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角藤 靖之
株式会社インフキュリオン 執行役員
Embedded Fintech・Xard担当役員
VPoE(Vice President of Engineering)
2000年4月、IT企業に入社後、金融機関向けソリューションを中心にシステム開発導入のプロジェクトマネジメントを多数経験。2007年以降、システムインテグレーション部門、パッケージ開発部門、運用保守部門などの組織マネジメントに長く従事。2019年6月よりインフキュリオンに参画し、プロダクト開発、エンジニアリング組織のマネジメントを担当。
執行役員およびVPoEとして、Embedded Fintech事業の開発チームを管掌する角藤さんに、インフキュリオンの開発組織の特色や、「イネーブラー」として自社プロダクト開発に携わる醍醐味、今後の組織展望について話してもらいました。
バックグラウンドが多様な開発メンバー
─ 最初に、角藤さんのご経歴と現在の役割について教えてください。
インフキュリオンへの入社は2019年6月です。それまではSIerに長く勤めてきて、執行役員として200名規模の開発部門に対する組織マネジメントにも携わりました。その後、自社プロダクトを持つ会社で仕事がしたいと考え、インフキュリオンに参画しました。入社当時はエンジニアの数が一桁の小さな組織でしたが、自らの考えも反映させながらエンジニア組織や文化を創っていく経験ができそうだと思ったのが入社の理由です。
現在は、中核となるプロダクト「Wallet Station」を中心に開発をするEmbedded Fintech事業部の開発部門長と、インフキュリオン全体のエンジニア組織をみるVPoEを務めています。
─ 現在の開発組織体制について教えていただけますか。
これまで開発チームはBaaSカンパニーという1つの組織の中にありましたが、プロダクトごとに開発チームを置く体制になりました。「Wallet Station」を中心に開発するEmbedded Fintech事業部と、カード発行プラットフォーム「Xard」を開発するXard事業部、それぞれに開発チームがあります。
Embedded Fintech事業部の開発チームは総勢80名ほど在籍しています。内訳としては、プロジェクトマネジャー(PjM)が20名と、プロダクトマネジャー(PdM)が15名ほど。テックリードと開発エンジニアが約30名、インフラとQAエンジニアが約10名、デザイナー、エンジニアオフィスが数名ずつとなっています。
中国、韓国、ベトナム、ノルウェー出身など外国籍のメンバーも多く、この人数規模にしては国際色のある顔ぶれです。女性はまだ2割程度と少ないですが少しずつ増えており、今後よりいっそう多様性を意識した組織を目指していきたいと思っています。
現在、9割が中途入社です。中途入社の経歴は、さまざまです。事業会社で決済に関わるシステム開発を経験している方もおりますが、決済や金融とはまったく関係ない開発に携わっていた方、プロジェクトマネジャー経験者など、それぞれのバックグラウンドも多様な組織です。新卒採用にも力を入れており、国内だけでなく海外の学生も採用しています。
─ どういった理由でインフキュリオンへ入社した人が多いのでしょうか。
「スピード感を求めて」という方、「自身のキャリアとして新しいことにチャレンジしたい」という考えでインフキュリオンを選んだ方が多かったと思います。
その他、ミッションクリティカルなシステムに携わりたい、高セキュリティ・可用性が求められる、より難易度の高いシステム開発を経験したいという人も目立ちます。また、「自社プロダクトを手がけたい」というSIer出身の方もいます。
SIerともSaaS企業とも違う「イネーブラー」という立ち位置
─ インフキュリオンの開発チームはどんなところが特徴的だと思いますか。
インフキュリオンは自社の立場を「イネーブラー(Enabler)」と位置づけています。辞書を引くと、「他人の成功・目的達成などを可能にする人・組織」「実現する人」という意味だと分かります。
では、私たちが「実現」することは何なのか。プロダクトを完成させて提供することではありません。プロダクトを提供したさらにその先で、お客様である企業の事業・サービスの「価値」を実現することだと考えています。われわれが持つ技術や決済・キャッシュレスに関する知見、Wallet StationやXardというアセットを活用して、お客様と一緒に事業やサービスの価値を創出する。それこそが私たちの役割であり、イネーブラーという立ち位置の特徴的なところだと思っています。
─ イネーブラーとはあまり聞きなれない言葉ですが、具体的に他の立ち位置とどう違ってくるのでしょうか。
そうですね、直感的には理解しにくいかもしれません。一般的にSIerにおける開発は、お客様から要求をいただいてシステムを構築するところにフォーカスされます。基本的には納品がゴールで、その後システムはお客様のものです。
また、自社プロダクトを持つ一般的なSaaS企業では、ある程度完成したプロダクトをサービスとして提供します。ただ、ユーザー企業がそれを使う際は基本的にWeb上で完結しますし、個別事情に合わせてSaaS企業側がプロダクトに手を入れたり、カスタマイズすることは基本的にありません。その意味では、SaaS企業も「システムを提供するところ」までが役割です。
翻ってイネーブラー、すなわち「実現する人」である私たちはどうかというと、システムをつくり、それをただ展開するだけでは、お客様の事業やサービスに新しい価値を生み出すところまでは実現できません。私たちの事業部名にもなっているEmbedded Fintechのエンベッドの部分、つまり「組み込む」作業が必要になるからです。
─ だからこそ、その「組み込む」部分をプロジェクト化して進める必要があり、開発チームにプロジェクトマネジャーが多くいるわけですね。
そうです。ただXardに関しては、その利用目的が「カードを発行する」というある程度明確なものなので、APIを使ってお客様だけでシステムを構築していただくことも可能ではあります。
一方で、Wallet Stationは決済プラットフォームですから、カバーする領域が広く、組み込むためのプロジェクトは基本的には必須です。今私たちがお手伝いしているお客様は、そもそも非金融企業が多く、業種もさまざまです。「Wallet Station」を使ってやりたいことも多様ですし、すでに既存サービスがある中で新たに決済に取り組まれるケースがほとんどです。
そのため、私たちイネーブラーが介在して組み込む作業を行い、ビジネスに価値を創出するところまで伴走することが必要になってきます。
イネーブラーとして開発に携わる醍醐味
─ エンジニアにとって、イネーブラーで開発に携わることにどのような意味がありますか。
私たちのお客様は新しい事業やサービスを創ろうとしているため、事業企画などの企画部門、ビジネス開発(BizDev)といった肩書の方と話すことが多くなります。すると、よりビジネスに近いところで仕事ができるわけですね。ビジネスサイドの方と直接会話し、お客様が目指しているものや新しい事業・サービスがもたらす価値について腹落ちした上で、よりよい技術的な選択肢を提案します。
自分たちがつくるものがお客様のビジネスにどのような価値を与えるのか、ひいては社会にどういう影響を及ぼし、良い方向へ変えるのか。その手応えをダイレクトに感じながら仕事ができるのは、エンジニアにとって仕事のやりがいや面白さにつながるところでもあると思います。
─ お客様が実現したいことと自社プロダクトとして目指す方向が必ずしも一致しないと思いますが、どのようにバランスをとるのでしょうか。
私たちはプロジェクトを開始する前に、開発チームの中で「なぜこのプロジェクトをわれわれが行うのか」を考えてからスタートします。これは「イネーブラーだから」というよりは、インフキュリオンの場合という意味です。通常は「お客様にとってどういう意味があるのか」をまず考えると思うのですが、同時に「私たちにとって、プロダクトにとってどういう意味があるのか」「新しいチャレンジになるのか」を考えるプロセスがあるということです。
例えば以前、交通系のサービスにウォレットを組み込むプロジェクトがありました。その時は、「日常生活の移動手段に利用される交通系のウォレットは、社会インフラとなるサービスだから、よりいっそう信頼性に注意してつくらないといけないね」という会話をチーム内でした上でプロジェクトをスタートしました。
つまり、プロジェクトにテーマを持たせるということです。そのプロジェクトを通じて「われわれはどの部分で成長したいのか」「プロダクトのどの部分をより良くしていきたいか」を明確にした上で取り組むため、「“お客様のもの”をつくっている」だけではなく、“自分ごと”にもできるわけです。これは、自社プロダクトを持つ私たちだからこその特徴かなと思っています。
─ 角藤さん自身は、イネーブラーの面白さをどのようにお考えですか。
イネーブラーが目指すのはお客様のビジネス価値の実現と、それを通して社会へ寄与することです。そこに至るための道筋は1つではありません。考えられるルートはいくつもあり、それぞれの道に紆余曲折があります。加えて、どの道を行くか決める中で、いろいろなステークホルダーが関わってきます。その「複雑さ」こそが面白いと個人的には思っています。
─ インフキュリオンへ入社する理由として、技術レベルの高い、難しい開発を経験したいという人が多いというお話も先ほどありましたが、それと似たようなことでしょうか。
エンジニアの根本的な資質として「成長欲求」があるとするならば、私はやはりそれが技術的なことかどうかにかかわらず、複雑さや難題に挑むことを楽しめることが重要だと思います。もちろん決済の知識をキャッチアップしていくことや新しい技術も大事ですが、個人としての成長も大切なことだからです。
未知のものへの好奇心に富み、知見を共有するオープンな文化
─ 組織文化の面では、どのような開発組織だと思いますか。
インフキュリオンが定めているValueの1つに「Infinite Curiosity」がありますが、好奇心・探求心を持つメンバーが揃っています。
社内では定期的に「テックトーク」というイベントを開催しており、各メンバーが日々の業務やプライベートで学んで得た技術について情報交換しています。また今年から「Infcurion Tech Blog」を始め、インフキュリオンの技術的な情報を対外的に発信する機会をつくりました。
新しいことをインプットし、それをチーム内外にアウトプットして共有していくことはエンジニア特有の文化だと思いますし、「Infinite Curiosity」という組織としての価値観にもつながる大切な取り組みだと思っています。
それ以外にも、業務の中ではリファクタリングにモチベーション高く取り組んでもらったり、GitHub Copilotを開発に取り入れてみたり、モダンなアーキテクチャに挑戦したりしています。また業務外では、最近だと大規模言語モデル・生成AIを業務に使えないか試すなど行なっています。新しい技術や開発手法に対して、まさに「好奇心」を持って意欲的に取り組むメンバーがいてくれることを心強く感じています。
─ インフキュリオンの開発組織をどのような組織にしていきたいですか。
最近は引き合いが非常に多くなっており、Embedded Fintechがいよいよ普及フェーズを迎えつつあると実感しています。その理由はいろいろだと思いますが、キャッシュレスの決済が世の中に少しずつ増えてきた中で、「うちもやってみよう」と考える企業さんが多く出てきているのではないかと思います。
そうした引き合いに応えていくためにも、われわれとしては開発スピードを高めていく必要があります。その意味では、開発エンジニアがもっと必要ですし、プロジェクトを指揮するプロジェクトマネジャー、プロダクトの方針を決めるプロダクトマネージャーも必要です。
ただ、プロジェクトを推進するだけではなく、同時に品質も高めていかなければなりません。「開発スピードと品質はトレードオフ」という見方もありますが、私はその逆だと思っています。プロダクトの品質が高まっていく、その積み上げがあることによって、開発スピードも上がっていくものです。
また、お客様からの当社への期待値が年々高くなっていると感じます。これまで実績を積み上げてきたからこそでもありますが、いずれにしても高まる期待に応えようと思うと、エンジニア組織が果たす役割は非常に大きくなったといえるでしょう。
Embedded Fintechが普及した将来、開発に携わったエンジニアやプロジェクトマネジャーは、自分たちが手がけたプロダクトが社会の中で動き、社会に貢献できた手応えを、より強く実感できるだろうと思います。同じビジョンを共有するエンジニアが、「イネーブラー」という立ち位置での仕事を楽しめる状態・環境を、組織の中でいかに実現するかが重要だと私は考えています。