Fracta Leapが取り組んできた工業用水に関連するソリューション。中でも主な導入先として向き合ってきたのは、超純水をつくるプロセスなどハイグレードな水処理が必要とされる半導体メーカーです。まさに今の成長産業のプラントに、EPC Div.(設計自動化)やO&M Div.(運転最適化)の開発するデジタルソリューションが寄与し始めています。
その一方で、複雑な水処理を必要としていなくても、産業の裾野を支える中小規模の工場を地道にまわってきたメンバーがいます。Next Transformation Divison(NX Div.)で新規事業の創出を目指す阿部剛大さんです。現場の声を聞き、事業開発に挑む想いを聞きました。
プロフィール
阿部 剛大
NX Div.
Director of Next Transformation Div.
エンターテイメント領域のWebサービス企業でビッグデータ基盤の開発リーダーを務めた後、農業テック分野に転身。酪農・畜産向けIoTソリューションの開発に従事し、ハードウェア開発からリアルタイムデータ分析基盤の構築、プロジェクトマネジメントまでを一貫して担当。第8回「ものづくり日本大賞」内閣総理大臣賞受賞。2022年よりFracta Leapに参画し、新規事業開発に取り組む。
目次
目が向けられにくい“その他”にやることがある
今、勢いのある半導体関連の工場、そしてもともと水や蒸気を大量に使う鉄鋼、紙・パルプ、石油化学産業の工場は、水処理関連ビジネスの大きなターゲットです。水の管理の意識が高く、設備の更新や新設にも積極的で、新しい技術が導入されやすい状況があります。
一方で、それらの産業ほど水を大量には使わず、設備の活発な更新も行われていない“その他”の工場も数多くあります。食品、機械、金属加工、医薬や地域の製造業などで、求められる設備のスペックや処理も様々で一括して括れない“その他”の工場が阿部さんの向き合っている領域です。
阿部:
「地方にある食品工場やプラスチック成形工場などをイメージしていただくといいと思います。大量の水を使う工場ではありませんが、そこでも設備や製品を冷却することに水を使っていたり、ボイラーによって水を高温の蒸気や温水として加熱や高温洗浄、暖房に使っていたり、水を使うユーティリティは確実にあります。それらの老朽化がだいぶ進行していて、性能劣化や突発トラブルが起こっているんです」。
今、スポットライトが当たっている半導体工場や、水が製造プロセスにおいて大きな役割を占める産業のプラントと比べれば、ユーティリティ設備※に積極的な投資が行われることは少ない領域。普通に考えれば新しいビジネスを創り出すことは難しいフィールドだという印象もありますが……。阿部さんはどう思っているのか聞きました。
阿部:
「私はそうは思いません。確かに成長している半導体メーカーのような領域のほうが、経営資源の効率性という観点でもみんなが向かいやすいと思います。私が取り組んでいる領域は、数は多いけれど成長産業ではない。だからと言って、そこに目が向けられず、新しい技術が導入されず、非効率な状態が放置されて、エネルギー、水、お金が無駄に出ていっていることが世の中にとって良いことだとは思いません。むしろそういう領域にこそテクノロジーを入れて誰かがやらなきゃいけない。社会問題を問題のままとせずビジネスとして成り立たせることが私は面白いし、チャンスだとも思っているんです」。
※ユーティリティ設備:生産ラインの稼働に必要な電力や水、ガス、蒸気などを供給する設備のこと。これらの供給が止まると工場の操業が停止し多大な損害が発生することから、まさに工場のライフラインとして重要な設備
自分で訪問して見えた、お客さんの本当の姿
多くの中小工場が、どうやら水ユーティリティ※の課題を抱えている。新規事業の探索をしていた阿部さんも、最初からそれが見えていたわけではなかったと言います。まずは連携する栗田工業の顧客企業を紹介してもらい、複数の工場を訪問してみました。
阿部:
「最初に現場をまわらせてもらったときは、正直、よくわからなかったんです。まだお客さんへの深い理解もないし、自分自身が見学させてもらっている感覚。しかも栗田工業として訪問しているので、お客さんも栗田工業のビジネス領域のことしか話してくれない。それ以上の情報は入ってきませんでした。そんな状況で事業アイデアを考えても、素人のビジネスコンテストのアイデアみたいなものしか出せず、この業界の困りごとを深いところから解決するものにならない。その頃はとても苦しみました」。
苦しみながら阿部さんがとった行動は、やっぱり現場に行くことでした。しかも今度は、栗田工業の紹介ではなく、自分でアポをとっての工場訪問でした。
阿部:
「テレアポを数百件やって、アポが取れたところから訪問していったんです。アポが取れた工場の人も、Fracta Leapなんて知らない会社だし、なんかITの会社なんでしょ、くらいの興味本位。会議室と時間をしっかりとってもらって話せていた栗田工業のお客さんのときとは違って、忙しい合間に会ってくださっている程度。工場長のような方と話していてもひっきりなしに現場から携帯に電話がかかってきて対応に追われている。これがリアルなお客さんの状態で、栗田工業の人たちも知らない姿なんじゃないかと思いました」。
※水ユーティリティ:工場で冷却や洗浄、ボイラー用や製品の原料などで使用される水を処理する冷却塔や熱交換器、ポンプなどの装置一式
誰も全体を見ていない。この状態が正しいのか
慌ただしい現場でときには冷たくあしらわれながらもヒアリングを重ね、徐々に仮説を持って企画書をつくり、提案をぶつけながらあるべきサービスを探り続けた阿部さん。全国各地に出張し、中小の工場を巡ることで、顕在化していないニーズの輪郭が見えてきます。
阿部:
「多くの工場は、30年、40年経っている老朽化した水ユーティリティを、だましだまし使っている傾向がありました。性能が劣化し、効率が悪く、突発トラブルも起こる。でも、いつ更新したらいいかもわからない。人手不足のなか、水ユーティリティ専任の担当者がおられるわけでもなく、トラブルの対処で精一杯。運転コストの上昇に気づいていても、コスト最適化を検討する時間を捻出できない。お客さんの状況を現場でリアルに感じたから見えてきたことです」。
「一方で各設備メーカーは自社の設備だけを見ていて、設備間の情報共有をやってくれるわけでもない。水は設備をまたがって流れているのに、自社設備が他社設備に与える影響なんて何も気にしていない。栗田工業は水処理薬品を提供するビジネスでは貢献しつつも、そのビジネスが確立していることで、それ以上の働きかけをする発想が生まれにくい。お客さんが工場全体の水ユーティリティの最適化までを考えるのは難しいのに、誰もサポートしていない。この状態って正しいのだろうかと思いました。そこに事業の機会があると思いました」。
工場の冷却水系のマネジメントの改善から着手
工場の水ユーティリティ全体を見て、設備とオペレーションの両面で最適化するサポートがお客様には必要。人手に余裕のない状況でもデジタルを活用して管理できるようにすれば、お客様のためになれる。工場の冷却水系※のマネジメントの改善から着手することとし、阿部さんは動き出しました。
阿部:
「お客様に導入していただきやすいビジネスモデルも考えながら、試作と提案を進めてきました。何をすることが本質的にお客様の操業の継続になるのかを考えながら試し続けてきました。まずは冷却水系の運用状況を把握し、データに基づく分析と振り返りを通じて、設備運用の最適化や継続的な改善につなげる支援サービスとして提供していくことにしました。興味を持ってくださる企業が徐々に出てきて、契約をいただくことができました」。
四半期ごとに開催されるFracta Leapの全社会議では、阿部さんに契約を祝う花束が贈られ、他のDivisionのメンバーからも大きな拍手が送られました。
実は社会を支えているのに、数がたくさんあり、分散していて、業種も千差万別で、標準化しづらい。複雑だから放っておかれて、社会課題化している。そういうところにイシューを見出し、技術でなんとか解決しようとアプローチする。連携する栗田工業から学びながらも、栗田工業にもないアウトサイダーの視点で水に関わる最適化を目指す。阿部さんの事業開発のスタンスは、Fracta Leapとして大事にしたい姿勢だと代表の北林さんも高く評価しています。
※冷却水系:製造業の工場で使われる冷却用の水を管理・循環させるための、冷却塔、配管、各冷却設備や冷凍機などのシステム一式
チリツモの改善も「水を。つぎへ。」の一つの形。
阿部さん自身は、いつも飄々としていて、そんなに特別なことをしている意識はないと言います。
阿部:
「大事なのに放っておかれがちで、誰かがやらなければみんなが困る。そういう場所で何かをすることが好きな性分なのだと思います。畜産業に向き合っていた前職のときもそうでした。日本の生乳・畜産物生産を支える牧場が、重労働や後継者不足に悩まされていた。テクノロジーで問題を解決して、酪農を続けていける仕事にしたいと思った。そういった領域にこそテクノロジーが重要になってくる。ずっと自分はそう信じているんだなあと、あらためて思います」。
阿部さんが前職で開発を手がけた畜産業向けのシステムはたくさんの酪農・畜産事業者に導入され、「ものづくり日本大賞」内閣総理大臣賞受賞を受賞しています。その後、新たな挑戦の場を探していて、水資源という社会課題をビジネスで解決しようとするビジョンに共感し、2022年にFracta Leapにジョインしました。
阿部:
「水道管の劣化診断という社会課題をビジネスにするところから前身のFRACTAは始まっているし、そこからできたFracta Leapは水資源の持続がテーマ。先進性や時流に合わせたビジネスだけではなく、社会課題により重心を置くビジョンに自分は共感して、今、ここで仕事をしています。小さく分散しているからビジネスの対象にならないと目をつぶるのではなく、そこをビジネスにしてみたい。チリツモ(塵も積もれば山となる)の改善も、『水を。次へ。』の一つの形だと思っています」。
子ども時代にインターネットで世界にアクセスできたときの感動や、釧路高専生時代に芽生えた「データから世の中の関わりを明らかにする」という興味が今も続いているという阿部さん。阿部さんのキラキラした眼差しからは、確かに北海道を駆け回る「少年」の感受性を感じます。事業開発はまだまだ途上で、もっと大きな構想もあるとのこと。これからも頑張ってください。
※ 記載内容は2026年8月時点のものです
Fracta Leapの事業は日々進捗しています。この記事の1ヶ月後には次のフェーズで、新しいことに取り組んでいるでしょう。興味を持たれた方はぜひ最新情報をお問い合わせください。