●「検索したけど、クリックしなかった」が68%に
2026年10月、日本経済新聞がこんなデータを報じました。
AI検索の普及によって、検索結果を見てもそのままクリックせずに終わる「ゼロクリック率」が68%に上昇しているというものです。(出典:日本経済新聞「AI検索普及、ゼロクリック率68%に上昇 揺らぐサイト集客」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC050C20V01C26A0000000/
以前は「検索する→結果を見る→気になるページをクリックする→読む」という流れでした。しかし今は、AIが検索結果の画面上で答えを要約して表示してくれるため、そもそもリンク先へ移動する必要がなくなっています。
つまり、どんなに検索でヒットしやすいページを作っても、クリックされないまま終わる可能性が高くなっています。
これは採用の現場にも、静かに影響を与え始めていると思っています。
●求人メディアの集客モデルが、揺らいでいる
従来の求人メディアは、「たくさんの求職者が検索してサイトを訪問し、掲載されている求人を見る」という流れで成立してきました。
企業は掲載料を払い、求人メディアが求職者を集める。そのビジネスモデルの前提には「検索→クリック→流入」という経路があります。
しかしゼロクリック率が上昇するということは、この経路が細くなっていくということです。
以前の記事「求職者の『応募断念』が見えない場所で起きている」でAIから提示されたネガティブな情報が原因で求職者が応募を断念していることを書きましたが、今回はその一段手前の話です。
参考:https://www.katawara.co.jp/blog/message0042
求人を見つける前の段階で、求職者の情報収集の行動そのものが変わっている。「検索して求人サイトへ行く」という経路だけを前提に採用設計をしていると、そもそも見つけてもらえない時代になりつつあります。
●ゼロクリック時代に何が起きているのか
AIによる検索では、「この会社はどんな会社か」「この仕事はどんな仕事か」という問いに対して、AIが情報を収集・要約して答えを表示します。求職者はその要約を読んで判断し、クリックせずに終わることがある。
この変化には二つの側面があります。
一つは、浅い訪問者が減る可能性です。「とりあえず検索してクリック」という人が来にくくなる。
もう一つは、流入してくる人の熱量が高い可能性です。AIの要約を読んでもなお「もっと詳しく知りたい」と思ってクリックしてくる人は、それだけ会社や仕事への関心が高い。
つまりゼロクリック時代は、「広く浅く人を集める場」から「意欲の高い求職者と企業が深くマッチングする場」への転換が起きているとも言えます。
採用で言えば、「たくさん応募を集める」より「本当に合う人が来る」設計の方が、これから重要性を増していくかもしれません。
●採用企業に何ができるのか
ここからが、採用コンサルとして経営者・採用担当者の方に伝えたいことです。
AIに検索結果を要約されてもなお、求職者に「この会社のことをもっと知りたい」と思わせるためには、何が必要でしょうか。
様々な方法があるので答えは一つではありませんが、「会社の名前を直接検索される存在になること」は大切な要素になると思います。
「岐阜 製造業 求人」ではなく「○○株式会社」と直接名前を検索される。「事務 パート 岐阜市」ではなく「○○さんの会社 採用」と指名で探される。
これを指名検索と言いますが、採用において指名検索が起きている会社は、AIによる検索行動の変化に左右されにくい。そして、指名検索される会社になるためには、「この会社のことを知っている人」を増やすことが必要になります。
求人票だけでは、知ってもらえません。AIが要約しても、会社の「らしさ」は伝わりにくい。だとすれば、求人票の外側で会社を知ってもらう場所をつくることが必要です。
●「何を発信するか」から「誰が発信するか」へ
採用広報というと、「どんな求人内容を伝えるか」「会社の魅力をどう言語化するか」という話になりがちです。
でも最近、もう一つ重要な視点があると感じています。
「誰が発信するか」です。
会社の公式アカウントが発信する情報と、そこで実際に働いている社員が発信する情報では、求職者の受け取り方が違います。
会社の公式発信は、「会社が見せたい姿」として受け取られやすい。
一方、社員の発信は「リアルな職場の姿」として受け取られやすい。
求職者は賢くなっています。採用サイトの整った写真より、社員のInstagramやThreadsに投稿された何気ない日常の写真の方が「職場の雰囲気」が伝わることがあります。
この「中の人発信」、社員が自分の言葉で、自分の目線で、会社や仕事のことを発信する。
求人票には書きにくい「会社の空気感」「一緒に働く人の雰囲気」「仕事の面白さや大変さ」が、中の人の発信を通じて伝わることがあります。
●「中の人発信」が採用に効く理由
なぜ「中の人発信」が採用に効果的なのでしょうか。
一つは、信頼性の高さです。企業が発信する情報より、実際に働いている人の声の方が、求職者にとってリアルに感じられます。「会社が言っていることだから盛っているかもしれない」という警戒感が、社員の発信では薄れます。
もう一つは、AIに読み込まれやすい一次情報であることです。前述したAIOの観点から言えば、職場の具体的な日常・実際の仕事の様子・社員の言葉といった一次情報は、AIが「この会社はこういう職場だ」と判断する際の素材になります。テンプレート的な求人票の文章よりも、具体的なエピソードや写真を伴った発信の方が、AIに正しく読み込まれ、求職者への紹介につながりやすくなる可能性があります。
そして三つ目は、継続的な接点がつくれることです。求人票は掲載期間が終われば消えます。しかし社員の発信は蓄積されます。「今は転職を考えていないけど、この会社のことは気になっている」という状態の人との、長期的な関係をつくることができます。
以前の記事「いつか採用しようと思っている会社に伝えたいこと」で、常時採用の発想を書きましたが、中の人発信はまさに「求人を出していない時期の採用活動」として機能します。
参考:https://www.katawara.co.jp/blog/message0048
●中小企業の「中の人発信」は、規模の小ささが強みになる
ここまで読んでみて、「中の人発信といっても、うちには広報担当もいないし、SNSも得意じゃない」という考えた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし中小企業には、大企業にはない強みがあります。それは、会社が小さいほど、「人」が見えやすいということ。
大企業の社員が発信しても、「○○社の社員の一人」としか伝わりません。でも10人や20人の会社の社員が発信すれば、「あの会社の○○さん」として認識される。会社の顔が見える。
経営者自身が発信することも、中小企業では大きな武器になります。「社長がどんな考えを持っているか」「なぜこの仕事をしているか」「どんな人と働きたいか」。こうしたことが経営者の言葉で伝わると、「この人の会社で働きたい」という動機につながることがあります。
●「中の人発信」を始めるための、三つの問い
では、具体的に何から始めればいいのでしょうか。
ツールの選び方や投稿の頻度より先に、考えてほしいことが三つあります。
一つ目。誰が発信するのか。
経営者、採用担当者、現場のスタッフ。誰が発信するかによって、伝わるものが変わります。すべての人が発信する必要はありません。「発信することが苦でない人」「この人の発信を見たら働きたいと思える人」から始めることをお勧めします。
二つ目。何を発信するのか。
「採用のための情報」を作ろうとすると、続きません。「今日の仕事で気づいたこと」「後輩に教えたこと」「お客様からもらった言葉」「仕事の失敗と学び」。日常の仕事の中にある出来事を、そのまま言葉にする。それで十分です。
三つ目。誰に届けたいのか。
「不特定多数の求職者」ではなく、「自社で活躍してほしい人に刺さる発信か」を意識する。例えば、「一人でコツコツ仕事を進めることが好きな人」に来てほしいなら、そういう仕事の様子が伝わる発信をする。
この三つが整うと、発信が採用に機能し始めます。
●求人票は「出口」。発信は「入口」
採用設計の中で、求人票と発信の役割を整理するとこうなります。
求人票は、応募するかどうかを判断するための情報を渡す「出口」です。応募意思のある人に向けて、条件・仕事内容・会社情報を正確に伝える。
発信は、まだ応募を考えていない人に「この会社が気になる」と思ってもらうための「入口」です。
この入口がないと求職者は求人票を見に来ません。入口があることで求人票が機能します。
ゼロクリック時代は、検索経由の入口が細くなります。だからこそ、発信という別の入口を育てることが必要になる。
指名検索される会社になるとは、この「発信という入口」を持つことでもあります。
●「この会社、知ってた」が生まれる採用へ
理想的な採用は、このような流れです。
求職者がSNSで社員の投稿を目にする。「この会社、面白そうだな」と思ってフォローする。何度か投稿を見るうちに、「こんな仕事をしているのか」「こういう人たちが働いているのか」と理解が深まる。転職を考えた時に、「そういえばあの会社が気になっていた」と思い出す。求人票を見に行く。「思っていた通りだ」と感じて応募する。
このプロセスでは、求人票を見た時点で既に「知っている会社」です。全くの初対面ではない。だから応募への心理的なハードルが低く、面接でも「想像と違った」というギャップが起きにくい。
これが、発信を続けることで生まれる採用の変化です。
「この会社、知ってた」という状態の応募者は、定着率も高い傾向があります。なぜなら、入社前から会社の雰囲気・仕事の様子・一緒に働く人の空気感を知っているからです。
●最後に
ゼロクリック率68%というデータは、「検索→クリック→読む」という前提が崩れ始めていることを示しています。
採用における情報収集の経路も、同じように変わっています。
求人サイトを検索して応募先を探す求職者だけでなく、SNSで会社を知り、日常的に発信を見て、転職を考えた時に「あの会社に連絡してみよう」と動く求職者が増えています。
その変化に対して採用企業にできることは、「もっと多くの媒体に掲載する」ことではありません。「直接名前を検索される会社になる」「求職者の日常に存在し続ける」ことです。
中の人発信は、その手段の一つです。難しい技術は必要ありません。必要なのは、「自分たちの仕事や職場を、自分たちの言葉で伝え続けること」です。
AIが検索結果を要約する時代だからこそ、テンプレートではなく一次情報が価値を持ちます。求人票には書けない「この会社らしさ」が、日常の発信を通じて蓄積されていく。
求職者は、もうあなたの会社を「検索」していないかもしれません。
でも、あなたの会社の発信を「見ている」かもしれません。
株式会社Katawaraは、「採用で、経営を変える」をテーマに採用支援を行っています。採用広報の設計・中の人発信の仕組みづくり・採用サイトの情報設計まで、「求人票の外側で会社を知ってもらう仕組み」をつくることも、私たちの支援の一つです。お気軽にご相談ください。