現在翔泳社では、IT領域を担当する書籍とWebメディア(CodeZine)の編集者をそれぞれ経験問わず募集しています。これらのIT領域の編集は、ITエンジニアに寄り添いながら、技術を伝えていく仕事。まさに、ITエンジニアなどIT業界での経験が活かせるフィールドです。今回は書籍編集部第一課の編集長である山本智史さんと、CodeZineの編集長である近藤佑子さんに、書籍とWebメディアの違いや編集者像、仕事内容などを尋ねます。転職活動中の方に参考にしていただければ幸いです。
山本智史(やまもとさとし) 翔泳社 書籍編集部第一課 編集長
2016年入社。ゲーム会社のプログラマーから編集者へ転職し、2022年4月から編集長に。プログラミングやサーバー、ゲーム開発などの専門的な技術書を担当している。編集担当書籍に『ゲームプログラミングC++』(2018年)『DirectX 12の魔導書』『ゲームメカニクス大全』(2020年)など。
近藤佑子(こんどうゆうこ) 翔泳社 CodeZine編集部 編集長
2014年入社。CodeZineの編集者としてスタートし、2020年6月から同編集長に。2017年よりソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers Summit」のオーガナイザーも務め、2018年には若手デベロッパー向けカンファレンス「Developers Boost」の立ち上げも行った。
書籍編集者とWeb編集者の違い
──翔泳社では昨年度、過去最高の業績となり、さらに事業を拡大するためにIT領域の書籍とWebメディアの編集者を募集中です。ですが、両者は業務内容や制作するコンテンツ、さらにマネタイズの方法などさまざまな違いがあります。編集未経験者も募集していることから、最初にそれぞれの違いや仕事について教えてください。
近藤:CodeZineでは最新トピックを紹介するニュースや、技術解説などの寄稿記事、インタビュー記事やイベントレポートなどを平日に毎日更新し、毎月150本ほど公開しています。それらを私を含む3人の編集者で分担していますね。新鮮な情報をいかに早く正確に伝えるかが重要で、著者やクライアントとのやり取り、自分で記事を書く場合は取材と執筆など、いつ何をするかというスケジューリングが欠かせません。また、CodeZine編集部では、カンファレンス「Developers Summit」「Developers Boost」の企画も担当しています。
山本:書籍編集は年間で1人6~7点ほどの書籍を出版します。ほかの編集者の手伝いを含めると10本前後でしょうか。企画の構想から実際の出版まで半年から1年かかる書籍もあれば、場合によっては5年かかる書籍もあります。IT領域は情報や環境のアップデートが非常に早い一方、書籍は制作だけでなく売上も数年間を見越して企画を立てるので、すぐに古びない情報をまとめるのが大事です。
近藤:数年かけて読者に届くということで、Webメディアとは大きな違いを感じますね。Webメディアであれば記事になるまで早くて数日、長くても数か月ですし、読者の反応やフィードバックをすぐ次の企画に活かすことができます。書籍の場合はどのように読者からフィードバックを得ているんでしょうか。
山本:直接もらうことは少ないですが、Web上のレビューや感想を参考にしたり、進行中の書籍の著者から意見をもらったりしています。あと、他社が出版した同じジャンルやテーマの書籍がいいフィードバックになります。私が他社の書籍を参考にするように、他社の編集者も翔泳社の書籍を参考にしているはずなので、ある意味で客観的に見ることができます。
Webメディアは情報発信のペースが早い分、情報収集の範囲が広くて量も多いですよね。書籍の企画のためにいろいろ調べているとき、「よくこんな情報が」と記事を読んで感動することがあります。それと、Webメディアの編集者はインプットしたことをダイレクトに発信できるところにも魅力を感じます。
近藤:たしかに、Webメディアでは編集者は必ずしも編集だけでなく、自分で記事を書くこともよくあります。翔泳社ではさらにイベントのセッションやセミナーを企画するとか、エンジニアなら自分の知識をいろんな形でアウトプットできる仕事がありますね。
私が感じる書籍とWebメディアの大きな違いは、どうやって収益を得ているかです。翔泳社のWebメディアの記事は基本的に読者は無料で読めて、収益の多くはタイアップ記事やイベント協賛などの広告費で賄っています。一方で、書籍は直接読者に買ってもらうので、そこが面白いところであり難しいところだと思います。
未経験から編集の仕事はできる?
──今回翔泳社では編集未経験の方も募集していますが、「エンジニアから編集者へ」となったとき、未経験だとやはり不安が大きいと思います。翔泳社での研修やサポートはどうなっていますか?
山本:実は、私が書籍編集部に入社した2016年当時、中途入社だと研修制度があまり整備されてなく、入社の前後に編集職の通信講座を少し受けただけでした。そのあとはとにかくOJT、仕事をやりながら学びました。私はもともとゲーム会社のプログラマーだったんですが、本が好きだという理由で「次の仕事は活字に関わりたい」と思って転職したんですね。つまり、編集に関して何の知識もないところからスタートして、いま編集長として仕事をさせてもらっているわけです。
とはいえ、現在は中途入社の方でも本がどのように作られるのか、どうやって売られていくのかを学べる研修制度が設けられています。以前よりは未経験の方が仕事を覚えやすい環境が整えられていると思います。
近藤:私は2014年に第二新卒で入社して、新人研修を経てCodeZine編集部に配属が決まりました。ただ、山本さんと同じように実際の編集の仕事は現場で学びましたね。新人研修では、各事業や文化を知る研修はあったものの、業務未経験者に対する教育は会社としては探り探りでした。ですが、現在は編集未経験の方の育成の知見も蓄積し、チューターの指導のもと、入社後すぐにさまざまな活躍をしている方がたくさんいます。
Webメディアの場合、編集は未経験でも自分で記事を書いたことがある、勉強会を企画運営したことがある、という経験があれば存分に活かせると思います。そうした経験がなかったとしても、学ぶ姿勢があればそこまで不安に感じなくて大丈夫ではないでしょうか。
山本:書籍の場合もいきなり「本を作れ」と言われることはなく、最初は先輩編集者の手伝いから始まりますので、心配しなくていいと思います。
──お二人はどういう人が編集者に向いていると考えていますか?
山本:人と話すことに抵抗がない人ですね。著者やデザイナーなど、長期間にわたってコミュニケーションすることになるので。それと、トラブルが起きても対処できる柔軟性です。たとえば、著者の執筆が遅れている、ということも珍しくありません。ですが、書籍は著者の方あってのものなので、そうしたことを責めずに本を作っていくにはどうすればいいかを考えなければいけません。
スケジューリングの能力も重要です。年間6、7点の書籍を出版するということは、それらを進行しながら来年以降に出版する書籍も仕込んでいく必要があります。1つの企画でいっぱいいっぱいにならないマルチタスクの能力もあるといいですね。
近藤:Webメディアも同じで、人と話すことはもちろん、人との繋がりを作るのが好きな人は向いていると思います。社内外で多くの人と仕事をすることになるので、コミュニケーションを楽しいと思えること、技術やそれを作り出すエンジニアを尊重できるかどうかも必要な素質かもしれません。特に、エンジニアとの付き合いは切っても切れませんからね。
IT系の編集者はエンジニアに感謝してもらえるコンテンツを作ることが大切なので、いまの時代に合ったものを作るための情報収集力も欠かせません。IT業界のトレンドや盛り上がっているトピックは多くの人が求めている情報でもあるので、そうしたことを察知して記事にしてほしいです。ただ、そうした編集者としての審美眼は仕事を始めればどんどん磨かれていくので、最初から求めているわけではありません。
編集という仕事のやりがいや面白さ
──書籍とWebメディア、同じ編集という仕事でも内容は全然違うことが分かってきました。それぞれの特徴がありますが、お二人は仕事のどういうところにやりがいや面白さを感じていますか?
山本:届けたい本が届けたい人に届くこと、これが一番のやりがいです。ゲーム会社で働いていたときからモノ作りが好きなので、自分の関わった書籍が国会図書館に納入されてほぼ永久的に残るのも嬉しいですね。
近藤:私は自分が企画した記事やイベントが多くの反響を呼んだときにやりがいを感じます。それはつまり、多くの人にとって何かのきっかけになったということで、仕事を通していろんな人の人生を少しずつ変えていけるのが編集者の面白さの1つですね。毎年2月に開催する「Developers Summit」も、エンジニアの皆さんの力を借りてテーマ設定やセッション企画を行っていますが、今の時代に合った内容になるよう心がけています。エンジニアと一緒にムーブメントを作れることが面白いと思っています。
山本:編集者ならではといえば、翔泳社という名刺を持って会いたい人に会いに行き、話を伺えるのも楽しいですね。一介のプログラマーだったときは業務で社外の方や専門家と会う機会がなく、たとえ会いたいと思ってもどうしようもありませんでした。ですが、翔泳社の編集者としてなら会いに行けます。その裏には翔泳社の名前を背負っている責任もありますが。
近藤:そうですよね、憧れのエンジニアや業界の有識者と会って話ができるのは面白いですし、深い経験やスキルを持っている人と知り合えるのは自分の人生や仕事にとてもいい影響があります。それと、社外はもちろん、社内でも他部署と連携することが多いので、やはり人と繋がることを楽しめると仕事をどんどん面白くしていけると思います。
──ありがとうございます。最後に、翔泳社の編集職に応募を考えている方に一言もらえますか?
近藤:エンジニアの仕事は現在、社会に大きな影響を与えています。そしてエンジニアが生み出している技術や文化も、とても面白い世界です。そうした現場にいる人たちの話を聞ける仕事は、間違いなく自分自身の学びになると思います。得た情報や知識をどうアウトプットするかが編集者の腕の見せ所ですが、翔泳社にはWebメディア、書籍、イベント、セミナー、広告などさまざまなプロダクトとチャネルがあり、それが他の企業にはない魅力の一つだと思っています。未経験でもぜひチャレンジしてほしいです。
山本:編集者はエンジニアからするとあまり実態の知れない職業だと思いますが、第一に情報を伝えること、情報を残すことが仕事です。こういう書籍を作りたいと思っても想定読者が少なくて企画にならないときもあるかもしれませんが、絶対売れる正解の方法はないので、眠っている鉱脈を毎回手探りで探すのを楽しく思える人をお待ちしています。