看護師なのに「ヘルパーさん」と呼ばれて。葛藤を乗り越えて、ケアの現場で居場所を見つけるまで。さくらホームおおの家看護師リレートーク【後編】
有限会社親和が兵庫県相生市相生(おお)地区で運営している地域密着型介護の「さくらホーム おおの家」。看護小規模多機能型介護(以降、看多機)では、看護スタッフと介護スタッフが協働して「最期まで、その人らしく」いられるよう住み慣れた地域での在宅生活を支えています。
前編では、看護リーダーと管理者に利用者さんを真ん中に置くケアをするためのチームづくりについて聞きました。よりよいケアのため、スタッフの個性を認め合うおおの家。今だからこそ言えますが、チームづくりは紆余曲折の連続だったそう。特に病院のキャリアが長い看護師が介護現場に慣れるのは相当な苦労があったんだとか。
看護師の平井美幸さん、筏(いかだ)敦子さんに在宅生活を支える上での「看護観」を聞いてみました。聞き手はライターの高本友子です。
高本:平井さんは長く病院勤務されてから、おおの家に転職されてますよね。当初は葛藤があったそうですね。
平井美幸さん:私は30年間病院でキャリアを積んできました。総合病院や透析のクリニックで働いてきて、患者の病名を見て、医師の指示通りに動くのを仕事にしていた。白黒しかない世界で働いていました。
でもおおの家では「介護に正解はない」って言うところでしょう。グレーゾーンにずっと悩んでました。「医療は病気を治すところだけど、介護は病気を治すところじゃない」。働き出して3年経ち、今ようやく理解できました。
高本:なぜ在宅のケアに興味を持ったんですか?
平井:急性期や外科病棟にいた時に、点滴してチューブだらけになる人を見てきたんです。病室で患者さんのそばにいることも大事だけれど、業務も多いし、結局バタバタと働いていました。処置して、亡くなって、お見送り。その積み重ねで「これでええんやろか」と思うことが増えてきました。ご本人やご家族のケアができていないなと思って、漠然と(介護)施設に行きたいと思うようになりました。せっかくだから、自分が納得できるところで働きたいと思った時、通勤圏内におおの家を見つけたんです。”看護”小規模多機能だから、自分の看護師としてのスキルも活かせると思って。
看護師なのに、利用者さんと座ってるだけでいいのか
平井:でも、面接から度肝抜かれたんですよ。看護師の筏さんに「私カリンバ(楽器)とかするんですけど、何か特技ありますか?」って聞かれて。看護師の面接できてるのに「一発芸聞くの!?」って感じですよね。スタッフと話したあと「利用者さんと座ってお話ししといて」と言われたんですが、正直「看護師として働きにきたのに30分も座っとられへん。動きたい!」と思いました。認知症の方とゆっくり喋ったこともなかったので、戸惑いもありましたね。
高本:驚きの中でも「ここで働きたい」と思える何かがあったんですね。
平井:最初に看護リーダーの辻下さんの訪問について行った時、愛情あふれる眼差しと丁寧なケアを見て感動して泣いたんですよ。この人と働きたいと思いました。おおの家とは、生活とは何かを分かりたいと思ったんです。辻下さんは私が泣いてるのを見て、ちょっと引いてましたけど。笑
「人を病名で見ないでください」
平井:勤務1日目は筏さんの訪問に同行しました。勤務後、筏さんに「誰々さん覚えていますか?」と質問された時、私は「〇〇病の左麻痺の方ですよね」と答えたんです。そうしたら「人を病名で見ないでください」と言われました。「『この家生まれ住んで、こんな仕事をしてきて、こんな人と結婚して、今ここにいる』っていう風に見てください」、と。私は病名と薬の情報ばっかりを見ていたことに気づきました。
何が正しいのかわからずモヤモヤはする日々は続きましたよ。おおの家では利用者さん、ご家族の意見を尊重して、スタッフもそれに沿うように考えてケアをします。治療じゃないのはわかっているけど「心不全で入院して帰ってきたのに水分制限せえへんの?糖尿病なのにおやつって大丈夫?」と疑問の連続でした。
高本:モヤモヤとはどう向き合っていましたか?
悩みはぶつける。でも答えはない
平井:都度、悩みや意見は先輩看護師や管理者にぶつけていました。そこで必ず羽田管理者は、「互いを認め合う」という(運営元の)親和のバリューの話をするんです。「治療はしなくていいのか」という私の医療視点の疑問を否定されたことはありませんでした。しっかり聞いてくれた。まさに白黒つけない姿勢です。そして「家族と結ぶ 地域と結ぶ その人らしさを発揮できるホームにする」が理念だからと答える。おおの家の介護がなんたるかは結局、自分で気づいたというか、気づいていくしかなかったですね。
「ヘルパーさん」と呼ばれて
平井:一度「ヘルパーさん」とご家族に呼ばれたのが心に刺さって、泣いたことがあるんです。同僚に「ヘルパーを下に見ているのでは?」と言われ、考えさせられました。そういうわけではなくて、看護師としての仕事ができていない自分が嫌だったんだと思います。
訪問看護師をしている人に相談する機会があって「他のスタッフは知らなくても(看護師の平井さんが)バイタルや薬のことを知って置くことが大事なんだよ」と言われて。例えば血圧が低かったとしても、介護スタッフは報告だけで済ますことがあります。その時の私は「正常値と違うので再検する」という対応をスタッフみんなに求めようとしていたんですよね。でもそうじゃなくていいんです。私が利用者さん一人一人の血圧の”普通”を把握していればいいし、気になるなら次の受診の時に血圧のデータを持っていけばいい。看護師としての自分のやりがい、居場所を見つけてから楽しくなりました。
高本:おおの家のケアに馴染むのに3年くらいかかったということですが、間に辞めようと思わなかったですか?
平井:おおの家の介護がすごく魅力的だったから辞めようとは思いませんでした。病院で人を看取って「よかったですね」と言ったことはない。でもおおの家の看取りでは、家族と一緒に「よかったね」と言い合ったことしかいないです。亡くなる前に「好きなところに旅行に連れていく」ってテレビの話かと思っていたら、ここでは本当にするんですもん。(笑)
でももしかしたら「治療はしなくていいのか」という私の意見を頭ごなしに一蹴されるような場所だったら、辞めていたかもしれませんね。
今は訪問に行って、認知症の人に「帰ってちょうだい」と言われたら、一旦戸を閉めて2、3分後に声色を変えて「こんにちは。来ましたよ」ともう一回入っていくような、そんな日々です。これが看護師の仕事かどうかはわからないけど、それを楽しめています。
医師や看護師が往診に来るって、非日常じゃないですか。でも私たちは日常に入っていくのが仕事です。看護・介護関係なく生活を支える。
「自分がここで死にたいと思えるところで働きたい」とずっと思っていたんですが、ついに見つけた気分ですね。
続いて話を聞いたのが、平井さんより少し先におおの家に入職した看護師の筏敦子さん。別の看多機に勤めていましたが、在宅支援ができないことにモヤモヤし。鞆の浦・さくらホームの理念に共感して転職しました。
高本:筏さんはおおの家の「看護師としての心がまえ」という手引きをつくっています。在宅支援に関わる人全てに共感を呼ぶ内容だと思います。
筏敦子さん:3年くらい前につくったものです。当時、おおの家には看護スタッフと介護スタッフが分かれている空気感があって、自分の思いを整理したいと思ってつくりました。
誰とでもフラットに関わる姿勢が魅力の筏敦子さん
横並びでいる
筏:私は横並びでいることが好きです。病院だったら、医師・看護師・患者の棲み分けがあると思いますが、ここでは本当に利用者さんが真ん中、暮らしが真ん中なんです。真ん中に置くために看護がある。
高本:重ねてきたキャリアも違うし、平井さんからはよく質問攻めされていたと聞きました。
筏:聞かれたことにどれも答えがないから、私は何も言わなかったと思う。だから、どんな質問が来てたかはよく覚えてないんですよね。(笑)疑問を受け止めるのは管理者に任せていたというのもあります。平井さんは葛藤を乗り越えて、本当にうまく馴染んでくれました。しかも自分の良さを発揮してくれています。私は病院とのやりとりが苦手だから、全部平井さんに任せています。一方で私は地域の人と協働して何かするのが好き。看護師は3人いますが、それぞれの得意・不得意をいかせていると思います。
高本:3人の看護師さんがキャラ立ちしていますよね。
筏:辻下さん、平井さんの行動を信頼できています。リーダーが「これやっといて」と命令するようなことも、後輩看護師が勝手に行動を起こすこともありません。「私のやり方と違う」という気持ちが全く起きなくて、お互いフォローし合えている。なので、休みやすいですね。
高本:看多機の面白さってなんだと思いますか。
筏:「自由」です。制限なく訪問できるから、気になったら行っていい柔軟さが魅力です。生活を一定期間見れるから、看取りだけ関わるということも少なくて利用者さんに情もわきます。でも、病院から最後の最後に家に帰るお手伝いをするのも好きですね。亡くなりそうな方を医師と連携して自宅に戻し、3階の居室まで上げて、その後一晩で亡くなった方もいます。私は当たり前のことをしているつもりなんだけど、ケアをしていて「良かったな」と思える瞬間が多いのはいいですね。
あとがき
鞆の浦・さくらホームから、出張しておおの家へ行ったのは看護師3人に「看護観」を聞きに行くため。しかし見えたのは看護でもなく、介護でもなく”ケア”の価値観でした。みなさん「自由でいること」を大切にしていたのが印象的です。利用者さんのために思いついたり、行動したりするケアは違っても、専門職種が違っても「利用者さんを真ん中に置く」思いは共通しているさくらホームのケア。スタッフ同士違う人と人。当然ぶつかる日もあるけれど、互いを否定せず、チームでいることを大切にする。それが、時に不可能だと思われている高齢の方の在宅生活を実現することにつながるんだなと思わされました。
文:高本友子