有明ガーデンと、府中のフォーリスで、「Tokyo Family Marche」というお店をやっています。
こう書くと、それなりにお金があって、どこか大きな会社が後ろについていて、と思われることがあります。全然そんなことはなくて、資金調達はしていないし、親会社もありません。2021年に夫婦2人で始めた一般社団法人が、自分たちの売上の中でやっています。
それでも、モールにお店を持たせてもらえた。今日はその経緯を、順番どおりに書いてみます。
先に言っておくと、これは「うまくやった話」ではないです。正直、いま振り返ると、よくあの状態で出させてもらえたなと思います。
最初は、芝生の上でした
芝生の公園の様子
2023年ごろ、ポップアップやマルシェができる場所を探していました。加盟企業さんの商品を、妊婦さんや育児中の家族に、実際に手に取ってもらえる場所がほしかったからです。
イベント目当てにベビーカーでお子さんと来店してくださった方々
いくつかご紹介やお声がけをいただく中で出会ったのが、有明ガーデンでした。
最初に使わせてもらったのは、館内ではなくて、芝生の公園と、モールからちょっと離れた「離れ」みたいな施設です。そこでマルシェをやって、ヨガをやって、お子さんの遊び場や、食の勉強会もやりました。
屋外ではフレッシュなお野菜やフルーツなども
ベビーマッサージやヨガなども
このとき試していたのは、売れるかどうかではなくて、「伝わるかどうか」でした。私たちがやっていることが、初めて会う地域の人にどれくらい届くのか。会話になるのか。もう一回来てくれるのか。芝生の上は、それを確かめるのにちょうどよかったです。
テラス、ポップアップ、そして4階へ
次は館内のテラスでマルシェをやらせてもらって、ここで商品がちゃんと動きました。それを見て、期間限定のポップアップに進むことにしました。
悪天候でしたが、テラスで開催
ちょうどご紹介いただいたのが、4階のベビー・キッズ・ファミリーのフロアの一区画です。
30坪ほどの区画。どきどきとワクワクを同時に感じていた思い出も。
ただ、当時は商品数も契約企業もまだ少なかった。なので、一つの商品をたくさん並べてボリュームを見せて、空いたところはキッズスペースにして、という感じでした。おしゃれな内装もないし、スタッフ体制もバッチリではないし、広告費もかけていない。あったのは、商品と、私と、キッズスペースです。
なんとか皆さんにご協力いただきお店の形ができました。
キッズスペースも広めにゆったりと。
オファーをもらってすぐやりたかったし、向こうも早く進めたいという話だったので、スタッフを募集しながら、最初の30日間は私が朝から晩まで一人でお店に立っていました。
思い描いていたような、超理想的なきれいなお店だったかというと、全然そうではなかったんですけど。マルシェで可能性を見つけて、ポップアップにつなげて、1か月の長期出店までいけた。私たちにとっては大きなステップでした。
毎日同じ人間が立っているので、通りかかるママさんの日常の動線に、ちょっとずつお店が入っていきました。お子さんの成長の話を聞いて、育児の困りごとを聞いて、その流れで商品を紹介する。お店というより、立ち話の場所に近かったかもしれません。
ここで一番大事だったこと
ここまでで、一つだけ外せないポイントがあります。
有明ガーデンさんとは、条件の話より先に、「何をやりたいか」の目線を合わせられたことです。
商業施設が区画を貸すとき、普通は坪効率とか、実績とか、信用とか、保証金とか、そういう軸で見ます。当時の私たちは、そのどれも弱かったです。この軸だけで見られていたら、たぶん席にも座れていないです。
ただ、有明ガーデンさんには、売上とは別の軸がありました。
有明って、日本全体で見ればまだ新しい街です。地元出身の人はほとんどいない。地域のイベントもコミュニティも、これから形成されていく段階で、ママさんもパパさんも、地域のつながりをたくさん持っているわけではない。「この街の育児世代は、孤独なんじゃないか」という仮説が、施設側にもあった。
だから有明ガーデンさんは、「ここをママさんたちの聖地にしていこう」と掲げていました。ここに来れば居場所があって、必要なものが揃って、悩みをシェアできて、解決もしていける。そういう場所をつくろうとしていた。
その軸で見ると、私たちは加勢できる存在でした。マタニティと未就学児の家庭との接点に強い。芝生とテラスで、人が集まって会話が生まれることは、もう見せていましたし、私たちのビジョンを最初から言葉にして伝えていました。
「売れますよ」「人めっちゃ来ますよ」とは言わずに、「私たちはこういう場所をつくりたいです」と言い続けていました。
なので私たちは、テナントとして審査されたというより、同じ課題を一緒に解く相手として見てもらえた。小さく始めて、実績が出たら次の区画へ、という段階を踏めたのも、この前提があったからです。
後ろ盾も資金もない私たちが場所を借りられた理由を一つ挙げるなら、ここです。
一時的に移動して活用していた区画。
2区画と、5倍
その後、同じ4階の別の区画で数か月やって、いまの区画に移りました。いまは館内の通路を挟んで2区画をお借りしていて、片方が食品メイン、もう片方が雑貨など食品以外がメインです。
食品メインの現在の区画
食品以外がメインの区画
数字の話を一つだけ。最初のポップアップの1か月と比べると、いまの売上は約5倍です。リピートしてくださる方、お友達を連れてきてくださる方が増えた結果です。
これは正直に書いておきたいんですが、この5倍は、私がつくった数字ではありません。最初の30日間は私一人でしたが、そこから先のお店をつくったのは、あとから加わってくれたスタッフです。私が毎日立たなくなってから、お店は伸びました。スタッフも同じ思いとビジョンをもって立ってくれています。そこが大きなポイントなのではないかなと思っています。
もう一つ。売上を最大化しに行った結果というより、居場所をつくりに行ったら売上がついてきた、という順番です。
土日のキッズスペースの様子
2区画の両方に、キッズスペースを置いています。用がなくても寄れる場所にしたかったからです。実際、「なんか新しいの入ってる?」「なんか面白いのある?」と、お客さんの方から声をかけてもらえるお店になりました。昔の商店街とか、アーケード街のコミュニケーションに近いなと思っていて。地域コミュニティの一つみたいなものが、モールの中にできたのかもしれないと思っています。
数字で見ると、こんな店です
- 売上:最初のポップアップの月と比べて 約5倍
- 棚の前で足を止めて商品を見てくださる方:月 のべ約6万人(有明のみで)。
- 取扱:加盟企業 約1,100社の商品、約2,400品目
- 広さ:有明 約60坪(通路を挟んで2区画)+府中 約15坪
- スタッフ:約9割が育児中
普通のお店と、ちょっと違うところ
メーカーさんが運営しているお店って、多くの場合「〇〇を買いに行こう」と決めてから来店されると思います。それは強みです。
うちのお店は、ちょっと違います。「何買うか決めてないけど寄ってみた」という人が多い。そこで「最近うちの子、タンパク質あんまり食べなくて」とか、「産後、髪質がちょっと変わってきて」とか、そういう話を聞いて、その会話の中から、いろんな企業さんの商品を紹介していきます。
この接客は、マニュアルではつくれないです。「うちの子も同じ時期に食べなくなって、これで乗り切った」と言えるのは、自分の家で実際に試した人だけなので。うちのスタッフは、企業さんから預かった商品を自分の家族で使って、食べて、そのうえで棚に立っています。お店にいるのは店員というより、ちょっと先を歩いている先輩ママ・先輩パパです。
まさに育児中ど真ん中の店長
置いているのは、協会に加盟している約1,100社の商品です。共通しているのは、「もっとファミリー世帯に届けたい」「自社の売上の方程式を一緒につくりたい」という相談から始まっている、というところです。
だから棚には、実績十分の定番と、「これはチャレンジングだけど、お客さんの反応を見てみましょう」という新顔が、常に入れ替わりながら混ざっています。反応を見て、企業さんと一緒に商品を良くしていく前提で置いているものもあります。売り場であり、試す場でもある。ここが、他のお店とはちょっと違うところかなと思っています。
お店から生まれたこと
地方から東京に出てきて、有明に住んで、全然身寄りもない中で初めての育児に苦戦している方が、「お店があって本当に助かりました。何かお礼がしたいです」と言ってくださったことがあります。
近所のママ友のLINEで、お店のおすすめ商品を紹介してくれている方もいます。常連さんだった方が、スタッフとして働いてくれるようになったこともあります。
棚に並んでいる商品の中には、スタッフが「これ、ママさんに知ってほしい」と自分で探してきたものもあります。子どもを抱えながらオンライン商談をして、新しい企業さんとの契約をまとめたメンバーもいます。私が指示したことではなくて、それぞれの「好き」とか「困った経験」から生まれたものが、お店の中身になっています。
いま、お店のスタッフは9割ほどが育児中のメンバーです。
働き方で、一つやっていることがあります。お店の真横に一時預かりの託児所があるので、そこにお子さんを預けて、隣のお店で働く。託児所代は協会が払っています。
左側が託児所。託児所の奥側に私たちの1区画があり、正面のオレンジの床の区画も店舗。
育児中の方で、もっと自分の能力を活かしたい、社会との接点がほしい、と思っている人はたくさんいます。でも、ちょっと条件が合わないとか、そのサポート体制だとやっていける気がしないとか、ちょっとしたことで働くのを諦めている人もたくさんいる。なので、両立できる環境はこっちで用意します、という順番にしています。
急なお迎えとか欠勤とかは、お互いあるよね、と全員が思っている。この環境のつくり方は、前の記事に書きました。
「ここにしかないもの」と、2店舗目
いろんな企業さんに関わっていただく中で、お店の中身も変わってきました。
一つは、普段はオンライン販売が中心で実店舗には出していない企業さんが、「実店舗としては、ここでなら置いてもいいですよ」と言ってくださるケースが増えてきたことです。売り場としてというより、お客さんの反応を見る場所として選んでもらえているのかなと思っています。
もう一つは、関東で、あるいは日本でここでしか試着できないもの、ここでしか食べられないもの、実物を置いている場所が他にないもの。そういう商品が集まってきました。インフルエンサーとして活動されている方や、芸能の方の商品を、期間限定で扱わせてもらうこともあります。
そして2026年3月、府中のフォーリスというショッピングビルに、2店舗目を出すことができました。同じフロアの目の前に府中市の子育て支援課、すぐそばに小児科、近くにユニクロさんもある場所です。有明が60坪くらいなので、府中は5坪ほどの小さめのお店です。
TokyoFamilyMarche府中店
ここもまた、売れるか売れないかとか、話題性とか、フォロワー数とか、そういうところで判断されたわけではありません。育児世代にちゃんとした価値をつくって、府中駅の目の前をもっと暮らしやすい場所にしていく。その大きな絵の中の一つとして、私たちの存在を考えてくださいました。
理念と利益の、両輪
いつも思うのは、私たちみたいな小さな事業者でも、後ろ盾がなくても、モールにお店を持たせてもらえるんだな、ということです。
それは、ビジョンを一緒に描いて、同じ未来の方向を共有できたからです。逆に言うと、それがなかったら、条件の土俵で普通に負けていたと思います。
もう一つ、私たちなりに大事にしてきたことを書いておきます。理念と利益の両輪を回す、ということです。
素晴らしい理念を持って、ソーシャルな文脈で活動されている方はたくさんいます。本当に尊敬しています。そのうえで、続けていくことを考えると、利益を伴う活動にしていくことも同じくらい大事だと思っています。
利益を追うから、理念を維持できる。理念があるから、商業主義だけでは集まらない「意味のある利益」が集まってくる。それが積み重なって、続けていける。私たちはこの順番でやってきたし、これからもそうします。
そしてこの両輪を毎日回しているのは、有明と府中のお店に立っている一人ひとりです。うちは「ママに優しい職場」というより、育児中の人が働ける職場を日本に増やすためのモデルになろうとしている場所です。そこに立っていること自体が、もうその一部だと思っています。
最後に
このお店は、「〇〇を買いに行く場所」というより、「用がなくても寄れる場所」として使ってもらえたら嬉しいです。
都内に販路を持ちたいメーカーの方には、売り場であり試す場でもあるお店として、見てもらえたらと思います。
それから、育児世代が過ごしやすい拠点をつくりたい、何から始められるんだろう、と考えている場所をお持ちの方。昔みたいに街全体で育児する、みたいな世界観を一緒に描ける方がいたら、ぜひつながりたいです。
育児の中で救われるのって、大きな解決策よりも、ちょっとした自分の居場所があるってだけ、だったりします。それを一つずつ、増やしていけたらと思っています。