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技術があるのにビジネスにできていない。ビジネスアイデアはあっても技術がなくて形にできない。転職活動などでさまざまな企業に出会うと、ときに企業が抱えるそうしたジレンマを垣間見ることがあるかもしれません。
そんな中、セーフィーでは、ミドルウェアの開発や独自プロトコルの暗号化技術などの高い技術力とビジネスアイデアを融合させ、クラウドの防犯カメラ市場で存在感を顕しています。
セーフィーが提供するのは、防犯カメラを常時スマホなどの端末で確認できるクラウドサービスです。
防犯カメラは無数にありますが、スマホでの操作も可能なクラウドカメラシステムは市場にはほとんど存在せず 、また、通常はカメラに保存された映像を見に行く形が一般的でした。そんななか、カメラのハッキングを防ぐため、カメラからはクラウドに映像を送信するのみで侵入ポートをすべて塞ぐという形は画期的なアイデアでした。そのセキュリティの高さと圧倒的な使いやすさ、コストパフォーマンスゆえ、2014年の創業から3年でクラウド型セキュリティカメラのシェア率ナンバーワンを誇っています。
加えて、映像の顔認証や画像解析技術との連携で、ただの防犯カメラではなく業務の効率化、マーケティングなど映像を利用した新たな市場の開拓を始めています。セーフィーはなぜこのように、テクノロジーとビジネスアイデアを最適な形で融合させることができたのか。
背景には、創業者の佐渡島隆平が起業前に抱いていた「テクノロジー第一」への問題意識がありました。
「技術ありき」で事業をつくることへのジレンマ
セーフィーの原点はどこにあるのか。その萌芽は、すでに佐渡島の子ども時代や学生時代に見つけることができます。
「ちょうどインターネットが世に出始めたときに中学生で、すごくパソコンが好きでした。外国のおばあちゃんとペンフレンドのようにやりとりしたり、株に興味があったので、日本で一番のトレード実績がある人にメールしたりもしました。
ネットって世界中の人と繋がるんだなとを実感し、これはすごいなって。ネットを使って自分の世界を広げるのがすごく楽しかったですね。」
大学生時代には「iモード」が世に出始めます。それに合わせて、大学生が携帯電話で見られるポータルサイト、コミュニティサービスをつくっていたと話します。
「学生向けの携帯サイトは、大手企業のキャンペーンや広告を受注したりと上手くいっていて、買収の話もありました。しかし同時に、資金がない中で自分たちで事業をやる大変さも実感しました。もっと資金的に余裕がある中で、自分がやりたいネットサービスをつくりたい。そう思い、卒業後はソニーグループのひとつであるソネット株式会社(現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に入社しました。」
入社後は、モバイルサービスを中心にサービスを40個ほど立ち上げ、年間の売り上げが10億に達することもあったといいます。その後はソニー木原研究所からスピンアウトした、モーションポートレート株式会社のマーケティング部長に就任します。やりたいことがやれる環境の中、経験と実力を積み重ねてきた佐渡島でしたが、一方で「技術中心に事業をつくる」ことへのジレンマを感じはじめます。
「モーションポートレートは、画像処理技術を開発している会社で、機械学習を用いた顔認識や画像解析の技術開発とライセンス提供を行っていました。機械学習は学習量によってどんどん精度が上がるんですよ。さらに、人の手を介さずとも自ら再学習できるようになっていく。いくら開発を頑張ったとしても、結局はどれだけ学習用のデータを集められるかが勝負になるんです。
今後は、技術をライセンスする会社でスケールするのは難しいと実感しましたね。だからこそ技術力が高いというだけではなく、 技術を用いて何をするか、どうやってデータを集めるかというアイデアが大事になる。そこで、ユーザーとデータが集うサービスをつくろうと考えました。
また、ソニーグループには優秀な人も多く集まっていますが、自分が入社してからは『ウォークマン』のような輝かしい製品を出せていませんでした。テクノロジーはもちろん重要ですが、それはあくまでも手段です。ソニーが培ってきた高い技術力を、課題解決に繋げられていないではないかという歯がゆさがあったのです。
だからこそ自分は、技術ありきではなく、社会の課題を解決するためにアイデアドリブンで事業をつくろうと思いました」
きっかけは自分の家の防犯だった
いきなり「社会課題を解決する」というのは、大きすぎて自分ごとにはなかなかなりません。佐渡島は自分の家を建てたことをきっかけに、防犯カメラに注目することになります。
「山の中腹に家を建てたので、防犯のためにカメラをつけようと思ったんですよね。そのとき、防犯カメラだったらものすごい量の動画データが集まるし、人の顔を認識したりしてどんどん賢くなるカメラがあれば、みんな欲しいんじゃないかなとひらめきました」
そこですぐにクラウドカメラを企画しプロトタイプをつくります。スピードにこだわった背景には、知れば知るほど感じる防犯カメラの理不尽さ、それゆえに存在する潜在的なニーズへの確信がありました。
「それまでの防犯カメラって、一台設置するのに数十万円の初期費用が発生し、さらに月6〜7000円の月額費用もかかる。にも関わらず、確認できるのは連続で撮影された静止画だったんですよ」
佐渡島のひらめきから生まれたSafieのサービスは月数千円でハイクオリティな映像がPCでもスマートフォンでも簡単に見られるというサービス設計。
高機能な上に、他社サービスと比べてコストが約6分の1と、圧倒的なコスパの良さを打ち出しました。
その価格と機能性から、飲食店や小売店、警備会社、建設現場や不動産会社など業界問わず、すでに防犯カメラを持っている企業が軒並みSafieに切り替えてくれたと言います。
創業から3年でシェアトップクラスを誇るなど好調なスタートをきれた要因は、価格と機能性が市場に評価された結果と言えます。
「事業は技術ではなく、社会解決のためというのが前提にあったので、『みんなが使えるものをつくる』ことを徹底しました。
例えば、録画された映像をアプリで見るとき、緑の線が入ったところは映像内で動きがあったところ、黄色の線は音が入ったところを示していて、長時間にわたる動画の中でも一瞬でどこを確認すべきかがわかります。
このように、サービスのプライシング以外にも、ユーザーがいかに確認したいものを簡単に見られるようにするかを意識しており、そういったご要望を新機能として開発していくことで、よりユーザーが便利になるような体制を整えています。
売って終わりではなく、カメラがより賢くなり、それによりユーザーが便利になっていくことが理想です。」
防犯カメラを売るのではなく、その先の未来を共につくる
ユーザーや業界シェアが伸びて行く中で、セーフィーがこだわっていることがあります。それは、「防犯カメラを売っているのではない」ということです。
「資金調達をする際には、安易にお金を取りにいかないことを意識しています。『資金がないからお金をください』ではなく、『社会の課題を解決するために一緒にやりましょう』と提案するのです。
この前提にあるのが、私たちは “防犯カメラを売っている”のではないということ。
例えば、ある飲食店ではレジの上に設置していただいていますが、支払いがあったときにPOSシステムと連携して、自動で支払い金額がシステムに反映されます。こうすることで人的ミスを減らし、業務改善・効率化につながっています。
またある建設会社では、建設現場を撮影したカメラの映像を、ボタンひとつでタイムラプス機能で確認できるようになっています。つまり、その日一日の作業工程を簡単にレポーティングできるようになっており、何が原因で作業が遅れているかなどをより効果的に分析できるのです。
このように、カメラ・映像を通してそれぞれのクライアントのビジネス課題を解決しているからこそ、業界問わずサービスを提供できていますし、それがより一層データを集めることにつながり、ひいてはどんどん賢くなるカメラの開発につながる。そういう良いサイクルができています」
今後は、映像データをAIで解析し、人や企業の意思決定をより効果的なものに変えていくことを目指すと続けます。
「我々はよく、ディープラーニングのアルゴリズムを三歳児から学卒レベルにしないといけないねと話しています。これはそうすることによって、映像を通じてひとりひとりのより良い未来に関わることができるからです。
一例を挙げると、電力会社と街をデータ化しようとしています。車の交通量や、どんな人がどのようなお店に入ったかをデータ化することによって、例えば、新たに店舗を出店する際、今までは『駅徒歩何分のところが良い』など単一的だった指標が、今後は、時間帯別の人の動きや交通量、天候など様々なデータに基づいて出店計画を立てるなど、自分たちにとって最適な意思決定ができるようになるかもしれません。
また、物流倉庫にカメラを設置して、荷物が溜まっているとそれを認識して、頼まなくても運送会社が回収しに来てくれるとか。
アパレルショップでは、顧客リストを顔認証と連携して、来店した相手に対して『前回はこんな洋服を着ていたから、今回はこんな服がいいのでは』と、自動で提案できたりとか。
こうして映像データを集めてAIで解析し、アルゴリズムをどんどん賢くすることで、自分たちだけでは今までできなかったような意思決定ができるようになり、それがより簡単で効果的なものになるはずです」
セーフィーが提供しているのはクラウドサービスですが、決してサービス提供自体がゴールではありません。サービスを通してリアルな世界を変えていき、人々の生活をより良いものにしていくことを目指しています。
「『映像✕AI』が世の中に与えるインパクトは無限大だと信じています。ここからの部分もまだまだ多いですが、『より良い世の中を作っていける』そんな手応えは確かにあります……。今感じている手応えを現実に変えるために、セーフィーは更に走り続けます」