国の研究プロジェクトなどを手がけるON BOARDが、新たに取り組んでいるのが、研究・技術と企業など社会と市場をつなぐ「プラットフォーム構想」です。日本にある優れた研究技術を社会に届けるために、同社が大切にしているのは、ベンチャーキャピタルが追い求めるリターンの最大化ではなく、「その研究を必要としている人がいるかどうか」だといいます。
通信・放送分野を経て、研究技術の社会実装に携わってきた山縣怜之さんに、ON BOARD参画の経緯と、構想中のプラットフォームが目指す未来について伺いました。
通信・放送・研究技術の社会実装。山縣さんが歩んできたキャリア
──まずは、これまでのキャリアを簡単に教えていただけますか。
山縣:通信会社でのキャリアが私の原点で、その後は地上波局や衛星放送局など、放送分野に長く携わってきました。直近では、研究技術の社会実装をテーマにしたベンチャー企業で、8年近く役員を務めています。そうした経験を経て、ON BOARDに参画しました。
──ON BOARDに参画した経緯を教えてください。
山縣:代表の大山りかとは、以前同じ部署で働いていた間柄です。その後も連絡を取り合っていたので、タイミングが合い、声をかけてもらいました。大山がどういう人間で、何を大切にしているのかを長年知っていたため、迷いなく一緒にやろうと決断できました。
実際に入ってから知ったON BOARDの取り組みも、国の研究プロジェクトや研究者と企業をつなぐ活動など、まさに大山が長年目指してきた方向性そのものだったので、強い納得感がありました。
──実際に事業内容を知ってみて、どう感じましたか。
山縣:日本にある優れた研究を、もっと多くの人に知ってもらい、社会実装へ導く活動だと知って、非常にやりがいのある仕事だと感じました。私自身、前職で研究技術を社会に広げる難しさを痛感していたため、ON BOARDのこれまでの取り組みに深く共感しました。
通信や放送、そして社会実装に携わってきた自身のキャリアが、今まさに活かせる場所だと感じています。
技術に価値があっても、収益につながらない。研究技術の社会実装にある壁
──研究技術の社会実装には、どのような壁があると感じていますか。
山縣:素晴らしいアイデアや技術に価値があっても、それがすぐに収益化しづらいという点です。特に、結果が出るまでの「過程」に投資をするという発想は、日本ではまだ広がりにくいと感じています。
──そうした背景には、どういった事情があるのでしょうか。
山縣:研究者とビジネスサイドの人材が出会える場が足りていません。それに加え、研究者の多くは「自身の研究は自分がメインで進めるべきだ」という強い使命感をお持ちのため、ビジネス化に向けた営業や広報といった活動にはあまり積極的ではありません。
自分たちは経営のプロではないからこそ、事業化や実務といったビジネス領域は専門家に任せたい、二人三脚で進めたい方は多いはずです。
──ビジネス側の人材にどのようなことを求めているのでしょうか。
山縣:その技術が持つ可能性は、専門家ではない人間には分かりづらい部分です。まだ見えていない研究を世の中に出していくには、研究者の方と同じくらいの熱量と知識を持っていないと、対等に一緒に仕事をすることは難しいでしょう。加えて、何かの領域である程度プロフェッショナルであることが、研究と社会の距離を縮めていくプラスワンの鍵になると思っています。
投資ではなく、後押し。ON BOARDが大切にしている考え方
──ON BOARDでの活動を通じて、研究を社会に届けるうえで何を大切にしていますか。
山縣:日本には素晴らしい技術や研究がたくさんありますが、社会実装されるために「見せ方」が重要です。また、国への提言や、社会実装支援を通じて、研究が実際に光るということも見えてきています。だからこそ、通信分野に限らず、医療や文系の分野にも、まだ気づかれていない価値がたくさんあるはずだと考えています。
──研究と企業をつなぐ活動は、ベンチャーキャピタルなども行っていますが、ON BOARDならではの視点も聞かせてください。
山縣:ベンチャーキャピタルの方々は、金銭的な利益を最大化させるために、優れた技術と有望な投資先をつなげることに力を注がれています。これは国にとってもとても重要なことです。
ただ、私たちはお金を主軸に置いていません。たとえ大きな利益に繋がらなくても、「その研究を必要としている人」が少数でもいるなら、そこに大きな価値があると考えています。
──経済的リターンだけでは測れない価値を、どのように見極めているのでしょうか。
山縣:一つの基準は、「その研究を応援したいと思う人の熱量」です。
たとえば、ベンチャーキャピタルが将来性を見込んで数億円投資することも大きな応援の形ですが、ある研究に「これは世の中に必要だ」と感じた人が、自分のお金から1万円を出して研究を応援することも、同じように強い想いがあるはずです。
これまでは、限られた資金をどの研究に投じるべきか、少数の投資先を見極める発想が中心でした。
でも私たちは、その1,000万円を1万円ずつに分けて、1,000の研究を応援するという考え方もあっていいと思っています。最初は小さな応援でも、多くの人の関心や共感が集まることで、そこから芽が出る研究もあるかもしれない。経済的なリターンだけでは見えにくい価値を、そうした応援の積み重なりから見つけていきたいと考えています。
──経済的リターンだけに偏らず、応援の熱量から研究の可能性を見つけていく。その姿勢は、ON BOARDならではの強みにもつながっているのでしょうか。
山縣:つながっていると思います。私たちは、投資家のように大きなリターンを前提に研究を見るのではなく、「この研究にはまだ知られていない価値があるのではないか」「世の中に届けば、誰かの役に立つのではないか」という視点を大切にしています。
もちろん、事業として成り立たせることは重要です。ただ、最初から経済的な見返りだけを基準にしてしまうと、まだ社会に知られていない研究や、すぐにはお金に変わらない価値が見落とされてしまうこともあります。
だからこそON BOARDは、そうした研究の価値を引き出し、多くの人に知っていただけるように、地道に発信し、関係者を巻き込みながら動いていく。本当に日本にとって必要な研究が、社会に届くきっかけをつくること。それが、私たちの強みだと考えています。
研究者と社会をつなぐ場所を。ON BOARDが描くプラットフォーム構想
──そうした「応援の熱量」を軸にした支援を、ON BOARDでは今後どのように広げていこうとしているのでしょうか。
山縣:今構想しているのは、研究者とビジネスサイド、そして一般の方々がつながれるプラットフォームです。
研究を事業化したい企業や経営人材だけでなく、「この研究を応援したい」と思う個人、将来研究に関わりたい学生など、さまざまな立場の人が研究と接点を持てる場にしたいと考えています。
ただ、オンライン上でつながって終わりにするつもりはありません。研究の価値を社会に届けるには、実際に人が動き、関係者をつなぎ、発信の形を整えていく泥臭い伴走が不可欠です。私たちがこれまで培ってきた直接的な支援を組み合わせながら、まだ知られていない研究が社会に届くきっかけを増やしていきたいです。
──研究に詳しくない人にとっては、参加するハードルが高く感じられる面もあると思います。その点はどう考えていますか。
山縣:たしかに、研究は専門的で難しいものです。ただ、難しいことが難しいまま発信されているので、多くの人にとって理解しづらく、どう関わればいいのか分かりにくくなっているのだと思います。
だから私たちは、まずその難しさをほどき、「この研究の本質はどこにあり、何が面白くて、どんな可能性があるのか」を分かりやすく分解して伝える役割を担います。
そこで「面白い」と思ってもらえれば、関わり方は少しずつ広がっていくはずです。「この研究に興味はあるけれど、難しそう」と感じたとしても、今はAIに聞けば、概要を簡単に理解することもできます。そうした小さな興味の積み重ねが、いずれ研究を支える大きな力になっていくと考えています。
──最後に、これからON BOARDの取り組みに関わっていきたいと考えている方へ、メッセージをお願いします。
山縣:研究に対して真摯に向き合っている技術者や先生方と、同じくらいのプロフェッショナル度合いを持って取り組んでくださる方と、ぜひ一緒にこの事業をつくっていきたいです。
優れた研究でありながら、まだ十分に見つけてもらえていないものが、世の中に届いていく仕組みを当たり前にしていきたいと考えています。日本の国力が弱まっていると言われるなかで、これまで日本が強みとしてきた研究技術を、もう一度しっかりと社会の力に変えていくこと。それが、日本を元気にすることにもつながるはずです。
想いだけではなく、研究者と対等に向き合える専門性や、地道に形にしていく推進力をお持ちの方、この取り組みに少しでも力を寄せてくださる方であれば、心から歓迎したいと思っています。