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コンセプトは「脱・職人」オーケーのピザ焼き職人たちが「ピザ焼き色判定AIシステム」に込めた矜持(後編)

オーケーでは、AIや画像解析など、新たなテクノロジーを活用した研究開発を行っています。その一つが「ピザ焼き色判定AIシステム」です。ピザといえば、オーケーを代表する人気商品。みなとみらい店では、平日一日約200枚、休日は一日約600枚が売れるといいます。

前編では、IT本部の田中さんと安藤さんに、「ピザ焼き色判定AIシステム」開発の舞台裏を聞きました。後編では、「ピザ焼き色判定AIシステム」の効果や期待について、総菜・ベーカリー本部の笹生守宏部長、ベーカリー部門チーフの望月剛さんに聞きました。

AIとのコラボレーションで、もっと美味しいピザを

――ここ、みなとみらい店に「ピザ焼き色判定AIシステム」が導入されて半年が経ちました。

望月 以前は、この張り紙とピザを見比べて、「まだ白いな」とか「ちょっと焼き過ぎたかな」と判断していました。それでも一定の品質は担保できていましたが、やはり人の目なので、照明が暗いと焦げに気がつかなかったり、影が焦げに見えてしまったりといったことがありました。

「ピザ焼き色判定AIシステム」のアイデアに賛同したのは、さらに安定して美味しいピザを提供したいと思ったからです。理想は、新人もベテランも同じように焼けることです。

現段階では、みなとみらい店と新座北野店の2店舗のみで運用していますが、いずれは全店舗に導入できたらいいですね。

――新人とベテランが同じアウトプットになってしまうのは、残念に思ったりしませんか?

望月 それは全く思わないですね。やはりお客さまに良いものを提供できるのが一番なので。それに、「自分が一番うまく焼ける」と思っているとしたら、それも「ピザ焼き色判定AIシステム」がしっかり判定してくれるんです。

自分が「完璧に焼けた」と思っているピザは本当に完璧なのか、AIが「あなたやっぱりうまいですよ」と判定してくれるんです。

本当にうまい人はクオリティを維持できますから、何枚焼いてもAIは同じ判定をしてくれます。もう少し練習が必要な人も、AIの評価が励みになって改善が進みます。

オーケー ベーカリー部門チーフの望月剛さん。好きなオーケーの商品は「マルゲリータ」。


――AIとはどのように役割分担をしているのですか?

望月 役割分担と言うよりも、コラボレーションと言ったほうが近いです。AIに丸投げするのでなく、人間の眼とAIの眼、2つの眼を駆使して美味しいピザを焼くのです。

――「ピザ焼き色判定AIシステム」の精度はいかがですか?

望月 半年前と比べて、だいぶ正確性が増しました。最初はカメラの位置を決めるのにも苦労しましたね。ピザ窯の前は400℃まで上がるので、近すぎるとカメラが壊れますし、影を「焼き過ぎ」と判定してしまうこともありました。少しずつ調整し、やっと今の位置関係に落ち着きました。

――ちなみに、今焼いているのはマルゲリータですが、シーフードピザなどでも判定できるんですか?

望月 できます。AIによる判定に、具材はあまり関係ないようです。大事なのは縁の生地の部分、つまり耳です。ピザの耳って基本的に何も乗ってないじゃないですか。その耳が丸焦げだったり、生焼けだったりするのが良くないんです。

――前編では、総菜・ベーカリー本部の笹生部長が、2000枚のピザの画像を「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」に仕分け、教師データを作ったと聞きました。

望月 AIは笹生部長の分身。いうなれば、部長がいつも見張っているという状況です。笹生部長は、経験・実績ともにオーケーの総菜・ベーカリー本部一番の眼です。今後は、その眼が他店舗にも展開されていくような、そんなイメージを持っています。

コンセプトは「脱・職人」

――ここからは、オーケーの総菜・ベーカリー本部一番の眼、笹生守宏部長に聞きます。初めて「AIピザ焼きシステム」のアイデアを聞いたとき、二つ返事でOKしたのはなぜですか?

笹生 やはり品質が一番大切だからです。全店同じものを提供できれば間違いないのですが、人が焼いている以上、どこの店も100%同じというわけにはいきません。そこに、「AIピザ焼きシステム」のアイデアが出てきて、「面白い、やってみよう」と。

私のコンセプトは、「脱・職人」です。事業を拡大し、店舗を増やしていく中で、新しいメンバーでも美味しく焼ける仕組みの構築は急務です。

オーケー 総菜・ベーカリー本部 部長 笹生守宏さん(右)。好きなオーケーの商品は「豚カツバーガー」など、ハンバーガー系。


――作り方の指導や研修を徹底することで、品質を保つのは難しいのでしょうか?

笹生 パン作りには性格が出ます。雑な人、丁寧な人、誰が作るかによって全然変わってくるんです。だから細かなマニュアルを作っているのですが、パンは生き物ですからね。イメージ通りにいかないことがあるんです。そこがまた楽しいのですが。

比喩じゃないですよ。イーストという生き物と、うまく付き合わないといけないんです。「製パン3原則」ってご存知ですか? パン作りには昔から、温度・時間・計量が大事だと言われています。時間をかけてパンを休ませることで、イーストがうまみを作ってくれるんです。

ピザの場合も、生地を伸ばす人によって見栄えや美味しさが全く変わってきます。下手な人が引っ張ってしまうと甘みがなくなります。荒れた生地は、グルテンが切れて気泡もなく、食べたときにもっちり感がないんです。逆に、さささっと広げてあげるときれいに膨らみますし、食感も良くなります。奥深いですよ。

――AIにはどんなイメージを持っていましたか?

笹生 テレビや新聞なんかで見るAIってすごいじゃないですか。プロ棋士に勝てるくらい賢い。そんなイメージでした。

でも、実際にやってみると、全部教え込まなきゃいけない。われわれが育てなければいけないんですね。でも、賢いから、教えたらすんなりいくのかと思いきや、そうでもない。「うーん……」というところもあります。

2000枚のピザの画像を仕分けるのは苦じゃない。しかし、思わぬ問題が……

――前編では、IT本部の安藤さんの頼みで、2000枚のピザの画像を「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」に仕分けたと聞きました。大変でしたか?

笹生 全く苦にならなかったですよ。「全店舗で品質を安定させる」という目標がモチベーションになっていました。

ただ、実際に運用してみると、照明の加減でAIが誤判定してしまうことが分かりました。

つまり、AIに「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」を教え込むところまでは良かったのですが、現状では、周囲が明るいか暗いかによって、AIが「OK」を「焼き過ぎ」や「生焼け」と誤判定してしまうことが多いんです。

――現段階では、AIだけで「OK」「焼き過ぎ」「生焼け」を判定するのは難しいということでしょうか?

笹生 当初は、チーフなどに代わってAIが判定してくれたらいいな、などと期待していたのですが、なかなか難しいですね。どう打開して精度を上げていくのか、安藤さんの腕の見せどころです。

「ピザ焼き色判定AIシステム」を確認中の、オーケー IT本部 安藤綾香さん


笹生 でも、安藤さんは熱意が違いますよ。「ピザ焼き色判定AIシステム」に懸ける思いがすごいんです。途中、「これはちょっと振り出しだね」みたいな言い方をしたことがあったんです。そのとき安藤さんは、「残念」とかそんなんじゃなくて、「私はもう後戻りするわけにはいきません」みたいな、そんな顔をしたんです。

そもそもピザって難しいと思うんです。一枚のピザの中に、黒い部分もあれば、ちょっと白い部分もある。ここをどう判定させるか、なのでしょうかね。

多分、安藤さんは今、相当悩んでいると思います。でも、安藤さんから「ダメでした」という声は聞きたくないんです。何とかしてあげられればいいのですが、そうだ、私の頭脳をAIに持っていけばいいのか!……って、違うか。安藤さんの熱い思いに応えられるように頑張ります。ここまできたら、一緒にやりきりたいです。

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