「SIerの経験を活かして、別の仕事に挑戦する」
そう聞くと、エージェントという仕事は少し意外に感じるかもしれません。
私自身、以前はSIerとして、メガバンクの超大規模システム刷新プロジェクトや、旅行業界のデータ分析に向けたDB構築・BIツールへのデータ出力などに携わっていました。
現在は、IT領域を中心とした人材エージェントとして、企業の採用支援とIT人材のキャリア支援を行っています。
転職してみて感じるのは、SIerとエージェントでは仕事の進め方も評価されるポイントも大きく違う一方、SIer時代に培った経験を活かせる場面は想像以上に多いということです。
今回は、SIerからエージェントへ転職して、仕事や働き方、そして自分の経験の活かし方がどう変わったのかをお話しします。
転職のきっかけは、これからの生活と自分のキャリアを考えたこと
転職を考え始めたきっかけは、結婚やマイホーム購入などのライフイベントでした。
これからの生活を考える中で、今後の収入やキャリアについて改めて考えるようになりました。
ただ、単純に「もっと条件の良い会社へ行こう」と考えたわけではありません。
これから先も収入を上げていくのであれば、今までの経験をそのまま横にスライドさせるだけではなく、自分の強みをより活かせる仕事に挑戦したほうがいいのではないか。
そう考えて、自分はどんなことが得意なのか・何にやりがいを感じるのかを改めて振り返りました。
SIerで仕事をする中では、システムのことだけを考えていればいいわけではありません。お客様の要望を聞き、何が本当の課題なのかを整理して、技術的な内容を分かりやすく説明する。時には意見の異なる関係者の間に入って、納得してもらいながらプロジェクトを前に進める。
振り返ってみると、そうした「相手の話を聞いて、整理して、伝える」という仕事が、自分が思っていた以上に多かったことに気が付きました。
また、前職では人材育成の講師も経験していましたが、これも根本にあるのは同じでした。相手がどこまで理解しているのかを見ながら、伝え方を変える。相手に合わせて情報を整理する。
そうした経験も含めて、自分は「人と向き合いながら、相手に合わせて物事を進めていくこと」が得意なのだとわかりました。
さらに、自分の性格を振り返ったときに「決められた役割をこなすだけでなく、自分がやったことが成果や評価に反映される環境」の方がやりがいを感じられるのでは?という発見もありました。
そんな中、複数のエージェントの方とのお付き合いを通じて、興味を持ったのが「人材エージェント」という仕事でした。
- これまでの経験を活かせること
- 「人」と向き合うこと
- 自分の工夫や行動が直接成果につながること
この3つを考えたときに、「企業と人の間に立ち、自分自身の考えや行動が採用という結果に繋がる」。そんなエージェントという仕事は自分に合っているのではないかと感じ、当社への入社を決めました。
もちろん、未経験の業界に移ることへの不安は大きかったです。
「これまでの経験が本当に通用するのか、営業経験のない自分にも実際に成果を出せるのか。」そうした不安を持ちながらのスタートでした。
SIerとの違いは、「自分で考えて仕事を動かす」こと
入社してまず感じたのは、仕事の進め方の違いです。
SIerでは、プロジェクトという大きな枠組みの中で、自分の担当領域や役割が明確に分かれています。その決められた領域の中で、クライアントの要望に応えながら、担当する業務を着実に進めていきます。
一方、エージェントでは、クライアントとの打ち合わせから採用課題の整理、人材要件の目線合わせ、候補者への提案まで、一気通貫で担当します。
クライアントの要望も最初から明確とは限りません。単に求人票を見て「この条件に合う人を探します」というだけではなく、クライアントの事業や今後のビジネス動向まで踏まえながら、「なぜ、今この人材が必要なのか」「どんな経験を持つ人なら活躍できるのか」といった点をすり合わせていきます。
そのために、クライアントの事業内容や業界動向について自ら情報収集し、仮説を立てたうえで、「こういう人材が必要なのではないか」「こういったアプローチが有効なのではないか」と考え、提案していきます。
そして、こうした仕事の進め方は、クライアントワークだけに限りません。
社内でも、入社1年目から自社採用の面接に参画しました。
SIer時代は、基本的に自分に与えられた役割の中で成果を出すことが求められていましたが、今の環境では、担当領域にとらわれず、「やってみたい」「必要だ」と思ったことに自ら手を挙げて関わることができます。
自分で考えて工夫したことが、成果につながる手応えを感じられる。だからこそ、試行錯誤することにも面白さがあります。
もちろん、難しさを感じることも多いです。
例えば、スカウトを送っても返信がないことがあります。
返信があれば、その内容から候補者の考えを知ることができますが、返信がなければ、なぜ届かなかったのかを直接聞くことはできません。
ターゲットが違ったのか、伝え方が響かなかったのか、タイミングの問題なのか。
相手から答えが返ってこないからこそ、自分で仮説を立て、試して、改善していく必要があります。
こうした試行錯誤を日々繰り返す中で、「決められた仕事を正確に進める力」だけではなく、「自ら考え、仕事を動かしていく力」も伸ばせる。
それが、SIerからエージェントへ転職して感じた、大きな違いの一つです。
SIerでの経験が、企業と候補者をつなぐ武器になる
一方で、SIer時代の経験は、今の仕事で明確な武器になっています。
特に活きていると感じるのが、企業だけでなく、その先にあるチームやプロジェクトまで理解したうえで、採用を支援できることです。
同じ「ITコンサルタント」や「PM」という職種でも、所属するチームや担当するプロジェクトによって、仕事内容は大きく異なります。
・どんなプロジェクトなのか
・どんな技術や業務領域に関わるのか
・どんな役割を担うのか
・そこで働くことで、どんな経験が積めるのか
SIerとして実際にプロジェクトを経験してきたからこそ、企業から説明された内容をそのまま受け取るのではなく、自分自身の経験と照らし合わせながら、その仕事の中身を具体的にイメージできる。
さらに、クライアント企業のビジネスや組織の特徴まで理解することで、「この会社なら、この経験を持つ人がこう活躍できるのではないか」という視点を持って、候補者に提案することができます。
ITを知っていること自体が目的なのではありません。
企業が求めていることと、候補者が積みたい経験。その双方をより深く理解するための土台として、SIerでの経験が活きていると強く感じます。
「この人と、この企業なら合う」と思える瞬間
エージェントとして特に印象に残っているのが、ある候補者の方を支援したときのことです。
その方は現在、私が支援して入社された企業Aで大活躍されていますが、初めてお会いしたときは、転職活動がなかなかうまくいっていませんでした。
ただ、実際にお話しする中で、これまでの経験だけでなく、キャッチアップの早さや人柄にも魅力を感じ、「この方は、A社であれば活躍できるのではないか」と感じていました。
同時に、A社が採用においてカルチャーマッチを非常に重視していることも理解していました。
そこで、単にスキルや経歴を推薦するのではなく、その方が持っている経験や人柄が、A社のカルチャーとどうマッチするのかまで含めて、クライアントに伝えました。候補者の魅力を、その企業が重視する観点から具体的に伝えたことで、企業側にも「この方なら活躍できそうだ」とイメージしてもらうことができ、選考が進んでいきました。
候補者の方も、面接を通じて「ここまで自分のことを見てくれている企業はなかった」と感じたそうです。
結果として、その方と企業はお互いに「ここで働きたい」「この人に来てほしい」と思える、まさに相思相愛の形で入社が決まりました。
そして入社後、その方は早期から活躍し、社長賞を受賞するまでになりました。
この経験は、エージェントという仕事の面白さを強く感じた出来事でした。
単に企業の求人と候補者の経歴をマッチングするのではなく、企業が大切にしていることと、候補者が大切にしていることの両方を理解し、その接点を見つける。
その結果が採用という形になり、さらにその先の活躍まで見届けることができる。
これは、SIer時代にはなかった、この仕事ならではのやりがいだと思います。
SIerからエージェントへ。経験を活かしながら、仕事の視野を広げる
エージェントに転職して、働き方にも変化がありました。
仕事の進め方に一定の裁量を持てるようになり、プライベートとのバランスは以前より取りやすくなったように感じます。
ただ、それ以上に大きく変わったのは、仕事を見る視点です。
SIer時代は、自分が担当しているプロジェクトを中心に物事を見ることが多かったですが、今は、クライアント企業の採用動向だけではなく、IT業界全体の市場や人材の動き、各社の事業戦略など、より広い視点から考える必要があります。
目の前の仕事をこなすだけではなく、「今、この企業や業界では何が起きているのか」「これから何が変わっていくのか」まで考える。
そうした視点が身についたことは、自分にとって大きな変化でした。
もちろん、SIerからエージェントへの転職は、決して簡単なキャリアチェンジではありません。
これまでとは異なる考え方や仕事の進め方が求められますし、試行錯誤を重ねても、すぐに成果につながるとは限りません。
一方で、IT知識やプロジェクトへの理解、顧客折衝を通じて培った、相手に分かりやすく伝える力など、SIerで培った経験を活かせる場面は想像以上にあります。
これまでの経験を土台にしながら、より広い視点で企業や人と向き合い、自分で考えて動いた結果を、成果につなげていく。
そうした仕事のほうが、自分には合っていたのだと、今になって感じています。
もし「SIerの次」を考えることがあるなら、これまで培ってきた経験を別の形で活かせるキャリアがあることも、知ってみてほしいと思います。
その選択肢の一つとして、エージェントという仕事も知ってもらえたら嬉しいです。