昨年末、フランスの2つ星レストランで修行を積んだ料理人の富山知樹さんがデイブレイクに参画しました。ラボチームリーダーとして、これまでデイブレイクが蓄積してきたノウハウを、プロ目線で現場のオペレーションやレシピに落とし込む富山さんの入社は、デイブレイクのイノベーションだと期待されています。異色の経歴を持つ富山さんのヒストリーと冷凍で実現したい食の未来について聞きました。
一流フレンチ、ホテル、給食。色んな料理人を経験したことが、ここで開花しつつある
ラボチームリーダーの富山です。元々料理人をやっていて、フランスの2つ星レストランで修行を積み、国内で現場を経験した後、管理栄養士の資格を取得しました。デイブレイクは、食材選定から加工、調理、凍結、保管、保存、解凍。これらを全方位的にサポートするスマートフリーズを提唱していますが、ラボチームは、テクノロジーと掛け合わせる「ノウハウ」を開発する部門。研究を元に食材の特性を理解し、特殊冷凍技術の最適化、品質の最大化に導きます。凍結実験/研究を中心に、導入事業者の冷凍ビジネスを支援するアフターコンサルや、「デイブレイクファミリー会」の食材研究も担当しています。
数多いる料理人の中でも私がデイブレイクにより貢献できる要素があるとしたら、一流レストランとホテル、給食(病院食)の現場を経て、作る相手、メニュー、一緒に働く人。これらが全く違う世界を一通り経験しているところかもしれません。「冷凍を使って課題を解決したい」「新しい冷凍ビジネスを開拓したい」とデイブレイクに集まる事業者の業態は本当に多岐にわたるので、色んなタイプの料理人を経験したことが、ここにきて活きている。料理人(作り手)の感覚や視点を活かして、セールスとはまた違う立場で携わらせてもらっています。
飲食店を営んでいた祖母の影響で料理をふるまう喜びに触れる
料理を始めたのは幼い頃。祖母との思い出がきっかけです。両親が共働きで祖母と過ごす時間が多く、元々飲食店を営んでいた祖母がご飯を作ってくれたり、一緒に料理をして家族にふるまうことがありました。ひと手間ひと手間で美味しくなる料理の面白さ、家族や大切な人に食事をもてなす喜びを覚え、将来は料理の道に進みたいと思うようになりました。
調理専門学校で1年間基礎を学んだあと、まずは本場のもの、本物を見ようと、フランスへ留学。フランスリヨン地方の2つ星レストランで、見習いとして働き始めました。料理の修行では、まず一番簡単な作業から任されて、それが完璧にできるようになったら、次に何をやればいいか(何をやらせてもらえるか)アピールします。留学は1年だけと決まっていたので、できるだけたくさんの持ち場を経験したくて、見習いの中で誰より早く次に進もうと必死でしたね。お陰で玉ねぎのスライスは15秒で1玉できるようになり、今でも特技です(笑)
フランス2つ星レストランで修行。正確に、早く。叩き込まれた一流の基盤
リヨンのお店は、2つ星と評価されるだけあり、何事にも丁寧なお店でした。〇粒をこの配置で盛り付ける、1ミリ角で切るとか、お皿の隅々まで、研ぎ澄まされたシェフのデザインが描かれていました。そのお陰で鍛えられたのが、正確に早く作業する技術。「いかに正確に、早く仕上げるか」がフランスで働いていた頃に意識していたことです。
また、休日はひらすら食べ歩き、毎回お店の厨房を見せてもらっていました。日本人男性が一人で食べに来ている時点で、料理の修行人だと気づかれましたね。一流の感覚を叩き込まれたフランスでの修行はとても楽しくて。帰国せずそのまま働き続けたいと思ったくらいです。
帰国後は、自分が好きな味の店で働きたくて、10軒以上食べ歩いて東京青山のフレンチレストランに決めました。環境はフランスの店と同じくらい、もしかするとそれよりも厳しかったですが、伝統的なフランス料理は、仕組み、味付け、メニュー、厨房で飛び交う言葉まで、本場と同じです。出汁の取り方や食材の扱い方はシェフによって違うので捉える必要はありますが、フランスでの修行のお陰で、前菜からメインまで、1年半で一通り任せてもらえましたね。
ホスピタリティを重視するホテル。充実している一方、社会的地位の低さから、食への携わり方を転向
フレンチレストランで一通りの持ち場を経験した後、また新しい料理の世界を見てみたいと思い、以前から興味があったホテル業態に進みました。会員制のホテル(株主限定の高価格帯ホテル)に就職し、所属はホテル内のフレンチレストランでしたが、朝食ビュッフェやパーティーの準備にも積極的に参加し、これまでにやったことのない大量調理や、専門学校以来の和食中華、イタリアンもやらせてもらいました。ホテルは時間帯によって忙しい部門が偏るので、ホテル内の料理人が総動員でパーティーの準備をしたり、空き時間は互いに助け合います。「ホテルで過ごす1日の幸せ、居心地の良さをみんなで創り出す」というホスピタリティを軸に行動するのが、ホテルの姿勢でした。
ホテルでの仕事はやりがいがありましたが、美味しさを追求するだけでなく、食を通した健康や食育の方がこれからの世の中にフィットするのではないかと考えるようになりました。また、料理人の社会的地位の低さ、賃金の低さに、将来性が無いと感じるようになったのもこの頃です。食にはずっと携わりたいけれど、このまま料理人として上を目指すのではなく、別のアプローチをしようと、栄養学を学ぶことを決めました。
食を通じた健康に目を向けた病院食。無駄をなくし、働く人に寄り添う
専門学校で栄養学を勉強し、管理栄養士の資格を取るには現場経験が必要だったので、給食受託会社に就職しました。そこでは病院食を担当したのですが、これまでの現場とは180度違い、作ること以外の業務が多く、献立作りはもちろん、現場統括として従業員への指示や、人件費や仕入れなどのコスト管理も任されました。献立作りは、これまでの味や見た目で喜んでもらう料理とは全く異なる、栄養素、カロリーを計算した料理。使う食材や予算も限られていて、本場のレストラン修行をさせてもらった立場上、作るメニューや仕上がりに対する葛藤はすごく感じましたね。
また、一緒に調理をする従業員は料理人ではなくパートさんです。できることもかかる時間も、プロとは当然違います。どの作業に何分かかるかを割り出して、作業時間の均一化をはかり、スケジュールを細分化して伝えるなど、円滑かつ効率的に進めるためのオペレーションを、少しずつ構築していきました。また、今デイブレイクのアフターサポートでもよく提案させていただく、計画生産体制も構築。いかに「人の動きに無駄をなくすか」を意識して、オペレーションや従業員の労働環境の改善、仕入れの見直しなどの結果、純利益を月間約100万円向上できたのが、ここでの成果です。
冷凍は、伝統を壊すものではない
病院食の頃から冷凍食材は使っていましたが、利便性の良さだけを求めていて、品質は期待しませんでした。でも、デイブレイクに来て、特殊冷凍の品質に驚かされましたね。冷凍を否定する料理人はまだまだ多いですが、その一方で、料理人不足や長時間労働などの問題も浮き彫りになっている。私は、冷凍技術は伝統を壊すものではなく、むしろ食文化を継承するために必要な技術だと思います。冷凍を取り入れた新しい厨房を作ることで、料理人の労働環境が改善されたり、人手が限られていても、冷凍を活かせば多くの人に届けられる。
また、人口が減る一次生産者も、いくら豊作でもきちんと対価として還元されるなら、姿勢が変わるかもしれない。添加物を使わない安心安全でしっかりと栄養を摂れる新しい食文化を作れたら、様々な生活環境下で栄養に気を配れない人たちにも、健康を届られる。
デイブレイクには、これらの「食にまつわる様々な課題を解決したい」「社会貢献性の高い食に携わりたい」と思って入社しました。私が作る料理は目の前の人にしか届かないけれど、デイブレイクなら一つの提案が発展してたくさんの人に届く可能性がある。一流フレンチ、ホテル、病院食。これらの現場経験と、特殊冷凍の食材研究を極めた、世界に唯一の超ハイブリット型料理人として、食の未来を明るくするお手伝いができたら嬉しいです。