様々な業界においてIT技術の応用が叫ばれていますが、「医療」においても例外ではありません。 下記のグラフは、PubMedでの「mHealth」(mobile healthの意)の論文ヒット件数ですが、このグラフからもここ数年でのデジタルヘルス領域における盛り上がりの大きさと勢いを感じることができます(2010年からの伸び率!!)。
一言にデジタルヘルスと言っても様々な領域がありますが、私の専門分野である理学療法の関連分野におけるデジタルヘルスの潮流について、海外スタートアップ企業なども紹介しつつ、まとめていきます。
まず、理学療法関連分野におけるデジタルヘルスを押さえる上で重要なキーワードを3つ紹介します。いずれのサービスでも、この3点のいずれか、もしくは組合せをうまく活用することでこれまでになかった価値提供を可能としています。
①提供価値のストック 提供プログラムの内容や疾病管理教育など、これまで1 to 1で提供していたものを、デジタルの場に蓄積することでストックされた資産として利活用していきます。オンラインへアクセスできれば、時間や場所に拘わらずに価値提供が可能となり、提供価値の効率化、スケールに強いモデルです。
②モニタリング 日常生活環境下の状態(活動量、痛み、食事など)や非監視下でのトレーニング実施状況などのデータを収集することによって、臨床下では得られない情報を収集することによって、より各患者個人に対して適切なプログラムの提供が可能となります。
③フィードバック 理学療法士が患者へのフィードバックは、通常、最適なタイミング、最適な頻度で行われる訳ではありません。一方でITの技術を活用することによって、通院頻度やリハビリテーションの提供時間といった外的要因に規定されたタイミングに依存しないフィードバックが可能となります。
こうしたデジタルヘルスの技術を使うことによって、これまでの対面サービスでは限界を超えたサービスが提供可能となっています。さて以下では、こうした通常の価値提供を超えたリハビリテーション領域関連のデジタルヘルススタートアップを紹介していきます!
筋骨格系疾患患者さんに対する遠隔リハ! SWORD HEALTH は、筋骨格系疾患を抱える患者さんへ遠隔でのトレーニングを提供しているスタートアップです。利用者にはタブレット端末と専用センサーが配布され、タブレット端末からトレーニングメニューを選び、その実施状況をセンサーデバイスで測定し、さらには必要に応じて理学療法士からフィードバックを受けることができます。
トレーニングメニューはストック型で患者さんの状態に応じて処方可能であり、また適切に実施できていかをセンサーを活用することによって管理可能です。確かに患者さんの状態に合わせてトレーニングメニューの組合せを変えたり、実施状況についてはセンサーデバイスで把握可能とホームエクササイズの管理には最適な仕組みが整っているのではないでしょうか。
類似したサービスに Reflexion Health があります。こちらはセンサーではなくカメラで動作解析を行っており、全身運動を評価できる点が特徴です。HPにも Virtual Physical Therapist !!って記載があり未来感がありますね。
両者ともにプログラムメニューのストックと動作分析を活かしたモニタリング機能を使って遠隔でのサービス提供を可能としています。この技術の優れている点は、プログラムの実施量や記録をデータとして保管できる、評価できる、フィードバックできる点にあると思います。これもデジタルならではの観点ですね。 以前からもMicrosoft社のKINECTのモーションセンサーを活用したリハビリテーションの研究は盛んに行われていた印象です。また、日本のサービスですと、 Moffさん が近いかもしれませんね。
ゲームプログラムで 小児リハにも対応! 同様にカメラから動作分析を行ってプログラム提供をしている英国のスタートアップに MIRA Rehab があります。MIRAのサービスはこれまで紹介したサービス同様、高齢者への転倒予防プログラムへの活用ももちろんですが、かなり小児リハへの適応に対して強く打ち出している印象があります。特にゲーム要素の高い、プログラムを提供しているため、相性も高いようにも思います。
先程のサービスと比べ、遠隔モニタリングという要素ありませんが、デジタルヘルスを活用し各機能強化に特化したプログラムを充実させることによる提供価値のストック、 パフォーマンス測定に基づくフィードバックによって、理学療法士個人に依存しない価値の提供を可能にしています。
日本では、 MediVRさん もVRでのリハビリテーションプログラムを提供していますね。
呼吸器疾患のモニタリングに応用! スウェーデンのスタートアップである NuvoAir は、患者さんにスマホと連携することで呼吸機能検査が自宅で実施できるキットを提供しています。
さらにモニタリング状況に合わせてフィードバックも提供することで、遠隔での疾病管理サポートを価値をして提供しています。現在は、特に嚢胞性線維症の疾病管理に特化しているようですが、この技術を応用することによってその他の呼吸器疾患の疾病管理にも活用が期待できそうです。
慢性疾病管理をデジタルヘルスで! 高血圧や糖尿病などの生活習慣病、慢性腰痛や精神疾患などの疾病管理を行うためのサービスは、海外では多くリリースされています。例えば腰痛の疾病管理を行う Kaia Health は腰痛やCOPDの疾病管理に向けたプログラムを提供しています。
こちらは、アプリでの問診に答え、紹介された運動をアプリの動画を見ながら実践する仕様です。スマホカメラを使ったモニタリングや、専門職への相談機能も備えているようです。こちらもプログラムメニューのストック、日々の体調やトレーニング方法のモニタリング、専門職からのフィードバックと、デジタルヘルスの利点を最大限に活用しているように思います。ホームページの中の「 The digital therapist in your pocket 」も素敵ですし、デザインもクールです!
日本でもみなさんご存知の バックテック社 がこの領域でのサービス提供を行っていますね。 こうした遠隔でのプログラム提供にライブ性、ソーシャル性を組み合わせて、勢いを増しているのが、 Peloton です。こちらはリハビリテーションというよりもフィットネスプログラムですが、タブレット端末の付いたエアロバイク、トレッドミルを購入し、ライブ中継でのプログラムやストック型プログラムにて自宅でもリアル性の高いプログラムの提供を可能にしています。何よりブランディングが最高にクール。
また、同様に慢性疾患の中でも糖尿病患者の増加が米国では社会問題ともなっており、 Livongo や Vida Health 、 Omada Health など糖尿病を中心とした生活習慣病の疾病管理を行う企業が多くでてきています。
特に慢性疾病管理の領域は、モニタリングとフィードバックを生活に則した形で時間や場所に拘わらずに提供することでが可能となり、医療機関での診療における数十分では限界のある疾病管理をサポートする上でデジタルヘルスの価値は大いに期待できるものと考えられています。 2019年4月に、Amazonの「Alexa」のスキルにLivongoの血糖管理プログラムが採用されることが発表され、益々生活に密着したもになっていくかと思います。
PREVENTのMystar 最後に自社サービスの紹介をさせていただきます(宣伝です!!!)
PREVENTでは、生活習慣改善支援プログラム「Mystar」というサービスを提供しており、高血圧や糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞などの生活習慣病や循環器疾患の既往を持った方に多く利用いただいております。
私自身ももともと医療機関で患者さんの疾病管理指導にあたっていましたが、
「減量しましょう」
「運動は軽く息の弾む程度で30分、これを週に5回は実施してください」
「塩分は1日6gですよ」
など、あくまで「その場」でのアドバイスしかできずに大きな限界を感じていました。 もちろん、ものの数十分で本人さんの行動変容に貢献できる一撃必殺なんて出せるわけではないですし、それは、医療者の傲慢の極みのようにも思います。
一方で弊社のMystarでは、生活習慣のモニタリング機器やスマホを活用して日々の生活習慣を数値化していきながら、「運動」「栄養」「睡眠」をモニタリングし、利用者さんの生活習慣の改善を医療専門職がサポートしていきます。
自分たちの関り方も
「ウォーキングの際の脈拍数が80拍くらいなので、もう少し早歩きを加えながら100拍前後で運動してみましょう」
「昼食の味噌汁を減らしてから塩分摂取が-1.0g/日減りましたね」
とより提供できる価値は大きくなり、また、一撃必殺を出さなくともスマホ経由で常に繋がっていることにより、時系列情報にもとづくモニタリングとフィードバックのループを適切なタイミングで提供することが可能となっています。
もちろん、現場での医療を代替できるものではありませんが、間違いなく医療機関では提供できなかった価値を提供できている実感を日々感じています。
多くの産業がITによって変革していく中で「医療」も例外ではありません。そのためにも医療従事者側がデジタルヘルス時代を生き抜く素養を身に付けていく必要があります。
PREVENTでは、名古屋大学医学部発のデジタルヘルススタートアップとして、この領域で活躍する 次世代の医療専門職の育成に力を入れており、PREVENTからデジタルヘルス領域で活躍する医療人材を輩出していきたい と考えています。
これからデジタルヘルス領域で活躍していきたい方、予防領域でのチャレンジに少しでも興味がある方は、ぜひ一度お話しさせてください!!
コーポレート部門も積極的に採用しています
ビジネスサイドでの東京拠点の立ち上げメンバーも募集中です。