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わたしがむすびえで働く理由~子育てから感じた孤独感「助けて」と躊躇なく言える社会へ。~

出産を機に感じた
孤独感と居場所の模索。

ーむすびえでの仕事内容を教えてください。

現在は、こども食堂への支援を希望する企業ごとのプロジェクト担当者としてプロジェクトリーダーを務める一方、「休眠預金(※)を活用した助成金プロジェクト」で採択した地域ネットワーク団体を伴走支援するプロジェクトリーダーをしています。
こども食堂の支援へ問い合わせのあった企業と連携する戦略プロジェクトを担当するほか、こども食堂と連携できる企業を新規で開拓するプロジェクトを立ち上げてきました。企業連携担当は今までの法人営業やマネジメント経験を活かしながら、こども食堂の理解や支援を拡大できる手応えを感じています。一方、地域ネットワーク団体を支援する仕事は初めてのことばかりで、行政や社会福祉協議会、他NPO等の団体とどう連携することで地域でこども食堂が受け入れられ、見守りあえる地域づくりにつながるのか、地域ネットワーク団体の皆さんにいろんなことを教えていただきながら試行錯誤と勉強の日々です。

※休眠預金…民間公益活動のために活用できる10年以上取引がない預金。(2018年1月施行の休眠預金等活用法による)

大学卒業後は大手人材採用支援企業に就職し、18年間人材採用事業の営業部門で、大手からベンチャー企業まで担当していました。まだ転職が一般的ではなかった時代だったので、皆が自分らしく働けるように、働く人たちの選択肢がもっと増えたら人生が豊かになるだろうと期待を持って仕事をしていました。タフな仕事が多かったですが楽しかったです。ただ、人材業界の中で経験を積むと共に、自分の人生の中でもう少し別のチャレンジがあってもいいのではないかと漠然と考えるようにもなっていきました。

仕事を直接見つめなおすきっかけになったのは、出産でした。家族や同僚に不満があるわけではない。それでも出産前後の期間に自分の中に「大きな違和感」が生まれてきました。当時はどう言葉にしていいかわからなかったのですが、子育てという初めてのことの不安に押しつぶされそうだったのだと思います。誰かに頼りたい、でも頼れない、頼ってはいけないのではないか、甘えなのではないか、自分で何とかしなければいけない、そんなもやもやを抱えながら仕事をしていた気がします。子どもが発熱でお休みした日、公園を散歩していたら高齢の女性が声を掛けてくれたことがとてもうれしかったことを覚えています。誰かに話を聴いてほしい、そんな寂しさや孤独を初めて感じて戸惑っていたのかもしれません。また、子どもがいることがマイノリティである社会への危機感も感じました。バスや電車に乗る時、ベビーカーって本当に嫌な顔されるんだとびっくりした記憶があります。「大きな違和感」を咀嚼できない中、私はその不安から逃れたくて産後4か月で復職してしまいました(笑)が、この「大きな違和感」が何なのだろうとその気持ちは大きくなり、考える時間を持ちたいと思うようになりました。人や社会とのつながりと、学びの機会を求めて大学院に進学することにしました。

在学中は、「子ども」「フードロス」「地域づくり」「子育て支援」をキーワードに、社会課題解決のために奮闘しているソーシャルベンチャーやNPOで仕事をしたいと考えるようになり、ファンドレイジングを学ぶ中で、むすびえの求人に出会いました。

ーむすびえのどんなところにひかれたのでしょうか?

自分の「大きな違和感」が「孤独・孤立」「生きづらさ」「つながりの希薄さ」だったのかもしれないと整理がついてきたころ、こども食堂に出会いました。自分が育った時の田舎の環境はしがらみの強さばかりが目立って嫌がっていた自分もいました。ただ、あの地域とのつながりは自分に大切なことを教え、自分を見守ってくれていたんだと思えました。こども食堂はそのつながりを再建しようとしている活動でもあるのだと気づきました。
また、「こども食堂」のように日本中で拡大している市民活動は、これまでほかに見たことがありませんでした。その勢いにも圧倒されました。「誰かのために動き出したい人」が日本中に潜在的にたくさんいると知ることができたのも、大きな驚きでした。おせっかいしたい人とおせっかいをされたい人がちゃんとつながる、そんな「こども食堂」に携わりたい、と思いました。

普遍的な課題を解決したい。
できることは目の前にある。

ー遠藤さんが社会課題に関心を持つきっかけはどこにあったのでしょうか?

学生時代、AIESECという学生NPOで活動していたことが原点かもしれません。インドやタイなどアジアの国々の学生と触れ合いを通じて、現地の様々な社会課題に触れる機会が多々ありました。当時、社会課題に向き合うプロフェッショナルにも出会い憧れましたが、その姿を自分に重ねる覚悟は持てませんでした。ただ、当時の友人たちが学生時代の情熱を持ったままソーシャルビジネスに邁進している様子を見てずっと羨ましかったのだと思います。

また、前職時代に遭遇したリーマンショックや東日本大震災も影響していると思います。働き方の多様化、企業側の採用手段の多様化を人材業界の中で推進する仕事をしてきましたが、社会の変化、災害の多発、何か自分にできることはないのか、そんな思いが積み重なってきたのだと思います。リーマンショック時、むすびえの理事長である湯浅が取り組んでいた「派遣村」の取り組みは人材業界の中で働く私にとって衝撃的でした。前職では、経済が豊かになるために、働き方が多様になるために、派遣社員も一つの選択肢だと考え、マーケットを推進してきた立場にありました。けれども一度リーマンショックのような危機が起きると、負の影響も大きい――。湯浅のように、自分が見ていた世界と反対側の世界を支える人たちがいるということを再認識したタイミングでした。
東日本大震災の時もそうでした。故郷の福島に何もできない自分とそれでも目の前の「職に就く」「自分らしく働く」を推進したい自分と葛藤を抱えながら働いていたことを思い出します。
これまで自分が関心を寄せてきた社会課題と地域とのつながりが結びつく「こども食堂」の可能性は驚きでした。出産時に抱えた「大きな違和感」「寂しさ・不安」を誰かに味わせたくない、そこには自分にも何か貢献できることがあるのでは、と思いました。

リアルがワカル言葉を紡ぐ。

ー仕事をする中でやりがいを感じるのはどんなときですか?

支援をしてくださる企業がこども食堂の「可能性」に気づいてくださったときです。
むすびえにコンタクトしてくださる企業はみな、SDGsの意識が高く、世の中に貢献するために意味のあるお金を使いたいと思ってくれています。ただ、こども食堂がいまだ貧困問題のみにフォーカスしていると思われていることが多いのも実情です。「こども食堂は多世代の集まる場所であり、地域づくりに大きな可能性を持っている」ということを理解してもらうためには、現場のリアリティを伝えていかなければなりません。初めは、こども食堂が多世代の交流であり、知己を見守る居場所である点に疑問を持っていた企業の担当者の方も、地域交流拠点の重要性について、対話を重ねる中でご理解くださっています。すると、企業の想いが先行してしまうことがなくなり、こども食堂の誰もが使えるプログラムを届けてくださったり、改めて企業のそれぞれの強みを発揮できることを考えてくださったりします。こうしてこども食堂のリアリティ、可能性を理解されたと感じられると「ちゃんとこども食堂を応援してくださる仲間になってもらえたな」と嬉しくなります。

ーむすびえで働いてこれまでと見方が変わったことはありますか?

企業には企業の、行政には行政の、NPOにはNPOの、地域の人たちには地域の人たちの、大事にしていることが、使う言葉に表れているのだということを知りました。相手の言葉をきちんと理解していないと適切なコミュニケーションが取れず、問題解決につながりません。現在担当している企業・団体との協働事業と並ぶ休眠預金を活用した助成金プロジェクトは、地域の皆さんに助成し、団体として地域の様々なステイクホルダーとつながり、こども食堂の活動を推進するものです。行政を動かすアプローチや、現場の人たちの想いを理解することが大切になってきますが、そのために使うべき言葉はまだ習得できていません。また、本当の伴走とはどういうことなのか、どういうかかわりを持ちながら地域の皆さんとともに進んでいけばよいのかについて、常に考えています。

ー今後やりたいことを教えてください。

日々、こども食堂は変化、変容していると思っています。コロナ渦においても大きな変化を遂げてきました。こども食堂運営者の皆さんの想い・試行錯誤を理解するのはそう簡単ではないと認識しています。机上でいくら考えてもわかるものでもないと思い、地域で活動される皆さんの現場に足を運ぼうと思っています。地域団体の事務所に一週間出向させていただいて、勉強の機会もいただいたりしています。地域の団体が成長し事業を拡大させていくときに、よき伴走者となれるよう、現場で何が起きているのかを見て、生きた言葉と想いを理解したいと思っています。

こども食堂は2025年までに約2万か所を開設する、という目標を掲げています。子どもも高齢者も歩いて行ける場所に地域の人々がつながるこども食堂がある状態を目指しています。「誰かのために何かしたい」「自分もつながりたい」そんな人の背中を押せる状態なのではと考えています。一歩一歩、誰もが「助けて」と言える社会、少しでも人が自分らしく生きやすくなる社会が広がっていくお手伝いができるよう進んでいきたいと思っています。

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