調達は、苦戦していた
昨年秋、資金調達を始めた時点で、正直なところあまり手応えはなかったです。
「Askhub」は正式リリースから約半年。導入社数は20社程度でした。
毎月、事業は前に進んでいました。ただ、投資家との面談で繰り返し感じたのは、同じ懸念でした。
「もう少し様子を見たい」
私たちが参入しているのは、AIエージェント市場のど真ん中です。
toB向け。ホリゾンタル。特定業務に特化しないプラットフォーム。そして労働集約な伴走支援。
Microsoft、Google、OpenAI、Anthropic。大手コンサルもSIerも、みんなこの領域を狙っていて、最も競争の激しい領域。
当然、バッドシナリオはいくらでも想像できます。
「なぜあなたたちは今後も成長を続けられるのか?」
巨人が日々元気よく新サービスをリリースする中で、その説得力が足りないと暗に言われ続けている気がしました。
正直、しんどい時もありました。
それでも、私たちにはこの形しかないと考えていました。だから、とにかく頭の中に描く戦略と検証の途中で見えてきた兆しを、できるだけ解像度高く伝えることに専念しました。
結果として、真っ先にリード投資家として意思決定してくださったALPHAさんをはじめ、素晴らしい投資家の皆さんに恵まれました。当初1.5億円の予定だったプレシリーズAラウンドを、最終的に3億円まで増やす形で終えることができました。
調達中、常に隣で伴走してくれた既存投資家のSkyland Venturesの木下さんと三好さんには心より感謝しています。
この記事では、私たちがなぜ、どうやってこの領域で戦おうとしているのか、書いておきたいと思います。
300兆円の市場が開く
まずは目指す市場の話をさせてください。
「Software is Eating Labor」という言葉がa16zのパートナーのAlex Rampellによって語られています。人間の代わりにAIが労働するようになると、ソフトウェアの市場規模が桁違いに広がるという話です。
数字で見ると分かりやすいです。世界のSaaS市場は約50兆円。一方、日本だけでも労働市場は300兆円あります。 この差が、今まさに埋まろうとしています。
実際、私たちの顧客でも変化が起きています。
1回のタスク遂行に数百円かかるAIエージェントが、大手企業でも受け入れられ始めています。 月額1万円のSaaSは高いと言われることもありますが、ROIが明確な従量課金なら許容される。予算の出どころが、すでに変わり始めています。SaaSの予算ではなく、人件費の予算と比較されるようになってきています。
私にとってこの市場の広がりは、今後二度と訪れることのない機会に映っています。
複数の勝者が生まれうる市場
そしてもう1つ重要なこと。この市場は、構造上、勝者が1社に決まる必然性がありません。
勝者が1社に収束する市場には特徴があります。ネットワーク効果が働く領域。規模の経済が効く領域。
でもAIエージェントのアプリケーション層は、そのどちらにも当てはまり難いと考えています。
主役はコンテキストであり、それは各社固有のものだから。モデル層であれば利用者が多いほど学習が進むという効果がありますが、ユーザーが増えても他社のコンテキストが良くなるわけではありません。 実際、似た構造を持つERP市場やCRM市場は、複数のプレイヤーが共存してきました。
業務の深部に入り込む領域では、ローカライズや伴走支援の質が問われる。そこはスケールしにくい。
だから、複数の勝者が生まれる余地がある。
私たちはスタートアップとして、この巨大な市場で生まれる複数の勝者のうちの1社になることを本気で目指しています。
なぜ競争の激しいこの領域を選んだか
Askhubは、コンテキストを蓄積し、AIに供給するためのプラットフォームです。
社内外に散在するデータを統合し、各社固有の業務知識をAIが活用できる形で蓄積する。そしてこのコンテキストを適切な形でAIに渡すことで業務を遂行する。その過程で新たなコンテキストが蓄積され、AIを育てていきます。
これは、toB向け、ホリゾンタル、特定業務に特化しないプラットフォームで、ニッチの真逆をいくようなサービスです。
では、なぜ私たちはこの形を選んだか。
理由はシンプルで、「業務の完全自動化」を目指すなら、この形しかないと考えているからです。
ここでいう「この形」とは、「十分にカスタマイズ可能で、あらゆる業務データにアクセスできるプラットフォーム」のこと。
なぜこの形でなければならないのか。それは、エージェントで業務を自動化するためにはコンテキストの「深さ」と「広さ」の両方が必要だからです。
1. 深さ:固有のコンテキストが競争優位になる
AIエージェントが当たり前になった世界を想像してみてください。「AIを使っている」こと自体では、もう差はつきません。差がつくのは、そのAIが持っているコンテキストの深さと独自性です。
例えば、営業の提案書作成を自動化しようとする場合。
一見シンプルなタスクです。でも、本当に使えるレベルの提案書を作るには、驚くほど多くのコンテキストが必要になります。
過去3年分の類似顧客への提案履歴。会議の議事録やメールの履歴。この顧客は価格より納期を重視する傾向がある、という営業メモ。先方の決裁者が代わったという情報。競合が先月値下げしたという市場情報。前回の失注理由。
これらを踏まえて初めて、「この顧客に刺さる提案書」を作るための土台ができます。どの会社にも当てはまる画一的な情報からは、絶対にこの深さには到達できません。
このコンテキストは、会社ごとに全く違う形をしています。業界特有の商習慣、過去の意思決定の蓄積、顧客との関係性、職人の暗黙知。決まった型などなく、汎用的なツールでは収集することすらできません。
だからこそ、自由にカスタマイズできるプラットフォームが必要になります。
2. 広さ:あらゆるコンテキストは繋がっている
深さだけでは足りません。広さも必要です。
各業務ごとにAIサービスがバラバラな状態を想像してみてください。請求書処理はAサービス、営業支援はBサービス、問い合わせ対応はCサービス。それぞれが独立して動き、データは分断される。
でも業務は本来、繋がっています。請求書を正しく作るには営業過程のコンテキストが必要であるし、問い合わせに答えるには取引履歴がいる。
つまるところ、1つの業務を完全に自動化しようとすると、関連するすべての業務のコンテキストが同時に求められます。
だからこそ、特定の業務に閉じず、あらゆる業務データにアクセスできる「ハブ」が必要になります。
深さのためにカスタマイズ性を。広さのためにハブとしての統合性を。
この両方を満たすプラットフォームでなければ、真の業務自動化には到達できない。それが、私たちがこのソリューションで挑戦する理由です。
巨人たちとどう戦うか
この領域には強力な競合がひしめいています。OpenAI、Anthropicといったモデル開発会社。Microsoft、Googleといったプラットフォーマー。アクセンチュア、IBM、デロイトといった外資コンサル。国内大手SIer。そして多くのスタートアップ。
同じやり方で戦って成長を続けられるはずがありません。
ゼロから事業を作るからこそ生み出せる優位性を、構造から考える必要がありました。
プロフェッショナルサービス統合型プラットフォーム
私たちの事業の核は、自社開発のプラットフォームと、プロフェッショナルサービスを必ず一体で提供することにあります。
絶対に片方だけでは提供しません。できません。
プラットフォームだけを作って売る会社はたくさんある。コンサルティングだけを提供する会社もたくさんある。でも、両方を自社で完結させることを強く重要視している会社は多くありません。
なぜこの構造にこだわるのか
導入支援を自社で行うことで、顧客の課題を高い解像度で理解できます。現場で何が起きているか、何につまずいているか、どこに本当のペインがあるか。その手触りを、プラットフォームに直接還元できる。
言葉にするとありきたりに聞こえます。でも、これこそが本当に重要だと考えています。
例えば、承認機能。
自動化が進むと、人間に残る仕事は「確認して、承認する」ことになります。AIが作った成果物を見て、問題なければOKを出す。
ただ、この「確認」が曲者です。
承認者は忙しい。確認に時間がかかると、承認が滞る。何を見ればOKと判断できるのか、どんな情報が揃っていれば安心して承認ボタンを押せるのか。
日本企業は特に承認の階層が深い。確認がボトルネックになると、いくらAIで作業を自動化しても、結局業務がスタックします。
現場に入って初めて「この業務はここまで一目でファクトチェックできる状態にしないと確認が滞る」と分かる。その気づきを、現場のエンジニアがすぐにプラットフォームに反映できる。これは、プラットフォーム改善にコントリビューションできるエンジニアが現場で支援しているからこそ可能なことです。
外部パートナーに導入支援を任せると、この解像度が落ちます。顧客の声がフィルタリングされ、抽象化され、本当に必要な改善が見えなくなる。
私たちは、顧客の課題を最も深く理解している人間が、そのままプラットフォームを進化させる構造を作っています。これが価値の源泉です。
プラットフォームが組織を最適化する
この構造には、スケールに関わるもう一つの意味があります。
プラットフォームの存在が、私たち自身の組織を最適化してくれる。
従来のコンサルティングファームは、あらゆる課題に最適な手段で対応しようとします。だからこそ、高いレベルのシニアコンサルタントを大量に抱える必要がある。その構造が高単価の原因です。
私たちはプラットフォームの制約を超えて全てに対応することは目指しません。
むしろ、その制約があることで、支援できる範囲があらかじめ定義されます。何をやり、何をやらないかが明確になる。
範囲が明確になれば、各フェーズに必要なスキルセットも明確になります。すべてをシニアに頼る必要がなくなり、最適な人材を最適なフェーズに配置できる。属人性を排し、再現性のある支援体制を作れる。
結果として、私たちのコスト構造自体が軽くなる。だから、利益を削らずに価格優位性を作れる。大手ファームとは違う土俵で戦えます。
実際、私たちのAIエージェント構築フェーズは、優秀なインターン生で構成されたチームで運用されています。
上流のシニアコンサルタントが整理・設計した業務プロセスの下で、コンテキストをプロンプトに落とし込みながら性能改善していく。プラットフォームがあることで、開発経験は不要になり純粋な言語化能力のみが問われます。だからこそ、シニアに頼らずとも十分な成果を上げることが可能です。
顧客と同じ方向を向く
一つ、重要な意思決定がありました。ビジネスモデルの転換です。
リリース当初、「Askhub」はユーザー課金の月額利用料を取っていました。トークンコストなどの原価は、その売上の中から支払う構造でした。
これは、構造的に破綻していました。
業務自動化を進めるべく伴走支援しているにもかかわらず、自動化が進むとトークンコストが膨れ上がり、プラットフォーム部分の利益が減っていく。顧客の成功と、自社の利益が、逆方向を向いていたのです。
直近、この歪みを是正するため、プラットフォーム利用料を完全従量課金に切り替えました。
正直、固定売上が無くなるのは怖かったですが、当たり前になってから踏み切っても価値がない。やるなら今しかないと思いました。
そして結果として、顧客開拓の面でも想像以上にプラスに働きました。
何より良かったのは、顧客と同じ方向を向けるようになったことです。業務自動化が進めば、顧客は成果を得られる。私たちも利益が上がる。構造レベルで、それを伝えられるようになりました。
プロフェッショナルサービスで足元の売上を作りつつ、業務自動化の成果が上がれば、プラットフォーム経由でも利益が伸びる。この構造を、大手に先んじて作れたことは、大きな一歩だと確信しています。
自律的に運営される企業を創る
私たちのビジョンは「AIエージェントによって自律的に運営される企業の創出」です。
大きな目標に聞こえるかもしれません。でも、10年以内には現実になると考えています。
ただ、その変化はまだしばらくは泥臭く、地道に人間によって生み出されることになります。
企業の中の知はあまりにも複雑で、暗黙的なものが多い。AIに「業務コンテキストを整えて」と言うだけで全てが解決する日は、まだ来ていません。
だからこそ今、現場に入り、一社一社の業務を深く理解し、コンテキストを丁寧に構造化していく仕事に価値がある。
そしてそれこそが、長期的に成長していくためのMoatを築く方法だと信じています。
一緒に戦う仲間を探しています
私たちは今、組織を拡大しています。
巨人たちがひしめく市場で、スタートアップとして勝ち筋を作っていく。簡単ではないけれど、その挑戦自体も、それを本気で実現しようとしているメンバーと働くのも、とても面白いと思っています。
エンタープライズの中核に入り込み、現場のリアルな課題と向き合いながら業務自動化を進める。顧客の経営課題を理解し、何をどう自動化するかを設計する。プロジェクトの上流から関われる環境です。
ソフトウェア開発のコモディティ化が進む中、顧客とコミュニケーションを取りながらプロジェクトを推進する力は、今後大きく市場価値が上がっていくスキルの一つだと思います。
インターセクトではそこでチャレンジする機会と経験を提供できます。
また、まだ小さな組織なので、経営レイヤーへの距離も近いです。事業の成長とともに、重要なポジションは生まれ続けます。
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