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【代表インタビュー】「面白い」とはなにか。30年間、出版の未来に挑戦してきたインプレスグループ代表、松本大輔が見据える、出版業界の未来と「面白い」の新たな交差点

“「デジタルシフト」と称される、リアルからデジタルへ多くの物事が移行する事象。これは必然性のもと起きていると捉えられますが、デジタルに移行することが全て「善」「正義」かと問われると、そうとは考えていません。本当に重要なことは、届けたいコンテンツを最適な状態でユーザーに届けることができる媒体を選択すること。それができないのであれば、きっと紙に固執しているだけの出版業界も、ただ単に電子書籍へと移行をすれば良いと考えている出版業界も、同様に廃れていってしまうでしょう。”

そう話すのはインプレスホールディングス代表取締役社長の松本。

そんな複雑化した世界の中で、出版業界はどう前に進んでいけば良いのか。今回の記事では新会社IPGネットワークを含めた事業会社を束ねるグループの代表松本に、出版業界の未来について聞いてみました。

これからの出版業界はどのように進化・発展していけば良いのか。面白いコンテンツを永続的に発信していくためには何が求められているのか。

そんな、少し抽象度の高い、しかし出版業界にいる全ての人が向き合わなければならない大きな問いを、松本社長が1つずつ紐解いて答えてくださいました。出版の未来を少しでも覗いてみたい人必見の記事です。

松本大輔 / 株式会社インプレスホールディングス代表取締役社長、株式会社リットーミュージック代表取締役社長

1973年生まれ。株式会社リットーミュージック入社後、株式会社インプレスに出向。2000年にリットーミュージックに戻り『リズム& ドラム・マガジン』編集部に配属。その後、宣伝、営業、マーケティング、イベント制作など様々な事業部を経験し、16 年にリットーミュージック取締役、18 年にはリットーミュージック代表取締役社長に就任。20 年6 月から株式会社インプレスホールディングス代表取締役社長に就任。

営業、編集、宣伝、マーケ。社長に至るまでに得た多くの”怪我の功名”たち。

ーー新卒で入社したインプレスやリットーミュージックで、本当に多様な職種を経験してきていますよね。

中学生の頃からドラムをやっていて、音楽や楽器がものすごく好きだったんです。何か音楽に携わる仕事ができたらなと思い、新卒で入社できたのがリットーミュージックでした。「晴れて大好きなドラム雑誌の編集ができるぞ!」と意気込んでいた矢先、怪我をしてしまいまして。リットーで雑誌編集に携わることなく、インプレスへ出向となってしまったんです。

何度も「戻してほしい!」と上司に伝えていたのですが、「営業成績で1位になったらリットーに戻してあげるよ」の一点張りで。だったらやってやろうじゃないかと思いまして、成績が明確に発表されたりするわけではなかったですが、訪問件数だけは1位をとり続けていました。

ーーその後、大阪にて支社の立ち上げなど紆余曲折あり、リットーに戻られたとか。

はい、ようやくずっと希望していた『リズム& ドラム・マガジン』という雑誌の編集部に配属してもらえました。

ただ、ドラム・マガジンってなかなか地味な部署で、、、リットーの中でも良い意味で放任されているような部署でした。だから本当に自由にいろんなことを試していました。例えば、インプレスでは当たり前のように存在していたメルマガを「リットーの雑誌としては初めて」取り入れてみたり、面白いグッズをメーカーから仕入れて雑誌の定期購読の特典にしてみたり、有名ブランドとドラム専用シューズを共同開発してみたり。周りの編集部からも「何かおもしろそうなことやってるぞ」と思われていましたね。

ーー望んでいなかった営業職としての経験が、本当にやりたかった雑誌編集者としての仕事に活かせたということですね。

そうなんですよ。その評判を聞きつけて、当時の社長が僕を「宣伝部の立ち上げメンバー」に選んでくれたのが次のキャリアですね。「とにかく面白いことをやろう」っていう考えでいろいろなアウトプットを思いつく限り出していました。

トライ&エラーを繰り返す日々を送っていたら、「宣伝だけではなく、販売にも携わってほしい」という話がきまして。当時、会社の中に「マーケティング部署」は存在していなかったのですが、営業部と宣伝部を行ったり来たりする形でマーケティング部署の立ち上げをはじめました。

ーー次々とやることが変わっていってますね。

そうですね。マーケティングの部署では「どうすればモノが売れる状態を作れるんだろう?」ということをひたすら考えていました。実施したこととしては、オフラインイベントが多かったです。

ものすごく利益がでるといったことに繋がることはなかったのですが、宣伝の一環としてかなり活気のあるイベントを開催することができていました。イベントを開催することで、読者の方々からの雑誌に対する熱量がかなり高まった姿をみた広告主様から「リットーに出稿するよ」とおっしゃってくださる機会が増えたのは大きな成果だったと言えますね。

"競争"ではなく"共創"を。出版業界をもっと面白くしたいからこそ、ノウハウは出し惜しみしない

ーーインプレスグループは30年という歴史を持ちながらも、さまざまな新しいことにチャレンジしている会社だなと感じています。特に印象的なのが「パートナー出版」という仕組みだったのですが、まずはそこからお伺いしてもよろしいでしょうか。

「パートナー出版」というのは、インプレスの口座を利用して出版流通や宣伝販促ができる仕組みです。編集プロダクションや出版レーベルと提携し、出版流通をさまざまな角度からサポートをさせていただいています。

「そんなことするんだったら、最初からグループに引き入れたほうが早くないか?」と考える人もいるかもしれませんが、別にグループに入ったり、買収したりせずとも、気軽にお互いが持っているものを持ち寄れる関係性でいた方が良いものができるパターンもあるんじゃないかとも考えています。

ーー一般的には「ノウハウが」「自社だけの」という考えが強くなってしまい、パートナー出版という仕組みを採用すること自体、毛嫌いされてしまう印象があります。インプレスグループがそういった会社とは異なる発想を持ち合わせているのは何か背景があるのでしょうか。

大事なことは、自分たちの会社だけが成長することだけではなく、市場全体がしっかりと成長し、出版&コンテンツ業界が末長く続いていくことだと思います。出版やコンテンツが好きで、何かしら自分の好きなジャンルがあってこの業界に入ったにも関わらず、誰の得にもならないような変な競争のせいで自分が好きなものが消えてしまうのは悲しいじゃないですか。

それだったら最初から、自分たちが持っている成功事例やノウハウは他社にも展開・共有して、同じように成功してもらったらいいなと考えています。そんなことを続けていたら、世の中にもっともっと「面白いコンテンツ」が生まれてくる可能性も高くなるでしょうし、既に存在している「面白いコンテンツ」がさらに面白さを増す可能性だって考えられますし。

人によって"面白い"の形は変わる。僕にとっての”面白い”とは。

ーーさまざまなインタビュー記事を拝見させていただいたり、本日のインタビューの中でも頻発しているのが「面白い」という言葉です。インプレスグループにおける「面白い」を教えてください。

代々の社長によって「面白い」の定義が異なることが面白いなと思っています。例えば創業者の塚本は「イノベーティブであること」と定義していましたが、僕の場合は「人を笑顔にさせられるモノ・コト」が面白いものだと定義しています。ですので、「今」のインプレスの中での定義としては「笑顔にさせられる」というのが正解になりますね。

ーー「面白い」を尊重する文化は、時にお金にならないものを生み出す可能性も孕んでいると思いますが、その塩梅はどのように調整しているのでしょうか。

スタッフから「面白い」を提案され、僕自身がそこに「面白いな」「ワクワクするな」「笑顔にさせられるな」と本気で思った場合は、その「面白い」からどうすればお金を生み出せるのかを一緒に考えます。ですので、提案の最初からその「面白い」がお金を生むのかどうかはあまり大事ではないと思っています。

もうひとつ考えていることとしては、仮にそれが本当に「面白い」ものなのであれば、僕の定義に置き換えて「笑顔にさせられるモノ・コト」なのであれば、必然的にお金は後からついてくるのではないかなと。

創業者の塚本が会議で常に質問していたたのが「それって面白いの?」でした。本当に面白かったら売上なんて後からついてくるよ、と常に言われていたこともあって、僕の中でもその感覚をとても大事にしています。

ーー松本社長がこれまでに生み出してきた「面白い」を教えてください。

ひとつめはオンデマンドTシャツの「pTa.shop(ピーティーエー・ショップ)」ですね。編集者たちが選りすぐった「これは面白いぞ」というコンテンツを、1枚のTシャツに表現して提供するサービスです。

1枚だけの印刷が可能になっているのですが、これまでに多くのコンテンツを創ってきた編集者たちが、渾身の1枚をプロデュースするなんて、絶対に「面白い」ものが生まれるに決まっているじゃないですか。

きっと生み出されるアウトプットは、ものすごくマニアックなものも多くなるんだろうなと思いつつ、そのマニアックさに惹かれる人は世の中にたくさんいる。これは面白いビジネスになると思ってサービスをはじめました。いまで言うところのNFTに概念として似ているかも知れませんね。

出版社がオフィシャルに出店する「オンデマンドプリントTシャツモール」、pTa.shop(ピーティーエー・ショップ)
pTa.shop(ピーティーエー・ショップ)は出版社が各屋号をもってオフィシャルに参加する「オンデマンドプリントTシャツモール」です。各出版社が文学、ミステリ小説や絵本、雑誌など様々な書籍ジャンルからプリントTシャツを提供します。公式だからこそ、オンデマンドだからこそできる点1点が面白い、唯一無二のTシャツモールです。
https://p-t-a.shop

2つめは「ダウンロードカード」ですかね。名刺サイズのカードに電子書籍をダウンロードできるQRコードを記載しておいて、そのカードから本(EPUB)が読めるようになっているというものです。

「本」って、持ち歩くのも大変だし、すぐには読まない可能性もある。それだったらいっそのこと、カード型の電子書籍にしてしまって、質量も体積も圧倒的に小さくしてしまうのが良いかなと思ったんです。

ーーものすごく面白く、とてもイノベーティブだと感じました。

インプレスグループは今年(2022年)、30周年を迎えました。それを記念して社史を出版したんです。でも社史って、なかなか読まないですよね。他社のものは特に。だからお客様にはダウンロードカード版をお渡ししています。僕自身、この「カードから社史を電子書籍としてダウンロードする」というプロセスに、インプレスの30年間が詰まっていると考えています。

もしかしたら他の出版社さんには怒られてしまうかもしれません。「こんなものは本ではない!」みたいな。ただ、紙媒体もあくまでコンテンツを"届ける手段の一部"なのであれば、こういった"新たな手段"を通して、これまでにないユーザーエクスペリエンス(顧客体験)を創りあげることも本質だと考えています。

まさにインプレスが渇望していた「コンテンツの最大化」の一つの形です。小さなアイデアかもしれませんが、インプレスがこれからやろうとしている、コンテンツの価値を10倍、100倍にしていけるような「仕組み」作りのきっかけになってくれるとありがたいなという想いがありますね。

コンテンツを最大化させる出版業界のプラットフォーマーに

ーーこのようなアイデアで業界全体が少しずつ変わっていくと良いですね。松本社長が考える、これからの出版業界の進むべき姿を教えていただきたいです。

ユーザーの生活スタイルに柔軟に対応していくべきかなと考えています。現代はスマホを利用する時間が圧倒的に増えていて、それに対して「対抗する」のではなく「共存する」「中に入り込む」ことを考えていかないといけません。

今の出版業界の課題は、本来コンテンツに求められているであろう「深く」「早く」「正確」の3要素を兼ね揃えられていないということ。例えば、紙媒体であれば深さと正確性は持ち合わせていますが、残念ながら早さには対応ができません。

デジタル媒体の場合は早さが武器ではありますが、逆に情報が氾濫してしまった影響で深さや正確さにかけることがあることも問題視されていますよね。この現状をどのように打破していくのか、どのような形で転換点を作り出していくのかが、今業界全体で求められているのではないかなと考えています。

ーーそんなこれからの出版業界の中で、インプレスグループはどのような会社を目指して行きますか。

コンテンツの面白さを10倍、100倍にしていけるような「仕組み」をつくっていける会社でありたいですね。これまでの活動で、コンテンツとしての深さの追求は一定クリアできていると考えています。ただ、その質の高いコンテンツを活かしきれているとは思えません。紙媒体やウェブ媒体以外の、Tシャツやダウンロードカードのような新たなアプトプット手法があってようやくコンテンツの最大化が果たされると考えます。我々はこのような面白い仕組みを、もっともっと模索して行きたいと思っています。

これまでのお話に共感いただき、いまの出版業界に一石を投じ、面白いことを追求できる勢いのある方と一緒に笑顔でお仕事ができたら本望だと考えています。

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