学生のときの建築は、ただただ楽しいものでした。
プランを考えて、壁の色を決めて、床材を選ぶ。締め切りが近づくたびに、友達と「時間足りない!」と言いながら課題を進めて、それでもなぜか楽しかった。
ずっと興味のあった建築を学んで、それが楽しくて、建築の道に進むのもごく自然なことでした。
クジラへの入社が決まったとき、まず感じたのは嬉しさでした。ずっとやりたかった建築の仕事がようやくできる。その実感は、本当に嬉しかったです。
でも、喜びが落ち着いてくると、別の感情が顔を出してきました。
建築が嫌いになったら、どうしよう。
「好きなことを仕事にした途端、それが嫌いになってしまった。」そんな話を耳にすることは、少なくありません。
もし本当にそうなったら、建築しか学んでこなかった自分には何ができるのだろう。嫌いになる予感があったわけではありません。ただ、“好き”が自分の中心にあったからこそ、それを失うことが怖かったのです。
実際に働き始めると、“好き”という気持ちだけでやっていけるほど、仕事は甘くありませんでした。
学生時代は、地域の課題やお客様の要望に対して、どんな空間をつくれば解決できるのかを考える課題が多くありました。だから入社したばかりの頃の私は、つい「お客様にとって何が良いか」「どんな提案なら喜んでもらえるか」に意識が向きすぎていました。
もちろん、それは設計においてとても大切なことです。でも、実務となると、それだけでは足りませんでした。初めて自分で案件を担当したのは、入社して2ヶ月が経った頃です。
お客様の要望や予算に合ったプランを考えながら、電気設備・給排水・細かな納まりまで含めて、実際に施工できる形かどうかを検証していく必要がありました。学校で積み上げてきたものが、実務では思うように通用しない。それどころか、何が分からないのかも分からない状態でした。
図面を持って先輩に壁打ちに行くたびに、
「これ、どうやって施工するの?」「この部分も考える必要があるよ」
と指摘をもらい、考えなければいけないことの多さに気付かされました。お客様の要望に応えることばかりを考えていて、施工面や予算面まで考えきれていなかったのです。
クジラの設計では、お客様の要望をそのまま形にするだけではありません。
打ち合わせで聞いた言葉だけでなく、服装、趣味、住んでいる地域、生活の細かな習慣。そういった情報から要素を深掘りし、お客様自身もまだ言葉にできていない「本当に望んでいる暮らし」を引き出し、提案に変えていく。それがクジラの設計の核心なのだと、入社前のインターンや入社後の関わりの中で、何度も教えてもらいました。
最初は、自分なりに考え抜いた提案がお客様に刺さらないことも多くありました。そのたびに、自分の力不足を感じて悔しくなりました。お客様の前に立つと、1年目かどうかは関係ありません。プロのデザイナーとして、設計や提案を行う必要があります。先輩に壁打ちをするたび、お客様に提案をするたびに、自分の未熟さを知る。その繰り返しの中で、苦しい時期もありました。
しかし不思議なことに、建築を嫌いになることはありませんでした。むしろ、自分が思っていた以上に、この仕事は楽しいものでした。たくさん考えて、壁打ちをして、改善した提案がお客様に刺さる瞬間。施工中の現場で、自分が設計したものが少しずつ形になっていく過程を見るとき。完成した空間で、お客様が実際に暮らしている姿を目にするとき。
自分が考えたものが、お客様の毎日を大きく変えていく。その面白さと責任の重さは、学生課題では味わえなかったものでした。
不安は、今もあります。でもそれは、もう「建築が嫌いになるかもしれない」という不安ではありません。自分の提案や判断が、お客様のこれからの暮らしを左右する。その責任に対する不安です。3年目に突入した今では、ペットサロン兼住宅のように複数の使い勝手を同時に考える案件や、木造3階建てのように施工面で複雑な案件など、担当する案件の難易度も少しずつ上がっています。
その中で、自分の未熟さを感じることは今もあります。それでも、お客様に喜んでいただける瞬間も増えてきました。
これからも、お客様の人生に関わる仕事をしているという責任と向き合いながら、「この人に頼んでよかった」と思っていただける暮らしを届けていきたいです。