パソコンの画面に向かって、日本語で話しかける。それだけで、目の前に一つのアプリケーションが形になっていく。
2025年11月、私たちミックウェアのメンバーは、関西電力グループの一員として社会のインフラを支え続けてきた「きんでん」の本社を訪れていた。
そこで紹介したのは、私たちが社内で磨き続けてきた「AI駆動開発」というひとつの技術だった。
総合設備エンジニアリング企業のプロフェッショナルたちを前に、デモンストレーションが始まる。
「テキストを打つだけでアプリができるなんて……」
会議室に漂っていたそんな半信半疑の空気が、少しずつ変わっていくのがわかった。
何もないところから、ひとつの仕組みが生まれていく。それを見つめる、きんでん社員たちの表情。
私たちがこれまで積み上げてきた技術が、異なる業界で働く人たちの目の前で、新しい未来への扉を開いた瞬間だった。
「自分たちにも、こんな未来を描けるかもしれない」
そんな空気が、その場にいるきんでんメンバーの中に、確かに生まれていた。
この日を境に、きんでんとミックウェアの間で「AI駆動開発ワークショップ」の構想が動き出す。
今回は、きんでんの専務・堀切氏と、ミックウェア ナビゲーションズ代表取締役社長代行・内藤の対談から、この挑戦の裏側と、2社が本気で見ている未来をお届けする。
この2社、何者?
■ 株式会社きんでん
関西電力グループに属する国内トップクラスの総合設備エンジニアリング企業。電気、空調・衛生、情報通信などの設備エンジニアリングを手がけ、社会の「当たり前」を陰から支えてきた会社。品質へのこだわりは筋金入り。ただ、工事だけに頼らない新しい事業の柱をどう育てるかが、今まさに向き合っている課題だった。
■ 株式会社ミックウェア
カーナビや車載ソフト、位置情報サービスを手がけてきたソフトウェア開発会社。「Be there Be now」というビジョンのもと、ソフトウェアの力で人を外の世界へ連れ出すことに挑戦。社内でも、AIを使った新しい開発手法の探求に日々向き合っている。
2社は2025年に資本業務提携を締結。そこから始まった共創ディスカッションの中で生まれたのが、今回のワークショップだ。
ワークショップの内容とは?
一言でいうと……
「こんな仕組みがあったらいいな」を、話しかけるだけでAIに形にしてもらう。
プログラミングの知識がなくても、自分の言葉でAIと対話するとそのやり取りを通じて少しずつアプリが形になっていく。ただ任せるだけではなく、何を作りたいかを考え、AIに伝え、試して、また直す。これが「AI駆動開発」の活用の形だ。ミックウェアの講師が、きんでんの社員数名にこのノウハウを伝えるところから、ワークショップは始まった。
まずは自由に会話しながら形にしていく体験からスタートし、慣れてきたところで、作りたいものの仕様をしっかり固めてから作るという、より実践的なステップにも挑戦してもらった。
練習として小さなアプリをいくつか作ったあと、参加者たちが最終的に挑んだのは、「自分が本当に欲しかったもの」を形にすることだった。たとえばあるメンバーは、日々の電力データをもとにした「建物のエネルギー見える化システム」の開発に取り組んだ。
面白いのは、作りながら新しい気づきが生まれていったことだ。きんでんの堀切氏はこんなエピソードを教えてくれた。
「当社ではEMS-AIというエネルギー・マネジメント・サービス事業を行っていて、電力のデータをグラフにする作業は、これまでも普通にやっていたんです。でも実際にAIと一緒に手を動かしてみると、『あ、このデータも入れておいた方がいいよね』『本当はこういうレポートが必要だったんだ』と、作りながらどんどん気づきが生まれてくる。最初から課題が全部見えていたわけじゃなくて、やってみて、気づいて、直して……その繰り返しが、参加者の熱量をどんどん上げていったと思います」
もうひとつ、私たちにとっても嬉しい発見があった。参加者の意識の変化だ。
最初は「AIは作業を代わりにやってくれる便利な道具」と捉えていた参加者たちが、途中から「わからないことがあれば、AIに聞いてもいい」「専門用語がわからなければ、AIに説明してもらえばいい」ということに気づいていく。AIは単なる作業者ではなく、一緒に考えてくれる相棒にもなれる。その発見をきっかけに、参加者たちのAIとの向き合い方は大きく広がっていった。
参加したきんでん社員のひとりは、こう振り返っている。
「AI駆動開発の可能性を感じる一方で、指示の出し方が非常に重要だということも実感しました。最終的には人の判断が不可欠です」
最先端技術の面白さと、それをうまく扱う難しさ。その両方を、全員が自分の手で確かめたワークショップだった。
対談:それぞれの想いから見えてきた、未来のかたち
── 今回のワークショップ開催、そもそも何がきっかけだったんですか?
きんでん堀切氏:当社は工事を中心に事業基盤を持つ会社なんですけど、これからもっと成長していくためには、工事以外の新しいことにも挑戦していかないといけない。そういう話は、社内でずっとあったんです。でも、アイデアを思いついても、それをちゃんとした言葉や形にして人に伝えるのが、すごく難しくて。
ミックウェア内藤:よくある課題ですよね。
きんでん堀切氏:そうなんです。図で説明しようとしても、結局「で、何ができるの?」となってしまう。当社では、自分たちの手でソフトウェアを作ることは今までしてきていないので、外部の専門会社にお願いすることになるんですけど、今度はそこにうまく伝えるのが難しい。だったら、自分たちの言葉で、自分たちのイメージをそのまま見せられたほうが早いんじゃないかって。それが、きっかけでしたね。
── 「作る側」から「伴走者」になる。ミックウェアにとっては、大きな転換だったのでは?
ミックウェア内藤:まさにそうなんです。私たちはこれまで、お客様の困りごとを直接聞いて、自分たちの手で作り上げるのが仕事でした。でも今回は、AIを間に挟むことで、きんでんさんご自身がものづくりをする側に回る。そこに私たちが伴走する。正直、ワクワクと同時に、かなりの緊張感がありました。今までとまったく違う役割だったので。
── 2社が手を取り合うことを決めた瞬間、お互いどう見えていましたか?
きんでん堀切氏:ミックウェアさんは、ずっとソフトウェア開発一筋でやってこられた会社。当社も今まで色んなソフトウェア会社さんとお付き合いしてきましたけど、正直、ミックウェアさんのような位置情報やモビリティの世界って、きんでんからすると完全に「雲の上」なんですよ。手が届かない、触ったこともない領域。
でも、だからこそ「ここと組んだら、きんでんも全然違うところに飛び抜けられるんじゃないか」とワクワクしたんです。期待感というか、夢というか。
ミックウェア内藤:私たちも同じでした。ソフトウェア開発って、初めて聞く考え方がたくさん必要になるので、正直、途中でつまずく場面もあるのではないかと、少し不安もあったんです。でも、皆さん本当に理解も習得も早くて、逆にこちらが驚かされました。
── ワークショップが始まってからの反応、印象的だったエピソードはありますか?
きんでん堀切氏:一番印象的だったのは、これまでプログラムなんて一行も書いたことのない社員が、自分の言葉でAIに「こんなものが欲しい」と伝えた瞬間です。その場で、目の前に業務アプリの形が立ち上がっていく。それを見た瞬間、「ソフトウェアって、誰かに作ってもらうものだと思っていたけど、自分たちの手で変えていけるものなんだ!」と、全員が強く実感したんです。
現場の空気が、一気に変わりました。
実際にワークショップに行った社員は、「すごい!すごい!」と目を輝かせて帰ってくるんです。それをまた別の部署に話して。参加者はもう、目からうろこというか、自分の中に新しい世界が広がったことを、自分の言葉で語れるようになって帰ってきましたね。
── なぜ、これほど熱量高く取り組みを続けられたんでしょうか?
ミックウェア内藤:一番大きいのは、皆さんの柔軟性だと思っています。今まで馴染みのなかったことを、まっさらな気持ちで純粋に受け入れる力。もうひとつは、日頃から「ここさえもう少しうまくできれば良くなるのに」という、課題に気づく力です。
AI駆動開発って、頭の中にある課題を目に見える形にしてくれる技術なんです。だから、そもそも課題に気づく力がないと、何を作ればいいのかという言葉にたどり着けない。そこの土台を、きんでんの皆さんはすでにしっかりとお持ちなんだなというのを、今回の取り組みで強く感じました。
── AIに任せられる部分が増えていくなかで、「ここは人がやる」という一線はどこにありますか?
きんでん堀切氏:きんでんが最終的に届けているのは、電気、空調・衛生、情報通信設備なんです。もし不具合が起きたら、お客様の事業そのものを止めてしまう。だから、AIを使って効率もクリエイティビティも上がるのはいいことなんですけど、「これは本当にお客様の役に立つのか」を最後に確認して、自信を持ってお渡しする。ここは、当たり前の話ですけど、人がやることだと思っています。
ミックウェア内藤:そこはすごく共感します。理想の共創の形として考えているのは、まずきんでんさんだけで、実際に試しに使ってみて効果を確かめていただくこと。「これは業務改善につながる」という手応えを、自分たちの手でまずつかんでもらう。そのうえで、世の中に出しても大丈夫かどうか、安全性や運用面などで、私たちが一緒に確認していく。そのように役割分担ができれば、最高のチームワークが生まれると思っています。
── いよいよ本題です。この2社だからこそ描ける未来を教えてください。
きんでん堀切氏:建設業界って、正直、他の業界に比べてデジタル化がかなり遅れているんです。少子高齢化で担い手も足りない。ここをどうにかしないと、生産性も上がらない。
私が期待しているのは、ミックウェアさんが持っている、映像からいろんな情報を読み取る技術です。現場を撮影した映像をAIで解析する。今はまだ「現地に行かないとわからない」ことが多いけど、これができるようになったら、建設業界の景色は一気に変わりますよ。
ミックウェア内藤:私たちからすると、逆の景色が見えています。位置情報やモビリティのノウハウはずっと積み上げてきたんですけど、正直「その先」に行けなかったんです。その建物でどんな事業が営まれているか、どんな人がどう暮らしているか……そういう、人の営みに近づく術がなかった。
そこを知り尽くしているのが、社会のインフラを支え続けてきたきんでんさんなんですよね。きんでんさんの「人の営みへの理解」と、私たちの「位置情報という技術」。この掛け算ができたら、今まで誰も見たことのない景色が生まれると思っています。
きんでん堀切氏:そこの広がり方とスピードは、もう計り知れないと思ってますよ。本当に楽しみで仕方ない。
── 最後に、それぞれの「覚悟」を聞かせてください。
きんでん堀切氏:きんでんの企業理念には「優れた設備とサービスを創造し…」という言葉があるんですけど、この「創造」というのは、思い描くだけじゃなくて、自分たちの手で新しいものを生み出すという意味なんです。つまり、工事に加え、サービスそのものを自分たちの手で生み出していく。正直、当社が苦手にしてきた領域です。
でも、これからは違います。AIの力を使って生産性を上げたり、新しいビジネスモデルをつくったり、社会のインフラに関わるデータのプラットフォームをつくったり。そういうことに、ミックウェアさんとの共創を通じて本気で踏み出していく。それが実現すれば、自分たちの働き方が変わるだけじゃなくて、今までできなかったことがどんどんできるようになって、社会の暮らしそのものが変わっていくと思うんです。そこまで見据えるのが、今のきんでんの覚悟ですね。
ミックウェア内藤:私たちは、これからソフトウェアがどんどん「誰でも作れるもの」になっていくと思っています。AIによって開発のハードルがどんどん下がっていく時代に、私たちプロフェッショナルに何ができるか。
それは、誰もが使えるようになった技術で、皆さんが本当に実現したいことを形にできるまで、専門家として本気で向き合い続けることだと思っています。「作る側」だった私たちが、皆さんの想いを一緒に形にする側になる。そこに、私たちの覚悟があります。
おわりに
社会のインフラを、確かな品質で支え続けてきたきんでん。
ソフトウェアの力で、人を外の世界へ連れ出し続けてきた私たちミックウェア。
まったく違う歴史を歩んできた2社が、AIという新しい技術をきっかけに出会い、それぞれの役割をアップデートしながら、一緒に新しい未来をつくろうとしている。
このワークショップで生まれた驚きや感動。それこそが、私たちを次の挑戦へと駆り立てていくエネルギーとなる。
物語は、まだ始まったばかりだ。
【参考情報】
今回実施した「AI駆動開発ワークショップ」の詳細な内容や、ミックウェアが提供している「AI活用サービス開発」「AI駆動開発導入支援」については、以下のページでご紹介しています。
対談の中で取り上げられた株式会社きんでんのEMS-AI(エネルギー・マネジメント・サービス)については、以下のページで紹介しています。
https://www.kinden.co.jp/solution/denki_13/