国際会議のため訪れた街で、美術館にふらりと立ち寄った。多くの画家の絵の中でも、ピカソに目を奪われた。よく知られる抽象画ではなく、驚くほど写実的な人物画。「ピカソにもこんな時代があったのか」と、新鮮な気持ちで見入った。
彼の名声は、独創的な才能だけでなく桁違いな作品数にもある。一般的な画家が生涯で数百~千点を描くところ、ピカソの総作品数は約15万点にも上る。活動期間から考えれば、ほぼ毎日のように作品を生み出していた計算になる。「成功とは挑戦する数」とはよく言うが、まさにそれだ。
こうした話はスポーツや音楽の世界にも通じる。成功の裏には必ず、圧倒的な練習量がある。ビジネスの世界も例外ではない。
生成AIの登場がもたらした最大の変化は、情報と知識の格差を大きく縮めたことだ。かつては高額なコンサルタント料を払わなければ得られなかった知恵や助言が、月額3千円程度のAIサービスを使えば、誰でも手元で瞬時に引き出せる時代になった。しかも、どんな質問をしてもバカにされないし、劣等感を抱くこともない。
思えば会社員時代、「考えが浅い」「知識が足りない」と上司に何度も絞られた。多くの懸念を考慮し、さまざまな人と調整をして、ようやく一つの取り組みが動き出す。それが今ではAIが瞬時に答えを導き出し、人間には即時に行動するか否かが問われるようになった。
さらに今後はAIネイティブ世代が社会を動かしていく。彼らはAIに思考させた選択肢から素早く行動を起こす。つまり、これまで思考や調整に費やしていた時間を、挑戦の回数に当てることができる。必然的に成功確率も高まってくるわけだ。
私自身、経営者として自問自答を繰り返している。「まずはやってみる」「挑戦する同志を増やす」「粘り強くやり続ける」。そんな人間らしい泥臭さこそが、AI時代においてはますます重要な成功の鍵だと感じている。
寄稿:南海日日新聞 つむぎ随筆(2025年6月)