形式で、音楽やアイドル、アニメなどさまざまなエンタメコンテンツ領域での活用を目指していきます。また、ブロックチェーン上で本オークション方式の実装も併せて実施して参ります。

【坂井豊貴氏プロフィール】
慶應義塾大学経済学部教授、株式会社Gaudiy 経済設計顧問。ロチェスター大学経済学博士課程修了。専攻はメカニズムデザイン。(株)エコノミクス・デザイン取締役、(株)デューデリ&ディール・チーフエコノミスト、東京経済研究センター業務総括理事などを併任。著書に『多数決を疑う』(岩波新書、高校教科書に掲載)、『マーケットデザイン』(ちくま新書)など。アジアでの翻訳多数。

ウェブサイト:https://toyotakasakai.jimdofree.com/