読者の方の中には、「TAIANは、婚礼の会社だ」と思っている方もいるでしょう。しかし、TAIANは婚礼事業を原点としてコアに据えつつも、おもてなし産業全域にその裾野を広げようとしています。なぜこのような決断を行い、どのような成長戦略を描いているか、取締役COOの米倉元気さんにお話を聞きました。
PROFILE
米倉元気(よねくら・げんき)取締役 COO
筑波大学人間学群心理学類卒業。新卒で株式会社リクルートスタッフィングに入社。人材派遣事業で8年間で大手アカウント営業、マネジメント、新規事業開発の経験を経て、TAIANにジョイン。セールス、マーケティング、組織マネジメントを担う。
お客様のポジティブな変化を目の当たりにできるのが婚礼事業の醍醐味
──今日の取材のテーマは、TAIANの婚礼事業以外への展開についてですが、婚礼事業はTAIANの原点でありコアであり続けるものですよね。これまで婚礼事業に対して取り組んできたことを教えてください。
まさに「TAIANと言えば婚礼事業。そして婚礼事業と言えば米倉!」と言えるほど、会社としても僕自身としても婚礼事業にコミットしてきました。Web招待状と席次票を連動させた「Concept Marry(コンセプトマリー)」に始まり、それをきっかけに婚礼事業に関わるお客様のニーズを聞き、お祝いの一元管理を実現する「Oiwaii(オイワイー)」をリリース。式場の生産性を上げるだけでなく、結婚式やお祝いをする人の体験を向上させてきました。
──どんな風に体験が向上したのでしょうか?
これまで、結婚式を計画するには、紙の分厚いファイルをプランナーとカップルで共有し何度も打ち合わせを重ねる必要がありました。カップルにとっては大変な労力が必要でしたし、式場のプランナーは労働集約型の働き方をせざるをえませんでした。Oiwaiiの導入により、スマートフォンアプリひとつで結婚式の計画をすることができるようになり、結婚式準備から当日までの双方の体験が格段に向上しました。
──婚礼事業にコミットしてきた米倉さんにとって、そのやりがいは何ですか?
お客様のポジティブな変化を目の当たりにできることです。私はこれまで人材紹介事業をやってきており、紹介した方が職場で活躍している様子を目にすることができませんでした。婚礼事業に携わって初めて、紙の発注業務の95%がなくなり圧倒的に業務効率化が進む様子を見たり、それにより教育や顧客に向き合う時間を作って売上を伸ばす様子を見たりすることができました。
おもてなし産業全域に裾野を広げ、カップル・ゲストのLTVを上げる
──本題の婚礼事業以外の展開について教えてください。まず、婚礼事業以外に事業を広げるきっかけになったのは何でしょうか。
婚礼業界の将来的な売上に課題を感じたからです。現在、結婚式を挙げる比率は減少傾向で、婚姻届を提出したカップルのおよそ半数が結婚式を挙げないというデータがあります。しかし、高校生にアンケートを取ってみると、およそ80%が結婚式をしたいと回答しており、結婚式の希望度は、もともとないのではなく、だんだん下がっていくものであることがわかってきました。その理由は、金銭的なものが主だと考えられています。従来の3、400万円をかけた結婚式が現実的ではないと考えるカップルが多くなっているのです。
そのようなニーズに合わせて結婚式の単価を下げていくのはひとつの方法でしょう。しかし、それによって結婚式を挙げるカップルの数が跳ね上がるわけではありません。カジュアルな結婚式をポートフォリオに取り入れたとしても、ビジネスとして成り立たせる必要があります。
私はその方法のひとつが、「結婚式を起点にして、カップル・ゲストのLTVを上げること」だと思います。従来の考え方では、結婚式当日をもって式場とカップル・ゲストとの関わりは終わりですが、「結婚式を起点とする」場合は違います。結婚式当日に、素晴らしい体験をしてもらうことで法人宴会や家族のお祝い事などの機会にまたそのホテルや式場に戻ってきてもらうことを促し、それに結婚式の準備や結婚式で取得したデータを活用するのです。このような方法をとれば、この先結婚式のあり方が多様になり、予算の少ないカジュアルな結婚式が出てきても長期的に見れば売上を伸ばすことができます。
そのためには、婚礼業界の隣接領域への事業展開が必須です。結婚式場にはレストラン、宿泊施設、ECサイトでの商品販売、仕出し弁当など、さまざまな隣接領域がありますので、それらにもTAIANが携わっていくことで式場の売上を伸ばすことができるのです。
ハードウェアではなく、AIを活用した顧客データの分析でソフトウェアで差別化を
──そのために、どんなサービスやプロダクトを提供することを考えていますか?
レストラン、ホテル、式場といったハードウェアに働きかけるのではなく、データを活かした顧客管理やそれを使った新規集客、体験向上による生涯顧客化などのツールを提供したいと考えています。
私たちは、結婚式準備と結婚式の他社にはないデータを持っています。このデータを使うと、単なる来店記録だけでなく、席次表の作成に必要なカップルとの関係性や、おおよその会社でのポジションなどを推測することができます。それらのデータをAIをかませて分析することで、それぞれの顧客のLTVや、趣向などを推測することができます。そうすれば、例えば将来のLTVを予測して先にサービスをする、趣向にぴったりの引き出物を用意する、よりパーソナライズされた接客体験を提供することができるようになるのです。
──それは、レストラン、ホテル、式場などにどのような影響を与えるのでしょうか?
おもてなし産業のサービスはコモディティ化しています。例えば、有名なホテルに行くとそこで得られるサービスはかなり似ています。これまでは、設備や建物などのハードウェアでその差別化を行っていましたが、それには長期的な投資が必要な上、顧客に飽きられてしまえばまた新しいものを作る必要が出てきてしまいます。私たちが提供するデータを元にしたパーソナライズ化は、ソフトウェアで顧客の体験を向上させることができるのです。
──顧客の立場では「データを取られる」と言われるとちょっと身構えてしまいます。
きっと「結婚式に行ってTAIANのサービスを使ったら、ずっとダイレクトマーケティングされるんじゃないか」といった心配をされていますよね? その心配はありません。まず、データの取得は同意をいただくのが大前提ですし、個々へのマーケティングではなく、全体の傾向として、多くの人が結婚式でどのような関係性の人にどんなタイミングで何を届けるのかといった趣向や動向などをAIを活用して解析し、結婚式そのものにおける新しい体験の提案やその後の祝いの場を創出するのに使います。また、それを使う場面は「メールがたくさん届く」といったような残念なものではなく「自分にぴったりの体験やプレゼントがもらえた」という素敵な体験になるはずです。
──このようなおもてなし業界全体へのサービス提供により、どのような影響を与えたいと考えていますか?
日本のおもてなしは世界にも類を見ないほどの高いレベルです。その上、今は円安の影響もあってコストパフォーマンスが非常に高い。海外ではチップをモチベーションに高品質な接客をすることはありますが、それがないのにここまでの接客ができるのは日本だけです。一方で、言語の壁や、さまざまな国の方を受け入れるキャパシティはまだまだ少ないのが課題。
まずは先ほどお話したようなデータを活用したマーケティング支援を足がかりに、それらの課題を解決できるようなオペレーションを提供することで、日本をおもてなし産業で世界を牽引する存在にしたいです。
──これをTAIANが実現できる理由は何ですか。
これまでの事業展開と業界構造がフィットしているところにあると思います。事業展開については、僕らが結婚式の中でもその準備から使っていただけるプロダクト「Oiwaii」を提供したことが、結婚式を計画する時の打ち合わせ中から結婚式当日を迎えるまでのジャーニーのデータを取ることを可能にしてくれました。
また、私たちが活用しようとしているAIとおもてなし産業の構造の相性が良いことも追い風です。おもてなし産業は、職人的な暗黙知が多く存在しており、それを身につけることで品質を上げるという特性があります。この暗黙知はこれまで「背中を見て学ぶ」以外の習得方法がありませんでしたが、AIにより構造化を一気に進めることができます。また、まだまだ多くのアナログなやりとりや調整業務が存在することも解決できる課題が多いことを示しています。
生成AIの普及により、多くのホリゾンタルSaaSが生成AIに取って代わられるとも言われていますが、このような特殊な業界だからこそ、私たちSaaS×AIが課題を解決できると考えています。
サービスを提供する市場を5兆円に広げ、さらなる飛躍を目指す
──これからの事業展開について教えてください。どのような計画を描いていますか?
婚礼市場は、現在1.5兆円あると言われています。これを、アニバーサリーイベントや法人宴会、パーティーなどを含めた祝祭市場に広げると、 5兆円にまでなります。私は最終的には地域のお祭りやお祝いなども提供範囲に含めたいと思っており、そのためのサービスやプロダクトをどんどん開発していくつもりです。
市場が2倍以上になることに合わせ、組織も圧倒的な拡大路線です。2026年末には今の2倍以上に組織を拡大するつもりで採用も行っていきます。
何よりも、私がTAIANに可能性を感じるのは、日本で一番ポジティブなことに本気で取り組む組織だから。熱い気持ちと、何かを良くしたいというモチベーションを持ったメンバーが集まり、それを実現できる事業に全力投球している組織は数少ないのではないでしょうか。
私たちの熱量が少しずつ伝わって、最近ではTAIANがひとつのブランドとして認知されるようになってきました。主催するイベントにたくさんのおもてなし業界の方が足を運んでくださったり、コンペになる競合他社が登場したりしています。
私の感覚では、今はまだやりたいことの10%を成し遂げた状態です。この兆しを現実の成功に変えるため、私は全力でTAIANを、社会に大きなインパクトを与えられる日本を代表する会社にしていくつもりです。
写真・文:出川 光(ノンブル社)
デザイン:Urara Hashimoto(TAIAN)