「正解のない介護」に戸惑う看護。利用者を真ん中に置くケアのチームづくりとは。さくらホームおおの家看護師リレートーク【前編】
鞆の浦・さくらホーム(有限会社親和・広島県福山市)では、兵庫県相生市相生(おお)地区でも地域密着型介護の「さくらホーム おおの家」を運営しています。
理念は、「最期まで、その人らしく」を支える介護。おおのまちのお年寄りの「困った」にすぐに対応し、家族のような関係で、気軽に頼られる存在でありたい。住み慣れた地域の中での暮らしを、「訪問看護」「訪問」「泊まり」「通い」のサービス(看護小規模多機能型居宅介護)を組み合わせながら、在宅生活を柔軟に支えています。
働いているのは介護福祉士や看護師たち専門職。肩書は違っても同じケアをしています。その過程で、特に病院から転職した看護師は「正解のない介護」に戸惑うことも少なくありません。
より良いケアに、介護も看護もない。しかし求められるそれぞれの専門性。現場での協働の工夫を看護師3人に聞きました。
前編は看護師チームのリーダー辻下奈美さんと、管理者羽田完治さんへのインタビューです。聞き手はライターの高本友子です。
高本:辻下さんは、病院からさくらホームへと転職されてますよね。これまでのキャリアを教えてください。
辻下奈美さん:ずっと看護師の仕事をしてきました。基本的に病院勤務です。30代の時に一時訪問看護を経験して、「在宅っておもしろい。年齢を重ねたら訪問の仕事をしたい」と漠然と思っていました。さくらホームとご縁があって、50歳手前で転職しました。介護のことは何もわからなかったので、おおの家で働く前に、鞆の浦で1年間修行したんです。さくらホーム・原の家(当時、小規模多機能型居宅介護)で働きました。
高本:初めての介護現場で戸惑いはなかったですか。
辻下:戸惑いだらけ。最初の3ヶ月は泣いて泣いて。辞めようかと思ったくらいでした。病院ではルーティンがあるけれど、介護にはない。「夜には寝て、朝には起きるもの」と思っていたけれど、さくらホームの介護は「いつ寝てもいい」というものでしょう。答えがない中でどうやって働けばいいんだと迷いました。「介護に正解がない」というのが自分の中で落とし込むのには3年くらいかかりましたね。いまだに迷いますけど。
介護に雑用はない
高本:印象に残っている利用者さんはいますか?
辻下:猫の多頭飼いをしている「猫屋敷」みたいなご自宅の利用者さんがおられたんです。猫のおしっこだらけのところで、猫と一緒に寝ていて。看護師としては感染リスクが気になりましたが。猫と暮らすことが「その人らしさ」なんですよね。「このままでいいんだ」というのは衝撃でしたね。
それから、介護の世界には雑用がないんです。生活を支えるのが介護だから、全てが必要なことなんです。草引きだってやりました。医療行為以外は介護の人とやることは一緒ですから、なんでもやりました。
原の家では多くのことを学びました。訪問先での靴の並べ方や荷物の置き方ー、スタッフは所作の全てに配慮をしていた。自転車で訪問に行った時は、自転車が塀に当たっていないか気にして。当たり前のことなんだけど、当たり前をいかに丁寧にするか。病院では気にしたことのないことだらけで、勉強になりましたね。訪問看護は24時間のうちの30分をみるという感じでしたが、介護はね、24時間をみるんですよ。生活とは何かを教えてもらった1年でした。
高本:介護をする一方で、看護師としての知見を求められる場面もあったと思います。葛藤はありませんでしたか?
「管理しなくてもいい」というええ(良い)加減
辻下:看護師としての責任もあるんですよね。介護スタッフに排便や薬のことを聞かれた時、「(病院なら医者がいるけど、介護現場では)自分が全部責任を負わないといけない」と思ったこともありました。一杯一杯になったこともありました。「管理しなくてもいい」というのが染み込んだ時にグッと楽になりましたね。「ええ加減(良い加減)」が自分の中でわかってきたんです。
高本:ええ加減、とは?
辻下:最初は、介護と看護の「ええ加減」を考えていたんですが、利用者さんとの「ええ加減」を考えることにしたんです。介護側としてこう思う、看護側としてこう思う、ではなくて利用者さんを真ん中に置いて、スタッフ同士腹を割って対話することが大事だ、って。
例えば、排便がない利用者さんに対して、看護師に浣腸を頼む介護スタッフがいるとしますよね。本当に今のタイミングでの浣腸が適切なのか、肛門マッサージなど、介護側でできることはないのか、利用者さんの生活を支える上で何が最適解かをチームで考えます。看護に頼りすぎると、介護側に工夫がなくなる。個性的なスタッフだらけですから、意見の相違はありますよ。そういう時は、管理者を頼るんです。
羽田完治さん:話し合いには管理者が入るようにしてますね。お互いの意見を持ち寄り、スタッフそれぞれが納得できる落とし所を探ります。おおの家の理念は「家族と結ぶ 地域と結ぶ その人らしさを発揮できるホームにする」。いろんな意見があっても理念からブレてないかどうかに立ち返ることで方向性の修正がきくこともある。意見を集約して、言いづらいことをいうのは現場の仕事じゃなくて、管理者の仕事だと思っています。
看護と介護はケアの両輪
羽田:スタッフの特性を把握するようにも心がけています。看護師も介護現場出身、病院出身とキャリアが様々ですが、それぞれの専門性を引き立てたいと思っています。看護師によっては看護と介護の視点が5:5だったり、1:9だったりします。それでいいんですよ。あと、介護と看護は対等である必要はないと思っています。常に横並びではなく、時に指示役が看護になったり介護になったりしていい。一つのチームなんだから、大切なのは看護と介護がケアにおける両輪であること。管理者はドライバーといったところでしょうか。
辻下:私は時に「引くこと」も大事にしています。より若い看護師が色々なチャレンジをできるように。会議の席ではスタッフの前で「利用者さんのことがよく見れていなかった」という反省を言うこともあります。
羽田:ベテランに反省の弁を述べられると、周りも協力したくなりますよね。
チームが生活を支える
辻下:代表の羽田冨美江さんに「笑っておけばいいのよ」って言われたことがあって。(リーダーの)私が余裕を見せていないと、職員からの相談も受けられない。結局はチームでないと、生活を支えることはできないんですよ。
「救急車に乗りたくない」と利用者さんが言うもんだから、掛け布団に包んで2人がかりで病院に連れて行った人もいるし、「(病院から)家に帰りたい」と言うので、連れて帰ってその日に亡くなった人もいた。いろんなことをしてきたけど、どれもチームじゃないとできないことです。
高本:おおの家のケアは「チーム感」が魅力です。
辻下:やっぱり、病院から転職して、最初に原の家で介護の世界にどっぷり浸かったのがいい経験になっています。プライドを捨てて、介護スタッフを尊敬できたのが大きい。
在宅生活を支えるのに、看護師に求められるのは「1人でこなそう」という考えではなく、チームに溶け込む考え方です。みんながそれぞれの個性を飲み込んで、フォローし合う。今のおおの家はそれができていると思いますね。
私の仕事は「後悔を減らしていくこと」だと思っているんです。家族にとってもそうだし、一緒に働くスタッフにとっても。失敗しても、後悔ないようやってみたらいいんです。
高本:チームづくりの過程で苦労もありましたか。
羽田:もちろん、最初からうまくいったわけじゃないですよ。でも、なるようにしかならないから(笑)。改善できる部分はするけど、ホームの理念は変わらない。意見の全てを受け入れることはできないし、無理に頑張れとは言わない。それぞれのスタッフの適材適所を探して今に至るというか。
辻下:利用者だけでなく、スタッフも自由でいることが大事ですよね。お互いに「利用者さんのために考えて動いているんだ」と信じることが大切だと思います。その過程で失敗もありますよ。でも、やり忘れたことがあったなら、明日すればいい。大事なのは「利用者さんが困っているか」どうか。その日1日が無事に終わればいいんですから。
後編に続く。
文:高本友子