子どものUXデザイン
株式会社ビー・エヌ・エヌは2002年に設立した出版社です。デザインする人を増やすこと、作る人を支援することを目指して出版活動を展開しています。
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みなさんは、どんな子供でしたか?
わたしは友達とサッカーをしたり、ゲームをプレイしたり、アニメを観たり、いわゆる「遊び」と呼ばれるものが大好きな子供でした。
やらなければいけない「勉強・宿題」のモチベーションがあったと言われれば、なく…「あと1週間…あと6日…」と当時遊びたかったゲームの発売日を、心待ちにしていたことを今でも覚えています。
ご挨拶がおくれました。こんにちは。セガ エックスディーの川﨑と申します。
現在、株式会社セガ エックスディーにてプロダクトマネージャーとしてプロダクトの企画開発の業務をしており、ゲーミフィケーションのナレッジによって、クライアントや社会の課題解決を行うことをミッションとしています。
わたしが関わった業務の中で、子供の学びにまつわるプロダクト開発に携わったことがありました。
その中で、子供に何かを学ばせるというプロセスにおいて、ゲーミフィケーションのナレッジは強力でありつつも留意が必要と思い至るところがあったので、そちらをまとめてみようと思います。
わたし自身に子供はおらず、教育や育児の難しさを肌で知っているわけではありませんが、知らないからこそ客観的な立場としての考察をしてみたいと思います。このnoteが子供向けプロダクト開発の一助になれば幸いです。
ゲーミフィケーションという言葉を聞いたことがある方も少なくはないと思いますが、改めてご紹介できればと思います。
端的に言うと、「ゲームメカニクスを用いて、人々の心を動かし、何かしらの行動をしてもらうための動機とモチベーションを与えること」と定義できます。ゲームをプレイするとき、人はしばしば「熱中」をします。そんな人がゲームに熱中しているときに起きている、「ついやってしまう」「つい続けてしまう」体験を、ゲーム以外の体験に落とし込むメソッドとも言えます。
例えば人が何か商品を買うという行動をするとき、「安いから」「便利だから」という機能的な価値だけではなく、「なんとなく好きだから」といった情緒的な価値によっても意思決定を行う場合もあります。これは人間が必ずしも合理的に行動できるわけではないということを意味しています。
ゲーミフィケーションは、こうした誰しもが持つ情緒的な側面にフォーカスをし、その心を動かすメソッドです。人は「やりたくない!」と思っていたことでも、心が動けばやってくれるかもしれません。そんな人間が本来もつ心の揺らぎに注目し、行動促進、行動変容を試みることができる点は、ゲーミフィケーションを取り入れるメリットといえるでしょう。
上記の通り、ゲーミフィケーションは人間の心の動きを捉えることを前提としています。言い換えれば、人間の心理や行動を背景とする以上、その対象の本質を理解するというのは、非常に重要なプロセスです。
今回のテーマは「子供と学び」です。すなわち、「子供とは何かを理解すること」がゲーミフィケーションを応用した体験を設計する上で重要となります。
しばしばゲーミフィケーションにおいては、その具体的手段が着目されます。ソーシャルゲームで例えるのであれば、ユーザー間の競争を促進する「ランキング機能」や、達成感を醸成する「称号」といった機能が例としてあげられます。こういった具体的な機能を、ゲーム以外の体験に当てはめることは、一般的に「ゲーミフィケーション」と呼ばれることが多いです。
しかし、前述した通り利用する人間の本質的な理解を必要とすることを忘れてはいけません。具体的な手段から入るのは決して悪いことではありませんが、「ユーザーは本当に競争をしたいと思っているのか?」など、一度は立ち止まって問いただす必要はあると考えます。
こういった観点を念頭に置きつつ、「子供にとってのゲーミフィケーションと学び」の考察を進めていきたいと思います。
ここまで、ゲーミフィケーションの概要と人間理解を深める必要性についてまとめてきました。ここからはより具体的な「子供とは何か?」という点を考えていきたいと思います。
ですが…この「子供とは何か?」という問いは非常に抽象的で難解です。一般論としては18歳以下ともいえますが、それだけではプロダクト開発に活かすことは難しいでしょう。
そこで、この問いに立ち向かうための補助線となる書籍をひとつご紹介させてください。『子どものUXデザイン ―遊びと学びのデジタルエクスペリエンス』(デブラ・レヴィン・ゲルマン著)という書籍になります。
デジタル製品(アプリ、ゲーム、ウェブサイト)における子供の体験をデザインする上で、ジャン・ピアジェ(※1)という心理学者が唱えた認知発達理論をベースに論じられた書籍です。メディアが飽和した現代において、子供に届けるべきコンテンツの在り方が解説されています。子供のデジタル体験という観点では、非常によくまとまっている書籍です。
ここからは、本書籍とピアジェの認知発達理論を参照しつつ、「心理や行動における大人と子供の違い」という観点から、子供ならではの心理や行動における特性を深堀ってみたいと思います。子供と大人の違いとして、本書籍では4つの点が挙げられていますが、ゲーミフィケーションの観点から、特に重要と思われる2点をピックアップしたいと思います。
子供はある行動において、ゴールを意識する割合が少なく、今実行している行動の「やりがい」を求める傾向にあると言われています。例えば、お掃除ゲームでごみを処理したときに、パッとごみが消えるのではなく、徐々に消えることに対して喜びます。「ごみを処理できた」という目標達成ではなく、「目の前のごみが消えた!」というアクションに伴う実感をより求めるというのです。
これは、ピアジェがいうところの「シェマ」という概念が理由として考えられます。シェマは、「あるものを手に取り、その使い方や目的を探ることで、周りの世界を理解し解釈するのを助ける振る舞い」を意味します。子供は、あるものを手に取るとき、その目的や使い方を最初から知っているわけではありません。あるものに触れながら、反応を探りつつ、認知を形成していく段階が発達プロセスの中に存在するのです。※2
対して大人は、ゴールを達成できることが優先され、そのプロセスを過度に邪魔されることを嫌います。例えば、未読のメールを開くときに、いちいち手紙を開くようなアニメーションが挟まっていたら、ストレスを感じるでしょう。「メールの中身をみたい!」という目的をいかにスムースに達成できるかが重要なのです。
このように、子供と大人では行動ひとつとっても、求められるポイントが異なります。
補足として、子供に目標が不要というわけではありません。何かを行動するときには目標が必要であり、それが魅力的で、わかりやすく提示されている必要があります。これは大人でも子供でも共通している部分になります。
例えば3年という年月があったとき、大人にとってそれは成育レベルにおいて、そこまで大きな違いを生むことがありません。
一方、3年での子供の成育レベルの成長はすさまじいものがあります。極端な例ですが、3年あれば歩くようになったり、言葉をしゃべるようになったりします。
ピアジェは、認知発達理論として、子供を年齢ごとに以下のように分類しています。
上記は要約として記載しましたが、つまるところ、年齢に応じて「できること」と「できないこと」があります。すなわち、対象となる年齢に適したプロダクトの設計をする必要があるということです。この点は当たり前のようでありつつも、非常に重要なポイントです。
子供の場合は、対象の年齢を明確にし、その年齢に適したプロダクトを提供する必要があります。「子供向けだからただ操作や説明を簡単にする」という一元的な簡易化ではなく、「この年齢であれば、〇〇ができるだろう」という仮説を元に臨むべきでしょう。※3
これまで、子供ならではの特性として、「①目標達成よりやりがいを求める」「②できることが年齢で異なる」という点を考察してきました。もちろん詳細にみていけば他にも違いはありますが、話のきっかけとして、この2点を定義した次第です。
ここからは、「子供の学び」において、ゲーミフィケーションがどう有効に作用するのか、留意点はどこにあるかという点を考えてみたいと思います。
ゲーミフィケーションは発展途上の分野で、様々なフレームワークや考え方が存在します。ここではセガ エックスディーが提唱する「ゲーミフィケーションメソッド」と突き合わせつつ、子供にとって望ましいプロダクト設計のポイントをご紹介できればと思います。
「数値化された要素が変化することが内発的な動機付けに繋がる」というメソッドです。例えば、走った距離や睡眠時間などを数値化することで、比較をすることなどから相対性を感じ、モチベーションを生むことができます。
子供においても、例えばテストの点が上がるなど、相対的に数値が上がることは「それがいいことである」というのがわかるため、継続するモチベーションに寄与できるでしょう。
しかし「②できることが年齢で異なる」の観点から、数値の単位や計算式などについては理解できない場合もあるため、対象年齢の発達段階や学習範囲を考慮して設計する必要はあると考えられます。
「少しずつハードルを超えさせることで、順序だてて育てることができる」というメソッドです。例えば、はじめて使うサービスでもチュートリアルがあることで、少しづつだが着実に学習できるという内容になります。
子供においては「②できることが年齢で異なる」の観点から、大人以上に重要なメソッドと考えられます。できることが限定される上に、同時的に処理できる能力はまだ乏しいため、どの順番で何を学習させるのかは、念入りに検討すべきポイントになるでしょう。
一方で、8歳~10歳ぐらいの子供になると、自分の有能感を感じたくなり「説明を読まずにとりあえずやってみる」という行動傾向も散見されるようです。学びの場合は、「まずは回答をさせた上で、誤っていたらフォローをしてあげる」といった設計も効果的と考えられます。
「人はストーリーやキャラクターに夢中になり、共有したくなる傾向にある」というメソッドです。
元来、子供が絵本やアニメーションを好むよう、こうした世界観は非常に重要な要素です。前操作段階(2歳~6歳)の子供は、まだ抽象的な思考ができず、目の前にあって視覚的に捉えられる情報しか理解できない段階にあります。したがって、とりわけキャラクターに代表される視覚情報は、念入りに設計する必要があります。
また、「①目的達成よりやりがいを求める」子供の特性から考えると、「このキャラクターがかわいい!」「続きがとにかく気になる!」といった感情は、目的を達成したいという合理的な思考を飛び越え、目の前の事象に対して夢中になる「やりがい」を生み出しているとも言えるでしょう。例えば、単調な問題文が羅列されているよりも、好きなキャラクターからの質問になっていた方が、より熱中してくれるかもしれませんね。
「検証可能な指標を定義し、常に改善できる状態を維持する」というメソッドです。
これはプロダクト提供側の目線にはなりますが、ある機能追加や施策を行うときに、その結果をあらかじめ決めた指標に照らし合わせて成否判定をし、その改善アクションを打てる状態にするという要素です。
子供向けプロダクトにおいては、「②できることが年齢で異なる」の観点から、一定のリードタイムを経るとユーザーの傾向がガラリと変わることが想定できます。あらかじめその点を見込んでいくだけで、より精度の高い課題抽出と課題解決アクションを打つことができるでしょう。
「既存顧客へのおもてなしを行い、サービスのファン化を醸成する」というメソッドです。
いわゆるロイヤルカスタマー向けの要素になっていて、ゲームの場合はランキング機能が対象になります。プロダクトをたくさん使ってくれたユーザーに特別感を与えることで、より継続をしてもらうというのが狙いになります。
子供においてこの「特別感」、ひいては「かまってあげている感」はより効果的と考えられます。学びや勉強には継続が伴いますが、いつもいい結果がでるとは限りません。いい結果が出なかったとしても、「継続していることそのもの」を称賛するような設計は、学びを継続させる点において寄与できると考えられます。
それは「①目的達成よりやりがいを求める」観点から、「学んだ結果」を褒めるだけではなく、「学びという行動そのもの」を褒めることで、学びの継続を結果的に実現できる、とも言えるのではないでしょうか。
「わかりやすいゴールと目標を設計することで、内発的動機を喚起できる」というメソッドです。大人の場合においても、英語が苦手な人に対していきなりTOIEC満点を要求しても行動に移しづらいですが、「まずは500点、次は600点…」とゴールを細分化することで頑張ろうと思うことができます。
子供の場合はそもそも、自分の行動が招く結果をあらかじめ見通すことが苦手です。つまり、長期的な視点で結果を予測することができないのです。したがって、最終的なゴールへの道のりを刻みつつ、その段階で達成可能なゴール設計をしてその都度達成感を味わってもらうことで、より学びに没入してもらうことが期待できます。
再掲となりますが「①目的達成よりやりがいを求める」の観点から、目的そのものの重要度が低いように感じられますが、目的がまったくないということはありません。目的そのものが理解可能かつ現実的で、かつ魅力的に見えてこそ、子供も行動をすることができるのです。
ここまで、子供ならではの特性を深堀りしつつ、その子供の学びにゲーミフィケーションを応用するなら、という考察をしてきました。子供という対象への理解を深めることで、ゲーミフィケーションのナレッジがプロダクト設計において、より効果的な手法として機能するのではないか、とご提案した次第です。
最後に、「親の存在」について触れておこうと思います。
子供があるプロダクトを利用するとき、そこには親の意思が介在します。プロダクトとして、「親が子供にやらせたいか」という点は、実際に子供に届ける上で非常に重要な評価点になります。仮にそのプロダクトが有料であるなら、その金銭を負担するのは利用する子供ではなく、その子供の親であるケースがほとんどかと思います。
子供に受け入れてもらうのと同時に、親目線で「やらせたい!」「安心できる」と感じてもらえるプロダクトデザインも、子供に使ってもらうためには重要な要素といえるでしょう。そして近年、ゲーミフィケーションのナレッジを学びや教育に活かすことに対して、親世代から支持されている傾向にもあります。※4
上記のようにセガ エックスディーでは、ゲーミフィケーションのナレッジを活かしつつ、お客様にとって最も喜ばれるプロダクトになるよう、企画から開発まで柔軟にご支援しています。子供向けや、教育関連のプロダクトについてお困りの方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご用命くださいませ。
※1 ジャン・ピアジェ(1896-1980)スイスの教育学者。人の思考がどのように獲得されるのかを論じた認知発達論を提唱しました。
※2 子供は、新しい情報を既存のシェマで処理したり(同化)、既存のシェマで処理できないときに認知の仕方を変えたり(調節)、同化と調節を駆使して認知精度を高めたり(均衡化)します。こうしてシェマが形成・変化していき、「知っていること」と「新しく知ったこと」のあいだでバランスをとることで、子供は発達をしていくと論じられています。
※3 『子どものUXデザイン ―遊びと学びのデジタルエクスペリエンス』では、2歳~12歳を2歳ごとに区切り、5つの年齢層で求められる要素を定義しています。今回は割愛しますが、対象年齢が定義できているプロダクトデザインの際には参考になるかと思います。
※4 「新学年ならびに教育のゲーミフィケーションに関する意識調査」調査概要
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