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【WHILL Model S開発秘話】Vol.3 -メカエンジニアが目指した”安心と楽しさ”の両立-

プレスリリース2022年9月13日、WHILL社は歩道を走れるスクーター『WHILL Model S』を発表しました。超高齢化社会を背景に、運転免許の返納者は年間およそ60万人に上りますが、その後の移動手段となるシニアカーや電動アシスト自転車の市場は大変限定的です。また、ユーザーからは「力や足腰の衰えから疲れてしまい、(自転車は)長く乗れない」「(シニアカーは)昔ながらの見た目で、積極的に乗りたいものではない」といった声が上がっています。こうした社会的背景・ニーズの高さを受け、これまでなかった、「新しいスタンダード」となる移動手段としてWHILL社初となるスクーター型モデルの『WHILL Model S』を提案します。

このnoteでは、『WHILL Model S』の開発から販売に関わるメンバーのインタビューを4回に渡ってお届けします。

【 Model S 開発秘話 】|WHILL Drive|note2022年9月13日に受注開始したWHILL Model S。『歩道を走れるスクーター』として、これまでにないモビリティをnote.com

第3弾の記事では、メカ設計を務めたパーソナルモビリティ開発一部から大野、熊田、佐々木、Edwardの4名に、メカエンジニアとしてのこだわりや、コロナ禍の開発における苦労を語っていただきました。

ーWHILL初の、『歩道を走れるスクーター』というコンセプトをどのように解釈されましたか?

Edward:「これまでWHILLが展開してきた製品とは違う形状、コンセプトのため、大きなチャレンジになると感じました。」

熊田:「シニア向けのモビリティ市場はシニアカーや電動アシスト自転車などが流通していますが、非常に限定的で、ユーザーからも選択肢が少ないなどの声がありました。なので、WHILLらしいデザインや、既存の製品よりも価格を抑えたスクータータイプの製品を届けることは、とても価値があることだと感じました。」

佐々木:「私は入社したばかりで、『WHILLのモビリティが提供できる価値はなんだろう』?という点を模索していたところでModel Sの開発に携わり、改めてミッションの『すべての人の移動を楽しくスマートにする』がしっくりくるなと感じました。
免許返納後の新たなスタンダードとなるようなモビリティとして、それまで自動車を運転していた方も満足していただけるような、乗っていて楽しい製品を作りたいと強く思いました。」

ー製品のこだわりのポイントを教えてください。

大野: 「現在WHILLの製品を地域・ブランド問わず約800店舗のカーディーラー様に取り扱っていただいていますが、免許返納後に乗り換える最初のモビリティとして、Model C2やModel Fなどのジョイスティックタイプの製品は『私が乗るにはまだ早いかも』と感じる方がいることも事実でした。Model Sは自動車と Model C2やModel Fなどのジョイスティックタイプの製品との間を埋めるようなイメージの製品なので、これまで自動車に乗っていた方が、運転する楽しさを感じられて、ポジティブな気持ちで選択できるような製品を作りたいと考え、車に近い乗り心地を目指しました。」

佐々木:「私はハンドルの設計を担当し、アッカーマンアングル*1、キャスター角*2・キングピン傾角*3を調整して車に近い乗り心地を目指しました。パラメーターを調整することで、ハンドルを切っていく際、最初は軽い感覚ですが、徐々に重さを感じるようになっています。」

熊田:「快適性、安心感という意味でもハンドルの重さは重要ですね。ハンドルを切った際なんの抵抗もなくどんどん進んでしまったら、ユーザーは不安に感じてしまいます。」

大野:「多くの方はあまり意識していないと思うのですが、実は車もこのような仕様が採用されています。車のような乗り心地は強くこだわった部分なので、何度もチューニングを重ねました。」

佐々木:「ユーザーにできるだけ安心して使っていただくのはもちろんですが、心地よく曲がれる感覚にもこだわっています。ハンドルを切っていくと、あるポイントでスッと体が浮き上がるような軽い感覚になるので、ぜひ実際に乗って体感していただきたいです。」

Edward:「これまでのWHILLの製品の中でも、より”乗る楽しさ”を感じていただけると思います。」

大野:「モーターを大きくしたことも、こだわりの1つですね。」

熊田:「当初搭載したモーターで試験をした際、動力が小さすぎて坂をうまく登ることができず、安全性をしっかり担保することが課題でした。」

佐々木:「当初の想定よりもかなりモーターが大きくなったので、サスペンション自体の設計を一からやり直すことになりました。加速度感と制動距離のバランスは、改善設計部のメンバーと協力し、ひとつひとつ課題をクリアしていきました。とても大変でしたが、ユーザーが安全に使えることが一番大切なので、細部までこだわりました。」

大野:「モーターの一番効率のいい使い方を追求した結果、1度の充電で走行可能距離を33km*4まで伸ばすことができました。これは、既存のシニアカーと比べても長い距離で、正直私たちも驚きました。」

Edward:「また、WHILLらしいデザインにもこだわっています。デザイナーからデザインが提示された際、エンジニアチームはそれをいかに量産できるように整えていくかを考える必要があります。」

熊田:「どうしても、作ることが難しい形がでてくるのですが、デザイナーのイメージをなるべく変えずに表現できるよう注力しました。細かいところですが、バッテリー上部の溝はかなり苦戦したポイントです。絶妙な浅さと形状で、金型を作っても最初はうまく整形できず...。」

大野:「さまざまな調整をして、一から金型を作り直しましたよね。それほどWHILLにとってデザインが重要な要素の一つであることは全員が理解していたので、あらゆる手を尽くしました。結果的に、シンプルかつスタイリッシュで、『乗っている人が主役になる』『ポジティブに見える』という”WHILLらしいデザイン”を実現できたと思います。

ー新型コロナウイルスの影響もあり、海外のサプライヤーとの連携は大変だったのでは?

大野:「サプライヤーとの連携は主にEdwardが担当し、語学力を活かして活躍してくれました。」

Edward:「開発期間中、新型コロナウイルスの影響で、実際に現地のサプライヤーと直接会うことは叶いませんでした。私たちがこだわる細かいディティールがサプライヤー側にうまく伝わらず、初めはとても苦労しましたね。オンラインで何度もミーティングを重ね、WHILLの技術方針について理解していただきました。
それだけでなく、中国で1ヶ月程度ロックダウンした時期がありました。サンプルを要求しても発送してもらえない、製品がなかなか現地に届かない、届いても従業員が出勤できず、何もできないという状況でした。あの時期は途方に暮れましたね。」

大野:「ロックダウン中は日本国内のサプライヤーを1から探し、出来る限りのことを必死にやる日々でした。思い返すと本当に大変でしたね。」

ー開発チームはどのような雰囲気でしたか?

大野:「デザイナー、プロジェクトマネージャーなど多くのメンバーと協力しながら、終始良い雰囲気の中で仕事ができました。」

熊田:「この雰囲気が実現できたのは、メンバーとの距離の近さのおかげだと思います。特にデザインチーム、企画チームは些細なことでもすぐに相談し合っていました。大きな企業や組織だと、どうしても問題解決にタイムラグが発生してしまうことがあると思いますが、WHILLではさまざまな部署と距離が近いので、PDCAサイクルがとても早いです。」

佐々木:「特に、ここまでデザイナーと距離が近いチームはなかなかないと思います。私たちからデザイナー側に『こうした方がかっこいいと思う』とリクエストしたこともあるくらいです。」

熊田:「なによりModel Sを世の中に出す目的が、全員に浸透していましたよね。さまざまな制約の中でいかにいい製品が作れるか?と、それぞれがベストを尽くそうと向き合っていたので、いいコミュニケーションができていたのだと思います。」

ーModel Sの開発を終えた今、どんな気持ちですか?

Edward:「Model Sを世の中に出して、ユーザーからどのような評価をいただけるのかとても楽しみです。フィードバックを真摯に受け止めて、今後の製品開発に生かしていきたいです。」

熊田:「Model Sが『新しいモビリティ』として多くの方に届き、街中で見かけるようになってほしいと考えています。私自身がModel Sに乗ると便利なモビリティだなと感じるので、誰もが当たり前のように使っている世界が実現できたら嬉しいです。注目されるものではなく、日常に溶け込んでいってほしいです。」

佐々木:「Model Sが免許返納後のモビリティ市場を牽引する勢力のひとつになれたらいいなと考えています。『スクータータイプの新しいモビリティ』として市場の中でどんな立ち位置になっていくのか、とても楽しみです。 また、今回は車のような乗り心地を目指してきたので、Model Sに乗ったユーザーが『移動が楽しい』と感じていただけたら嬉しいです。』

大野「一番はユーザーに安心して使っていただくことに尽きます。今回私たちが目指した『移動の楽しさ』は安心の先にあると考えているので。
また、ライフステージの変化の中で、Model Sが『このモビリティに乗りたい!』とポジティブに選択していただける存在になったら嬉しいですね。
今後も『すべての人の移動を楽しくスマートにする』というWHILLのミッションを心に留め、ユーザーと向き合い続けていきます。」

*1車両において、ハンドルを切った際に生じる左右輪の舵角差のこと。
*2自動車の操縦軸となるキングピンの傾きを表す度数のこと。
*3キングピンの中心線が車正面からの視点でどれだけ傾いているかを示す角度のこと。
*4走行可能距離は使用環境や操作方法により変化します。

【プロフィール】(写真左から)
Edward 台湾の大学を卒業後、兵役を経て、工業用設備メーカー、自動車部品メーカーで設計、評価、プロジェクトマネジメントなどを幅広く経験。2020年2月WHILLへ入社。
熊田 建設機械メーカーで油圧ショベルなどの設計を担当。2020年9月WHILLへ入社。
大野 自動車、部品メーカーなどで10年以上メカ設計を経験。2020年9月WHILLへ入社し、パーソナルモビリティ開発部長を務める。
佐々木 技術派遣としてカーメーカーにて、開発・評価など幅広く経験。2021年6月WHILLへ入社。

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