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牛乳石鹸って一周まわって新しい!「赤箱」LOVEな“赤箱女子”急増の実態

こんにちは。SiNCE代表の一筆太郎です。

突然ですが、“赤箱女子”という言葉をご存じでしょうか?

牛乳石鹸の「赤箱」 を洗顔に使う女性のことを、このように呼ぶらしいです。

牛乳石鹸の赤箱といえば、90年以上の歴史を持つロングセラー商品。昔ながらの懐かしいイメージを思い浮かべる人も多いと思います。

しかし、赤箱女子の主な年齢層は20〜30代。近年、この赤箱女子が急増して話題になっているという。

老舗の石鹸ブランドが、若い女性に愛されるブランドへと変貌を遂げた背景には、どんな戦略や狙いがあったのでしょうか? どうして、若い女性たちは赤箱に魅了されるのでしょう?

その理由を解き明かすべく、僕はまず、“赤箱女子”現象の実態を調べてみました。


“赤箱女子”が若い女性たちの間で大ブームに!

牛乳石鹸の赤箱が誕生したのは1928年のこと。

うるおいを守るミルク成分を配合し、しっとりなめらかな肌に洗い上げる石鹸として発売されて以来、共進舎石鹸製造所(現:牛乳石鹸共進社株式会社)の看板ブランドとして多くの人々に愛され続けてきました。


数ある石鹸ブランドの中でも長い歴史を持つ赤箱。それゆえに、比較的高い年齢層に親しまれている印象を抱いていました。

しかし近年、この赤箱は20〜30代の若い女性たちの間で人気が急増しているのだそう。

彼女たちは“赤箱女子”と呼ばれ、SNSを中心にジワジワとその知名度を高めつつあります。

赤箱のキャンペーンなどを投稿している公式Instagramアカウントのフォロワー数は1万人以上。公式twitterのフォロワー数は約1万4千人に到達します。


人気は年々、熱を帯びていき、2015年の「@cosmeベストコスメアワード 洗顔料部門」で第1位、2017年は同アワード「ボディ洗浄料部門」で第1位を獲得するほど。2019年にはその圧倒的な功績から、同アワードの殿堂入りまで果たしています。

2018年には、赤箱生誕90周年を記念して京都でイベント『赤箱AWA-YA』を開催。来場者数1万2千人を記録し大盛況となっています。


赤箱女子のブームはとどまることを知らず、今もInstagramで「#赤箱女子」ハッシュタグを覗いてみると、連日思い思いの写真を投稿する女子たちの姿が見られます。

もちろん、売上自体もブームの波に乗って大きく伸長し、2015年から毎年前年を超える売上を記録しているのです。

赤箱女子は確かに流行っている。でも、いつ頃からどのようにして若い女性たちは赤箱のファンになったのだろう? そこにはどんな戦略や狙いがあったのか?

このなぞを明らかにすべく、赤箱を製造・販売する牛乳石鹸共進社マーケティング部の田原有紀さんに話を聞いてみました。

“赤箱女子”誕生のヒミツ

一筆:“赤箱女子”という言葉がとてもキャッチーですが、これは御社が生み出した言葉なのでしょうか?

田原さん:はい2018年に弊社から発信しました。当時、私たちは赤箱90周年事業の一環として、若い女性への新しいコミュニケーションを模索していました。

その中で、若い女性たちが赤箱を洗顔に使用しているということがわかり、その新しい価値を伝えるために、「赤箱を洗顔に使用している女性=赤箱女子」として展開していったのです。


一筆:若い女性が赤箱を洗顔として使っているとわかったのは、最近のことなのですか?

田原さん:2015年、コスメサイトの「洗顔料」部門の年間ベストコスメとして、赤箱が選ばれました。赤箱を洗顔に使用している女性がクチコミしてくださり、評価をいただいた結果で受賞しました。とはいえ、石鹸市場は右肩下がりでコアユーザーは50代以上の女性が多く、若い世代では石鹸離れが起きていたことから、社内的には危機感を持っていました。

一筆:そこで、若い女性とのコミュニケーションを活性化させる手段として“赤箱女子”というワードを生み出したのですね?

田原さん:はい、当社で調査をしたところ、赤箱ユーザーのうち、20代女性の約38%が洗顔用として使用していると回答。使用感の感想として、「つっぱらない、しっとり感がある」「すべすべ・なめらか」など肌へのやさしさを実感する回答が多くありました。


※牛乳石鹸メルマガアンケート調べ

また、1年以上赤箱を使用している人は73.9%、そのうち5年以上使用している人が41.7%で、多くのロイヤルユーザーが存在していました。


※牛乳石鹸メルマガアンケート調べ

一筆:20代ユーザーの半数近くが赤箱を洗顔用に使っていたのですね。しかも、赤箱自体の熱狂的なファンも多かったと。

田原さん:若い人からの支持がある一方、彼女たちのあいだで「石鹸はおばあちゃん、お母さん世代が使うもの」というイメージがあることも調査で把握していました。

そこで、赤箱で洗顔することをフックに赤箱女子の話題化・顕在化を図ることにしたのです

具体的には赤箱女子の顕在化の場所としてのSNS、HPを展開。話題化・体験の場として赤箱の「洗顔泡」を体験できるポップアップショップ「赤箱AWA-YA」を実施しました。


こうして、赤箱を洗顔に使えるプチプラコスメとして、ブランドイメージを上げる戦略を立案していったのです。

赤箱女子ブームの火付けに成功!その裏にある苦悩とは?

一筆:2015年から赤箱の売上が毎年伸び続けていると伺いました。これほどまで、赤箱が若い女性に支持され続けている理由はなんでしょうか?

田原さん:まず、誰にでも手に取りやすい価格であること。それから、おばあちゃんの代から見知っているという安心感があると思います。

加えて、敏感肌を自覚する女性が増え、肌に優しいものを求める方が多くなったのも要因のひとつだと思います。


※牛乳石鹸調査アンケートから一部表現を変えて抜粋

一筆:パッケージのレトロ感も、若い女性にとっては逆に新鮮かもしれないですよね

田原さん:はい、パッケージデザインは2016年にロングライフデザイン賞を受賞いたしました。仰るとおり、若い女性にも「おしゃレトロ」でかわいいと高評価をいただいています。

一筆:ちなみに、赤箱のターゲットを若い女性にするにあたって、大変だったことや苦労したことはありますか?

田原さん:私たちにとって赤箱は「体や手を洗うもの」というイメージが強かったため、「洗顔」という訴求について当初は社内から「どうだろうか?」という懐疑的な意見もありました。

でも実際に、若い女性モデルが赤箱を洗顔に使用している販促物のビジュアルを作成してみると、今までの赤箱のイメージとは異なるため、いい意味でインパクトがあって好評でした。

一筆:売上が伸び始めた2015年が一つのターニングポイントだと思うのですが、当時はどんな取り組みをされていたのでしょうか?

田原さん:実はそれ以前の2013年に赤箱の社内プロジェクトを立ち上げました。そこで、「時代に合わせて、製造方法や成分を見直すのではなく、赤箱本来の価値を見直そう」と考え、商品名を覚えられていないことへの対策などを地道に行っていました。

一筆:具体的には何をされたのですか?

田原さん:パッケージに[赤箱]という名前を入れてリニューアルしました。


赤箱はもともと関西のシェアが高く関東は低かったのですが、リニューアルを機に首都圏での販路拡大に注力しました。営業チームの努力が実って、首都圏の小売店での定番化を増やすことに成功したのが大きかったと思います。

その後、2015年にも赤箱の一番の価値である「しっとり」をパッケージに追記して再リニューアル。その頃からSNSで一般の方からの身体洗浄でなく洗顔として使っているというクチコミをいただくようになります。“赤箱女子”誕生以前から、地道に広める活動を積み重ねてきたことが、今のご縁につながっていると思います。


赤箱という歴史あるブランド

一筆:赤箱は時代に合わせて、少しずつパッケージを変えてきていますよね

田原さん:はい、昔は写実的な牛を描いていましたが、だんだんと優しくて親しみのある絵柄に変化していきました。配合成分が牛乳そのものではなく牛乳由来の保湿成分であることから、誤解を招かぬよう牝牛からお乳が流れ出ている絵柄を変えたり、オイルショックで暗くなった世の中を少しでも明るくしたいという思いから華やかなピンクに近い色に変えてみたりなど、時代に沿った必要なタイミングでリニューアルを重ねています


一筆:そもそも、どのような経緯で赤箱は誕生したのでしょうか?

田原さん:創業者の宮崎奈良次郎は幼少期から大阪の石鹸問屋、荻原東店に勤務していました。その後、同店とゆかりの深い清水谷の店主の勧めで石鹸工場を継承し、1909年に創業。当時の石鹸メーカーは問屋からの請負生産が主流の時代。その取引先の一つが、のちに「牛乳石鹸」の商標を譲り受けることになる佐藤定次商店でした。


一筆:もともと請負で作っていたブランドを受け継いだのですね?

田原さん:そうです。当初は自社商標による製造・販売はまだ主流じゃなかった時代。念願の自社ブランド商品は誕生したものの、メーカー独自の販売網もなかったので、牛乳石鹸の需要はそんなにありませんでした。それでも自社ブランドの育成は会社の将来のために欠かせないと考え、赤いパッケージの牛乳石鹸の初代赤箱が誕生したのです。

コラム:牛のマークの由来
昔からよく言われる「商いは牛のごとく」には、前へ進んでも後へは退くな、ねばり強く前進せよ、という意味がある。牛は、おどろくべきバイタリティーの持ち主でありながら、性格はすこぶる温順であるため、誰からも愛され親しまれている。堅実なる経営のもと、誰からも愛される製品をつくり続ける──それはまさに「牛の姿」にほかならない。牛のマークは、製品を表示する商標であることはもちろんのこと、同社の精神をも象徴させたものなのだ。


創業時から変わらないポリシー

一筆:それだけ立派な歴史を背負った企業が新しいことに挑戦するのは決して容易ではないと思います。新しいことに取り組む上で大切にしていることや、心がけていることはありますか?

田原さん:赤箱は、新しいお客様と新しいコミュニケ―ションをはじめていますが、これまでの長い歴史を支えてくださったお客様とのコミュニケーションがあってのことです。

けっして過去を否定するのではなく、これまでのお客様にも喜んでいただきながら、プラスαのコミュニケーションを大切にしようと常に心がけています。

一筆:5年以上愛用しているユーザーが40%もいるのですから、その方々も非常に大切なお客様ですよね。時代を見つめながら柔軟な変化を遂げた御社ですが、一方で創業から変わらないものはなんでしょうか?

田原さん:創業時より「共進舎製品なるが故に良品なり」と称し、品質にはこだわり、「国内生産」「釜だき製法」を続けています。赤箱は発売以来、ほとんどの製造方法を変えず、ご愛用の皆さまの期待に応え続けることを使命としています。

一筆:釜だき製法とは?

田原さん:石けんの製造方法には、「釜だき製法(けん化塩析法)」と「中和法」の2種類があります。「中和法」は「釜だき製法(けん化塩析法)」に比べて短時間で石けん素地を作ることができるため、大量生産に向いています。しかし、発売以来品質にこだわる赤箱は、手間ひまはかかりますが原料由来の保湿成分が適度に残る「釜だき製法(けん化塩析法)」で、昔から変わらない肌あたりを守っているのです。


一筆:ブランドのコアとなるメッセージや哲学を教えていただけますか?

田原さん:多くのお客様がご愛用の理由に“安全” “安心” “やさしさ”を挙げられます。その期待に応えるため、いつまでも変わらない「うるおいと香り豊かな石けん」でありたいと思います。これは「ずっと変わらぬ やさしさを。」というコーポレートメッセージでも表現しています。


若い世代に固形石鹸の魅力を伝える

一筆:これからどのような戦略を展開していくのでしょうか?

田原:変わる時代の中で、今後も新しいコミュニケーションの模索は続くと思います。それでも、赤箱の基本的な製造方法は守り抜いていくでしょう。

今後も、これまで固形石けんを使ったことがない若い世代に良さを伝える活動を続けていきたいと考えています。

そして、新しくユーザーになっていただいた方も、いずれは一緒に商品の歴史を作ってくださるようなユーザーになっていただけたら嬉しいですね。


一筆後記

赤箱女子ブーム誕生の背景には、同社が2013年から赤箱のマーケティング戦略を練り直し、首都圏への販路拡大に成功したという要因があったことは間違いありません

ただ、それよりも重要なのは、パッケージに赤箱というブランド名を入れたことではないでしょうか。デザイン自体の訴求力が高く、ネーミングもシンプルで覚えやすい。試しやすい価格だったこともプラスに働き、赤箱はスーパーやドラッグストアの定番ラインナップに選ばれるようになります。赤箱というブランドは広告ではなく、商品棚からどんどん広まっていったのです

また、赤箱というブランド名は愛称というか呼びかけやすいコトバであったことも大きい。赤箱は自分の名前を商品が押し付けがましく語るのではなく、消費者が「赤箱」と呼びたくなるようなブランド名なのです。

ブランドは消費者の想起の総体です。消費者の頭の中のイメージがブランドになる。赤箱は、消費者が呼びかけることによって、頭の中にすり込まれ、より親しみやすい存在になったのではないでしょうか。

さらに、アンケート調査で赤箱が若い女性の間で「洗顔用」として重宝されていることがわかると、彼らはそのムーブメントに赤箱女子という名前を与えて積極的に後押ししました。消費者の反応を敏感にキャッチして、世の中の流れにうまく乗ったことも成功の大きな要因だと思います

その裏には牛乳石鹸が創業から受け継いできた商品開発力やモノづくりに対する真摯な姿勢があったことも忘れてはなりません。安心・安全という信頼を築き上げてきたブランドだからこそ、敏感肌に悩む若い女性の心に深く刺さったのではなでしょうか。

広告ではなく売り場を主戦場とし、商品自体の訴求力やデザインで価値を高めることで認知を広げる。そして、消費者の反応に合わせて新しいコミュニケーションの形をつくる。こういった戦略が、赤箱女子急増のムーブメントを下支えしていたのでした。

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