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Product-Led Growthで突き進んだ5年間のリアル

AIテスト自動化プラットフォーム「MagicPod」を運営するMagicPod社。導入企業は500社を超え、2021年7月には3億円の資金調達を実施して採用強化中です。

当記事では、MagicPod公式noteより、サービス開始5周年を記念して代表の伊藤が書いた記事をご紹介します!(※記事原文へのリンクは、ページ下部にあります※)

こんにちは、MagicPod CEOの伊藤です。
MagicPodは、ソフトウェアのテスト(検証)作業をノーコードで自動化するクラウドサービスで、Webサイトとモバイルアプリのテストに対応しています。

先日MagicPodをローンチしてから、5周年を迎えました。
5年も経っていまだにセールスの専任メンバーがいない状況ですが、口コミに助けられながらユーザーはどんどん増え、こないだ見たら月次の売上高は2年で10倍になっていました。

一見順調そうに聞こえますが、ここまで来るのは本当に大変でした。その理由は、僕たちの取ってきた「Product-Led Growth」(PLG)という戦略にあります。

今日は、この機会にMagicPodのこれまでを振り返りながら、日本でPLGを実践するとどんなことが起こるかという実体験をお話ししたいと思います。

「テスト自動化」との出会い

少し僕自身の話をすると、起業する前は新卒で入社したワークスアプリケーションズという会社で4年ほど働いていました。

ワークスに入った理由ですが、ぶっちゃけて言うと就活があまりうまくいかず、他に行きたい会社の内定がなかったからです。
なので会社への愛着とか理念への共感とかはあまりなく、社長に提出する週報には毎週会社のあれがダメだこれだダメだとひたすら文句を書いていました。今思うとイヤな社員ですね。。

あ、ちなみに名誉のために言っておくと、仕事ができなかったとか周囲にネガティブな影響を与えていたとかではなく、3000人くらいの社員の中から年間3人しか選ばれない社長賞(Most Breakthrough Member)を受賞したりと、むしろ卓越した成果を出し、会社の理念である「クリティカルワーカー」を体現したような人材だったと思います。

MagicPodで取り組んでいる「テスト自動化」の技術に出会ったのもこの時で、社内で製品の品質が問題になっているのを見て、「これは何とかせねば!」と思い、社内向けにゼロから自動テストツールを開発したのが最初です。

   自動テストツール開発のために読み込んでいた1冊。インサイドWindowsとかも熟読してました。

これもまた途中で何回も打ち切られそうになったりと非常に大変なプロジェクトだったのですが、何年もかけて最終的には社内の多くの人に使われるようになりました。

自分が生み出したソフトウェアが多くの人に使われて喜ばれるのは、とても嬉しく、誇らしいことでした。
もともといつかは起業したいと思っていたこともあり、今度は社内向けの技術ではなく、世界中の人に使われるようなテスト自動化のサービスを作ろうと思い、退職してMagicPod(当時の社名はTRIDENT)を立ち上げたのが全ての始まりです。

Product-Led Growth(PLG)とは

さて本題です。「Product-Led Growth」(PLG)とは何でしょう。

ものすごくざっくり言うと、営業力よりも製品力でビジネスを成長させましょうというのがPLGモデルです。この反対が「Sales-Led Growth」(SLG)で、つまり営業活動を軸に顧客を獲得していくモデルです。
PLGは比較的新しい概念で、ZoomやSlackなどのように、営業よりも製品自体の良さでどんどん製品が広まっていくようなモデルを指します。

【解説】SaaSの新戦略。Product-Led Growthの全貌より引用

PLGについては日本にはまだまだ参考となる事例が少ないですが、UB Ventures高野さんの記事Spir大山さんの記事が参考になると思います。

最高のソフトウェアを作るならPLGだ

きっと多くのエンジニア起業家がそうであるように、僕は起業したからには最高のソフトウェアを作りたいと思いました。

僕のいたERPパッケージ業界は、

  • 客単価が大きく受注には緻密な営業が必要
  • 導入時には一大プロジェクトが必要になり、事前の無料トライアルは困難
  • 他社製品への乗り換えコストは著しく高いので、一度販売してしまえば機能の使い勝手や品質が悪くてもなかなか乗り換えられない

という典型的なSLGの業界でした。

このような業界では営業力こそが成長の鍵となり、そちらにかなりのエネルギーを割くことになります。「サービスの質が悪ければ即解約」といったプレッシャーもありません。

「このビジネス構造では最高のソフトウェアを生み出せない」と僕はずっと思っていました。
MagicPodの開発を始めた2016年にはPLGという言葉はまだありませんでしたが、最高のソフトウェアを生み出すために、営業力ではなく製品力で勝負するビジネスをするのだと、強く思っていました。

それがどんなにヤバいことか、その時僕はまだよく分かっていなかったのです。

日本でPLGを実践するとどうなるか

MagicPodのプロトタイプ版が出来上がったので、ウェブ上で先行利用したいユーザーを募ったところ、驚いたことに数日で100社近くからリクエストが集まりました。

        当時のプロトタイプ版。現在のUIの原型が既にできあがっていました。

「これはいける!」と思いました。
早速「無料版でユーザーがどんどん集まって口コミを起点に世界中で爆発的に広まります!」みたいなビジネスプランを書いて、資金調達のためにベンチャーキャピタル(VC)を回りました。

しかし、結果は散々でした。

実は2022年現在でも、日本のSaaS業界はほぼ全てのサービスが国内主体のSLGモデルです。
僕の作ったビジネスプランのクオリティが低すぎたというのもありますが、そもそも日本にはPLGモデルでの成功事例もグローバルでのソフトウェア企業の成功事例も皆無で、そんな不確実なものには誰も投資してくれなかったのです。

「日本に成功事例がないから投資できない」みたいなことも言われました。遠回しにSLGモデルにしろと教えてくれているのですが、その時の僕は「リスクを取って新たな産業を作るはずのVCが、前例主義かよ!」と心底思いました。

       当時のピッチ資料。今見返したら、中身薄すぎて悲しくなりました。。

30社くらいVCを回りましたが、誰も投資してくれません。
大人しくSLGモデルに転換すればいいのですが、それでは最高のソフトウェアで勝負するビジネス構造にならないし、自分の強みの技術力で競争できないし、何よりグローバルで成功することは難しくなります。

VCが投資してくれないなら、投資してくれるようになるまでプロダクトを磨き続ければいい。僕はそう思いました。
MagicPodの一番初期からフリーランスで開発に協力してくれていた小嶋さんもバリバリのエンジニアなので、幸か不幸かその考えを支持してくれます。

こうして僕たちは、プロトタイプ版 -> アルファ版 -> ベータ版と、少しずつ開発を進めていきました。

資金調達はフェーズが進んでも進んでも苦戦続きでキャッシュはかなり危険な状態でしたが、途中インキュベイトファンドの赤浦さんだけが奇跡的に1000万円出資してくれ、なんとか開発を続けることができました。
赤浦さんがあの時出資してくれなければ、今頃MagicPodは存在しなかったと思います。本当に感謝しても感謝しきれません。

ちなみにプロダクトについては、最初に選んだモバイルアプリテストの自動化の技術難易度がかなり高く、これも開発とユーザー獲得に時間がかかった理由です。
普通なら余裕でピボットしているレベルですが、テスト自動化という領域へのこだわりと、「絶対にニーズも市場もあるはず」という強い思いが当時の自分を支えていました。

死の谷を抜けついに成長フェーズへ

現状を変える特効薬は見つからず、結局僕たちはひたすらトライアルユーザーの声を聞きながら地道に開発を進めました
幸いにもエンジニアは非常に優秀なメンバーが何人もジョインしてくれ、CEOの私もほぼフルタイムで開発に関わり続けました。

本格的に開発を始めてから2年ほど立った頃でしょうか。
従来は一部インストール型だったのをクラウド完結型にしたあたりから、「MagicPodいいね!」と言ってもらえることが格段に増え、少しずつ有料プランを契約してもらえるようになりました。

ある日突然何かが爆発したというわけではなく、本当に少しずつペースが上がってきたという印象で、ものすごい高揚感があったわけではありません(僕自身が淡々とした性格だからというのもありますが)。
なので、今になって自社の成長をグラフにしてみると、「いったいいつの間にこんなに伸びたのか」という、なんだか不思議な気持ちです。

今やMagicPodは多くのユーザーに愛されるようになり、謙遜しがちな弊社テックリードの玉川にすらテスト自動化のスタンダードな選択肢と言ってもらえるようになりました。

自分としてはまだまだこれからという気持ちですが、それでもここまで来れたのは、諦めずMagicPodに情熱を傾け続けてくれたメンバーと、日々支えてくださるVCの皆さん、そしてMagicPodを選んでくれた多くのユーザーさんのおかげで、とても感謝しています。
最近はコミュニティ運営に力を入れ始めたこともあり、多くのユーザーさんに支えられていることを日々実感しています。
MagicPodを選んでくれたユーザーさんの期待に応えられるよう、さらにペースを上げてMagicPodを進化させていこうと思います。

PLGだから世界で戦える

日本国内でPLGモデルでビジネスを軌道に乗せるのは本当に大変でした。
(当時のテスト自動化市場の未成熟さ、現在と異なる資金調達環境、ビジネスプランのしょぼさなど、PLG以外にも要因はありますが。。)
正直あまりお薦めはできません。

しかし、かたくなにPLGモデルに執着し続けたおかげで良いこともあります。それは、グローバル展開の容易さです。

SLGモデルのサービスの場合、日本企業がグローバルの強力な営業部隊を作りあげて顧客を獲得していくのは非常に大変です。また、国内の顧客に最適化されてしまったセールスプロセスも、海外展開を難しくします。
しかし、PLGモデルであれば、海外展開のハードルはSLGモデルと比べてずっと低くなります。

MagicPodの次の舞台はこのグローバル市場です。

グローバル市場のどこを攻めるか

今年の5月から日英バイリンガルのクナールさん(Kunal Sethi)が海外事業部門のトップとして加わり、7月から本格的に海外向けのマーケティングをやっていきます。
プロダクト主導での成長モデルは、海外展開のタイミングでこそもっとも効果を発揮するはずです。

            クナールさん。普段はもっと陽気な感じです。

テスト自動化の習慣は海外では国内以上に浸透しており、MagicPodが取り組むクラウド型のサービスの分野でも多くのプレイヤーがいます。
一見すると参入は大変そうにも見えますが、詳しく分析してみると実は違います。

次の図は、グローバルの主要なテスト自動化クラウドサービスのプレイヤーを、

  • コーディング(プログラミング)が必要 vs コーディングが不要(ノーコード)
  • モバイルアプリテスト自動化 vs ウェブテスト自動化

の軸で分類したものです。

         グローバルのテスト自動化クラウドサービスの主なプレイヤー

こうしてみると、モバイルアプリ x コーディングが不要の領域だけ妙にプレイヤーが少ないことがわかります。実際のところ、数だけでなくプレイヤーの規模もそれほど大きくはありません。

「プログラムを書いてモバイルアプリのテストを自動化する需要」「プログラムを書かずにウェブサイトのテストを自動化する需要」はあるのに、「プログラムを書かずにモバイルアプリのテストを自動化する需要」は無いのでしょうか?
僕はそうは思いません。
モバイル固有の多様な操作を自動記録することの難しさや、iOS/Android自体の不安定さといった要因が、多くのプレイヤーの参入を阻んでいると、僕は考えています。

図らずもノーコードモバイルアプリテストはMagicPodの最高の得意分野で、国内では既にたくさんの利用実績も積み上がっています。
グローバルではまずここを狙っていきます。
グローバル規模のマーケットにこのような真空地帯があって、日本のスタートアップがそれを狙える位置にいるということは、他の分野を見ても非常に珍しいことだと思います。


                  MagicPodのグローバル版

勝算は十分にありますが、それが本当にどうなるかは、蓋を開けてみないと、僕にも、クナールさんにも、投資家にも分かりません。
ちょうどMagicPodを初めてリリースした時のような、期待と不安が入り混じった気持ちで、僕は今6年目を迎えています。
次の5年もまだまだスタートアップらしさを味わえそうです。

人材も引き続き積極採用中です。一緒に、日本のスタートアップの新たな歴史を作りましょう!

                                    ※当記事の原文はこちら

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