こんにちは、15th Rockです。
私たちはHuman Augmentation(人間拡張)を投資テーマに掲げるベンチャーキャピタルです。身体的・精神的な制約をテクノロジーで解放し、人がより生き生きと暮らせる世界を実現する。そうしたビジョンを持つスタートアップに出資しています。
今回は、普段の出資先紹介とは少し趣向を変えて、私たちが日本のスタートアップエコシステムにおいて重要だと考えている資金調達手段「ベンチャーデット(Venture Debt)」について、現在の市場動向を踏まえてご紹介したいと思います。
目次
日本のスタートアップにおける資金調達の課題
中資本コストの調達手段としての「ベンチャーデット」
日本におけるベンチャーデット市場の進展
注目している領域——Revenue Based Financing
日本のスタートアップにおける資金調達の課題
ベンチャーキャピタルを運営していると、当然ながらスタートアップの経営者の方々から資金調達のご相談を数多くいただきます。しかし、その中のいくつかのケースでは、「御社にはVC資金はあまりお勧めしません」とお伝えし、再考を促すことがあります。
お勧めできない理由はいくつかあるのですが、その中でも代表的なものが「スタートアップの事業リスクに対して、VCが求めるリターンが過剰である」というミスマッチの問題です。
米国ベンチャーキャピタル業界が公表している過去データをもとに、各ステージのVCの実現リターン(IRR)を独自に算出すると、どのステージにおいてもおおむね50%〜70%の範囲に収まることが分かります。当然、アーリーステージになるほどIRRは高くなる傾向があります。
ここでスタートアップ側の観点から何が問題になるかというと、業種や成長ステージによって事業リスクは大きく異なるにもかかわらず、資金調達の選択肢が長らく限定的だったという点です。
具体的には、銀行融資に代表されるような上限金利15%程度の「低資本コストの調達手段」と、VCに代表されるような50%を超える「高資本コストの調達手段」は存在します。しかし、その中間に位置する、資本コスト15%〜50%の「中資本コストの調達手段」が、日本にはほとんど存在してきませんでした。
中資本コストの調達手段としての「ベンチャーデット」
この空白を埋める存在として私たちが早くから注目してきたのが、中資本コストの調達手段である「ベンチャーデット」です。
米国では、かつてSilicon Valley Bankを代表とするプレイヤーが、ミドルステージ以降のスタートアップを中心に、典型的にはエクイティキッカー付きのローン(負債に対して新株予約権等が付与されるもの)を展開し、確固たる地位を築いてきました。スタートアップの資金調達において、エクイティとデットの中間領域を埋める重要なインフラとして機能しています。
さらに、ベンチャーデットの種類は20以上あるとされており、その多様性と裾野の深さには驚かされます。
日本におけるベンチャーデット市場の進展
日本においても、ここ数年でベンチャーデット市場は大きく動き始めています。
先駆けとなったのは、2019年にあおぞら企業投資が設立した国内初のベンチャーデットファンドです。転換社債を活用した仕組みで、ミドル・レイターステージのスタートアップに資金を供給してきました。
そして2025年には、あおぞら銀行と日本政策投資銀行(DBJ)が共同で新たなベンチャーデットファンド「HYBRID ANNEX1号投資事業有限責任組合」を設立しました。規模は50億円からスタートし、将来的には100億円規模への拡大が検討されています。1案件あたり10億円以上の大型デット需要にも対応できる体制が整いつつあります。
また、地方銀行の動きも活発化しています。静岡銀行は2027年までにベンチャーデットの残高を最大1,000億円規模にまで拡大する方針を打ち出しており、大手銀行グループや他の地方銀行からも続々と参入が続いています。
2020年当時に比べると、日本のベンチャーデット市場は確実に厚みを増してきたと言えるでしょう。
注目している領域——Revenue Based Financing
数あるベンチャーデットの中でも、私たちが特に注目してきたのが「Revenue Based Financing(RBF)」と呼ばれるタイプです。米国で先行して普及したこの手法が、ようやく日本でも本格的に立ち上がりつつあります。
典型的な条件としては、スタートアップの月次売上に対して5〜7%程度の金額を毎月返済する形式で、返済総額は元本の1.5〜3.0倍でキャップが設定されます。売上に連動した返済構造であるため、事業の立ち上がり期においてもキャッシュフローへの負担が過度にかかりにくく、スタートアップにとって取り組みやすい仕組みです。
エクイティキッカー付きのベンチャーデットと比較すると、株式の希薄化が完全に防げる点が大きな特徴です。そのため、私たちのようなVCとも利益相反が起きにくく、スタートアップの資本政策上も整合性を保ちやすいという利点があります。
日本国内でも、Yoii・Flex Capital・PAYTODAYといった事業者がRBFサービスを提供し始めており、特にSaaSやD2C領域のスタートアップを中心に利用が広がってきています。まだ普及期の初期段階ではありますが、調達手段の一つとして着実に認知が進んでいる状況です。
私たちが伝えたいこと
ベンチャーキャピタルというと、どうしても「エクイティでの資金調達」が前提として語られがちです。しかし、スタートアップの成長段階や事業特性によっては、エクイティ以外の選択肢のほうが適している場合も少なくありません。
私たちはVCという立場でありながら、スタートアップにとって最適な資金調達の形は何かという観点から、ベンチャーデットを含めた資金調達エコシステム全体の発展にも関心を寄せています。
日本のスタートアップエコシステムがさらに次のステージへ進むためには、ここ数年で立ち上がり始めた「中資本コスト」の調達手段を、さらに多様化・深化させていく必要があると考えています。新たなタイプのベンチャーデットを担うプレイヤーや、こうした領域に関心を持つ金融機関・投資家の方々との議論を、これからも積極的に重ねていきたいと考えています。
今後も、私たちが投資活動を通じて見えてきた知見や、スタートアップエコシステムに関する考察を発信してまいります。
次回の記事もお楽しみに。