インプレスグループは、2021年12月に東京神保町にあるオフィスを改装しました。
“ありがたいことにこのオフィス改装は、業界の中でも少し注目を集めています。ビジュアルもですが、それ以上に、デスク周りに紙やモノが山積みで通路も塞がれがちな編集の仕事をスッキリと整理して、インプレスグループ各社の隔たりなく、グループスタッフ全員が広いフロアを思うぞんぶんアクティブに動いて働けるようにとのこだわりが設計されているから”
そう話すのは、インプレスグループのオフィス改装をはじめとする「ニューワークスタイルプロジェクト」を進めた持株会社、インプレスホールディングス取締役副社長の塚本。このインタビューの中で意図せず知れたのは、オフィス改装に隠されたスタッフへの想いだけではなく、「編集者だけでなくバックオフィス業務を担うスタッフ一人一人までがクリエイティビティを発揮できる環境」を試行錯誤を重ねてみんなで作り上げていく思考でした。
出版社で働く人に限らず、組織づくりを担う多くの方にとってもヒントが隠されているのではないでしょうか。ぜひ最後までご覧になってください。
塚本由紀 / インプレスホールディングス取締役副社長
1980年生まれ。2004年にソシオメディア入社。2007年に父であるインプレスグループ創設者の塚本慶一郎が倒れ、在宅介護を開始する。2009年にソシオメディアを退社。2011年、有限会社T&Co.取締役就任(現任)。2017年、株式会社インプレスホールディングス取締役に就任。2020年6月より現職。
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まずは新オフィスをご紹介!
オフィス改装で最も意識したのは、グループとしての“アイデンティティ”と各社ごとの”独自性”のバランス。
ーーオフィスの改装を進めていく中で、最も意識したことはありますか。
一番意識したのは「インプレスグループ全体のアイデンティティ」と「内在するグループ会社の独自性」を、どちらも尊重することです。インプレスホールディングスは出版以外も含めて16のグループ会社を有しており、ホールディングスとしてはオフィス家具や人事制度は統一してしまうのが、管理上は効率が上がるんですよね。大手の出版グループもそのような動きをとられることが往々にしてあり、私たち自身もその方向性で進むべきかは慎重に議論しました。
インプレスグループの事業概念図
ただ、そこで考えたのはインプレスグループの存在意義。私たちは「多様なジャンルで専門性の高いメディアが集まっていること」が存在意義であると考えており、それらの専門性をより深掘りできるよう、つまり専門性を尖らせていけるようにしなければなりません。
そこにグループ全体のアイデンティティやスケールメリットを含む対外力を併存させることが重要であると考え、二つの相反しがちな概念のバランスを上手にとれるよう、オフィスのデザインを考えていきました。
そこで大事にしていたのが「コラボレーションの拠点」という言葉。企業理念の「面白いことを創造し、知恵と感動を共有する」にもある通り、インプレスグループはどこまでいっても「面白い」を追求し続ける会社です。そのため、各グループ会社のスタッフが集まって仕事をするときに最も価値を発揮でき、そこから面白いものが生まれる、言い換えれば、共創に重きを置いて設計を進めていったということですね。
ーーグループのアイデンティティと個々の独自性を尊重すると、そのバランスを担保することがとても困難に思います。そのバランスはどのように取っていたのでしょうか。
本当に難しかったポイントですが、落とし所になったのは「ハード」と「ソフト」の両面においてカスタマイズの余地を残すことでした。ここで言う「ハード」は物理的なオフィスデザインという意味合いが強く、机や椅子の配置はもちろん、本棚や校正紙棚などのオリジナル家具をさします。「ソフト」は主に人事制度や、見本誌の電子システム導入を始めとしたシステム適用の度合いです。
効率を優先して強制的に全てを同じにすることも可能ですが、それでは独自性が活きにくくなってしまいます。グループのガイドラインは示しますが必ずしも一律とはせず、要望をヒアリングしながら自律的に取捨選択してもらえる部分を作りました。
オフィスデザインを例に挙げると、フロア全体を見ると統一感があるのですが、各社の拠点を見るとちゃんと“違い”が出ているというようなイメージですね。
編集という仕事へのこだわりから生まれた"散らかりと余白"
ーーハード面での設計において、最も重要視していたことは何ですか。
オフィスというものは、社外の人に見てもらうために存在しているのではなく、一義的には社内で働いてくれている人のために存在しているもの。だからこそ、オフィスの中で働いている人たちの「働きやすい」を作り出すことに重きを置き、加えて外部との接点にも、との想いで「オフィスは『創造』のためのメディア(媒介)でありたい」として取り組みました。
出版メディアで働いている人にありがちなのですが、「カオスの中で働きたい」「その中だから面白いアイデアが生まれる」と考えている人が一定数いるんです。もともと私自身もそちら側なんですが、「片付いていて、整理整頓されている状態の方が良い」という人も存在していて……好む環境に大きな違いが出てしまうんです。
また、メディア社ならではかもしれませんが、常にオフィスがいろいろなものでごった返しているということもありまして。ドラマや映画などで再現されるようなイメージですね。これは、レビュー記事用にメーカーから新製品が届いたり、編集者それぞれが自分だけの定規やペン、タブレットなどの仕事道具を持っていたりすることに起因するんですけど、どうにかしてこの散らかっている状態と、そうは言っても整理整頓された検索性の高いオフィスの両軸を実現できないものかと考えていました。
そこで辿り着いたのが「局所的に散らかっている状態を表現する」という解決策でした。「局所的に」というのがポイントで、「見えるところにはモノを置かない」「見える場所は散らかっていない」「少し引き出しを開けたらモノがたくさんある」という状態を目指しました。
例えば、文具などの“みんなが共通して使用するもの”は、個人のアイテムを使用せず、共用のものを使用するように統一しています。個人のものをオフィスに持ち込むと、それだけでオフィス内の物量が増えてしまう。その状態を避けるためにも、共用のものを一箇所に集約させておき、使いたいときにパッとそのアイテムを手に取ることができるようにしました。
改装が終わり、オフィス内を見返してみたり、実際に仕事をしてみて感じるのは、モノを局所に集約したのはリモートワークに適した解だったということです。「あそこに行けばモノが集まっている」という感覚は隠れ家というと変ですが、安心感や仲間意識にもつながるんですよね。編集という仕事に携わっている人であれば、メリハリと言いますか、"散らかりと余白"がオフィスにも表現されていて、きっと働きやすい環境だと感じられるのではないでしょうか。
ーーオフィスで働いている人の安心感も考えた設計になっているんですね。他に何か、あるいはソフト面を含めて気にかけていたことはありますか。
冒頭でお伝えしたように、アクティブに動ける導線をつくることを通してコミュニケーションを誘発できるといいなと考え、抜け感のある雰囲気にしたり、あえて段差をいくつか用意したり、小道をたくさん作ったりと、余白をふんだんに取り入れるのはもちろんのこと、配置した家具もすぐに動かせるものにしたり、全席フリーアドレスにすることで、デザイン後であっても常に形態変化できる余地を残しています。
また、グループ各社の拠点を「ベースキャンプ」としてフロアに点在させ、その中は各社ごとに好みの環境に仕立てられるようにしてあります。ベースは本棚でできているので隙間から他のグループ会社の様子も見られて風通しがよいのもポイントですね。
ソフト面ですが、今回のプロジェクトでは「人事制度」の整備も行っています。具体的には「リモートワーク手当」「コワーキングスペースの利用補助」「遠隔地勤務制度の新設」「退職者の再入社(アルムナイ)制度」「グループ内ワークシェア制度の新設」など、内容を充実させています。
コロナ禍によって「リモートワークを余儀なくされた」という背景ももちろんありますが、今回の改装ではオフィスは「コラボレーションの拠点」であることを重視し、個人で出来る作業は自宅で行うことを推奨していきたいと考えていました。その前提があるからこそ、オフィスに来ることが一味違ったものになる。そういった意味合いで人事制度や手当という自宅の環境整備にも直結する部分にも力を入れました。
ーー確かに、一般的なオフィスであれば相互干渉ができないような設計になっているように思われます。あえてコラボレーションが活性化するように設計されていますが、その代表となるような場所があればぜひお伺いしたいです。
いちばんは「メールセンター」でしょうか。元々は「メール室」と呼ばれていた場所で、各種郵便物が行き交うだけの場所でした。
しかし冷静になってみると、「メール室とは会社の顔なのではないか?」ということに気がつき、リモートワークが導入されて出社率が制限されている今だからこそ、メール室をコミュニケーションのハブ、つまり社内向けのフロントサービスにしようという結論に至りました。
そのため「メールセンター」という名前に変え、出社する際に必ずメールセンターと接触するような導線に設計しました。日常的に関わりがない他のグループ会社のことも、メールセンターに来ることで勝手に情報が入り、それをきっかけに新しい交流が生まれてくれるといいなと。そんな期待を込めて、メールセンターの設計にも力を入れました。
大規模プロジェクト遂行の鍵は、オフィスデザイン会社によるアイデンティティ理解。
ーー本格的に新しいオフィスを利用することになって5ヶ月ほど経過しますが、働いている皆様の反応が気になります。
インプレスグループのオフィスはビルの22階と23階の2フロアを借りているのですが、23階にあるカフェは多くのスタッフから喜びの声が寄せられています。22階で働いていて、ちょっとした休憩がてら階段を登り、気分転換にコーヒーを飲むこともできる。もちろん他のグループ会社のスタッフもそこにはいるので、自然と会話も生まれているようです。
つい先日、新オフィスに関してアンケートを取ったばかりなのですが、まだ出社率が低くて十分には使われていない場所も多いです。今後はカフェを外部のライターさんやデザイナーさんにも作業場としてお使いいただけると嬉しいなという想いを持っています。
ーーここまで大きなプロジェクトを達成することは並大抵のことではなく、何か達成する上での要素があったと思うのですが、その辺りはいかがお考えでしょうか。
月並みですが、お願いしたオフィスデザイン会社様含め、様々な方がこのプロジェクトに向き合ってくださったことが大きいと考えています。何がこのグループのコアなのか、片付けや植栽、照明担当のお一人お一人にまで伝わったと思います。もし仮にホールディングスの視点だけで今回のプロジェクトを進めたとしても、逆に各社の視点だけを集めてプロジェクトを進めたとしても、良い結果には着地しなかったはずです。
いざオフィスの改装が終わり、リモートワーク下においても事業を成長に向けて進められている現状を見ると、今回のプロジェクトでパートナーシップを組めたことは大きな財産だと考えています。他の出版社さんからも見学のご希望を複数いただいており、これをきっかけに業界の更なる横の連携につながっていければ。と願うばかりです。
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