選挙の世界には、「地図落とし」という言葉があります。
支援者の住所を紙の住宅地図にプロットしていく作業のこと。政治家の事務所では、冊子のゼンリン住宅地図にマーカーで色を塗り、どこに支援者がいるのかを可視化します。戸別訪問をすれば、訪問済みの家に印をつける。この繰り返しが、選挙の「地上戦」の基本でした。
私たちジャッグジャパンは、2010年の創業以来、選挙コンサルティングを通じて数多くの政治家を支援してきました。その中で、ある課題に直面し続けていました。
■ 紙とExcel、バラバラの管理
多くの政治家事務所で目にした光景は、驚くほどアナログなものでした。
支援者名簿はExcelで管理。地図は紙の冊子。この2つがバラバラに存在し、連動していない。戸別訪問に出かけるときは、Excelを印刷したリストと、書き込みだらけの紙の地図を持っていく。訪問が終われば、紙に書いたメモをExcelに転記する。
雨の日には地図がボロボロになり、書き込んだ情報が消えてしまうこともありました。複数のスタッフが同時に活動すると、情報の共有がうまくいかない。「あの家、誰か訪問した?」「わからない、地図見てみて」——そんなやりとりが、政治家事務所の日常でした。
選挙は時間との戦いです。限られた期間で、いかに多くの有権者と接点を持てるか。それなのに、事務作業に膨大な時間を取られている。これは、なんとかしなければならないと感じていました。
■ コンサルの現場から生まれたアプリ
転機は、私たちのコンサルティング業務の中で訪れました。
当時、戸別訪問の進捗をクライアントと共有するために、独自の管理ツールを作っていました。訪問記録をデジタルで入力し、地図上に可視化する。それをクライアントの事務所と共有することで、戦略的な活動計画を立てられるようにする。
すると、あるクライアントからこう言われました。
「コンサルティングは今回で終わりだけど、この名簿管理のツール、引き続き使わせてもらえないか」
選挙コンサルティングは不要でも、名簿管理や戸別訪問の記録には困っている。そういう政治家が多いことに気づきました。
ならば、これを単体のサービスとして提供できないか。そう考えて開発を進め、2017年にリリースしたのが「ミエセン」です。
■ 選挙プランナーが作るからこそ
世の中には、名簿管理ソフトは数多くあります。しかし、政治家の活動に特化したものはほとんどありませんでした。
政治家の名簿管理には、独特の要件があります。支援者のランク付け、後援会の入会状況、戸別訪問の履歴、ポスター掲示場所の管理——一般的なCRMでは対応しきれない、選挙特有のニーズです。
私たちは選挙コンサルタントとして、現場で何が必要かを知っていました。だからこそ、「こういう機能があれば便利なのに」という政治家の声に応えられる。選挙プランナーが作るアプリだからこそ、現場で本当に使えるものができる。そう考えていました。
■ 100回以上のアップデート
2017年のリリース以来、ミエセンは100回以上のアップデートを重ねてきました。
「ゼンリン住宅地図と連携してほしい」「ルート案内機能がほしい」「ポスターの管理もしたい」——ユーザーの声を聞き、機能を追加し続けてきました。2025年にはAndroid版もリリースし、iOS、Android、PCブラウザのすべてで利用できるマルチプラットフォームに進化しています。
現在では、衆参国会議員から政令市長、都道府県議、一般市議まで、全国の政治家事務所に導入いただいています。
■ 選挙のDXを、すべての政治家に
政治の世界では、「地盤・看板・鞄」という言葉があります。地盤(支持基盤)、看板(知名度)、鞄(資金)——この3つが選挙には必要だと。
しかし、私たちはこう考えます。地盤がなくても、看板がなくても、資金が潤沢でなくても、戦い方次第で勝てる選挙はある。そのために必要なのは、限られたリソースを最大限に活かす「戦略」と「ツール」です。
ミエセンは、すべての政治家に「選挙のDX」を届けるために生まれました。
紙の地図とExcelに追われる時間を減らし、政治家が本来やるべきこと——有権者の声を聞き、政策を届けること——に集中できる環境を作る。それが私たちの願いです。