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老舗プラスチック工具箱メーカーと対馬の海洋問題

初めまして、株式会社リングスター(以下、リングスター)の唐金祐太(カラカネ ユウタ)と申します。大阪本社、明治22年創業の工具箱、いわゆる職人さんの使うツールボックスを奈良県生駒市にて製造しており、現在私の父が5代目になり、私はアトツギとして日々東奔西走しております。
私達リングスターは、100年以上一貫して工具箱を作り続け〈木製・鉄製・樹脂(プラスチック)製〉時代に沿った素材を選び、今日まで「現場でも20年以上使えるプラスチック製の工具箱」とその圧倒的な耐久性を職人さんに評価をいただいて参りました。

昨今では、収納ボックスとして〈釣り・キャンプ・雑貨・アパレル〉等、幅広い販路にてご採用いただいておりますが、詳細を書きますと本noteの趣旨と異なる為、今回は割愛させていただきますが、30年前からプラスチックを使って工具箱を制作している背景を念頭に置き、ご一読いただけますと嬉しいです。

目次

  1. 1.今回の対馬スタディツアーの経緯
  2. 2.私達リングスターが提供する価値
  3. 2-2.〈リングスターの強み〉に二律背反する再生プラスチック
  4. 3.対馬の現状【海岸】
  5. 3-2.対馬の現状【クリーンセンター】
  6. 4.現状の解決方法

1.今回の対馬スタディツアーの経緯

とある日に、Facebookにて私の尊敬する 株式会社大都のJackとアパレルメーカーのパタゴニア日本支社 wholesaleマネージャーである桑原さんの投稿の会話にメンションされました。
それは【対馬の海洋プラスチック問題】についての現状の共有と、一緒に解決できるパートナーを探す旨の投稿で「工具箱として再生できないか?」とご縁をいただきました。
私もプラスチック工具箱メーカーの端くれ、海洋プラスチック問題も危惧しており、SDGS、企業のESG投資、バイオマス等の再生プラスチックの技術発展については日々注視し、勉強しております。その投稿に海洋プラスチックを粉砕してペレット状にした画像を見て、素材や工程面への疑問とプラスチックメーカーとしての知見を共有し、意見交換する為に桑原さんに弊社にご足労いただき、生産工場での工程、想いや背景を共有した上で、後日今回のツアーにお誘いいただいた事が本ツアーの経緯になります。

2.私達リングスターが提供する価値

前述した通り、私達リングスターは"圧倒的な耐久性"をお届けしており、職人さんが持つ重たい工具を、たくさん入れても絶対に壊れない、揺るがない、その〈安心・信頼〉こそがリングスターの提供する価値、矜持であり、生命線でもあるのです。
この耐久性と現状の課題の背反については後述しますが、この提供している圧倒的な耐久性があるからこそ、安全に工具を入れ、職人さんが安心して作業ができる訳です。

そもそも工具箱ってどうやって作っているのか?
弊社の成形方法は射出成型(インジェクション)になります。

簡単に言いますと、ペレット状の樹脂を高温で溶かし、製品をかたどった金型に流し込み、冷却させ、固めて取り出します。たい焼きの鉄板の中に材料を流し込むイメージですかね。こう表現すると簡単そうに聞こえますが、非常に奥が深く、面白い技術です。外部の気温変化にとにかく敏感で、冬は氷の上を走るマグマの如く樹脂の流れる速度が遅くなり、しっぽのないたい焼き(ショート不良)となり、夏には加熱した鉄板の上を通り、瞬足を履いた小学生の如く、勢いに乗った樹脂が金型からはみ出し、薄い皮を纏ったぱりぱりのたい焼き(おいしいですが、バリ不良)となります。すごくかまってちゃんな技術になります。弊社では不良がでないように組み立て、検査、梱包と複数の工程を経て、市場に販売しております。※すごくざっくりした例えでお話してる事をご理解ください。

補足
海外製品にバリが多いのは、つまり一般消費者から見れば、しっぽのなくなるショートより、樹脂を押し込み気味にしておけばバリはでますが、カタチとしては成り立っておる為、人件費やロス少なく製作できます。あまりに鋭利なバリだと手が切れるのでお気をつけください。そこまで箱作りに対する想いがないとも、私達RINGSTARは考えます。

2-2.〈リングスターの強み〉に二律背反する再生プラスチック

何かの変革には必ずビジネスも大きく動きます。
昨今の再生プラスチック展示会等を見ていると、明らかに出展業者が増えていて、勿論「地球の為に心臓を捧げよ!」と心の底から粉骨砕身していただいている企業もありますが、中には「これを数パーセントでも混ぜれば環境貢献しているとHPでうたえますよ」「51%、この材料を混ぜれば石油製品ではなくなるので、捨てても大丈夫ですぜ旦那ぁ。」と悪代官みたいな顔して近寄ってくる業者もいる事もまた事実です。
そういう人達は往々にして無知蒙昧、深く問うと狼狽し、SGDsのバッチを付ける意味も理解していない悲しい現状です。(私は"偽ポンデリング"と呼んでおります。)

何が反するのか
再生プラスチックは、いわば一度は成形されて固まってしまった物を粉砕されたものを指し、その際には必ず「空気」「埃」「ゴミ」などの異物が混じります。以外にもプラスチックにはPP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)PC(ポリカーボネイト)等、様々は種類があり、融点も異なり、前述したように流れる速度も違う為、混合した樹脂は成形ができず、プラスチック同士の繋がっている手をほどき、強度が弱く安定性にも欠け、まともに成形できず不良率を大きく上昇させます(ロスになると粉砕する手間、電気代、再成形の二酸化炭素などのエネルギー排出も増加)
語弊があるかもしれませんので補足しますが、成形できない事はありません。ただ見た目ではわからないクラック(欠け)等は耐久性を著しく低下させ、目に見えない異物は金型や成型機の破損などのリスクもつき纏います。
ちなみに、前述した展示会で、どこの企業に聞いても「強度面がクリアできない」と皆さん口を揃えて仰られます。
私達の提供している価値とは背反しており、工具箱メーカーとしては苦慮せざるを得ないです。

何もしていない訳じゃない
これは、弊社が過去に『エコット』という製品を作った上での経験談になります。このエコット、再生材を利用して環境に貢献しようと製作したのですが、材料の流れも悪く、結果的に多くの不良製品を出す事になりました。
お客様からも「せんべえのように割れる」「リングスターらしくない」と酷評を受け、リングスターの信条に合わない為、すぐに回収し通常の材質に戻しました。※再生材なので廉価価格設定の為、弊社にとってはエコットではなくなりましたが。(笑)

前置きに時間をいただきましたが、長く使える製品を作る事で、世の中に貢献している企業がここに存在するという事です。
そして私は、再生プラスチック業者を論駁や否定をしようなどとは一切考えていないですし、0か100の極端な議論ではなく、人類の発展に寄与してきたプラスチックとの共存を今一度、各々が熟考して、行動ができるきっかけになればと思いnoteを書いております。
簡単な説明となり、他にも様々な成型方法もありますが、プラスチックの成形や再生プラの現状の課題等、少しはご理解いただけたと思いますので、ここから本題に入ります。

3.対馬の現状【海岸】

今回のステディツアーは対馬市と、登山アプリにて圧倒的なシェアを誇るYAMAPが主催し、パタゴニアスタッフ、リサイクル業者、プラスチックメーカー、アーティスト等、多種多様なチームにて執り行われました。
それでは、対馬の現状をご覧ください。

対馬の海洋問題は度々メディアでも取り上げられており、誇大表現の可能性から胡乱げに画面を通して見ておりましたが、現実は想像を絶する光景が広がっておりました。

360°カメラの映像はこちらから。

また、写真では確認できませんが、現場では強風によって分解された発砲スチロールが雪のように舞い続けており、目や鼻も痒くなり、現状、物理ともに目を覆いたくなる状況でした。
ここで、対馬市さんからいただいたデータを見ていただきます。

やはりプラスチックが圧倒的に多いですが、前述したように、このプラスチックは全て素材が異なるもので、同じ工程にて分解ができません。そもそも海流での変形や汚れの付着から全くの判断ができない物も多々、見受けられました。
それに、これだけの予算や人手をかけている対馬市の皆様にこれ以上の負荷をかけるのは現実的ではありませんし、特定の人だけが頑張った状況から得た幸せは、持続的ではありません。

3-2.対馬の現状【クリーンセンター】

海域の視察が終わった後、それらを回収し、分別し、粉砕しているというクリーンセンターに移動しました。

ここでは、海域で集めたプラスチックを分解、保管(納品できる企業を探す)していました。私も自社の工場にて6年従事しましたが、この工程はとても大変です。例えば製品に油がついておれば、成形の品質上、綺麗に拭き取る、またはその部分だけを切り取るなどの作業が発生します。
漂着しているプラスチックは全て綺麗なものはなく、長期的に放置された事から、虫や他製品との高温による密着、海面の塩や油などの付着によって全ての漂着物に対して検品が必要な状況でした。自身の経験からも、これがいかに大変な作業か理解できます。

途方もない回収作業に従事していただいている対馬市の皆様、ボランティアスタッフの皆様には感謝につきませんし、対馬市が年間、数億をかけてこの問題に、腐心に取り組んでいるという事実にも胸が痛みます。

対馬市のプラスチックの理解
前述したように、プラスチックは様々な種類があり、混合された材料は成形リスクも高く困難です。そこまでの人的予算も避けない事もあり、色分けこそ行っておりましたが、同色であるポリエチレン製のタンクやポリプロピレン製のカゴ等を同じ粉砕機にて同時粉砕しているという現状で、これは仕方のない事だとも思います。
補足
成型には異色が入ると、色の強弱関係によってマーブル色や濃淡の効いた製品として現れ、不良扱いになりますので、完全同色にて成形する事に越した事はありません。またその事から、再生材の多くは黒色として使用される事が多いです。

ひどいもので、流れ着いた発砲スチロールの中にかさ増しの為に異材を混入させており、分解や粉砕が困難に感じる漂着物もありました。また発泡スチロールは2%の原料を膨らませておりますので、再生という意味では非常に困難になり、労力を要する作業になります。ただ粉砕しないと容量過多にて運送及び販売もできないのです。

大変心が痛む話ではありますが、現状の粉砕したペレットだと余計に不良を輩出してしまうリスクからプラスチックメーカーとしては継続的に取り扱いする事は難しいとお伝えしました。

このクリーンセンターを出た後に、参加者全員にてワークショップを行いました。どの企業も、積極的な発言を行い解決に向けて「今できる事を」協議し、模索しておりました。

視察が終わり、「できない」ではなく「何ができるのか?」を熟考しておりました。プラスチックメーカーとして、唐金祐太自身として、解決方法を下記に提案させていただきます(対馬市の皆様にはワークショップにてお伝えさせていただきました)

4.現状の解決方法

短期的、長期的な目線にて、持続的に粘り強く取り組む事が必要
【短期的】
1.〈分別・粉砕・洗浄作業を対馬市が一貫する〉
対馬市がインフラ設備投資(分別・洗浄を行う装置及び、人手の確保(資金や人手はクラウドファンディング等で調達、資金面の補助としての国の理解)
=多大な資金も必要かつ、対馬市の皆様の負担ばかりが増え、人手不足の観点からも現実的ではありません。

2.〈ハブとなる企業を探す〉
対馬市が色分けし、粉砕した原料(洗浄、分別は未)以降の作業をリサイクル業者などが請負い、メーカー等に販売する方法
=メーカーへの納品金額の上昇する事からの導入障壁が高くなり、商業的にならざるを得ない
ただし、短期的な方法としては1の案より現実的です。

結論
対馬市は、海流現状の発信とスタディツアーの継続的な開催にて巻き込む企業・国・自治体・組合・人を増やし、アジア国(得に韓国・中国)の消費者を巻き込んだ上での啓蒙活動に専念、それに併せてハブとなる企業とプラスチックメーカー等が削減に取り組み、現状の海流以上のゴミを増やさない為の施策を打ち出しだしていく。
短期的なのでゴミはすぐにはなくならず、また次々と漂着してきますので、現状維持が精一杯になる事かと思います。

【長期的】
1.〈作る側の愛〉
私が、本noteに書いていることが間違っている事もあるかもしれません。ただ大切な事は、一人一人が自分の頭で考えて、思いやり(愛)を持って行動する事です。その方法は三者三様。手段が再生プラスチックであったり、我々が掲げる耐久消費財としての在り方。各々の正義で考え、対極の意見を否定せず柔軟に聞き入れ、議論し、より良い方法を熟考する。本当に恣意的なビジネスではなく『この地球を守っていきたい』という想いがあるなら、新しい処理や制作方法の共有や発見、コラボもできるかもしれません。

2.〈使う側の愛〉
きちんとリサイクルする
ペットボトルのキャップを外す、ラベルを剥がす、中身を軽く洗浄する、ポイ捨てしない、分別して捨てる。ゴミを1日1個拾う。たくさんの方法があると思います。自分の玄関の前を綺麗にし、隣の身近な人が困っていたら声をかける、そんな先人達の、ちょっとした思いやりが、何十年、何百年と時間をかけて積み重なって、今の私たちは豊かな生活を享受しております。それをまたずっと先の子供達に向けて私たちが行動する番であることを忘れない事です。大きな目標を持つ事も勿論大切ですが、いきなり対岸にいる人を持続的に幸せにするには1人では足りません。同じ想いを持つ人や、その想いに昇華するよう助け合い、小さくても長い時間をかけてコツコツとつなぎ合わせていくしかありません。

余談ですが『呪術廻戦』に出てくる漏瑚の言葉
「100年後の荒野で笑うのは儂である必要はない。呪いが人として立ってればそれでいい」考え方は立場や手段(ここで是非は問わず)違えど、私はとても素敵な考え方であると思います。なんかいきなりすみませんね本当に

リングスターとして
耐久性を必要としない分野にて、再生プラスチックを用いた収納ボックス事業を展開し、現状の限界や概念を少しでも老舗の技術によって緩和できるように積極的に挑戦していきます。それこそが日本のモノづくりであると考えます。アクションとして、すでに弊社の主要仕入れ先である原料商社も本問題に取り組んでおり、早速打ち合わせの日程を設けました。
また、今回ご縁をいただきましたパタゴニア・YAMAP様と海洋再生プラスチックを利用した、コラボ工具箱なども考えてければと思います。

一人一人が真剣に考える
どうしてもメディアの情報だけだと、臨在感的把握となりプラスチックが悪という風潮になります。
何かの素材を選択すれば、必ずどこかに皺寄せがいきます。誤解を恐れずに言うと、もしかしたら目に見えて固体として存在しているプラスチックは〈マシ〉かもしれません。紙ストローに変えて(耐久性を上げる為にほとんどの製品にプラスチックが使用されており、そういった事は周知されておりませんし、メディアは「環境貢献している良い企業」という側面だけを切り取り、煽情的な表現にて私達の対極把握の絶対化を生み出します)
今度はそのプラスチックが海洋に溶け出し、極端な事を言えば奇形の亀が現れれば、また「紙は悪だ!やっぱりプラスチック最高!」なんて言う人もでるのでしょう。
この問題の淵源とする事は、そういった極端な議論では解決しません。
一人一人が〈作る・消費する・正しく捨てる責任〉を自覚し、それをたくさんの子供達に〈100年後の未来を考えて行動、啓蒙していく必要がある〉と思います。どうしても私たちは「今、幸せだからいっか」耽溺に自分のビジネスに取り組み、楽な選択を取ってしまいます。
今日からできる事もたくさんあると思いますし、本記事をここまで読んでいただきました愛のある皆様なら、共に良い世界を作っていけると確信いたします。

終わりに
最後になりますが、対馬という場所は歴史的に見ても、日本国を守ってきた自然の要塞島であり、その広大に広がる圧倒的な自然は、なんとも形容しがたい美しさであります。対馬市では現在「対馬の海洋プラごみマテリアルリサイクル資源をご使用いただける企業様を募集しております。この豊かな自然を守っていく為にも、解決に向けご尽力いただける心温かい皆様、関連する業者の皆様、お知り合いの方に是非、本記事を共有もしくは、私唐金までご連絡いただけますと嬉しいです」
この問題は、氷山の一角であり、プラスチックメーカーとして「どう向き合っていくか」を考えさせていただけるツアーとなりました。対馬市の皆様には改めて、敬意を表して終わらせていただきます。ありがとうございました。

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唐金 祐太

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