目次
「民泊だから」という言い訳との戦い。清掃は“おもてなしの基盤”
孤独な清掃スタッフを支える「10段階評価」と、国境を越えた絆
500円のキャンプ場と、犬を散歩するおじいさん。運命の「森の巣箱」
釘1本打てなかった男が、10年かけて作った場所
「清掃って、結局は心なんですよね。ゲストの顔が見えない中でどれだけ心を込められるか。それが当たり前のことなのに、業界全体では当たり前じゃなかったんです」
戦火のアフガニスタンでの原体験から、ホスピタリティを軸とした民泊事業を立ち上げた株式会社はまかの代表・西村。 第2回となる今回は、業界の闇に一石を投じた清掃部門「くくるクリーニング」への想いと、沖縄・今帰仁村(なきじんそん)で出会った運命のツリーハウス「森の巣箱」のストーリーに迫る。
「民泊だから」という言い訳との戦い。清掃は“おもてなしの基盤”
——はまかの清掃部門「くくるクリーニング」には、沖縄の言葉で「心」という意味があるそうですね。
西村: 「読んで字のごとく、『心』を込めるということです。 ホテルの清掃と違って、民泊の清掃はチェックアウト後に入るため、ゲストと顔を合わせることがほとんどありません。顔が見えないからこそ、どうしても『いかに手短に仕上げて件数をこなすか』という“作業”になりがちなんです」
当時の民泊業界は、8割が投資目的の事業者。清掃は単なる「コスト」とみなされ、価格競争が激化していた。
西村: 「業界全体に『民泊なんだから、ホテルじゃないんだからこれくらいでいい』『外国人は気にしないよ』という、合言葉のような風潮がありました。 でも、僕らにとって清掃は、ゲストに気持ちよく過ごしていただくための“おもてなしの絶対的な基盤”です。清掃はロボットがやる作業じゃない、人が人のためにやる大切なお仕事なんだと。その想いを忘れないために、あえて『くくる』という名前をつけました」
1年目は相見積もりで負け続ける日々だったが、決してクオリティは下げなかった。徐々にその価値に共感するオーナーが増え、現在では年間1万件以上の清掃実績を誇るまでになっている。
孤独な清掃スタッフを支える「10段階評価」と、国境を越えた絆
——清掃は1人で行う孤独な作業だと思います。高い品質を維持し続けるために、どんな工夫をしているのでしょうか?
西村: 「いくら頑張っても誰にも見られていない、評価されづらい。それではモチベーションは保てません。だから僕らは『頑張っている人を、きちんと評価する仕組み』を作りました。 1件あたりの単価が固定されがちな業界ですが、はまかでは清掃品質やゲストのレビューなどを基準に、細かく10段階の評価制度を設けて、頑張り次第で報酬が上がるようにしています。また、3ヶ月に1度の全体会議や懇親会で横の繋がりを作り、孤独にならない環境づくりを大切にしています」
この「心」を込めた空間づくりは、確実にゲストに届いている。
西村: 「一番印象に残っているのは、メキシコから来たカップルです。畳の部屋を見て『クレヨンしんちゃんの家に泊まってるみたい!』と大喜びしてくれて(笑)。 直接お話しする機会があったんですが、その後もずっと連絡を取り合い、なんと翌年、私が結婚した時にはわざわざメキシコから結婚式に来てくれたんです。 アフガニスタンで僕が受けた感動を、今度は提供する側になれている。創業時に思い描いていた価値が体現できた、本当に嬉しい瞬間でした」
500円のキャンプ場と、犬を散歩するおじいさん。運命の「森の巣箱」
——東京での事業基盤が固まる中、沖縄・今帰仁村の「森の巣箱」とはどのように出会ったのでしょうか?
西村: 「会社を登記する直前のことです。共同創業者の楠元が沖縄に住んでいたこともあり、沖縄北部で宿の候補地を探していました。 ただ、当時は本当にお金がなくて(笑)。誰もいない辺鄙なキャンプ場に1泊500円で泊まり込みながら、1週間くらい不動産屋を回っていたんです。でも全然ピンとこなくて、毎晩キャンプ場で『どうしようか』と酒盛りをしていました」
そんなある朝、犬の散歩をしている地元のおじいさんに声をかけられた。 「山の上から見てたんだけど、お前ら何やってんだ? こんなところで泊まってるの、お前らだけだぞ」
西村: 「宿の場所を探していると伝えたら、『俺、山の上でツリーハウス作ってんだけど、遊びに来ないか』と誘われて。行ってみたら、海が見える山の中に手作りのツリーハウスがあったんです。夢のような場所でした。 色々話しているうちに、『じゃあお前ら、ここで宿やってみるか』と。作り話みたいな、運命的な出会いでした」
釘1本打てなかった男が、10年かけて作った場所
——先代のおじいさんは、どんな方だったのでしょうか?
このツリーハウスを作ったおじいさんは、元々は東京の会社で働くサラリーマンだった。親の介護で沖縄に戻り、DIYで少しずつこの場所を作り上げたという。
西村: 「沖縄にはみんなで集まって飲む『ゆんたく』という文化があるんですが、おじいさんは友人を招くために『みんなで飲める小屋を作ろう』と、釘1本打てない状態から勉強して作り始めたそうです。 壮大な計画があったわけじゃなく、大切な人をもてなすために10年かけて増築していったらツリーハウスになった。その『空間への想い』が、僕らが提供したい価値観と完全に一致していたんです」
——現在、「森の巣箱」にはサウナも併設されていますね。
西村: 「実は最初、私はサウナ導入に反対したんです。『まだブーム前だし早いんじゃないか』って(笑)。でも、楠元が『沖縄には温泉がないから絶対にサウナの需要がある!』とものすごい情熱でプレゼンしてきて。 はまかには『ゲストへの強い想いがあるなら、失敗してもいい!やってみよう』という文化があります。結果的に楠元の情熱が勝って導入し、大正解でした」
刺激を求める東京と、癒しを求める沖縄。 全く異なるアプローチでありながら、その根底には「心を込めた空間づくり」というブレない軸がある。
(第3回・最終回:はまかが求める人材像と、民泊業界の未来についてお届けします!)