世界27ヶ国、400万人に使われるサービスの顧客体験の考え方 [Peatixのカスタマーエクスペリエンスとは:イベントレポート前編]
2019年12月10日、Peatixのカスタマーエクスペリエンスの戦略や事例を紹介するイベント「世界27ヶ国400万ユーザーに支持されるサービスのカスタマーエクスペリエンスとは」ーPeatixマネジメントが語る、成長を支えた取り組みとこれからの展望ーを開催しました。今までほとんどお話しする機会のなかった、Peatixの顧客体験の考え方について、たっぷり語る会となりました。
2011年5月に日本でサービスを開始したPeatixは、現在会員数400万人、月間取扱イベント数は1万件のサービスとなり、日本のみならず世界27ヶ国で利用されています。
総勢44名のスタッフで運営しており、拠点も東京、シンガポール、クアラルンプール、ニューヨーク、マニラと複数の都市に展開しています。
少数チームのPeatixがグローバルに利用されるサービスを育ててきた根底には、「顧客体験を大切にする」という哲学があります。今日は、Peatixの4名の経営メンバーが、顧客体験のデザインの仕方について、様々なサイエンスや前職Amazonで学んだ経験から実践していることをお話しします。
経営戦略の中枢にあるカスタマーエクスペリエンス
原田:Peatixは2011年の創業時からカスタマーサポートにかなりの人数を割いて取り組んできました。お客様の声だけでなく、社内の現場や営業からのフィードバックやデータを集め、経営戦略や開発チームへのリクエスト策定に携わる、経営戦略の中枢にある機能です。
サポートにとどまらない「顧客体験」を考えるという意味を込めて、Peatixではこのチームを「カスタマーエクスペリエンスチーム(以下CXEPチーム)」と呼んでいます。
サポートセンター内製化へのチャレンジ
お客様からのお問い合わせには、最初はカスタマーサポート未経験の岩井がひたすら対応してきましたが、手が回らなくなり、2014からお問い合わせの一次対応は外部パートナーの方にお願いしています。
Peatixのサポートは手厚いと評価いただいているのですが、どうしても外部パートナーの方は、人の入れ替わりなどで知識の定着が難しかったり、目まぐるしく変わるPeatixの仕様を深く理解して対応することが難しくなります。また、慎重に扱わなければいけない内部ツールへのアクセスが難しく、お客様の問題を解決するスピードと質に限界が生じてきたというのが正直なところです。
なので、2020年のチャレンジとして、カスタマーサポートを完全に内製化しようと考えています。Peatixスタッフが問い合わせの受け付け、原因調査、開発チームへの修正依頼、修正後の確認テストまでワンストップで担当することで、お客様の問題解決のスピードと質を改善して顧客満足度を上げることが狙いです。
1日1個のペースで機能改善!お客さまの声を集める3つの方法
浦壁:Peatixのお客様にはイベントの参加者と主催者の二者がいて、それらのお客様からの問い合わせやリクエストを「VOC(Voice of Customer お客様の声)」と呼んでいます。
VOCの主なものは、不具合報告や使い方がわからないという「問題」と、こうしてほしいという「改善要望」です。改善要望にはこうして欲しいというアプローチのヒントがありますが、問題にはそれがない。何が原因で問題が起きているのかという情報はないので、サービスのどこに問題があるか、仮説を立てて改善することが求められます。
岩井:VOCのあつめ方も意識しています。問い合わせ窓口の運営はもちろん、利用者へのオンラインアンケートも活用しています。ただしお客様から能動的に集まる声はごく少ないはずなので、我々が声を拾いにいくことも大切です。
藤田:Peatixには「コミュニティマネージャー」という役割のスタッフが数名いて、実際にコミュニティやイベントのサポートに行きます。そして現場で違和感や不便なところを見つけていく。問い合わせ窓口に寄せられる改善要望の声は多くないので、コミュニティマネージャーが現場で代弁してくれる声は重要なソースです。
浦壁:それらのVOCを受けて、今年は修正や改善をWebで200件、アプリで200件、合わせて400件行いました。月次に換算すると30強、単純計算で1日1個になるので、数もスピードもかなりのものだと思います。
いつも喧嘩寸前!幅広いVOCの優先順位の付け方
原田:改善案の順位づけはいつも喧嘩寸前です(笑)。不便を解消する守りの部分と、会社の経営戦略片方に寄りすぎるとビジネスはうまく回らなくなる。そのバランスを意識して優先順位をつけることが大事だと思います。
ただ、基本的な判断基準として「お客様全体の10%以上にプラスの効果がある」という基準をクリアしないと最優先案件にはならないという考え方を設けています。
浦壁:全体戦略と優先順位決めの基準があり、全社員が納得できることが大切です。社内からの要望も多数あるので、「ユーザーへのインパクト」、「売上へのインパクト」、「問い合わせ数へのインパクト」、大きくこれら3つの軸で基準を設けています。
原田:もうひとつ重視しているのは、グローバルな最大公約数を追い求めることです。時にスタッフが地域の独自性を強調してリクエストをあげてきます。もちろんそれも重要だけれど、グローバルに展開する以上、「世界中どこでも同じような問題点がある」という仮定の上で考える必要があると思います。
Amazonのジェフ・ベゾスは、「世界中どこを探しても、商品の値段を上げてくれ、品揃えを少なくしてくれというお客様はいない」と言っていた。Peatixも同じように、あまり独特なものに着目するより最大公約数を追っていこうと思うし、その方がグローバル展開がしやすいと考えています。
ちなみにこれは正解・不正解ではなくて、個々のニーズに対応していくビジネスの作り方もあると思います。ただPeatixは、セルフサービスで自然に利用者が増大していくプラットフォームを目指しているので、そういう判断になるんです。
現在の主流を捨て、一歩先の世界に適した機能を。未来を読む開発
藤田:お客様のニーズや問題提起ありきでプロダクトを作っていくと、お客様に合わせたものになりますが、一歩先の未来を読んで開発することもありますよね。
原田:あります。これは難しくて、たいてい現場の大反対に遭う(笑)。でもやはりお客様が抱える問題や、今後の未来予測を徹底的に行い、今見えているニーズを超えたより良い提案を考えるというのが正しいと思っています。
原田:例えばチケットをアプリで配布する判断をした時のこと。Peatixのチケットは、最初は購入完了メールにPDFで添付していたんです。海外でもこれが主流だった。でも日本では当時まだガラケーが主流で、メールが届かなかったり、PDFが添付されず問題になって。
そこで「もうメールでチケットを送るのをやめて、アプリをチケットにしよう」と決めたんです。アプリの方が確実にチケットを送れるし、インストールしてもらえれば色々コミュニケーションを取れるし、他のイベントも案内できると。一石二鳥三鳥、多くの問題を解決できる糸口になると考えたんです。
当時はまだスマホの普及率が50%くらいの時代だったけれど、これは必ず100%になると未来を読んだ。提供していた機能をなくすのは怖かったし、思い切った決断だったけれど、それを早くやったからこそ、この5年間アプリを改善してここまでこれたと思っています。
世界一問い合わせ率の低いサービスへ
藤田:カスタマーエクスペリエンスにおけるKPI設定はどんな感じでしょうか。
浦壁:CXEPチームが追っているKPIのひとつは「CPO(Contact per Order)で、これはチケットの申し込みごとにどれくらい問い合わせがくるかという割合を示しています。
先ほどのPDFチケットの頃の2012年はCPOが8.5%なので、100件の注文に対して10件弱の問い合わせがあったと。チケットをPDFからアプリにしたことで翌年には3.3%まで劇的にCPOが下がり、その後もなだらかな改善を続け、今年CPOが1%になりました。
細かい導線を見直したり、画面上でガイドを表示したり、ヘルプのコンテンツを分かりやすくしたり……。小さな細かい改善を重ねてようやくここまで来ました。2%から1%の改善はわずか1ポイントですが、月に15万件ほどのチケットの注文が入るので、CPOを1ポイント改善すると、月に1,500件、1日50件の問い合わせ削減になるんです。
岩井:Peatixを始めた当初、Amazonの話などを聞いて、正直どんなに頑張ってもCPO 2%は切れないかと思ってたんです。でも 1%まで来れた。まだ改善のネタはたくさんあるので、もっとCPOを下げることはできると思っています。「世界一CPOが低いサービス」を目指したいですね。
<後編では、実際の改善の事例の紹介と、Q&Aでお話ししたCXの改善と事業の成長の関係や、PeatixのUX戦略についてレポートします。>