虐待や貧困、孤立・・・。子どもが置かれている環境は厳しさを増している。義務教育が保障されていても、十分な教育が受けられずに満足できる人生を歩めない子どもも目立ってきている。3keysは、2009年よりどんな環境で育った子どもであっても、十分な教育を受けることができる社会の構築を目指して活動を続けてきた。

学生時代に知った学習ボランティアが立ち上げのきっかけ

3keysのはじまりは、代表の森山が学生時代に始めたボランティアだ。教育や福祉に興味を持って調べ始め、出会ったのが児童養護施設の情報だった。調べてみると、虐待などの家庭の事情で家に暮らせず親元を離れて暮らす子どもたちが全国に5万人もいることを知った。家から15分くらいのところに児童養護施設があるのに、存在を知らなかった。

ひとり親家庭の子がいることは知っている。しかし、親と暮らせないほど虐待が深刻な家庭はあることは知らなかった。その施設で学習ボランティアを募集しているのを知り、塾講師としてのアルバイト経験が役立つのではないかと考えた。しかし、想像以上の学習遅れや、自己否定感に苛まれている子どもたちがたくさんいる中で、自分が週に1－2回学習を教えるだけではまったく足りないことを感じた。施設も、子どもの日常生活の対応をしなければならず、ボランティアを受け入れる体制を整える余裕はない。そこで、大学生の有志のメンバーを集めて2009年に学生サークル「3keys」を設立した。

大学生に子どもたちの現状を知ってもらい、児童養護施設などに訪問して家庭教師のように勉強を教える活動が始まった。しかし、就活やバイトで忙しい大学生は、突然音信不通になったり、子どもたちの暴言などに傷ついて辞めてしまう等のトラブルが続いた。生半可な気持ちでは、たとえ善意で始めた活動でも子どもを傷つけうると思い、様々な専門家や、中間支援の力を借りて、2011年、大学卒業の年にNPO法人格を取得して、本業として活動することを決めた。1施設で始めた取り組みは、東京、神奈川、千葉に拡がり、これまで20施設以上で学習支援を展開してきた。

施設の外にも一人で悩む子どもたちがいる

虐待で保護された子どもたちと接する中で、多くの子どもたちが何年も虐待にあいながらも、自身が虐待を受けていたことも知らず、一人で悩んでいたことが分かった。そして、その多くは、虐待だけでなく、勉強面、学校でのこと、恋人とのことなど、あらゆることを親をはじめ誰にも相談できず、私たちのようなNPOや行政の相談窓口を知らず、自身を責め続けていた。

本来NPOや行政の相談窓口は、誰にも頼れない子どもこそ知って利用すべきだー　そう思って、虐待に限らず、無料で学習支援をしている施設、いじめや妊娠、LGBTなどの悩みに合わせた支援機関など、親や大人に頼れず一人で悩む子どもたちを支援してくれるところを、美容院やレストラン検索のように簡単に検索して相談できるポータルサイト「Mex（ミークス）」を立ち上げた。今は子ども一人でも利用できる全国250以上の相談窓口が掲載され、年間1万人以上がこのサイトから支援機関につながるようになった。相談のハードルが高い子どもたちには、似た境遇の人の体験談や、専門家の監修を受けた記事を配信し、少しでも悩みを軽くするための取り組みも行っている。

また、支援機関について知らない子どもが、ネットで検索し、たまたま出てきた支援情報が、子どもたちにとって有益な情報とは限らない。信頼できる団体かどうかの見極めは、子どもたちには難しい場合もある。Mex（ミークス）は3keys（私たち？）が子どもたちに代わって、支援機関の情報を精査している。電話がつながりやすいところや、専門性などが担保されているところは、認定マークをつけて、子どもたちがより安心して利用できるようにもしている。一番身近な親や家族からも助けてもらえなかった子どもたちが、安心して誰かに頼るために様々な工夫を行っている。

困ったらいつでも頼れる大人がいる社会の実現

私たちは困ったら誰かに助けを求めたり、相談したりする。深刻な悩みほど、一人で解決することはなかなか難しい。しかし、最も身近な存在から理不尽な扱いを受けてきたら、誰かを信用したり、「誰かが自分を助けてくれる」と思うことはとても難しい。

たくさんの傷を負ってきた子どもたちに簡単に手を差し伸べることはできない。例えば「死にたい」という子どもに「死んじゃダメ」は支援機関では絶対に言ってはいけない言葉だ。しかし、子どもたちがもう一度人や社会を信じるには、たくさんの人の力が必要だ。大人が正しい知識を身に着け、勉強し、適切に関わり続けること。3keysが目指しているのはそういった存在だ。