佐藤 允紀|CMO兼プロデューサー|2014年f4samurai入社
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S|Live2Dリーダー|20018年f4samurai入社
f4samuraiの手がけたヒットタイトルのプロデューサーでありCMOの佐藤と、Live2Dチームリーダーでストーリー内のキャラクターデザインを守るS。二人はそれぞれ異業種出身で、佐藤は元銀行員、Sは書店員だった。
何を思ってf4samuraiにたどりついたのか、そしてどこを目指して仕事しているのか? この会社だからできること、ゲームづくりにおける他に負けないこだわりは何かを語ってもらった。
彼女の加入は、制作上の
起死回生の転機となった
――Sさんは凄腕のデザイナーだと伺っています。いま携わっているタイトルにおいては「Sさんにしかキャラクターのラフが切れない」のだとか。
S「ふふ。いえいえ。あの、わたしがそのプロジェクトに入ったのって制作の後半フェーズなんですよね」
佐藤「Sさんが所属しているのは、原作者の方々からの原案であったり、TVアニメの設定を基にして、ゲーム用のキャラクターデザインをして、Live2Dという技術でストーリー内で動かしていくチームなんです。元の原画がありつつ、それをどういうゲームに落とし込むか、動かすかっていうのを、開発段階で試行錯誤してました。f4samuraiとして他社に負けない絵とモーションのクオリティを出したいと奮闘はしていたものの、やっぱりキャラの顔がですね……こう、絶対にこれだっていうものに仕上がらない。似せたいし、カッコ良くしたいのに何が違うのか、っていう……」
S「その頃がわたしの入社タイミングなんですよね」
佐藤「そう。その量産に向かっていく段階でSさんに入ってもらって巻き返しを図ったんですよ。いやもう、すごかったんですよ。その時点でトライアルとして3社にお願いしてたんですけどね、やっぱりね、何かが絶対的に違うというか。」
S「ありがたいですね」佐藤「後工程のモーションはチームや協力会社さんのラインで分担しつつも、上流の元になる原画のクオリティはSさんが担保するっていう体制を敷くことになり、ビシッと決まりました」
顔にメイクを施すように
キャラの「らしさ」を引き立てる
――その、Sさんが入って格段に絵が変わるっていうのは、どういう感じなんでしょう。Sさんは何をされるんですか。
S「なんていうんだろう。若干ぼんやりしちゃった顔を魅力的に直すんですよね。人間ってメイクするとパーツの輪郭がシュッとくっきりして、何割かよりきれいに見えるじゃないですか。その人らしさが際立つというか。絵も同じなんですよね。ぼんやりしたものが、少し線を変えるだけで鮮やかになるんです。パーツっていうよりは全体のバランスを整えるんです。パーツごとに似せるっていうのはわりと簡単なんですよ。でも人間の脳が『似ているかどうか』『本物かどうか』をパッと判断するのは、パーツではなくて、全体のプロポーションとか配置、比率、組み合わせなんじゃないかな」
佐藤「Sさんが入社して最初は、Live2Dのデータを減色作業を通して理解していただいたり、まずはそんなところから入ってもらって、で、先生の原画をベースにラフを描いてもらってその忠実さというか再現度にみんな『おおっ、これは!』ってなって。もちろん、採用面談のときに持ってきてくれてたポートフォリオから期待はされていたんですけど」
採用時のポートフォリオを見た時から
活躍は目に見えていた
――Sさんは前職では何をされていたんですか?
S「前職でもゲーム会社でイラストレーターをしていました。いろんなスマホゲームを触っている中でLive2Dでの表現が特に気になっていて…プライベートではCubismに触れてみたりと研究していました。マギレコも触っていたのですが、たまたま友人がエージェントでf4の担当をしていて、もしかしたら受け入れてもらえるかもしれないから相談してみるという流れからトントン拍子で入社が決まりました」
佐藤「なつかしいですね。採用面談のときに、拝見させてもらったポートフォリオをいまでも覚えています。指先や手がすごくバランス良く描かれているしキャラ一人一人の個性も魅力的に描かれている。SさんならLive2Dチームで活躍するだろうなと思いましたね」
――採用で見てるポイントってどんなところでしょう?
佐藤「弊社でLive2Dを制作している中で一番力をいれているところは原画制作です。ストーリーの中で常に見続けるものですし、無駄にモーション付けや捻転をさせずに、あくまで原画とキャラクターの表現ありきで、モーション工程を進めています。アニメーターやイラストレーターの経験者でLive2Dという新しい技術にも興味がある方、とお話をしています」
S「Live2Dを触ってたかどうかは見てないですよね。もちろん多少でも独学で勉強している方をみると良い印象を持ちますが、イラストを描き起こす力とかの方が身に付きにくいので見ていますね」
地元で書店員から思い切ってキャリアチェンジ
――前職のコンシューマゲームの会社に入るまではどんなキャリアを?
S「それが、わたし地元で書店員やってたんですよ。4、5年やって、接客、品出し、後輩の指導、レジ打ち、在庫管理……もう本当になにからなにまでやってました。あ、このままいくとわたし次期店長だな、っていうのがわかってきて、これでいいのかなって思って、ふと挑戦してみたくなったんです。絵は好きでもともと趣味で描いていたんですけど」
佐藤「Sさん、学校は通ってたんですか?絵の学校」
S「いえ、子どもの頃からお絵かきが好きだったんで、高校出て絵の専門学校にいこうか迷ったんですよ。いきたいという気持ちはあった。でも親に反対されて、普通に大学に進んだんです」
佐藤「Aさん(イラストチームのリーダー)も特に絵の勉強はしてないんだってね。新卒でSIerに入社して、でも趣味で絵を描いてて、結局それが本業になっちゃった。他人の原画を元にして、それを魅力的に描くのがうまいんですよね。あれはプロとして求められるうまさですよね。でもSさんもすごいよね、そのタイミングでチャレンジしようっていうのが」
S「キャリアを考えた時にいま挑戦するしかないなって思ってそれで転職しようと決めて。大学のときに知り合った絵を描いてる友達がいて、その人が東京のコンシューマゲームの会社に勤めてたんです。その時点ではわたしは全くの素人だったので、そこにアルバイトで入れてもらって1年半くらいやって、やがて契約社員に登用してもらって」
佐藤「絵で生きていこうって思い切りが必要じゃない」
S「でも、そのために上京したので、描くしかないですね」
――すごいジョブチェンジですね。絵で生きていくと決断したSさんと、そのご友人がいなければ、いまのLive2DのSさんは存在しないわけですね。
S「ふふ。やってよかったと思ってます。あのとき絵を描くほうに進んでよかった」
原画を忠実にゲームで再現
そこに喜びを感じている
佐藤「あのー、Sさんが楽しいことって何ですか?」
S「えっ。なんですか、突然」
佐藤「いや、僕、プロデューサーとしてちゃんとSさんに楽しいことを提供できてるかなって思って」
S「あー。そういうことなら、わたし、この仕事やってること自体が楽しいですよ」
佐藤「自分でキャラデザやりたいとかないんですか?」
S「やー、そういうのはあんまりないんですよね」
佐藤「だってほら、キャラデザってゲームの顔じゃないですか」
S「うーん。でも原作があって、原作者の方の原画があって、そこをユーザーさんが思い描いているビジュアルってあるじゃないですか。ゲームだったらこんな顔、こんな姿で、こんなふうに動くんだろうなっていう。
そこをいかに再現して、提供して、ユーザーさんに喜んでもらえるか。わたしはそれがうれしいんですよね。喜びです」
佐藤「すごいですね。f4でのLive2Dの職務とSさんがやりたいことがはまってますよね。原画を生かした絵を描いて、指定して、それを動かすわけだから。僕としても、会社としても、すごくありがたいですね、それは」
S「楽しいんですよ。だから家でも描いてるんです。ひとりでジェスチャードローイングしてます」
――ジェスチャードローイングってなんですか?
S「人物が動いてるところを2、3分でさっと描く練習です。筋トレみたいなものですね。仕事でゲームのLive2Dの絵をメインで描いているわけですけど、それだとキャラの立ってる姿ばかりになってしまうので、腕が鈍っちゃう。だから、しゃがむとか走るとか、いろんなポーズを描く練習をひとりでササっとやっています」
佐藤「家でも筋トレかぁ……。すごいな」
1枚の原画からさまざまな
角度のキャラを描き出して
「人物」に仕上げていく
佐藤「オルサガの絵をやってくれたAさんにしても、Sさんにしても、うまいんですよね。自分の絵を描ける方って、似せることもできるというか、元に似せて、いろんなポーズや向きに展開して、さらにそれをイキイキと動かすというレベルまではなかなか達しない」
S「そうですね。全体のバランスがポイントなんだと思います。ひとつずつのパーツを似せても、全身像として統合されたときに似てないみたいなことがあるので、そうならないようにひとつの絵としてちゃんと独立したものにする」
――原作があるIP作品だと描き起こしても「似ていない」と戻されることは当然あるわけですよね。その辺り、ストレスは感じないんですか?
S「ああ、それはわたしは全然大丈夫ですね。直しとかもまったくつらくないです。なるべく忠実に原作者の方の思いを具現化したいっていう気持ちなので。それでもってできるだけユーザーさんの思い描く通りにキャラを動かしたいですね」
佐藤「こだわりのポイントが、もう職人だよね」
銀行で投資に携わる日々から一転
歩んでいるプロデューサーの道
――プロデューサーを務める佐藤さんのほうは、これまでどんなお仕事をされてきたんですか?
佐藤「僕も元は異業種からの転職です。投資銀行が新卒で入社3日目から日またぎの残業が当たり前、土日も出社して働きづめで、それで疑いもなかったし満足してました。なにかを勉強する、吸収することが仕事の大きなパートを占めていて、短期間でお客さまや、お客さまが商売をされている業界のことを徹底的に理解して、距離を縮めて商談を進めさせてもらうっていう。いろんなものを吸収すること自体がライフワークというか。でもだんだんと、お客さまの目をとおしたら「自分は何も分かっていない」と感じることが増えてきて…自分自身がサービスづくりに深く関わり、サービスを通じてユーザー(お客さま)に喜んでもらえたら、と思うようになり、たまたま社長に誘われ移ったのが地元のゲーム会社でした。最初は、経営企画、マーケティング、宣伝、海外への営業みたいなところから入り、プロデューサーが逃げだした後のチームを建て直しながらゲーム開発運営そのものにキャリアが寄っていって、そんな時に代表の金に誘われてf4samuraiにきたんです」
――実際サービスを提供する側になってどうですか?
佐藤「どうだろう。ひとついえるのは、いまの僕の重要な役割っていうのは『プロジェクトをうまく成功させる』ことと同時に『参加メンバーの自己実現をかなえる』ってことでもあるんですよね。この両立って大事だけど、どっちかだけでもダメなので、それが大変なところでもある。だから、さっきSさんがお話ししてくれたようにSさんの『原案の先生の絵や世界観を忠実にゲームの上に実現したい』っていうモチベーションというのは、プロジェクトの求めていることともう完全に一致してるじゃないですか。それは本当にありがたいことですけど、そうじゃないメンバーがいたっていいはずで、その場合に僕がどこまで動けるかですよね。そういう点で『シナリオライターとしてやっていきたいけど、自分はここではやってけないんじゃないか』とかね、やりたいことと求められることの不一致で苦しむ人も多いんですよね。それはどんな職業でもそうかもしれないけど、クリエイターという『表現』に関わる職種では特に起こりやすいし苦しむだろうと思います」
S「そうですよね。ゲーム業界だと多くの人に起こりうる苦しみかもしれませんね」
佐藤「だから僕は、プロジェクトに関わっている人間が、本人が納得できるように成長できているかどうか、が自分の勝負どころだと思っています。プロジェクトを成功させるために僕がメンバーをうまく利用した、みたいなカタチになるとダメだと思う。まあ、そう割り切れるとうまくいくのかもしれないですけど、あえてそこは客観的になっちゃいけないと思ってます。やっぱりプロデューサーとしては、プロジェクトのゴールを見ているのはもちろんのことだけど、メンバー個々人の実現したいことにちゃんと肩入れしてなくちゃいけない」
男性キャラのLive2D表現で
第一人者を目指したい
――Sさんは今後、何をさらに磨いていきたいですか?
S「そうですね、業界的にLive2Dはこれからどんどん伸びていくとは思うんですが、男性キャラのLive2Dがきちんとできる人材ってまだ少ないと思うので、そこは極めたいと思っています」
――Live2Dで絵を動かすとき、女性キャラクターだと、多くの場合スカートの裾が広がる、動いて胸が揺れるなどの定型がありますよね。では、男性キャラを動かして魅力を増幅させるには、どんな手法があるんでしょうか。
S「そうそう。おっしゃる通り、揺れものが多いほど見栄えがしやすいんですよ。一概には言えませんが、男性キャラってたいていの場合、髪が短かめだったり、衣装の揺れる部分も沢山あるわけじゃないので。なのでまず、原画が素敵であることが重要です。身もふたもないですけど(笑)。かっこいい絵が動いてこそのかっこよさですから。
それで、実際の動きはやっぱりアイドルとか俳優さんとか現実に存在する『かっこいい人』の『かっこいい仕草』を参考に、真似させてもらっています。ポージングについては典型例を挙げると、いわゆる『首が痛いポーズ』(手を首筋にあてて小首を傾げる、2010年代前半から乙女ゲームを中心に普及しだした男性のポーズ。首痛ポーズ、首痛いポーズともいう。現在ではリアルのモデルさんの写真や男性のInstagramなどでもよく見られる)なんかは頻出ですね。それと、ちょっとこう重心が斜めになってるとか、片足に重心かけるとか、立ち姿を少しアシンメトリーにする。
あとは特にユーザーさんは、キャラクターの顔を注目して見るので、手を顔の周辺に持ってきて感情のニュアンスを添えるということが重要かな、と考えています。手に仕事をさせるんです。あとは逆説的に聞こえるかもしれないけど、ムダに動かさないことがかっこよさの実現にとっては大事なんです。止めるところは止めて、動かすところを絞って目線を誘導することがポイントだと思います。
よく『自然な動きですね』って褒めていただくんですけど、もし自然に見えるとしたら、それはムダに動かしていないからです。可動範囲は大きいんだけれど、ムダにゆらゆら揺らさない。あとは硬いものは硬く動きがないように表現する。変にひねらない。動きのメリハリと予備動作と反動をきちんと入れる。そうすることで自然なかっこよさを表現しているつもりです」
――f4samuraiにはSさんのような職人気質のクリエイターがいて絵のクオリティを担保しているということは重々伝わってきました。今後Live2Dチームをどうしていきたいですか?
S「タイトルのコアとして動ける人員を増やしていきたい。どんどんみんなに成長してもらって。あとは新しい方にもぜひきていただきたいです」
キャラの内面だけでなく
相互関係まで設定して世界観を築く
――作品の世界観を構築する上で気をつけているポイントはありますか?
佐藤「それは、キャラクターの個性をどう出すかですね。普通の頭身のキャラだけじゃなくて、SD(スーパーデフォルメ:ちびキャラ)もだし、シナリオ、テキスト周りも含めて、キャラづくりって奥が深いんだなといまのタイトルでは改めて思い知らされました。ビジュアルという意味に限らないキャラ造形ですね。シナリオ周りのことで言うと、キャラAは、キャラBに対しては「〜くん」と呼ぶけれど、Cに対しては「〜さん」と呼ぶ、一方でキャラDに対しては呼び捨てにするなど、対人呼称をきちんと決めておく。そうすることで、関係性が表現できますよね。ただ、人数が人数なのですべての呼称を設定すると途中でこちらも間違えかねない(笑)そこは錯綜しないようにちゃんとマトリクスをつくって表で管理しています。他のキャラとどう影響を与えあっているのか、その関係値の見える化をここまでやっている会社って、あまりないんじゃないかな。表情、つまり感情の表出度合いもなるべく言語化、数値化してメンバーで共有できるようにしています。SDだとちっちゃいんだからどうでもいいとは思わずに、SDの状態でもこの子は感情表現がうまいとか、こっちは好きな気持ちはあっても感情表現が下手だとか、そういうのを決めてマッピングをつくって管理しています。感情表現、勉強、スポーツ……いろんな尺度についての強弱を全員がかぶらないように数値化していて、その積み重ねもキャラクターを構成する要素のひとつなんですよ。こうすることでどのキャラがどんなタイプなのかつくり手全員で理解が深まりますし、キャラ単体の性格だけじゃなくて、キャラクター間の相互作用みたいなものも醸し出されるんじゃないかな。
こういうやり方もできるっていうのは今回の学びですし、キャラの設定や性格のディテールを緻密に組み上げることで、より作品世界に奥行きを与えられているんじゃないかと考えています」
固有の仕草や動きをつけて
キャラの「らしさ」を追求
S「ああ、そういう意味ではキャラごとのモーションもそうですよ。それぞれのキャラを確立させるために、固有のモーションを人物ごとにつけています。このゲームでは登場人数が無限にどんどん増えていくわけではないって当初に聞いたので、それならばきちんとキャラクターごとに動きの個性も持たせようと考えました。
そこで、キャラごとに動きのクセをつけているんです。この動きはあの人だな、この仕草がこのキャラらしいな、と無意識にユーザーさんに感じてもらえるといいなと思っていて。リアルの人間もそうですよね、顔立ちやプロポーションもさることながら、姿勢や仕草でその人らしさが形づくられていますから。ただし、キャラクターに着せる衣装によってその作品のLive2Dモデル仕様と折り合いが良くない場合もあって、共通の汎用モーションにせざるを得ないと判断することもあります。極力キャラクターごとの固有モーションを維持しつつも、やむを得ない場合は固有モーションよりも見栄えを優先します。一人ずつにちゃんと動きを持たせて、それがそのキャラならではの固有の動きとなって、キャラの存在感を増してくれる。そしたらもっとキャラがユーザーさんにとって価値を持つものになるんじゃないかなと思います。そうやって作品世界を本物らしくしていくことが、わたしの仕事なので」
佐藤「そうそう、本当に、Sさんみたいな人がいてくれて、もちろんメンバー全員がですけど、作品世界を立体的につくり込もうとディテールにまでこだわることで完成しているゲームなんですよ。だから僕もそういうみんながプロジェクトや会社のために仕事しつつも『自分のためにやってる』『これが楽しい』って思えるように、努力したいです。そしてそんな僕たちと一緒に働くメンバーを募集しています!Live2Dも募集していますし、プロデューサー・ディレクターも募集しております。新しいメンバーを迎えてより良い作品をユーザーさんに届けられるよう体制を強化していきたいです」