社長百景 010「楽園の眠り」
私は女性ではないが、
エステの社長だから、美についてよく考える。
「美」を辞書で引くと、その語源は「大きな羊」、
昔々、大きな羊は豊かさの象徴だったからだ、とわかる。
やせ細った羊は、貧しく、美しくはないのか、と感心したりする。
私はエステの社長だから、
「痩せ方」だけでなく、「豊かさ」についても、よく考える。
ものごとを突き詰め過ぎると貧しくなる。
赦しがなくなり、豊かさが消えてゆく。
適度な無駄は、豊かさや、美に関係がある。
余裕の「裕」は、裾にゆとり、ドレープの事で、
ピチピチの服にはゆとりや優雅さは無い、という事らしい。
私はペットショップの社長ではなく、
本当のエステティックの社長だから、
水槽の魚たちを見てると、どうもスタッフに見えてくる。
魚を育てるけど「ケア」より、「全体の幸せ」に興味がある。
汚すぎる環境では魚は育たないけれど、真水にも魚は住まない。
私は本当のエステティックの社長で、
楽園を創りたいけれど、ときどき眠くもなる。
夢の中で楽園を歩いていると、
だんだん寝息が大きくなり、楽園の空気を壊すので、
奥さんが、そっと起こしに来たりもする。
私は、エステティックの社長になるとは、
若い頃、まったく想像していなかったけれど、
私を楽園へ連れてゆきそうなので、
今では、本当に良い仕事だと思っている。