社会の無関心の打破という理念のもと、「社会課題を、みんなのものに。」をスローガンに掲げ、多角的な事業を展開する株式会社Ridilover(リディラバ)。今回は多様なセクターと連携しながら課題解決に挑む事業開発チームで活躍する筒井さんにインタビューを敢行しました。大学時代に社会のマイノリティ問題に関心を抱きながらも、一度はビジネスの最前線である通信ベンチャーへ。そこでの経験を通じて得た「粘り強さ」を武器に、再び社会課題の世界へ戻ってきた筒井さんにキャリアの変遷やリディラバでのビジョンなどについて語っていただきました。
キャリアの原点とビジネスの現場で得たもの
── 筒井さんは大学時代、どのようなことを学ばれていたのですか?
教育学部の教育社会学ゼミに所属していました。ゼミではハンセン病問題などをテーマに、マジョリティがいかにしてマイノリティに対する偏見を乗り越え、向き合っていくべきかを研究していました。社会の構造的な課題に対してマジョリティ側からどうアプローチできるのかを考える、まさに社会学的な探求でしたね。
教育学部に籍はおいていたものの当時から教師になろうという気持ちはありませんでした。母親が教師だったこともあり選んだコースなのですが、それ以上に環境問題への関心が強く、課外活動に力を入れたいとかねてから考えていました。さまざまなチャンスがありそうな大学を選んだ、というのが正直なところです。
── 環境問題への関心が最初のキャリアの軸になったのでしょうか?
大学時代に生物多様性のユース団体に所属し、国際会議(COP11)に参加する機会がありました。そこで次世代への責任を条約に盛り込むよう提言活動を行ったのですが、当時は生物多様性という言葉もほとんど知られていない状況。社会的なムーブメントの盛り上がりに反して、世の中の認知が全く進まないことに強い課題意識を感じたのが原体験です。
社会課題解決のムーブメントをより大きくするためには、経済、つまり資本主義の力を活用し、ビジネスサイドを巻き込んでいく必要があると強く感じていました。加えて、尊敬する先輩から「非営利セクターだけで所帯を持ってやっていくのは、現実的に相当大変だ」という助言をいただいたことも、その考えを後押しする大きなきっかけとなりました。そこで一度ビジネスの世界に身を置くことを決意。就職活動では環境問題からいったん距離を置き、とにかく多様なビジネス経験が積める場所を求めました。
── それで通信関係のベンチャー企業に就職されるんですね。
7年半在籍しましたが、特に印象に残っているのは大阪での事業立て直しです。当時、関東を中心に展開していた会社が大阪に2店舗だけ出店したのですが、不採算の状態が続いていました。その立て直し担当として私に白羽の矢が立ったのです。
赴任当初は取引先である大手通信キャリアの関西支部から「もう関東に引き上げたらどうや」と言われるほどの厳しい状況でした。そこから組織のマネジメントやオペレーションを再構築し、事業の立て直しに着手。半年後には黒字化、さらに1年ほど経ったタイミングでキャリア側から「新しい店舗をやってみないか?」と声をかけていただけるまでに関係改善できました。
── かなり壮絶なご経験をなさったんですね。何を得られましたか?
本当にハードな日々でしたが、この経験がいまの自分の礎になっています。結果的に関西事業は会社の経営判断で撤退することになってしまいました。ただし赤字を黒字に転換させ、誰一人辞めさせることなく、皆が「ここまでやったなら仕方ない」と納得できるところまでやり切れた。この事実は自分にとって大きな自信になりました。
どんなに困難な状況でも課題を構造的に捉え、粘り強く一つひとつ解決していく。この時に培われた「諦めの悪さ」や「粘り腰の強さ」は、いままさにリディラバで働く上で大いに役立っていると感じます。
満を持して社会課題解決✕事業開発のフィールドへ
──転職を考えたきっかけは何でしたか?
きっかけは複合的でした。まず前職で関西から関東に戻り、ある程度規模の大きい事業を任される中で、これまでの経験の再現性を求められるフェーズに入ったと実感しました。もともと得たいと思っていたビジネススキルは一通り経験できたという手応えがあり、成長の踊り場にいると思ったのが一つです。
プライベートでは30歳を迎え、結婚という節目が重なりました。さらに社外のワークショップに参加した際に「自分の力は他の領域でも通用するのではないか」と確信を得たことも後押しとなり、本格的に転職を考えるようになりました。
──転職活動ではどのような軸で企業を探していましたか?
もう一度専門的なビジネススキルを磨く道と、大学時代から関心のあった「社会課題×ビジネス」の領域に進む道とで少し悩みましたが、遠回りはせず自分のやりたいことに直接的に関われる仕事を選ぼうと思いました。
そんな時に転職エージェントから紹介されたのがリディラバです。社会課題の解決と事業開発を両立できる点に強く惹かれました。調べてみると、大学時代の知人がインターンで関わっていたことも分かり、不思議な縁を感じました。
──リディラバの面談で印象に残っていることがあれば
最初のカジュアル面談が非常に印象的でした。企業の面接でありがちな“品定め”される感覚が全くなく、最初から同じ想いを持って一緒にやっていけるか、という対等な目線で会話ができたんです。
また面接を担当してくれた当時の事業責任者に「経歴から想像していたイケイケな営業マンのイメージと、実際の落ち着いた雰囲気が全然違っていて驚いた」と言われたこともよく覚えています。コミュニケーションを重ねていくにつれて、外見だけでなく私の内面までしっかりと見てくれようとしていると感じ、うれしかったですね。
──最終的な入社の決め手はなんでしたか?
二つあって、一つはやはり「社会課題解決×事業開発」という事業や仕事内容そのもの。そしてもう一つが代表である安部の存在です。正直に言うと、安部の常識にとらわれない独特の言動やスタイルに最初は少し戸惑いを感じました。まさに彼は「わが道を行く」という雰囲気でしたので、リディラバもトップダウンやワンマン的な運営体制なのではないかというのが引っかかりました。
しかしリディラバのコーポレートロゴが変更された経緯を調べた時に、その印象が大きく変わりました。新しくなる前のロゴは、安部が創業時の思いをこめて、当時の仲間とつくったもので、思い入れも大変強いはずでした。しかし安部は、リディラバはこれから理念実現のために今よりももっと多くの人を巻き込み、もっと速いスピードで社会包摂を進めていくんだという強い意志のもと、ロゴの刷新を行っていました。その時「リディラバはビジョン実現のために必要なものなら、あらゆるものを取り入れていき組織を拡大していける場所なんだ」と確信しました。
前職の経験から、企業のトップやリーダーの視座の高さや考え方が、事業の成長角度を決めると考えていた私にとって、この発見が最後の決め手になりました。
社会を変えるのに必要なのは「野心」と「粘り強さ」
──入社後は何からはじめられたんですか?
最初はトヨタ自動車様をはじめとする大手企業の社内公募プログラムを支援する事業開発からスタートしました。これはクライアント企業の社員の方々が、社会課題解決をテーマに新規事業を立ち上げるのを伴走支援するプログラムです。その後、法人事業全体のサブリーダーを経験しました。
会社の経営方針の転換に伴い、2年目からは社会起業家を育成するスタートアップ支援事業に軸足を移しました。大企業の資産を活用するのとは異なり、起業家自身がゼロから事業を創造していくのを支援する仕事です。顧客を見つけ、事業を成り立たせ、スケールさせていくという本質は同じですが、対象やアプローチが異なるため常に新しい挑戦の連続です。
──前職からはフィールドが大きく変わりましたが、戸惑いは?
事業の根幹にある「どうすれば事業が成り立ち、継続・スケールしていくのか」という問いは共通していますので、大きな戸惑いはありませんでした。もちろんBtoBの営業経験が豊富だったわけではないので、受注までのプロセスなどいまなお学んでいることはたくさんあります。
ただ、社会課題の解決には唯一絶対の正解があるわけではありません。誰もクリティカルな解決策を提示できていないからこそ、課題として残っている。だからこそ小さな仮説検証を積み重ね、期待を超え続ける努力を粘り強く続けることが大切だと考えています。そのプロセス自体が、いつか正解になっていくという感覚で仕事に取り組んでいますね。
──リディラバ社内の雰囲気や一緒に働く仲間たちの特徴は?
私を含めあきらめの悪い人、そして挫けない人が多いというのが一番の特徴だと思います。だいたいどんなときもリソースは限られているのですが、目の前に「これをやれたら面白い」というテーマが現れると「じゃあどうすれば実現できるか」を考えはじめる。やらないという意思決定を安易にしない集団ですね。
この雰囲気は仕事場だけでなく、飲み会の場などでもよく見られます。最初はくだらない雑談からはじまってもいつの間にか進行中の案件をどうすればもっと良いものにできるか、という話題に発展しがち(笑)。そうした仕事とプライベートの境界線なく、熱く語り合えるカルチャーが私にとっては非常に居心地が良いです。
──そんなリディラバで活躍できる人はどんなタイプですか?
個人的な見解ですが“野心”と“粘り強さ”という二つの要素が不可欠だと感じます。まず「社会をこう変えたい」という外に向けられた野心。これは大切なのですが、それだけではさまざまなステークホルダーの意見を聞くだけの「御用聞き」になりかねません。
官僚、学者、NPOのトップランナーなど、自分たちより圧倒的な知識と経験を持つ方々と対峙しながらも、それらを横断的に捉え舵取りをする。そのためには、自分が変革の中心に立つんだという内に向けられた、ある意味エゴイスティックな野心も必要なんです。
その野心を実現するために、どんな困難があってもやり抜く粘り強さ。この二つを兼ね備えた人であれば、リディラバで大いに活躍できると思います。
知見、経験のすべてを結集して「体験格差」に挑む
──今後リディラバで成し遂げたいビジョンについてお聞かせください。
いま最も力を注いでいるのが「子どもの体験格差解消プロジェクト」です。これはリディラバがこれまで培ってきたことの集大成の1つとも言えるプロジェクトだと考えています。
「体験格差」という、まだ定義や解釈が個人によって異なるような社会課題に対して、まずはメディア事業で培ったノウハウを活かして課題整理や問題提起を行います。。そして研修事業で培った知見を土台に、企業や行政など多様なセクターの共感を生み出し、課題解決の担い手を増やしていきながら、具体的な資源投入の仕組みを構築する。最終的には寄付だけでなく、持続可能な事業としてエコシステムを回していく。
この一連の流れを確立することは単に体験格差の問題を解消するだけでなく「リディラバという会社があれば、どんな複雑な社会課題でも解決に向けたエコシステムを構築できる」という証明になるはず。それに向けたモデルケースをつくり上げることが、いまの目標です。
──子どもの体験格差解消プロジェクトについて、もう少し具体的に教えてください
リディラバでは、「体験格差」という社会課題に対し、「良い体験とは何か」を議論・研究し、政策を作っていくための取組と、困難を抱える子どもたちへの直接的な格差解消への取組の両輪でアプローチしています。子どもの体験格差解消プロジェクトは、2023年にリディラバ代表の安部をはじめ、教育経済学者や有力企業の経営者らが発起人となって立ち上がった任意団体で、後者の取組をメインとしています。リディラバは事務局として戦略策定から実際の業務遂行や資金調達を担っています。
近年、多くの研究や調査から、子どもの頃の体験が、意欲や主体性など、社会を生き抜くための様々な能力を育むことが明らかになってきました。それに伴い、受験シーンでは大学全体の約85%が体験を評価する総合型選抜入試を導入していたり、企業の採用面接でも学力ではなくコミュニケーション能力が最も重視されたりと、社会的要請も高まってきています。一方で、地域の衰退や教員の多忙化、核家族化や共働きなどにより、以前は誰もが身近で低コストに得ることができた体験の機会が、社会の変化とともに大きく減少しました。その結果、家庭環境や子どもたち自身の置かれた状況によって、体験機会の享受が二極化してしまっているというのが「体験格差」であると私たちは考えています。
そして、特に「体験格差」の影響を受けやすい状況にあるのが、経済的困窮や不登校などの多様なバックグラウンドにより、困難を抱えている子どもたちです。
これまでの調査から、体験の格差は子どもたちの意欲や自己肯定感の格差に繋がり、将来の可能性を狭めてしまう負のフィードバックサイクルを生みだす危険性があることがわかってきました。また、体験が享受できないことで、日常・社会的な規範を学ぶ機会や、自身と他者との関係性を学び取る経験などが不足していることも明らかになってきました。
困難を抱える子どもたちを支援するNPOでは、自立に向けた支援プロセスに合わせ、日常的な体験から非日常的な体験まで、子どもたちの置かれた状況に応じた体験提供による支援を行っています。ですが、社会全体で子どもたちに十分な体験機会を届けられなくなってきていることから、体験格差は広がり続けてしまっているんです。
子どもの体験格差解消プロジェクトは、子ども支援NPOと体験サプライヤーと連携し、団体単体では準備や企画コストが高く継続した支援が難しい、非日常空間での信頼できる大人との出会いや新たな価値観との出会いなどが期待できるような体験機会を届ける活動を行っています。また、調査研究や実態調査を通して”子どもにとって本当に必要な体験とは何か”を明らかにしていくことも同時に行っています。
最終的には、家庭への負担が増えるのではなく、NPO・地域・学校・行政・企業といった外部プレイヤーの新たな取組や連携を創出し、すべての子どもたちが発達段階や置かれた状況に応じて、必要な体験機会を得られるエコシステムの構築を目指しています。
──まさにリディラバのミッションを体現するプロジェクトですね!
はい。まだ走り出したばかりですが、2〜3年あるいは5年というスパンでこのプロジェクトを通じて「体験格差」に関する社会的な認知の確立や解消に向けた様々な取り組みを増やしていきたいと考えています。これまでリディラバが各事業で蓄積してきたノウハウをすべて結集し、この大きな課題に挑んでいきます。ご期待ください。
【profile】
筒井 崇生 事業開発チーム サブリーダー
早稲田大学在学中、生物多様性をメインに環境NPO/NGOで活動。環境問題をはじめとする社会課題をビジネスで解決していきたいという目標を元に、事業経営を学ぶため通信系のベンチャー企業に新卒として入社。BtoC営業、マネジメント業務を担当し、2チームのV字回復を達成する。30歳を機に、社会問題へ直接インパクトを出せるようになるため株式会社リディラバへ参画。大手企業との社会課題解決型事業創出の伴走支援や、大学生・社会人を対象とした社会起業家創出支援に携わる。現在では自社事業の統括として、インパクト投資や寄付を通じた社会課題解決マーケットの創出や、「子ども体験格差」などの社会全体へのイシューレイジングが必要な社会課題領域の課題解決に取り組んでいる。