「世の中の体温あげる」ことを目指す株式会社スープストックトーキョーにてEC事業部のWEBディレクター(ECディレクター)を募集します。
この記事では『スープストックトーキョー』が見据える”体験価値の拡充”をテーマに、募集要項だけでは語りきれないメッセージをお届けします。スープストックトーキョー(以下、SSTと記載)が考えるしなやかなDX、そして体験価値の拡充とは。この対談では、ECやアプリなど、これからのデジタル領域を担う二人が語る、現在の状況やこれからの課題、理想のあり方についての対話を通して、スープ専門店ならではのECの未来を紐解いていきます。
齋藤 恭史(写真左)
株式会社スープストックトーキョー価値創造本部長・EC事業部長・企画開発部長。2013年新卒入社後、国内店舗での勤務、海外店舗進出、市場開発室などを経て、現職。ハラール対応メニューを推進するなど、様々なプロジェクトに携わる。
林 大輔(写真右)
株式会社スマイルズ クリエイティブディレクター。コンサルティングファームでの経営コンサルタント、制作会社でのプランナー、デザインファームのCDO等を経て、スマイルズにジョイン。主に外部案件のプロデュース・クライアントワークに携わる。
――スープストックトーキョーのECはどのように始まったのでしょうか。
齋藤:2004年頃、お客様の引っ越しがきっかけだったと聞いています。SSTによく通ってくださった方が、お店のない地域に引っ越し後も食べられたらいいのにとおっしゃって。その声に応えられないかと、社内の一人が発起人となって、冷凍スープの開発が進み通販サイトでの販売が始まりました。その後も粛々とEC事業は行ってきましたが、やはり私たちのビジネスはあくまで店舗がメインでした。しかし、ここ数年の生活様式の変化によって、店舗だけでなくECをご利用される方が急増しました。
――齋藤さんと林さんのお仕事について教えてください。
齋藤:今回募集するEC事業部の部長と、企画開発部を担当しています。新卒入社で店舗勤務からスタートし、現在にいたります。海外(シンガポール)で店舗の立ち上げに携わったのをきっかけに、ハラール対応のスープ開発を企画したこともあります。
株式会社スープストックトーキョー価値創造本部 本部長の齋藤恭史さん
林:僕はスマイルズのクリエイティブ全般の仕事をしています。前職でSSTのブランドサイトのリニューアルをお手伝いしたのがご縁でスマイルズにジョインしたのですが、SSTのアプリ開発でも最初のフェーズから関わっています。これまで様々な業種業態のアプリ企画に携わりましたが、食は新しい領域でした。
株式会社スマイルズ クリエイティブディレクターの林大輔さん
――おふたりがご一緒したのはどのようなプロジェクトでしょうか。
林:齋藤さんとはSSTのアプリ改修とEC連携からですね。元々店舗のポイントカードがアプリになっていたのですが、それとECは別々に運用していました。最近のリニューアルでやっと一つのアカウントでどちらも利用できるようになりました。
齋藤:一件単純な改修ですが、連携は大変でしたね。プロジェクトチームの中にそのあたりの仕組が分かる人がいてくれて心強かったです。システム面の連携だけでなく、体験価値の話も含めて一緒にやらせてもらって、裏側の大変さを目の当たりにしました。
ーー特に大変だったことはありますか?
林:ECとアプリ、さらに新しいデータベースがあって、それぞれに違う協力会社さんがいるので、どうしても責任の所在が不明瞭になりやすい状態でした。
ーーどんなことを意識して連携を進めたのでしょうか。
林:齋藤さんからリニューアルで「クレームなどのマイナスをゼロにする機能」「選ぶたのしさ、発見など価値をプラスしていく機能」を盛り込みたいとリクエストをもらっていました。とはいえ、後者は付け焼き刃でやると、すぐに飽きられる可能性があります。一方で、システムアーキテクチャの刷新は見た目には分からないけど、実は大変で。どちらも一度に叶えるのは非現実的だったので、まずはインフラ移行に絞って実施しました。
林:付け加えると、今のSSTに必要なシステムアーキテクチャは、ビジネスやユーザー体験を俯瞰して捉えながら、しなやかに対応できるようなものが良いと思います。
ーーしなやかさですか?
林:ガチガチに組み上げられたものではなく、ある程度遊びのある環境です。これから落ち着いて体験価値とそれを実現するためのオペレーションや、データ基盤の活用方法などを見つめ直すフェーズに進めるので、ブランドの新しい取り組みを柔軟に実現できる仕組みが必要です。
齋藤:今のECは林さん無しには語れません。チームに他の事業者でのアプリ・EC開発経験者が不在のなか、丁寧にコミュニケーションしてもらって、かなり頼らせてもらいました。
林:いえいえ、ありがとうございます。ECもアプリもあくまで「ツールとしてのデジタル」です。それに先立つ事業やブランド運営のあり方を妄想できてこそですよね。SSTはそこがしっかりあるブランドですし、ECを通してブランドを一緒に育てているような気持ちです。
ーーちなみに、理想までの進捗はどれくらいですか?
齋藤・林:進捗でいうと、まだまだやりたいことの1%くらいです(笑)。まだまだ、これからですね!
数字と感性。SSTならではの評価の仕方
ーーここからの加速は今回募集しているECディレクターにかかっているのかもしれませんね。ECチームは現在、どのようなメンバーで構成されていますか。
齋藤:自分も含めて全員SST以外のEC会社では未経験者で、ほとんどが元店舗スタッフなんです。アルバイトの方を含めて7人のチームで対応しています。
――店舗スタッフ経験者の割合が高いのはなぜですか。
齋藤:オンラインであってもお店であることは同じと考え、EC発足当初から店舗スタッフ経験者に担当してもらっていました。お客様に寄り添って、どんな接客ができるか、どんなことをお伝えできるかを考えています。目指しているのはあくまでお客様の「体験価値の拡充」であって、それは店舗もECも変わらないですね。
ーーECならではの取り組みもしているとのことですが、エピソードがあれば教えてください。
齋藤:店舗では、ファストフードという業態上、どうしても接客する時間が限られてしまいますが、ECであれば時間をかけてお客様が情報に触れることができるで、1つの商品の裏側にあるこだわりやおいしさの背景も丁寧に伝えることができると感じています。
例えば、過去に店舗ではなかなか売れなかった「イカ墨とひじきのブラックスープ」という商品があります。食べると本当においしくて社内にファンが多いんですが、外出中に立ち寄る女性のお客様にとっては、お歯黒のようになってしまうスープで敬遠されていました(笑)。
「売れないがウマイ」とキャッチコピーがつくほどでしたが、「魔女がグツグツ煮込んだようなスープを作りたいね」という会話から生まれた背景や、SNSでも1いいねしかつかなかった過去も含めて、1杯のスープが持つ世界観を丁寧に伝えられるECだからこそ復刻できたと思います。
齋藤:そもそも開発の時点で、売れるから作るものはありません。自分たちがとことんおいしいと思えるスープであることが大切で、プロダクトアウトの思想に近いと思います。
ーー記憶に残る、お客様とのエピソードがあれば教えてください。
齋藤:お問い合わせのメールのやり取りを重ねるうち、お客様と仲良くなることもしばしばあります。内容によってはスタッフの個人的なメッセージも交えて一通一通を手紙のようにしたためています。例えば「今の季節ですと私のおすすめスープはこれです」だとか、タイミングやお客様に合わせてやりとりしています。
時にはそんなお客様からのプレゼントがスタッフ個人に届くこともあるんです。社内でも「SSTらしいエピソードだよね」と共有させてもらっています。
――すごいです!SSTらしさについて、詳しく教えてください。
齋藤:こういったエピソードにみんなが「良いよね」と評価しあえる風土も含めて、SSTらしいなと感じています。現場で「世の中の体温をあげる」というミッションのもと、それぞれが考えて取り組んできたメンバーだから、ECでも同じスタンスで振る舞えるのだと思います。
ーー数字では評価しない風土ですか?
齋藤:もちろん数字は見ています。この先3年で売上は現状の倍にするのが目標です。ECサイトはあらゆる数字を確認できますし、数字で評価や判断することもあります。けれど、どれだけ価値を生み出したかを考える時、お客様とのエピソードや築けた関係性、描いていたシーンが実現できたか?を大切にする感覚がSSTらしさだと思います。じゃあ何が価値なのか?これは明文化されていないから、カルチャーフィットが難しいと感じる方も多いかもしれませんね...。
ーー林さんは様々な業種業態の方と関わってこられていますが、SSTで違いを感じたことがあれば教えてください。
林:僕自身これまで6~7年ほどブランディングに携わってきましたが、スマイルズにジョインすることにしたのはリアルなものを扱っているからというのが大きかったんです。SSTの店舗は、お客様との空気感や、空間の使い方、時間の流れなど、3次元の情報量が多いですよね。Webであっても圧倒的な情報量を感じるのがとにかく新鮮でした。店舗で日々圧倒的な情報量に触れてきた人のフィードバックは解像度が高いと感じます。
齋藤:なるほど、中にいると見えないものですね。確かに、現場からの「使いづらい」「これなら喜んでもらえそう」という意見には説得力があるし、感覚が鋭いと思います。
林:商品開発から店舗設計、ECやアプリまで、ビジュアルや言葉の一つをとっても、自分たちが使いやすいもの、欲しいものを作るという意志がはっきりしている。スマイルズでよく言う「N=1」が自然にできてるのはすごいなと思いますし、言葉を選ばず言うと、みんなわがまま(笑)。
齋藤:それは良い意味でですか?
林:はい。個人的にはわがままな方がいいと思っています。
SSTはデジタルという言葉をどう捉える?
――あえてDXという言葉を使いますが、事業におけるDXをどのように捉えていますか?
林:「デジタル」とか「なんとかX」と言うとなんだか専門的に聞こえますが、僕はインフラのようなものだと捉えています。現代の生活でデジタルに繋がってないものなんてほとんどありませんし、インフラありきで人の生活が変わっていくのは今までと同じ。デジタルかリアルで切り分けるものではありません。
齋藤:僕たちは日々お客様が本当に欲しい体験を考えているにすぎないのですが、それってDXだねと言われることがあります。林さんがインフラのようなものと言ってくれましたが、現状はSSTの体験価値のインフラを整えている感覚なので、確かにそうなのかもしれないと納得しました。。
林:お題目的なDXで、唐突に新しいことをされてもお客様には意味が分からないですよね。
齋藤:僕たちもお客様も、お互い「わからない」状態にはしたくないですね。繰り返しになりますが、説得力があるかという感覚はすごく大事です。
ーー新しいECディレクターとなる方に求める、仕事へのスタンスはありますか?
齋藤:SSTの仕事全般について言うと、部門にはっきりと線引きをして働きたい人には向いてないかもしれません。僕自身も、商品開発の部門ではなかったがスープの開発をしたりと、肩書にとらわれず仕事をしている感覚が強いです。役割はありつつも、余白に興味を持てる方には良い環境です。
ECディレクターについては、デジタルはあくまで手段で、それを使って一人一人の「体験価値の拡充」や、いかに「世の中の体温をあげる」かを話せたらいいな、と。食や暮らしに興味があって、「スープ×〇〇はできそうだよね」と一緒に考えられると、ECでの面白みを感じてもらえると思います。
林:うんうん。専門性の中に閉じこもる必要はなくて、物事を見る物差しを持っているか。例えばデータを見られるという専門性はSST社内でも価値があって、数字で言語化してもらえたら助かる人は多いと思う。さらに「今こういう価値が求められてるのでは」と、SSTの言葉で会話していけるとフィットしそうです。
齋藤:そうですね。今まで専門性のある方がいない状態だったので、プロフェッショナルとしてのECディレクションをやってほしい、という期待値があるのも事実。欲張りなことを言ってますね(笑)。
林:SSTのECをどんなふうに育てたいか、じゃあどんな商品があったらいいか、とか自然と考えちゃうんですよ。オンラインだったら冷凍以外にもチルドや缶詰だってありですよね。利便性の高い場所に実店舗も持っていて、しかもシームレスな繋がりがある。なかなか貴重な環境ではないでしょうか。
齋藤:もう少し仕事の話に寄せると、SSTが目指す先にある体験価値から逆算して、アプリやECに必要な機能や環境が何で、どんな順番でやっていくか、一緒にプロジェクトを動かしてくれたら嬉しいです。
林:大事ですね。体験価値の想像をするプロセスを共有できていないとシステムは作る意味がない。価値とは何かを一緒に考えたいですね。
ーー遠い未来でこんなことができたらいいな、と妄想することはありますか?
齋藤:SSTには様々な種類のスープがあるんです。食べたスープを記録するのも楽しいなと思いますね。他にも、オンラインで注文したものを店舗で受け取れるサービスや、店舗がない場所でもピックアップできる仕組みもいいなと考えています。例えば自販機みたいな形なら色んな場所に持っていけますね。その時もSSTオリジナルの自販機の型を作りたい!ってなるんだろうなぁ。病院など通常店舗が出せない場所でもスープのある風景を作っていけたらと思います。
「Soup for all!」という言葉を掲げている通り、0歳から100歳まで、離乳食からえんげ食、最近ではねこのためのスープも登場しました。アクセスしづらいエリアでもよりよい導線で、スープを届けられたらと思います。
ーー近い未来で、力を入れていきたいことを教えてください。
齋藤:1999年に創業したSSTは今年で23年目、スープのレシピは300種以上になりました。専門店としてまだまだスープのストーリーを伝えきれていないと思っています。売れるから作ったスープは一つもなくて、だからこそ何かしらのこだわりや、誰かの思いが詰まっているので、伝えていきたいですね。
林:スマイルズが大切にしている5感(行動指針のようなもの)の中に「作品性」という言葉があるじゃないですか。イカ墨のスープみたいに、それぞれのスープにエピソードが詰まってる。人の営みの結晶みたいだし、それは一つの作品と言えますよね。
齋藤:そうですね。どうやってデジタルを使ってスープの幅と深さをお客様に体験していただくか。いろいろな機能を追加したいとも考えますが、まずはそれを伝えたい。近い未来の、大切なテーマです。
文・撮影 名和 美咲