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スタートアップビジネスの潮流は
Web・ソーシャルからものづくり・研究開発へ
日本のものづくり復権を目指し、支援を本格化
少し前までは、スタートアップといえばWeb、ソーシャル系が主流だった。だが今、時代の潮目は変わりつつある。様々な社会課題を、ものづくり・研究開発で解決しようとする新たなビジネスが生まれている。投資家も注目し、「金」は集まっているが、問題は「人」がいないこと。この領域で、世界で勝てる企業を輩出するために、for Startupsが立ち上がった。
■注目を集める「ものづくり・研究開発型スタートアップ」
for Startupsでは、なぜ今、ものづくり・研究開発型スタートアップに着目しているのでしょうか。
神宮司
今、スタートアップのビジネスが一周して、次に向かっています。2000年代半ばから2010年代前半はWeb系、ソーシャル系のビジネスが主流でした。そこで成功した人たちが一定の富を築き、投資家側に回る、あるいは次のチャレンジを考えたとき、テクノロジーで社会問題などの様々な課題を解決するビジネスを志向する方向へと、時代の潮目が変わって来ています。
一方で、既存の大企業からはイノベーションが生まれづらい。そこで事業成長性があり、課題を解決するという社会的欲求も満たすスタートアップに、お金が集まりやすくなっているのです。グローバルではそのようなトレンドがあり、日本も今、それに追いつこうとしている状況だと思います。ものづくり・研究開発型のスタートアップへの投資は、投資件数も1社あたりの投資金額も、ともに増えています。
ただし、事業成長する上で、お金だけでは不十分で、両輪で「人」がいてこそ、よりインパクトのある事業になります。どちらが欠けてもダメなのですが、今は圧倒的に「人」のほうが足りていない。優秀な人材が、ものづくり・研究開発型のスタートアップへと向かう流れを作りたいという目的で、for Startupsでもチームを立ち上げたのです。
チームと言っても…
神宮司
まだ2人ですが(笑)
結城さんは最近、for Startupsにジョインしたばかりです。ご経歴と参画の経緯を教えてください。
結城
理工系の大学院を出て、大手光学機器メーカーに入社しました。約6年、機械設計業務に従事した後、社内公募に手を挙げて新規事業開発部門に移りました。その後、経営戦略部門に異動し、オープンイノベーションの文脈でスタートアップ加速支援や社内起業家支援制度を立ち上げ、運営していました。その流れで、スタートアップの成長を加速、支援するfor Startupsのビジョンと活動に共感し、ジョインしたという経緯です。
というのも、その社内起業家支援のプログラムでは、チームではなく個人で応募してくるプランも多く、そのチーム組成を手伝うなかで、アイデアから事業を起こし、成長させるには「人」が重要だと感じたからです。会社に残って社内から起業家を出すのではなく、外に出ることを選んだのは、チャレンジできる環境がほしかったから。大企業で取り組むことの限界を感じてしまったのです。
それはどんなことでしょう。
結城
一般的に大企業では、社会的影響の大きさや株主、社員といったステークホルダーへの責任などから、アイデアを事業化するには幾重ものハードルが存在します。私自身の裁量も限られるなかで、自分の力を市場に対して存分にぶつけることができない感覚がありました。実際、私自身、社外のビジネスコンテストに出して、表彰を受けたアイデアも持っていたのですが、社内で事業化への許可は出ませんでした。市場に出して、成功や失敗の経験を積みたかったのですが、無理でした。
恐らく、私のような思いや経験を持っている人は、世の中にたくさんいると思います。社外に目を転じれば、そのような人が活躍できる場はあり、その一つがものづくり・研究開発型スタートアップです。一人でも多くの人が、そのような場で活躍できるように支援をしたいと思っています。
■メーカーからスタートアップへ。「こんなに楽しい世界がある」と活き活き
神宮司
元々やりたいことがあってメーカーに入ったのに、中に入ってみると、いろいろな力が働いて、自分が目指していたこと、やりたかったことが見えなくなる―というのは、よくあることだと思います。私たちが、一歩外に出る選択肢を示したいという思いはあります。
例えば先日、とある研究開発型のスタートアップへの入社を支援した方がいます。その方はメーカー出身で、社内でいろいろな活動をしたものの思うようにいかず、勝負に出て、まだ10人ほどのチームにジョインしたのです。彼は転職後、私に「なんでもっと早く出なかったんだろう。こんなに楽しい世界があるんですね」と言っていました。今、とても活躍しています。それは、転職してその方の能力が劇的に上がったわけではなく、その方の能力を引き出す環境が、そのスタートアップにあったからです。
あまり適切な例えではないかもしれませんが、雑巾を水に浸して絞ったとして、絞り切るのがスタートアップで、大企業は、絞り切れていないヒタヒタの人もいるというイメージです。力はあるのに、力を出し切っていない。それがすごくもったいないと思います。
もっと、みんながスタートアップに移ればいいと思いますか。
神宮司
もちろん、みんながみんな、ギューギューになるまで絞り切りたいわけではないでしょうし、誰もがスタートアップに移ればいいとも思っていません。私たちは、スタートアップのメリット、デメリットをきちんと伝えた上で、ご本人に判断してもらいたい。でも結果として、決断してスタートアップに行った方は、すごく活き活きしているとは感じます。
結城さんは、実際、大手メーカーからスタートアップのfor Startupsに移って来たわけですが、どうでしょう。働き方やスピード感は違いますか。
結城
全然違いますね。先ほど、アイデアを事業化できなかった話をしましたが、やはり、何かをやろうとするとあちらこちらに確認が必要で、その挙句にできないということが多いです。それは、幾重ものリスクヘッジを必要とする大企業である限り、仕方のないことだと思います。それに対してfor Startupsは、「やっていいか」という確認は不要で、自由にトライアンドエラーを繰り返せる環境があります。自分の行動も脳も、フル回転させながら走っているような感覚で、私も「もう少し早く出ればよかった」と思います。
体力的には、前職より大変ですが、心理的ストレスは少ないです。様々な調整に労力を費やすことなく、市場にまっすぐに向き合えるので、もし結果が出ないとしたら、自分に足りない部分があると自覚できるからでしょう。目指すことに対してシンプルです。
神宮司
そのスピード、フットワークの軽さが、スタートアップに期待されている点であり、スタートアップ側も、それが大企業との最大の違いだとわかってやっていますよね。大企業とスタートアップが組むケースも多いですが、これも、大企業は、万が一失敗すればスタートアップのせいにしてリスクヘッジでき、一方でスタートアップは、大企業から資金を得て、もう進むしかないという覚悟で取り組む。双方にメリットがあるのですが、両者の気質はまるで違います。
本来、エンジニアの方は探求心や、文明を進めていきたいという欲求のある方たちだと思うので、本質的にはスタートアップが性に合っているのでしょう。ただ、家族がいたり、周りとの関係性もあるなかで、ストッパーが働いてしまっている感じはします。
ものづくり・研究開発型のスタートアップで成功した!と言える企業は、恐らくまだありません。これから成功しそうな会社はありますが、まだ歴史の浅い領域です。でも、ゆっくりはしていられません。ここで成功と言える企業を作らないと、5年後、10年後に「日本のものづくり、研究開発のスタートアップはだめだな」となってしまうので、今、スタートアップに来る方は、大変な使命感をもって取り組んでいると思います。そのような方々を成功させることは、今後の日本の成長を左右する分岐点にもなると思うので、私たちも全力で支援していきます。
■夢は1兆円企業創出。キーマンとなる人材採用が鍵に
チームを立ち上げ、本格的に取り組むにあたり、どのような世界を実現したいと考えていますか。
神宮司
極端なことを言えば、時価総額1兆円の企業を作るというイメージです。世界で活躍できるものづくり・研究開発型スタートアップをどんどん作る。まさにかつてのソニー、トヨタ、キヤノンのような会社です。
そのためには企業側、個人側の両方への活動が必要で、まず企業側は、キーマンとなる人の採用を支援すること。CXOと呼ばれる方たちや、ものづくりの本流にいるエンジニアの方たちなど、知見を持つ方にスタートアップに来てもらうよう、注力していきます。
そして個人の側は、そもそも転職を考えていない方にリーチしていかなければいけないと思っています。終身雇用や大企業特有のジョブローテーションなどもまだあり、基本的に皆さん、「その会社で35年間をどう過ごすか」と教育されてきています。その固定観念を、まず取り払う必要がある。
結城さんは、そこに疑問を持ったから出てきたわけですが、その疑問に自分で気づく人と、誰かに背中を押されて気づく人がいます。前者の自分で気づける人は、私たちが働きかけなくても、遅かれ早かれ、外に出るなど何らかの行動をとるのです。だから、私たちが最初にやるべきことは、後者に、気づきを与えることだと思います。
結城
外に目を向ければ、活躍の場は確実に広がっています。今、メルカリやDeNA、GoogleなどWeb系で成功した会社も次々と、ものづくり系の研究に乗り出しています。未来を見据えて、R&Dの方向に動いているのです。既存のメーカーより、IT企業のR&Dのほうが、研究開発が速く進むのではないかと思います。今までのITのサービスで培ったスピード感と検証スタイルを持ちつつ、お金もありますから。それを自分たちのコアな領域に投資できるので、うまくいくのではないでしょうか。
今、メーカーなどにいる方々は、自分たちの活躍の場が広がっていることを認識しているでしょうか。
結城
知らない方も多いと思いますし、「自分には無理だから」と自分に制限を設けてしまう方も多いように感じます。実力がないのではなく、「無理だから」と言って短期的な視点で居心地のいい場所にいることを選んでいる印象です。だから、私たちが彼らに、活躍できる場所があると気づかせることが大事だと思っています。また、居心地がいい今の会社も決して安住の地ではないわけです。
神宮司
メーカーのリストラがしばしば話題になりますが、いざ会社から「出て行って」と言われてから、「自分はどうしたらいいだろう」と考えるのは非常に辛いと思います。日頃から外の世界を見て、社会とつながっていれば、誰かが「ウチでやろうよ」と声をかけてくれるかもしれない。そのような世の中にしたいと思っています。
でも、外と交流させないようにしている会社もまだまだ多いですね。個人を会社に縛り付ける反面、その人が抜けても支障なく回るように、会社は常に替えが利く存在を作っています。事業継続性から考えると当然の姿ですが、個人の生き方から考えると、自分はいくらでも替えが利く存在だとは思いたくないですよね。世の中から絶対に必要とされる存在だと、自分で言えるようになれれば困らないわけですが、そのような人はまだ少ないでしょう。でも、確実にそのような人も出てきて、自分で行動している。
そこに気づいてほしいし、for Startupsが気づかせたいのですね。
神宮司
そうですね。
■日本をもう一度輝かせたい。そう思う人はfor Startupsへ
ものづくり・研究開発型スタートアップを盛り上げていくためには、for Startups自体も、まだまだ人が必要です。どのような方に来てほしいですか。
神宮司
世の中を変えるのは、単純な数の論理ではない―と気づける人でしょうか。お金を持っているのは大企業ですが、アイデアは個人が持っている。個人の単位で、世の中を変えるきっかけを作れる会社は、実はたくさんあるのです。「替えの利かない個が集まって、世の中を変える会社が増えていく」という世界を、一緒に作っていこうと思える人に来てほしいです。そのような会社が一社でも増えて、成功するのに寄り添っていける人。利他的な欲求がある人がいいですね。
for Startupsで活動をするなかで、自分のやりたいこと、作りたいものが見つかって、自分で会社を興したり、近い思いを持つ人と一緒にやっていくというのでもまったく構いません。支援する側から自分でやるほうに回ってもいい。
結城
私自身も、まだ入社して間もないですが、for Startupsで一緒に働くなら、エンジニアでもそれ以外でも、何らかのバックラウンドを持ちつつ、成長産業や人に対してすごく興味があって、自分の専門以外のことも広く、時には俯瞰して見られる人がいいと思います。
なぜメーカーがうまくいかないのかと、疑問を持っている人に来てほしいですし、一緒に考えていきたいです。Apple、Google、Facebookなど、今、自分たちが使っている製品やサービスが、ほとんど日本製ではない現状に不満を持っている人なども。その状況から何とか日本をもう一度輝かせたいと思っている人がいいです。
神宮司
文系、理系は問いません。ものづくりやテクノロジーに興味を持っていれば。スキルセットよりも、日本のものづくりへの思いや共感が大事で、行きつくところはやはり人への興味でしょうか。「人」の力で、世界で戦えるものづくり・研究開発型スタートアップを、一緒に生み出していきましょう。