こんにちは。Nature CTOの大塚です。
はじめに
2026年はじめごろ、Natureのソフトウェアエンジニアは全員がClaudeのTeam Premiumプランに移行した。
短期間で仕事の仕方ががらっと変わり、Coworkが出たときには「この変化がソフトウェアエンジニアリング以外にも広がる」という確信をもっていた。
Natureは早い時期からAI利用を後押ししてきた。2023年4月には社員が自発的にChatGPTを試す 【#chatgpt実験場】 というslackチャンネルが立ち上がり、2025年4月には生成AIツールのサブスク費用を会社が負担する制度を、エンジニア以外も含めて整えた。
Devinに誰もが質問したりpull requestを作ってもらったり、CSチームがAIチャットボットを導入したりと、AI利用が広がる流れはあった。
ただ、使っているのは一部の人にとどまり、ソフトウェアエンジニアの働き方ががらっと変わったのに比べると、全社への広がりはどうしても遅く感じていた。
同じインパクトがグロース(NatureにおけるB2B事業開発およびC向けマーケティングを含むチーム)にもコーポレートにも必ず来る。先にAgentic AIのもたらす変化と効果の高さを感じたため、どうやって全社のAI利用練度を一気にあげられるか、それにソフトウェアエンジニアチームが貢献できるか、考えていた。
この記事では実際にどうやって広げているか、Natureのソフトウェアエンジニア以外へのAI普及の取り組みをシェアしよう。
まずAI推進ロールを置く
思い返せば最初の加速は、AI推進ロール(Natureはホラクラシーという組織体制をとっていて、仕事を「役職」ではなく機能単位の「ロール」として定義している。
だから新しい取り組みを始めるときも、部署を新設するのではなく、まずロールを一つ定義して人をアサインする、という動きが軽くできる)を置いたときに始まったと思う。
2026年1月末、AI推進ロールを一人アサインした。
ソフトウェアエンジニアの中でも、とりわけクリエイティブなAIの使い方をしていて、なおかつ「全社のAI導入を加速したい」と人一倍強く考えていたメンバーだ(このロールを担った本人の話は、いずれ本人が書いてくれると思うのでここでは詳しく触れない)。
役割を明確に置いたことの効果は、想像以上だった。
一つは、アサインされた本人の気持ちが切り替わったこと。
「片手間で、まわりに気を遣いながら」ではなく、堂々と全社を巻き込んで推進していい立場になり、踏み込みが一段深くなった。
もう一つは、周りの変化だ。
「これは誰に聞けばいいんだろう」が消え、気兼ねなく相談していい相手がいるという安心感が広がった。
この推進ロールが2月に 【#aiなんでも相談部屋 】というSlackチャンネルを立ち上げた。
Natureにはもともと【 #securityなんでも相談部屋】、【#corporateなんでも相談部屋】など、各分野の「なんでも相談部屋」が根づいていて、わからないことを専門の人に気軽に投げる文化がある。
推進ロールをはじめソフトウェアエンジニアが入り乱れて質疑に答え、スキルの共有を促し、「ここでハマった」という失敗もそのまま出し合う。
質問する側も答える側も、人目を気にせず投げられる場だ。Natureのチャンネルは基本的にpublicなので、誰でも過去のやり取りを読めるし、多くのメンバーが試行錯誤している様子が共有されていく。
Natureのカルチャーにある Open――「閉鎖的なやり取りを好まず、常にオープンに情報や考えを開示する」――が、AI時代にこそいっそう効いていると思っている(Nature Culture Deck)。
AIの習熟は、つまずきや「こんな初歩的なこと聞いていいのか」をどれだけ気軽に共有できるかにかかっている。うまくいった自慢だけでなく、ハマりどころを率直に開示できる文化が、普及の速度をそのまま決めている。
リトリートで一気に火をつける
次に加速したのは、全社員が一斉に、まとまった時間をとって手を動かす場をつくったことだった。Natureでは、全社員が参加するリトリート(オフサイトの合宿)を毎年1〜2回開いている。
2026年3月13日、箱根・芦ノ湖キャンプ村に全社員で集まった。タイミングが良かった。
ちょうどCoworkが出て、Google WorkspaceやSlackのコネクタも揃い、ソフトウェアエンジニアが先に試して「これは非エンジニアの仕事でも使えそうだ」と感じていた頃だ。
日常業務の隙間で少しずつ、ではなかなか習慣は変わらない。だからまとまった時間を取って、一気に没入する場を作った。
一日の流れはシンプルだ。午前は「AI活用の現状を見つめてみよう」というワークで現在地を揃え、午後は「実際に触ってみよう・手を動かしてみよう」でひたすら作る。最後に全員が作ったものを発表し、そのままBBQへ。
スライドを見るだけの研修にはしなかった。全員が自分の手で何かを作り終えて帰る、それをその日のゴールに据えた。
リトリートの数日前から、全員にClaude Teamアカウントを発行した。アカウントの有無が「使う/使わない」の最初の壁になってはいけない。
そのうえで、ふだんは仕事を進めるための「手段」であるAIを、この日はあえて主役にした。
今日はAIを使うこと自体が目的でいい、と。
具体的には、全員をいくつかのチームに分け、各チームにソフトウェアエンジニアの中でもAI活用が進んでいるメンバーを「相談役」として配置した。
そのうえで 「AIハッカソン」 と銘打ち、「作りたいものを各自で作ってみよう」とした。
ルールはシンプルだ。詰まったら近くのエンジニア、あるいは「この人!」と思う人を捕まえて相談する。最終的に出来上がらなくてもいいので、とにかくどんどん手を動かす。
完成より、まず触る・まず任せるを最優先にした。
この日のゴールは2段階
⭐️クロード先輩を使って何かを作れた
⭐️⭐️それをスキル化できた
そしてもう一つ、隠れたゴールを置いた――「エンジニアに気軽に声をかけられるようになった」だ。
各サークルに優先順位をつけてSWEを派遣する
リトリートで全社のAI普及に一気に勢いがついた。だが、その勢いを一過性で終わらせたくない。もっといけるはずだ、と思った。AI推進ロールやエンジニアに相談してくれるのを待ってられない。
ドメインや業務フローを理解せずに外からやり方を押し付けても、効果は出ない。
どの作業が面倒で、どこに時間が溶けているかを知っているのは現場の本人だ。
AIの可能性を知るエンジニアと、業務を知る本人――この2つを同じテーブルに乗せて初めて、「この業務はこう変えられる」という具体が出てくる。
だからこの4月から、各サークル(営業・コーポレート・CSなどの職能チーム)にソフトウェアエンジニアを送り込んでいる。AI活用がNatureの成長に一番つながりそうなところから、優先順位をつけて順に入っていく。
いまは6人――バックエンドエンジニアとSREチームのメンバー――が現場に入っている。
ソフトウェアエンジニアがこの数ヶ月で体得してきた勘所を、各サークルが一から学び直すと時間がかかる。先に学んだ人間を近くに置くことで、習熟のサイクルを一気に早めたい。
各エンジニアはサークルの定例に参加したり、業務プロセスを洗い出して集中すべきポイントを一緒に見つけたり、必要に応じて社内システムを作ったりしながら、業務に密着して一緒に必要なスキルやシステムを開発していく。
これは、AI企業が顧客先にエンジニアを送り込んで一緒に課題を解く「Forward Deployed Engineer(FDE)」の発想に近い。
FDEに期待されるのは、顧客に embed し、そのドメインを理解し、現実の課題を解く解決策を co-develop すること――単発の提言を置いて去るコンサルとは違い、長期で伴走する。
FDEはいま海外のAIスタートアップで急速に広がり、日本でも注目され始めている役割だ(Palantirによる解説、Pragmatic Engineerの解説)。
これはまさに、この章の最初に書いたこと――ドメインを理解しない外からの提案は効かない、業務を知る本人とAIを知るエンジニアを同じテーブルに乗せる――そのものだ。
Palantirの記事を読んだとき、「これだよこれ、これを社内でやりたいんだ」と思った。違うのは、顧客に売るためではなく自社の他サークルのために動く点。外ではなく内に向かって、エンジニアを送り込んでいる。
そして、各サークルで起きていることをソフトウェアエンジニアチームが横串で共有し、必要な共通基盤を整備していく。それによってFDEはさらに動きやすくなり、各サークルのAI活用が加速する。
まとめ
これらの取り組みを進めていて一番の収穫だと感じているのは、業務が速くなっていくこと以上に、職種の壁が両側から溶けはじめたことだ。
非エンジニアがソフトウェアエンジニアに気軽に話しかけられるようになった――それは実際に起きている。
そして想定以上だったのは逆向きの変化で、エンジニアの側も、自分のサークルを越えて他職種の仕事に関わり、影響を与えることへの抵抗をなくしていっている。
AIによって誰もが誰の業務でもある程度のレベルでこなせるようになる。
誰もがコードを書いて、デザインができて、営業資料が作れる、マーケティング施策が立てられる、在庫管理ができて、カスタマーサポートができる。
専門能力が高い人がレビューやブラッシュアップを手伝って高いレベルに仕上げる。
そういう時に、自分のスコープを定めず広く捉えて仕事できる人がより活躍できると考えていて、そういう人が増えているのを感じる。
おわりに
Natureは、ミッションに共感し、一緒に自然との共生をドライブしていく仲間を募集しています!募集ポジションについては、採用情報をご覧ください!