こんにちは!
株式会社mignの採用担当の及川です。
今回は、代表の對間がnoteに綴った「最新研究によるヒトが感じる美しさ・デザインの良さとはなにか?」を、Wantedlyの読者の皆さんにもぜひ知っていただきたく、再編集して公開いたします。
(以下、代表のnoteより転載)
美しさというものは主観的に評価されることが一般的だと思いますが、科学的には、客観的な方法によって、徐々にその感情の仕組みは明らかにされつつあります。
ぼく自身、小さいころから建築デザイナーになりたかったことから、最初の大学受験は美術大学の建築学科でした。受験科目には、デッサンや模型作成の試験があり、美大受験の講座の講師から自分が制作した作品の講評を受けるたびに、なにが良い作品で、悪い作品なのか、頭を悩ませることが多くありました。そのような経験が、その後、客観的に人の心理や行動を捉えられるようになりたいという動機でデータサイエンス・解析領域の研究業界に進むきっかけになりました。
デザインやクリエイティブな業務に関わる方にとって、美しいとは、良いデザインとは何なのかということを考えるヒントになればと思います。
目次 ヒトにとって美しさはどのような役割をもつのか:進化心理学アプローチ
環境への適応と脅威の回避
配偶者選択
美的適応度の異性に対する誇示
環境の予測と制御
アラーム機能の派生
美しさを感じるメカニズム:神経科学、認知科学アプローチ
脳内の反応
認知モデル
どのようなものをヒトは美しいと感じるか:認知科学、心理学、社会学アプローチ
色彩に関する要素
形態・幾何学的要素
空間配置・構図の要素
人の顔・身体に関する要素
社会的アイデンティティと文化的・文脈的要素
認知的・情動的プロセスが生み出す要素
おわりに
参考文献
ヒトにとって美しさはどのような役割をもつのか:進化心理学アプローチ
↑白人女性(左上)と中国人女性(右上)、白人男性(左下)、中国人男性(右下)の平均合成顔画像 (Rhodes, 2006)
美しさを感じる感覚は、楽しい、悲しいといった情動(emotion)の1つとして位置付けられます。情動は、生物学・行動学的な観点からは単なる状態ではなく、環境からの刺激に対する反応(特に緊急事態に対する迅速な反応)として説明されます (LeDoux, 2012; Mechner, 2018) 。
ヒトにとって、美しさを感じることは、生存や繁殖に有益なものを選択し、有害なものを避けるためのシグナルとして機能していました。以下にヒトが美しさを感じる機能(シグナル)を備える必要性が生じた主な要因を取り上げます。
環境への適応と脅威の回避 人は、澄んだ空やきれいな水など生存に有益な対象と結びつく色(青など)を好み、排泄物や腐った食べ物など有害な対象と結びつく色を嫌うように進化してきました。また、鋭利な輪郭を持つ物体よりも曲線的な物体を好む傾向は、鋭いものがもたらす脅威を避けるための適応的反応と解釈されています (Palmer et al., 2013) 。
配偶者選択 人の顔に対する美しさ(平均性、左右対称性、性的二型などの特徴)は、その個体の健康状態、寄生虫への抵抗力、発達の安定性、優れた遺伝子を持っていることを示す指標として機能し、繁殖成功率を高めるために進化してきたと考えられています (Rhodes, 2006) 。
美的適応度の異性に対する誇示 芸術的な技巧や創造性に対する美の評価は、アーティスト自身の知性や誠実さなど、配偶者として優れた身体的・精神的特性を示すもの(美的適応度)として機能したとする説もあります (Leder & Nadal, 2014) 。例えば、左右対称の土器や武器をつくることができる個体は、自身の能力の高さを異性に対して示すことができました。
環境の予測と制御 物理学の法則や数学の定理などに美しさを感じる理由は、それが少ない情報で多くの現象を説明できる簡潔性を持っているからです。無秩序よりも秩序のある方が環境の予測や制御を容易にするため、単純さや秩序を好む傾向(=美しさと感じる傾向)が生存に有利に働いたと考えられています (Mechner, 2018) 。
アラーム機能の派生 情動反応はもともと、差し迫った脅威を回避したり、突然の機会を掴んだりといった「緊急事態に対する迅速な反応」として進化しました。私たちの祖先がいた原始的な環境では、周辺環境のわずかな変化、小枝の折れる音、見慣れない物体といった些細な不一致が、生死を分ける重大な緊急事態を知らせるアラームとなり得ました。
進化の過程で、アラーム信号として機能していた刺激が徐々にその緊急性や特定の行動を要求する機能を失っていった結果、情動的な要素は、アラームというよりは驚きや新しい刺激に対する反応のひとつとして、美的な感情へと変化していったとされます (Mechner, 2018) 。
美しさを感じるメカニズム:神経科学、認知科学アプローチ ここでは、ヒトが美しさを感じたとき、脳内ではどのような反応が起きているのか、そしてそのプロセス(認知モデル)について説明します。
脳内の反応 ↑美しい絵画、醜い絵画、普通の絵画を比較したときの判断特異的活動を標準脳上に表示(Kawabata & Zeki, 2004)
PET(ポジトロン断層法)やEEG(脳波)など脳内の活動を定量的に可視化する手法はいくつか存在していましたが、脳を輪切りにして可視化をするfMRI(機能的磁気共鳴画像法)が1992年に出てからは、人が喜んでいる時、計算している時、嘘をついている時、などの脳活動を可視化することができるようになりました。
人が絵画を見たり音楽を聴いたりして、美しいと感じたとき、最も一貫して強く活性化するのが、脳の前頭葉にある内側眼窩前頭皮質(mOFC:medial orbito-frontal cortex)という領域です。この領域はお金や美味しい食べ物などから得られる報酬(Reward)を処理する場所でもあります。重要なのは、視覚的な美しさであっても聴覚的な美しさであっても、共通してこの同じ領域が活性化する点です。また、その活動の強さは、実験被験者が申告した美しさの主観的な強さに比例して直線的に増加します (Ishizu & Zeki, 2011; Kawabata & Zeki, 2004) 。
美しさを評価する前段階として、対象を正しく認識するための脳の専門領域が活動します。例えば美しい顔を見るときは顔処理を専門とする紡錘状回顔領域(FFA)が活動し、美しい風景を見るときは海馬傍回場所領域(PPA)が活動します。美しさの評価は、こうした脳の視覚的特化領域での処理に基づいた上で、報酬系へと信号が送られます (Kawabata & Zeki, 2004) 。
認知モデル ↑美しさの情動の認知モデル(Leder & Nadal, 2014)
The Vienna Integrated Model of Art Perception (Pelowski et al., 2017) 、Appraisal Theory (Palmer et al., 2013; Silvia, 2005) 、など美に関する認知モデルはいくつかありますが、ここでは美術品(特に現代アート)の鑑賞プロセスを説明する最も影響力のある認知モデルであるLederの情報処理モデルを説明します (Cebral-Loureda et al., 2023) 。
この認知モデルは美的体験を以下の5つの連続する情報処理ステージとして記述しています (Leder & Nadal, 2014) 。
知覚: 複雑さ、対称性、コントラストなどの刺激の物理的特徴の処理をします。 記憶との統合: 過去の経験に基づく親しみやすさやプロトタイプ性など、記憶との照合をします。 明示的な分類: 対象の内容や、描かれているスタイル(様式)の意図的な分類をします。 認知: 対象のスタイルと内容について、自己の知識と関連付けながら自分なりの意味を見出し、理解しようとします。 評価: これらのプロセスの成功度合い(理解や曖昧さの解決など)を評価します。 このモデルの特徴は、最終的なアウトプットとして、認知に基づく美的判断と、継続的な感情評価から生じる美的感情の2つが独立して生じるとした点です。
どのようなものをヒトは美しいと感じるか:認知科学、心理学、社会学アプローチ 最後に、ヒトが美しさを感じる主な要素について記載します。
色彩に関する要素 色の好みは、生態学的な生存価や社会的な意味づけに強く影響されます。
色相の普遍的傾向: 多くの文化圏で、青やシアンなどの寒色系が好まれ、暗い黄色やオリーブ色、茶色などが嫌われる傾向があります。これは、青が「澄んだ空やきれいな水」、暗い黄色が「排泄物や腐敗物」といった生態学的に有益・有害な対象と結びついているからだと説明されます (Palmer et al., 2013) 。 彩度と明度: 一般的に、彩度が高く(鮮やかで)、明度が高い(明るい)色が好まれる傾向があります (Palmer et al., 2013) 。 配色の調和とコントラスト: 色の組み合わせにおいては、色相が類似している(類似色の調和)、または明度のコントラストが大きい図地配色が美しく好ましいと評価されます (Palmer et al., 2013) 。 形態・幾何学的要素 形に対する美しさは、脳にとっての処理のしやすさ(知覚的流暢性)や安全性のシグナルに基づきます。
空間配置・構図の要素 画像や写真のフレーム内での要素の配置も、美しさを左右します。
人の顔・身体に関する要素 人間の容姿に対する美の基準は、健康や優れた遺伝子、繁殖成功率を示す生物学的なシグナル(性選択)に根ざしています。
平均性: 複数の顔を合成した平均的な顔は、発達段階でのストレス耐性(発達安定性)や遺伝的多様性を示すため、非常に魅力的に見えます (Rhodes, 2006) 。 左右対称性: 顔や身体の対称性も、寄生虫や病気への抵抗力を示す「良い遺伝子」のシグナルとして美しさと評価されます (Rhodes, 2006) 。 性的二型: 女性の顔における女性らしさ(小さな顎、ふっくらした唇)や、男性の顔における男性らしさ(発達した顎や眉骨)は、性ホルモンの働きや免疫能の高さを示すため魅力的とされます (Rhodes, 2006) 。 肌の色と均一性: 顔の肌の色が均一であることや、血流(酸素化された血液)に由来する赤み、およびカロテノイドに由来する黄色みがあることは、心血管系の健康やフルーツ・野菜の摂取を示すため、美しく健康的に見えます (Elliot & Maier, 2014) 。 社会的アイデンティティと文化的・文脈的要素 美しさは物理的な属性だけでなく、個人の知識、所属する集団、社会的な文脈によっても決定されます。
社会的アイデンティティと所属集団: 特定の対象に対する感情的な投資(ポジティブな思い入れ)は、美的な好みを変化させます。例えば、自分が所属する大学のスクールカラーを、他大学のカラーよりも美しいと好むようになる傾向があります (Palmer et al., 2013) 。 芸術であるという文脈: 同じ画像や対象であっても、美術館に展示されている、本物の芸術作品である、と信じて鑑賞するだけで、脳の報酬系(眼窩前頭皮質など)の活動が高まり、美しさや魅力の評価が向上します (Leder & Nadal, 2014) 。 タイトルの付与と意味的な適合: 単なる説明的なタイトルよりも、作品の隠された意味や文脈を補足する比喩的・精巧なタイトルが与えられたり、配置がその意味と完全に適合したりしている場合、美的評価が高まります (Palmer et al., 2013) 。 文化的ミーム: ある文化圏内で共有される芸術様式、音楽、装飾などは、集団の結束を強め、文化的なアイデンティティを定義するミームとして機能するため、その文化の構成員に特有の美的反応を引き起こします (Mechner, 2018) 。 認知的・情動的プロセスが生み出す要素 ヒトの脳内で起こる情報処理のプロセス自体が、美しさという感情を生み出します。
知覚的・概念的流暢性: 単純接触効果(見慣れていること)や、認知的な処理がスムーズに行えること自体が、脳にとってポジティブな快の感情を引き起こし「美しい」と評価されます (Reber et al., 2004) 。 期待の裏切りと驚き・新奇性: 芸術や音楽において、パターンの反復等で鑑賞者に「期待」を抱かせ、それを意図的に裏切ること(予測の不一致)は、驚きや知的挑戦をもたらし、それを解決(洞察)できた際に強い美的快感が生じます (Mechner, 2018) 。 情動のミラーリング: 芸術作品に描かれている感情や、パフォーマーの表現や、観客の歓声などに共鳴・同調すること(感情移入)で、美しさが喚起、増幅されます (Mechner, 2018) 。 おわりに ヒトが美しさやデザインの良さを感じる背景やプロセス、傾向などについて整理しました。美しいという情動は、ヒトの生物としての機能のひとつであることで、ヒトについての理解が進むとともに、デザインを考えるにあたって参考になればと思います。
参考文献 Cebral-Loureda, M., Sanabria-Z, J., Ramírez-Moreno, M. A., & Kaminsky-Castillo, I. (2023). One hundred years of neurosciences in the arts and humanities, a bibliometric review. Philosophy, Ethics, and Humanities in Medicine, 18(1), 17. Elliot, A. J., & Maier, M. A. (2014). Color psychology: effects of perceiving color on psychological functioning in humans. Annual Review of Psychology, 65(1), 95–120. Ishizu, T., & Zeki, S. (2011). Toward a brain-based theory of beauty. PloS One, 6(7), e21852. Kawabata, H., & Zeki, S. (2004). Neural correlates of beauty. Journal of Neurophysiology, 91(4), 1699–1705. Leder, H., & Nadal, M. (2014). Ten years of a model of aesthetic appreciation and aesthetic judgments : The aesthetic episode - Developments and challenges in empirical aesthetics. British Journal of Psychology (London, England: 1953), 105(4), 443–464. LeDoux, J. E. (2012). Evolution of human emotion: a view through fear. Progress in Brain Research, 195, 431–442. Martindale, C. (1984). The pleasures of thought: A theory of cognitive hedonics. Journal of Mind and Behavior, 5(1), 49–80. Mechner, F. (2018). A behavioral and biological analysis of aesthetics: Implications for research and applications. The Psychological Record, 68(3), 287–321. Palmer, S. E., Schloss, K. B., & Sammartino, J. (2013). Visual aesthetics and human preference. Annual Review of Psychology, 64(1), 77–107. Pelowski, M., Markey, P. S., Forster, M., & Gerger, G. (2017). Move me, astonish me… delight my eyes and brain: The Vienna Integrated Model of top-down and bottom-up processes in Art Perception (VIMAP) and …. Physics of Life Reviews. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1571064517300325 Reber, R., Schwarz, N., & Winkielman, P. (2004). Processing fluency and aesthetic pleasure: is beauty in the perceiver’s processing experience? Personality and Social Psychology Review: An Official Journal of the Society for Personality and Social Psychology, Inc, 8(4), 364–382. Rhodes, G. (2006). The evolutionary psychology of facial beauty. Annual Review of Psychology, 57(1), 199–226. Silvia, P. J. (2005). Cognitive appraisals and interest in visual art: Exploring an appraisal theory of aesthetic emotions. Empirical Studies of the Arts, 23(2), 119–133.
最後までお読みいただきありがとうございました。
mignでは、弊社プロダクトを一緒にグロースしていただける仲間を大募集しています。
「まずはカジュアルに話を聞いてみたい」
「代表の研究についてもっと詳しく知りたい」
そんな方は、ぜひ下の「話を聞きに行きたい」ボタンからエントリーをお願いします!
まずはオンラインでお話ししましょう!