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【セミナーレポート】「職業:弁護士」の向こう側

インハウスハブ東京法律事務所の弁護士・弁理士たちの多種多様な仕事をレポート。今回は、2022/8/30に世古修平弁護士が登壇したGVA assistセミナー「【Beyond Lawyers】「職業:弁護士」の向こう側」の様子をレポートします。

法律事務所・企業法務に多数導入されているAI契約書レビュー支援サービス GVA assist が提供する豊富なセミナーの中で、「Beyond Lawyers」は、先駆的な弁護士にその取り組みや思考プロセスを伺う...というもので、少し毛色の異なる印象があります。今回、この「Beyond Lawyers」の記念すべき2回目として、弊所の世古と法律事務所LEACT 酒井貴徳先生とでキャリアについて対談する貴重な機会をいただきました。モデレーターとして、事業企画の岡崎(このレポートを書いているわたしです!)が参加しました。

大手法律事務所・スタートアップを経て独立し、現在は自身が代表を務める法律事務所LEACTで企業向けの法律顧問やインハウスサービスを提供されている酒井先生。一方、コンサルティングファーム2社でのコンサルタント職を経て、企業でフルタイムの正社員として働きながら弊所で兼業する世古。

これまでのキャリアの道のりも志向性も全く異なるように見えるお二方のディスカッション、どんな化学反応が起こるのでしょうか。ハラハラしながら現場に赴いたのですが、2人とも到着してPCを開き、Twitterを見るという初動が一緒で、笑ってしまいました。お二方の出会いもまさかのTwitterだったとか。

プライベート・プラクティス/インハウスを経験して思うこと

セミナー前半は、プライベート・プラクティスとインハウス、それぞれを異なる形で経験されているお二方にインタビューする形式でお話を伺いました。

プライベート・プラクティスを経験して思うこと

酒井先生の大手法律事務所時代は、クライアントが提示するスケジュールが決まっており、そこから逆算して最善を尽くす仕事の進め方。現在の事務所で企業向けのサービスを提供するにあたっては、スケジュールを引くところからクライアント社内に入り、当時とは全く違う仕事の進め方ができているそう。

外部弁護士としてのプライベート・プラクティスと、企業に入っていくインハウスとでは「情報の得られ方が全然違った」と酒井先生はいいます。外部弁護士の立場では、クライアントに情報を整えて揃えてもらった上で、期待されるアウトプットを返していた。一方で、インハウスの立場は情報が整っていないところから案件に対応できる。両方の振れ幅を見て視野が広がり、引き出しが増えた。外部弁護士と企業内部の人間が考えていること、両方をイメージできるようになったと酒井先生。

インハウスを経験して思うこと

法曹業界で「インハウス」というと、一般には「インハウスロイヤー(組織内弁護士)」を指し、組織内の法務部門で弁護士業務に従事することを意味します。ですが、今回のセミナーにおいて「インハウス」という言葉は非常に広義。平たい言い方ではありますが、「中の人」と大まかに捉えていただくとよさそうです。酒井先生も世古も企業の「中の人」として、弁護士でありながら「職業:弁護士」とは全く異なるキャリアを歩んできており、その点についてお話いただきました。

世古は弁護士ではなく、コンサルティングファームのコンサルタント職として新卒入社。組織人事、戦略、いくつかのユニットを経て最終的にプライバシー・セキュリティにたどり着きました。コンサル職としての社会人経験で、今後のキャリアの道筋を決める高い専門性がつけられたこと、有期・短期のプロジェクトを進めていく経験が得られたこと、これらが弁護士としての今の仕事に生きているといいます。マネージャーにスタッフが付き、チームを組成して進める仕事は、マネージャーの対応に左右される部分はあったものの、弁護士としてではなくコンサルタントとして教育してもらえたこともよかったと振り返りました。

酒井先生も、スタートアップの在職中は弁護士業務とは全く関係ない業務に従事。法務部門の外側から法務部門の仕事を見たことが大きかったようです。会社は成果に結びつけて初めて意味がある、法的な正しさを超えた先で法務部門に何ができるのかという感覚を得たことが、現在の事務所で提供する企業の法務部門向けのサービスの提供につながっているそう。

世古が考えるプライベート・プラクティスとインハウスの違いは3つ。

①ざっくり「リスクがありそう」くらいの段階から検討に入れる」ー企業が部弁護士やコンサルに仕事を頼むのは、ある程度問題点が明確になり、課題把握できてから。この点、インハウスであれば「そもそも何が問題か」を社内で定義する段階から内容に関与できます。

②対面するのが法務部門ではなく事業部門」ー実際の業務を前に進める上で、自分の専門外の知識を得るのは非常に重要ですが、弁護士業のみに従事していては習得が難しい部分。インハウスであれば、事業部門から生の周辺知識を得ることができます。

③外部弁護士を使う立場になれる」ー外部弁護士を使う側(例:企業の法務部門など)は外部弁護士に対して「こういう対応をしてほしい」「こういう答をしてくれるとかる」という意図をっていることが多いですが、インハウスでいることで、その部分を理解できるのは大きなメリットです。

全面的に同意する酒井先生。それぞれの立場にいらっしゃるであろう参加者の先生方は、この違い、どのように感じられたでしょうか。


前半からボリュームのある議論でしたが、プライベート・プラクティスの経験は、インハウスでも活きる(インハウスの経験は、プライベート・プラクティスにも還元できる)との結論に至りました。プライベート・プラクティスとインハウスを行き来することのハードルはあるが、超えられないハードルではないし、超えるべきもの。どちらも経験しておくといいのでは、とお二方の意見が一致したところで、後半へ。

セミナー後半は、Twitterのヘビーユーザーであるお二方ならではの企画。先生方の過去のツイートをトークテーマとして、トークセッションを進行しました。「自分の過去のツイート掘り返されるの恥ずかしいですね」と言いながら「いいこと言ってますね」と酒井先生。お二方の頭の中は、Twitterで覗いてみることをお勧めします。酒井先生のTwitterはこちら、世古のTwitterはこちらからどうぞ。

プライベート・プラクティスーインハウスは行き来できるか

インハウス、面白いですよね。ただめちゃめちゃ難しい」ープライベート・プラクティスはクライアントワーク、インハウスは当事者という立場の違いがあり、別の仕事という感覚すらあるという酒井先生。別の仕事と考えると比較は難しいように思われますが、コロナ禍で人々の働き方が変化したり、従業員の兼副業を認める企業が増えてきたりと、ここ数年で弁護士がプライベート・プラクティスとインハウスを行き来しやすい環境が生まれています。「行き来する」「どちらもやる」という具体的な選択肢が出てきたのは大きな変化です。

「インハウスは太い顧問契約のような感覚。副業(としてのプライベート・プラクティス)はそこにプラスして、本当にやりたい仕事だけできるのが楽しい」ーインハウスは限界まで稼ごうとした時の額はプライベート・プラクティスには勝てないけれど、やりがいはそう大きく違わないんじゃないかと世古。

プライベート・プラクティスからインハウスへの転職には、1社にのみコミットすることの怖さもある、と酒井先生。「インハウスから転職するときはインハウスでなければ」「プライベート・プラクティスに戻れないのでは」と思われる方もいるかもしれませんが、そんなときに副業収入が1円でもあると心の余裕が全然違う。数字としても、自信としても。兼副業には、金額に単純に換算できない価値が生まれるのでは...と、副業禁止のスタートアップから副業収入0で独立した先生ならではのコメントもリアルでした。

スペシャリストとして生きるか/ジェネラリストとして生きるか

世古はスペシャリスト、酒井先生はジェネラリスト。二元論で語るべきものではないのかもしれませんが、領域を絞り専門性を突き詰めるか、全方面に対応できるよう幅広く力をつけていくのか、「職業:弁護士」としてのキャリアの選択に悩まれる先生も多いのではないでしょうか。スペシャリストとジェネラリスト、それぞれの立場から意見を聞いてみました。

スペシャリスト・世古は、セキュリティ・プライバシーの領域が好きなことは前提にありつつ、自分のキャリアをきわめて戦略的に考えていました。弁護士が相対的に苦手な技術の領域、変化が激しくキャッチアップが大変なIT分野は絞ることの強みが出そう、新しい領域は重鎮・大御所が少なそう...何より、自分より優秀な先生方と素手で戦うのは辛い。一つの領域にリソースを全振りすることで、その領域においてはそのような先生方とも並ぶことができるのではと思ったそうです。

一方、ジェネラリスト・酒井先生は、好きな領域がない。「なんなら法律そんなに好きじゃない」なんて弁護氏らしからぬ過激な言葉も出ましたが、ファーストコールで「とりあえず酒井に頼もう」という弁護士になりたい。ことに向かうより人に向かうキャリアが合っているし、適性もあると思い、戦略なくやりたいことをやっている結果、ジェネラリスト志向が強まったとか。

考え方に色濃く違いの出た部分ですが、お二方にはそれぞれにファンが多いのも事実。ファンがついてくる(クライアントがファン化する)秘訣は何なのでしょうか。クライアントと接するときに心がけている、具体的なTipsを掘り下げました。

クライアントとのコミュニケーション

世古は「①即レス」。仮解答であってもリアクションの速さを意識しているそう。「いつもSlackを見てくれている弁護士」と思ってもらえると、クライアントからの相談の機会が増えます。それから、「②解答後、依頼者が社内でどう動くかを意識する」。部弁護士が解答した後、法務部員は事業部門とコミュニーシンをらなければなりません。ただ法律解答するのではなく、どうえば伝わりやすいかを考えて解答する。これができるのは、社内の各部門を理解するインハウスならではの価値だと世古は強く主張します。

酒井先生は「相手の視点を持つこと」。例えば会議に3人参加していたら、それぞれ立場が違い、考えることが違う。彼らが何を考えているか、何に困っているのか、細かく想像することを心がけているそう。相手が何を考えているか察することができると、「この人になら相談できる」と思ってもらえ、情報が入ってきやすくなる。情報が入ってくると適切に動け、仕事がしやすくなる。相手との信頼関係を築くためのコミュニケーションが、結果として仕事を進めやすくし、具体的な受任の増加・拡大につながっていくとのことでした。

このお二方の話、アプローチは違えど、かなり通ずるところがあるように思いました。対面する相手のことも、その相手が対面する相手のことも考えたコミュニケーションが、結果的に自分の仕事の進めやすさにつながっていくということ。具体的なTipsは、ぜひ明日から実践してみていただきたいと思います。

実際、どうやって受任してますか?

酒井先生は直接のお知り合いからの紹介が中心。新規の顧客を得るためのコストより、既存の顧客の満足度を高めて単価をあげていただく・さらに発注いただく方が顧客獲得コストは低いことから現状はこの進め方をされていますが、今後の事務所拡大を考慮すると、この受任ルートのみでなく、新規獲得が課題になっていくとも。

対して世古は、ブログTwitter・セミナーを見てくださった方から受任することが多いよう。特に、依頼者がブログの読者だと普段自分が何を考えているかわかってくれていることもあり、仕事がスムーズに進むとか。一方で、心の広い先輩弁護士からのご紹介も多く、ここでは専門領域を絞っていることがプラスに作用します。「この分野なら世古」と第一想起をとれるのはスペシャリストのメリットでもありそうです。

スペシャリストとジェネラリストでは、それぞれの異なる戦い方がある。ということは、スペシャリストとジェネラリストの間では、相互送客が図れそうですね。

「相互送客」の言葉にがっちり握手の先生方でした。

Q&Aの時間をとり、セミナー申込の際に事前にお寄せいただいたご質問と、Twitterで当日リアルタイムで寄せられたご質問に答えていきました。

ご質問内容から推察するに、法律事務所でプライベート・プラクティスをされている方、企業でインハウスロイヤーとして働かれている方、プライベート・プラクティスとインハウスのどちらに進むか悩まれている方、弊所の代表(!)など、さまざまなキャリアの先生方からのリアルなお悩み相談。社内での副業、弁護士のブランディング、専門領域に関する今後の展望...考え悩みつつもその場でクリアなアドバイスを出される先生方は、横で見ていて大変頼もしく見えました。ご参考になりましたでしょうか。

最後に、お二方から本日の振り返りと、ご参加の皆様へのメッセージ。世古からは「面白そうだなと思ったらやってみる。自分がリスクだと思ってることも、実はリスクじゃないことは多い。積極的にリスクを取りながら挑戦して」。酒井先生からは「やってみなきゃわからない、見えない世界がある。弁護士の資格を足枷ではなく翼に使って」。盛況のうちにセミナーは終了しました。

残り1分で酒井先生の本音の吐露があったのですが、ここはリアルタイムでご視聴いただいた皆様の心の内に留めていただけたらと思います(この瞬間、一番生き生きされていました...!)。

セミナー終了後、セミナーのグラフィックレコーディング(グラレコ)をいただきました。どう見てもこのセミナーレポートより要点がしっかりまとまっている!はるたろうさん、いつもありがとうございます。

皆様からの当日の反響や、講師陣の関連ツイートはtogetterにまとめ、随時更新しております。

「【Beyond Lawyers】「職業:弁護士」の向こう側」ツイートまとめ

また、GVA TECH株式会社様のご厚意により、当日の動画を公開することになりました。以下よりご覧いただけます。

リアルタイムでご参加いただけなかった方も、この記事でセミナーをお知りになった方も、ぜひ動画をご覧ください。Twitterアカウントをお持ちの方は、ハッシュタグ #lawyers_carrer をつけてセミナーについてのご意見・ご感想をお寄せいただけましたら幸いです。

インハウスハブ東京法律事務所では、弁護士を随時募集しています。自分の強み・専門分野を見つけながら、さまざまな活躍の機会を得たい方、一度お話してみませんか?一同、心よりお待ちしております。

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