【施設紹介】ケアする心を、まちの文化に。鞆の浦・さくらホームの「年齢を重ねても 障がいがあっても 居場所となるまちづくり」
広島県福山市の南部、瀬戸内海に面する小さな港町、福山市鞆(とも)町。
ミッションはまちづくり
この港町を拠点に介護福祉事業を展開する「鞆の浦・さくらホーム」のミッションは「年齢を重ねても 障がいがあっても 居場所となるまちづくり」。生活上の困難がある方の「このまちで暮らしたい」という思いを支えるには専門職の支援だけでは不十分で、まち全体での見守りが必要だからです。
ケアする心が根付いたまちにするため、スタッフは利用者さんと共にまちへ出ます。住民と対話し、接点を築く挑戦の積み重ねで今、鞆は認知症の方がひとりで歩いていることや、障がいのある子たちが街を散策することが当たり前の風景のまちになっています。弱さやハンディがある人も鞆の日常の一部。安心して年を重ねられるまち、障がいがあっても「ここでなら生きていける」と思えるまちにある介護・福祉体制を紹介します。
目次
ミッションはまちづくり
鞆町とさくらホーム
特徴①半径400m以内に5つの福祉拠点
特徴②その人らしさを妥協しない
特徴③まちと、住民とともに
さくらホームの地域福祉とこれまで
専門職だけでケアしない
障害があっても「鞆でなら生きていける」
新たな時代の地域共生のまちづくり
鞆町とさくらホーム
南北に伸びる小さな集落、鞆の浦。風光明媚な景観で多くの観光客を惹きつけ、ジブリ映画「崖の上のポニョ」の舞台にもなりました。
生活者の目線で見ると、住民のつながりがとても濃いまちです。古くから潮待ちの港として栄えてきた歴史や、鉄鋼・漁業などの独自の産業で発展してきた経緯から1985年の人口は約8100人に上りました。人口の多さや地区ごとに違う祭りがあるといった文化的背景ゆえに、コミュニティは細分化。また、壁を共有するほど住宅が密集しており、車が通れないほどの狭い道も多くあります。家から一歩出れば誰かに出会う環境から、ご近所付き合は深く、人情味のある昭和の雰囲気が残るまちです。
しかし現在の鞆は、日本の他の地域同様、急激な人口減少の最中にあります。現在は人口約3000人。高齢化率は50%以上に上ります。産業の衰退や宅地のなさから若者も流出。毎年100人が自然減しており、病院や商店の閉業も相次ぐ危機的なまちともいえます。
一方で今でもコミュニティは細分化したままで、狭い集落ながら町内会は23に枝分かれしています。他にないノスタルジックな魅力が若い移住者を惹きつけている側面もあります。
そんな鞆のまちで介護、福祉事業を展開する鞆の浦・さくらホームには3つの特徴があります。
特徴①半径400m以内に5つの福祉拠点
人口減が叫ばれる少し前の2004年、鞆の浦・さくらホームは始まりました。中心部の「関」地区にグループホームと地域密着型デイサービスを開設。当初は拠点を増やしていく想定はありませんでしたが、鞆は前述の通り、エリアで異なる文化圏を形成しているのが特徴。当然、住民の人間関係も地区によって違います。南側の「平」地区の町内会長に「平には平の文化があるんじゃけえな。ここにもつくらんといけんぞ」と言われたのが、拠点を増やしていくきっかけでした。現在は利用者・住民の方の生活区域の半径400m以内に、5つの拠点事業所を配置。これにより鞆町内のどのご自宅からも歩いて「さくらホーム」にいくことができます。
さくらホームのそれぞれの拠点を詳しく解説します。
・「鞆の浦・さくらホーム」(グループホーム/デイサービス/居宅介護支援事業所/小規模多機能型居宅介護サテライト)
歴史的建造物が連なる鞆中心部「関」地区にて、築350年の商家を改修し、2004年に開設しました。近隣のこども園や小中学校、町内会とつながりながら、利用者の地域での暮らしを支えています。
・「さくらホーム・原の家」(看護小規模多機能型居宅介護/訪問看護ステーション)
鞆北側「原」地区の拠点です。自宅での生活を継続するために、訪問・通所・泊まりを組み合わせたサービスを提供します。利用者の生活に合わせたケアを徹底しており、月の訪問回数は、のべ1600回を超えます。
・「鞆の浦・さくら荘 いくちゃん家」(小規模多機能型居宅介護サテライト)
鞆南側の「平」地区の拠点です。狭い道に住宅がひしめき合う平地区は住民同士のつながりも強く、ご近所の方がよく遊びに来られます。
・「さくらんぼ」(放課後等デイサービス/児童発達支援)
閉所となった保育所の一部を間借りし、遊びを通じて子どもたちの心身の成長を支援しています。建物は町民のNPO法人が運営しており、地域住民との交流が自然に生まれる環境にあります。
・「クランク」(就労継続支援B型事業所/生活介護/相談支援事業所)
鞆中心部にて、大きな公園のあるカフェ「スープとおにぎりクランク」を運営。地元情報誌にも掲載される人気店であり、就労B型事業所でもあります。
原の家の隣の拠点「もとゆう」には、軽作業や農業を仕事とする部署「クランクワーク」があります。もとゆうには生活介護、相談支援事業所も併設。
心身の状態に合わせて、その人らしくいられる場を提供しています。
・鞆の浦・お宿と集いの場 燧治(ひうちや)
バリアフリーのユニバーサルルームを備えた、誰でも泊まれるを目指すやさしいお宿。築90年の古民家を改装して、運営しています。清掃はクランクワークが担当しています。
また、兵庫県相生市でも「さくらホーム おおの家」を展開しています。
特徴②その人らしさを妥協しない
さくらホームを利用するお年寄りのほとんどは、自宅で暮らし続けたいと思っている方々です。思いの根底には「自分らしい暮らし」を継続したいという願いがあります。仲の良かった人は誰か、日課は何か・・・。ご本人、ご家族だけでなく地域の方からも聞き出し、丁寧にケアプランを作成していきます。
また、自分たちでケアの課題を全て抱え込まず、課題を地域に戻し、住民の協力を得ながら解決に向かうアプローチを実践しています。慣れ親しんだ日常の中でのケアこそが、「地域住民」としての尊厳を持った暮らし方だと考えます。
障害福祉事業においても、本人の個性・やりたいことの尊重が第一です。子どもにとって「やりたい」ことを実現できた経験は将来の自信につながる、自分の個性を活かした働き方なら、居場所を感じられる。そう信じて、日々支援を重ねています。
特徴③まちと、住民とともに
身近な人に排除されないという安心感は、生きやすさに直結します。私たちスタッフが利用者さんと外へ出るのは、まちとの接点を積み重ねるため。その先に、利用者さんの地域化があり、まち全体で見守る仕組みの構築があり得るからです。
スタッフの地域化も大切にしている視点の一つ。鞆の事業所のスタッフのうち、約半数が鞆町在住者で、利用者さんの近所に住むスタッフが時に見守り体制の1人になることもあります。鞆に住むスタッフのうち3割は、広島県内外からの移住者。専門分野や職歴、資格も様々な人材がさくらホームの理念に共感し、鞆に移住し、地域の一員として祭りや行事に参加しています。まちの空き家対策にも繋がっています。
さくらホームの地域福祉とこれまで
約30年前、創業者で理学療法士の羽田冨美江が嫁ぎ先の鞆町にて、脳梗塞で半身麻痺になった義父を10年介護した経験が、さくらホームの地域共生理念の原点となっています。介護を始めた当初、車椅子生活になった義父は気落ちし、家の中で怒ってばかり。ある日、義父とともに祭りの準備の場に行くと住民が続々と「兄さん!」「これは昔どうしとったんかな」と話しかけてくれたそうです。地域に居場所を見つけた義父は、翌日から人が変わったようにリハビリを開始。羽田はこの経験から「まちの力」を確信します。
2004年、鞆の浦・さくらホームは開所しました。開所当初は、介護が必要になったら「郊外の施設に入る」という風潮がより強い時代。利用者さんと町で散歩や買い物をしていると「あんな状態の人を歩かせていいんか」「見せ物にするんか」などと苦言を呈されたこともありました。認知症高齢者を受け入れる意識が乏しく、どれだけ必要性や熱意を伝えても怒鳴られることもしばしばありました。
まちの意識を変え、利用者さんと地域を結び直すためにやったのが、前述したスタッフの地域化です。地域のサロンに出向いたり、町内行事に参加したり。「窓のサッシが外れたから直しにきて」という利用者さんではない年配の方の対応を受けることもありました。そんな地域住民との関係性を紡ぐ日々の中で、住民のさくらホームへの見方は変わっていきました。何より利用者さん一人一人と向き合い、家族や周辺住民と丁寧に関わる姿を住民はみています。結果、できないことだと思われていた「家で最期を迎える」という選択肢が徐々に鞆のまちに根付いていきました。
専門職だけでケアしない
小規模多機能の利用者の8割が老夫婦世帯または別居、他2割の方も日中独居です。そんな中での在宅生活を支える私たちの特徴は、訪問回数の多さにあります。鞆町内に拠点が多いことやスタッフに鞆在住者が多いことで移動のフットワークが軽く、手厚いケアが実現できています。
それでも専門職のケアだけでは不十分。私たちは住民同士のつながりの強さという地域資源を存分に活用しながら支援をしています。
過去には徘徊する認知症高齢者の在宅生活支援のため、町内会長が司令塔隣、早朝の見守りは町内会長、夜の安否確認は向かいの夫婦というようなネットワーク体制が築かれたこともあります。その際、さくらホームは住民の方たちに排泄や服薬などの生活支援と24時間何かあればすぐに対応することを約束しました。住民では難しい部分を地元の介護事業所が支えてくれるという安心感がネットワークづくりにつながったのです。鞆の住民には「見守りといっても、介助はしなくてもいい。そっと声をかけるだけでいい」という意識が根付いています。それは「介護はさくらホームがやってくれる」という信頼関係の先にあるものです。
また、さくらホームは同じ町内の病院、こども園、小中学校、商店らとそれぞれに「顔が見える関係」を築いてきました。こども園は散歩ルートとして日常的にさくらホームに立ち寄ってくれます。中学生が夏休みにデイサービスのお年寄りと将棋トーナメントを開催してくれたこともあります。さくらホームのスタッフとも利用者さんとも顔馴染みになった子どもたちは、街を歩く認知症高齢者の情報提供をしてくれることもあります。
事業所自体を街に開くことも大切にしてきたポイントの一つ。各事業所の入り口は必ず開放されており、建物前にはベンチを置いています。利用者さんや地域の方がベンチで日向ぼっこをする姿は日常。また原の家の前ではラジオ体操をしたり、冬になれば地域の方を巻き込んで餅つきをしたり。さくらホームはいつでも誰でもきていい「開かれている場所」であることを大事にしています。
障害があっても「鞆でなら生きていける」
2014年に設立した放課後等デイサービス「さくらんぼ」には、町外からの利用児童も多くいます。地域住民の方々は彼らを「さくらんぼの子どもたち」としてまちに迎え入れ、「おかえり」と声をかけ、町中を走り回る姿をあたたかく見守ってくださっています。
門や扉はいつでも開放されているため、地域の方が体操をしにきたり、地元の小学生が宿題をしに寄ったりといつもにぎやか。大人も子どもも、障害があってもなくても、一緒にそこにいるというのが当たり前の空間です。
2023年に開所した就労継続支援B型事業所、2026年に開所した生活介護「クランク」も目指す理念は同様です。クランクはまちづくりの新たなプラットフォーム。就労B型クランクカフェ裏手の公園は鞆こども園と隣接しており、子育て世代の憩いの場となっています。公園には駄菓子屋クランクもあり、放課後は常連客の子供たちの姿で賑わいます。
障がいや生きづらさを抱えてクランクのメンバー(利用者)となった方も「クランクの人」として鞆での居場所を得ています。鞆で月1回住民が開いているマルシェでコーヒーを販売したり、鞆内の庭や不動産清掃をしたりと、住民の近くで働いてきた日々の活動の結果です。隣町で家族と同居していた20代の発達障害の男性がクランクで働きながら鞆で一人暮らしを始めた例や、長年鞆内の自宅で引きこもっていた統合失調症の60代の男性が、クランクで働き出したことで再度地域とつながることができた例もあります。
新たな時代の地域共生のまちづくり
さくらホームは過疎や高齢化が進行する現代の先駆け的存在として、地域福祉の実践を進めてきました。この20年間で社会問題はより複雑化・困難化し、福祉ニーズも多様化しています。専門職任せのサービスだけではとても解決できず、より一層地域の協力が必要となっています。そんな中で改めて、地域福祉とはまちづくりだと、実感します。
地域福祉の対象は、お年寄りや障がいのある人、子どもに限らず、全ての住民です。子どもを見守るお年寄りの存在は若者に安心感を与え、認知症高齢者に声をかける住民の姿は、介護と仕事に追われる現役世代の支えとなります。よう支援者を見守るネットワークのある街は、誰にとっても住みよいまちに違いありません。福祉の充実の先に、鞆への移住者や人口の増加があると考えています。私たちの仕事は鞆のまちの下支え。鞆をより暮らしやすくし、持続可能なまちづくりに寄与することが私たちのミッションです。
さくらホームは、SNSにて事業所内の日々の様子や取り組みについて発信しています。介護や福祉に興味のある方、まちづくりに興味のある方、鞆の浦に興味を持ってくださった方はぜひチェックしてみてください。
◆ 鞆の浦・さくらホームInstagram
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