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社長百景 6「丸池や」      

子供の頃、家から少し行くと小高い丘があり、
そこを抜けると「丸池」という池があった。

夏になると、網とバケツを持って飛んでいった。
自分ぐらいの背丈がある池の周りの草を分け入り、
崩れそうな足元を確かめつつ、息を殺し、気配を追った。

水面に光る太陽と白い雲、その間を泳ぐ魚たちの影、
「こっちだよ~」と誘う生き物たちの声と匂いが誘う。
池の底を、悠々と歩く大きな亀に息を飲み、
カエルと視線を交わし、膝まで池につかりながら、
日が暮れるまで夢中で追いかけ、一日中その世界と同化した。

帰り道、
丸池は、私と持ち帰ったバケツの中の仲間たちに、
「またおいで~」と、いつも呼びかけている様な気がした。
あの感覚は何だろう?
私は丸池と、丸ごと繋がっていたように思う。

私たち人間は、食事で、毎日「いろいろな命を」いただく。
視点を変えたドラマに仕立てたら「連続食卓〇〇事件」かも・・・。
でも、事件と食事はどこが違うのだろう?
私たちは「いただきます」と言う。
感謝して、一旦体内に取り込み、
新たに別の関係で、共に生きているからだと思う。

風の噂では、
丸池はずいぶん前に埋め立てられ、今はもう無いらしい。
時代とともに関係や、世界の形は変化するが、
それでも、地球丸ごと共に生きて行くことには変わりはない。