2016年春。懲りずにまた新しいスタートアップを創業しようと考えていた。そこで、同じ時期にスタートアップを立ち上げようとしていた柴田陽さんと、渋谷に家賃10万円のボロアパートを借りることにした。マッキンゼー出身の天才起業家と机を向き合わせていれば、いい事業プランも浮かぶことだろう。何も決まってないが、法人も登記した。ひとしきり社名を思い悩んだが、いい案は浮かばない。何の事業をやるのか決まってないのだから当然である。そこでいい加減に「Onion」と名付けた。夕食でオニオンサラダを食べていたからである(二度と会社名を悩みたくないので、今後は僕が作る会社は全て野菜の名前にするつもりだ)。そんな調子でOnionはスタートした。
渋谷のボロアパートにこもりながら、どんなサービスを作ろうか?どんな会社にしようか?と本腰を入れて考え始めた。やるからには大きく成功させたい。蓋然性が高く、数年のうちに浮き上がり、そして10年スパンで大きく膨れ上がるテーマが必要だ。まだ潜っている何かを浮き上がらせ顕在化させるのが創業であるとしたら、鯛を釣り上げなければ、その後の数年が徒労に終わる。あれやこれや調べたり、試行錯誤を繰り返し、結局、Onionのミッションと事業領域を決めるのに、そこから1年以上にわたり考え続けた。
蓋然性
2014年から2年弱、KDDIの子会社社長を務めた。いろいろなことを学んだが、KDDIでは常に蓋然性の高い事業計画が求められ、そしてそれが稲盛経営の根幹であると叩き込まれた。そこで次にやる事業もまず第一に蓋然性の高さを重視することにした。蓋然性が高ければ、ある一定の規模まで膨らんだ際に大きな資金を引き寄せやすく、そうなれば自然と大きな事業に膨らんでいくと感じることができた。蓋然性が高い事業計画には、蓋然性が高いビジネスモデルが必要だ。考えるまでもなく、通信キャリアのビジネスモデルであるサブスクリプションモデルが浮かんだ。日本国民の3人に1人から、毎月5,000円を徴収するまで積み上がったサブスクリプションビジネスの強さを、来る日も来る日もまざまざと見せつけられていたのだ。そして、サブスクリプションモデルのサービスを、法人向けに提供すれば、より手堅いビジネスモデルになるだろう。そんなことを考えていた。
社会トレンド ✕ 技術トレンド
トレンドには2種類あると考えている。「社会的なトレンド」と「技術的なトレンド」である。ちょうど需要と供給のように捉えていて、両者が重なり合う領域が新規事業のチャンスだ。
避けることができない大きなうねりとなる「社会トレンド」がいい。確定した未来から逆算してビジネスを作れたら、勝率はグッと高まる。ある日、ゴールドマンに勤める悪友と飲んでいたら「最も正確で誤差がほとんどないマクロ指標は、唯一、死者数あるいは人口動態だ」と教えてくれた。そこで「人口動態に連動する何か」を探そうと考え、いろいろと調べてみることにした。葬儀屋を調べてみたり、死者の手前は病人なのでヘルスケアを調べてみたり(自分自身も28歳から糖尿病なので、糖尿病関連は今でも強い関心がある)と、あれやこれやと調べているうちに、このまま人口減少が続くと「2030年には労働人口が大きく減少し、日本は深刻な労働力不足問題に直面する」ことが分かった。「労働市場」の定義は今でもよく分かってないが、葬儀市場よりも医療市場よりも大きなものに違いない。葬儀も医療も労働の一部だし、「労働」すなわち「仕事」とは「お金を生み出す行為そのもの」だからである。
2011年前後の「技術トレンド」は「スマートフォンの普及」に尽きたが、2016年になると魔法のような新しいテクノロジーがたくさん芽吹き始めていた。AIやIoT、VR/AR、ブロックチェーン...など多くのテーマがあった。そして、いずれそれらは全て重なり合い、2040年にはシンギュラリティが起きるというのだ。ワクワクはするが、一方で選択肢が多くて困惑した。それぞれについてエンジニアから教えてもらったり、あれこれ調べているうち「今後10〜20年で総雇用者の約47%の仕事が自動化される可能性が高い」という論文が話題になっていたのを思い出した。ロボティクスでなくても、アルゴリズムやシステムにより自動化できる仕事はたくさんあるだろうし、機械学習や強化学習、深層学習などが要求される高度なアルゴリズムでなくても、ルールベースによるプログラムで解決できる余地もまだ大きかろう。
自分自身、相当なめんどくさがり屋だ。朝起きてから寝る瞬間まで、あらゆることがめんどくさく、四六時中、不平不満や文句を言っている。あらゆるめんどうなことを、システムやアルゴリズムにぶん投げられるようになれば多少は文句も減るだろうし、これだけ文句を言えるのだから、そのようなシステムやアルゴリズムを作る才能があるかもしれぬ。今のうちにルールベースのプログラムからスタートしてデータを収集しておけば、10年後にはもっと複雑でめんどうなことを処理できるアルゴリズムが作れるかもしれない。そうなれば、10年後に大きく不足する労働力の補完となるし、逆にそのようなシステムやアルゴリズムがないと、人手不足で現場が回らない時代になるはずだ。
このようなことを考えて、Onionのミッションを「あらゆる雑務を技術の力で自動化する」ことに定めた。
めんどくさいこと探し
さて、まずはどの雑務をやっつけよう?
めんどうなことを手当たり次第に書き出してみたり、アルバイト雑誌を眺めたり、クラウドソーシングのタスクを眺めたりして、早速いくつかのアイディアの検討に着手した。しかし検討すればするほど、どのアイディアであっても、必ず法人営業をどうするべきか?という課題にぶつかることになった。どんな内容であれど、雑務自動化サービスの顧客は法人なので、法人営業が必要となるのである。そんなことを考えているうちに、法人営業そのものがめんどくさかったことを思い出した。アトランティスの創業期、まだ学生だった僕自身が、朝から晩まで1人で電話して初期顧客を開拓していたので、法人営業がめんどくさいことを身をもって知っていたのだ。それから10年が経過して30歳もすぎ、また朝から晩まで電話するのは、さすがに心底めんどくさい。本当に心の底から。
世の中、自動化すべきめんどうなことが無数にあるから雑務自動化事業をやろうと言うのに、その雑務自動化事業をやるには、法人営業というめんどうな仕事を避けて通れない。ちょうどいいではないか。そこでまず「雑務自動化事業をやるにあたってのめんどうなこと」である法人営業を自動化するサービスからスタートすることにした。
めんどくさいこと撲滅カンパニーへ
このような経緯から、現在のOnionでは「APOLLO SALES」というセールスオートメーションサービスをβ版で開発・運営しているが、無論、セールス領域だけが我々の事業領域ではない。めんどうなことは無限にあるし、今後の技術革新により、システムやアルゴリズムが処理できるようになるめんどうなことはどんどん増えてくる。セールス領域にとどまらず、めんどくさいこと全てがOnionの事業領域であるから、今後はセールス領域以外でもめんどうなことを自動化するサービスを次々と作っていきたいと考えている。
また、とにかく世の中にはめんどくさいことが多いので、Onionだけでその全てを自動化できるはずがない。したがって、必ずしも自分たちで作ったサービスでなくても、他社のいいサービスがあればどんどん売って、世の中のめんどくさいことをより多く撲滅したいとも考えている。
会社が大きくなるなり、資本の受け皿となるなりで資金を確保したら、他社を出資・買収することでもサービスのラインナップを増やしていきたい。複数のサービス/事業ポートフォリオを抱える企業体を作っていくことを目指している。そうやって、この世界にあるめんどうな仕事をどんどん自動化していきたい。
Onionは、自分たちで自らサービスも作るし、他社のサービスも担いで売る。また出資・買収も積極的に行なう。したがって、我々は単なるセールス領域のソフトウェアサービスの開発会社ではなく、法人向けソフトウェアサービスの総合商社であると自らを標榜している。
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・細かい制度やルールが少ないため、結果さえ出せれば、自由で柔軟なワークスタイル
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