SES業界には「塩漬け」という言葉がある。本人の希望や成長とは関係なく、いったん決まった現場にずっと据え置かれること。営業にとっては売上が立ち続ける状態で、エンジニアにとってはキャリアが止まる時間だ。
SOKUSHINのIT事業部は2024年7月に立ち上がった。母体は土木の会社で、それまでIT事業部は存在していない。ゼロから思想ごと持ち込んで作られた組織だ。なぜ作ったのか、何ができていて何がまだなのか。立ち上げメンバーに、一つずつ聞いていった。
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この事業部は、何がきっかけで生まれたのか
児玉:私は2019年からずっとこの業界にいて、SOKUSHINは3社目です。前にいたのはグループ全体で営業150人、エンジニア1500人くらいの会社でした。営業が1人決めればそのぶん報酬がもらえる仕組みで。そうなると、いわゆる塩漬けと言われる案件にずっと突っ込んで、そこから出さない営業もいるわけです。
案件ひとつで、その子のキャリアが変わってしまう。それってビジネスとしてどうこう以前に、人としてどうなのかなと思い始めたのが最初のきっかけでした。前職では累計50〜100人のエンジニアの教育やマネジメントを担っていたので、余計にそう感じたのかもしれません。
川端:私の2社目が、まさに今回のテーマである塩漬けに当てはまる会社でした。案件を決めると営業の成績になります、という仕組みであれば、決してエンジニアのためにアサインをしていくわけではなくなる。将来が見えない、先行きが不安だということで辞めていく。2年、3年やって、そろそろ抜けますかね、というのが頻繁に起こる会社でした。
ただ、これはエンジニアがかわいそう、という話だけではないんです。エンジニア目線で見ても良くないし、会社目線で見ても良くない。人が抜けていくのでリソースが増えない。採用して100名規模程度まではいくでしょうけど、そこから先が全然伸びない。誰にとっても良くない。適切に成長を導いていける組織であれば、会社にとってもエンジニアにとってもいい。だから塩漬けはよろしくないよね、と今は考えています。
渡井:僕は、前職での経験を経て『もっとこうしたい』という想いが強くなり、理想の環境を求めてここに来たのが正直なところです。未経験やロースキルの方を中心に採用する会社で、利益が優先なので、アサインして、あとの管理に不足感を覚えました。集めて、また次。そこにエンジニアさんの成長とか、スキルアップってあるんだろうかと。
3人は、どんな経緯で集まったのか
渡井:自分のキャリアにも、担当エンジニアの行く末にも納得がいかなくて。困っているときに、川端さんに「ちょっと助けてください」と。
川端:考えが近いと感じていたので、当時はこちらから声をかけさせてもらった、という感覚です。児玉も、以前から取引先として付き合いがあって、会社としてこうあるべきだよね、というビジョンが同じ方向を向いていた。じゃあやっていこうかね、自分たちで組織を作れるかもしれないね、と。そこが起点になりました。
渡井:事業部が動き出したのが2024年4月で、入社は5月の後半。ほぼ立ち上げと同時なので、しばらくは川端さんとマンツーマンで走っていました。自分の経験もそこまでなかったので、教えてもらいながらレベルアップしていく形でしたね。
前職は若手や未経験の方が非常に多かったんですが、今は高スキルの方やベテランのエンジニアさんとも仕事ができる。自分の勉強という意味でもレベルアップできるようになった。こっちに来てよかったなと今は思っています。
思いを、どうやって形にしたのか
川端:最初に手をつけたのは、制度の設計です。元々IT事業部があったわけではなく、土木の会社ですから。極端に言えば、まったく別の思想を持ち込むイメージになる。だから事業部としてこういう形でやっていきたい、というのを代表に伝えさせてもらうところから始めました。
福利厚生も含めて、エンジニアと長く一緒に仕事をしていくための制度から作っていった、という順番です。
児玉:私が正式に入ったのは2025年8月です。新規開拓やお客さんとの接触は渡井さんがメインだったので、それ以外を担うために入りました。スキルシートの整備、エンジニアのヒアリング、マネジメント。うちは管理をかなり重要視しているので、そこは着実に向かっていけている。今は人事も含めて全員が役割と責任を持って、同じビジョンに向けて動いています。
「できたこと」と「まだ足りないこと」
川端:塩漬けを防ぐという意味であれば、エンジニアを1人にさせない、孤独にさせないというのはできています。あなたのいるべき場所はここですよ、という確立された場所。そして絶対的に相談できるパートナーが常にいる。この状態は確実に作れています。
児玉:前職で放置されて、塩漬けにされて、思うようにいかなかった方たちがうちに入って、おかげさまでキャリアがつきましたと言ってくれる子が増えてきている。方向性としては間違っていないんだろうなと思います。
川端:足りていないのは、専任の講師がいないことですね。エンジニア同士の1on1で技術を教える、クラウドの知見を深めたい人が4〜5名集まって勉強する場を作る、といったことはやっています。ただ、明確に講師という存在が社内にいるわけではない。今は15年、20年の経験を持つ技術者の知見を借りて回答している状況で、現場もあるので回答が遅くなることもある。専門的な人を置けば即時の回答ができるんじゃないか、というのは正直課題です。
現役エンジニアが教えてくれるので、リアルな現場の今を聞けるのは大きなメリットではあるんです。ただ、教える力は人によってまちまちになる。講師としてのスキルを積んだ人間が1人は欲しいな、と。
渡井:社内メンバーで専門的な技術を教える人がいないというのは、僕もパッと思い浮かびました。確かにそこはありますね。
児玉:研修プラスアルファで何かやっていきたいというのは自分も思っています。ただ、それが具体的に何なのかは、まだ言葉にできていないというのが正直なところです。
入社したエンジニアは、どう変わったのか
児玉:運用監視、いわゆるオペレーター寄りの仕事をしていて、自信を持てずにいた方がいました。そこから運用保守にステップアップした案件に入ると、やっぱり自信がついてくる。積極的にコミュニケーションを取るようにもなりましたし、顔つきも責任感のある顔になってきた。今までは自信がなくて、自分を小さく見せていたところもあったのかもしれません。
川端:資格の話もあります。入社して2〜3ヶ月は、そんなに頑張っている風には見えていなかったんです。営業が話して、やっていこうねという形で進めて、簡単な資格から始まって、AWSのクラウドプラクティショナー、AZ-900、AWSのアソシエイト、その中で応用情報まで取れたりして。技術者としてやっていくのが楽しくなり始めたんですよね。
もともと向上心があったのかと言われると、おそらく当社に来てからだと思っています。キャリアが見えない時ってなかなか動けなくなる。でも見えたときは、そこに向かって進めばいいよね、と動きやすくなる。
大きいと感じているのはリファラルです。こういう人に声をかけたいんだよね、と自分の友人に積極的に声をかけてくださるようになった方がいます。エンジニアを大事にして、長期にわたって一緒にやっていきたいという思いが伝わったからだと思います。
会社の集まりは得意じゃないと言っていた方も、担当営業と関係値ができると、他のエンジニアさんとも会ってみたいですね、と顔を出すようになったりする。まだ2年ほどなので劇的な変化とまでは言えないかもしれませんが、少しずつの変化は見えてきています。
渡井:僕は1on1で実感しますね。前職で無理やり案件に入れられていた方が、弊社で希望する案件、ステップアップできる案件に入れた。月1回の1on1で満足そうに話してくれる瞬間が、一番やりがいを感じます。
エンジニアに、どう成長してほしいか
川端:塩漬けを解消したい、放置しない、キャリアアップを同時並行で進めてほしい、というのを念頭に置いています。ただ、やってほしいのは、自分1人でそれを終わらせないこと。塩漬けで困っていると言って入社してきた新しいエンジニアを、技術でもいいし、相談に乗るだけでも本当に大丈夫なので、解消してあげられる側の人になってくれたら嬉しい。内面も含めて、心が豊かに成長してくれたらと思っています。
渡井:ちょっと言葉を選ばずに言うと、前職を見返すような人になってほしいですね。前職ではやりたくない案件にずっと入れられていた。でも、うちに来たらステップアップできた。内心で「やってやったぞ」と思えるようなキャリアになってほしい。そういう人が、自分は好きなんです。
児玉:担当しているエンジニアには、将来を見据えたキャリアを考えてほしいと言っています。目の前のただの案件をやっているだけじゃなくて、3年後、5年後どうしていくかを考えて動いてほしい。
業界で長く活躍する人は、大きく2軸だと思っています。1つは問題解決能力。定常作業だけじゃなく、プラスアルファでお客さんの課題を解決できる方は結構残っています。もう1つは、突出した技術や専門性を突き詰めた人。あとは、リーダーとして下のメンバーを巻き取ったり、組織化させたりできる方ですね。
キャリアが「横」に動くときも、伴走するのか
川端:挫折や失敗を経験した方もいらっしゃるんです。塩漬けにされていて、私は構築がやりたいんだ、もっと上流の仕事がしたいんだと思って転職してきてくれて、いざそれに近いことをやったら、あ、私向いてなかった、と気づくパターンもあるんですよ。
もちろん、もうちょっと頑張ってみたら、という話もします。でも本人が決定的に構築には向いていないと思うのであれば、話し合ったうえで、じゃあ運用保守をやっていきたいんだね、と。それも認めます。そして、その世界で自分の価値を上げていくにはどうすればいいんだろうね、と一緒に考える。本当に伴走型なんです。
ただ、頑張らなくていいよという意味ではありません。自分の自由にできるという話ではなく、本気であなたはどうしたいのか、そのためにどうしていくべきなんだろうかというのを一緒に考えます。100%無理なものは、さすがに止めます。ただ、上に行こうとしていたのが横に移ったくらいであれば、じゃあそっちの道で市場価値を上げるにはどうすればいいか考えようか、と。必ずしも王道じゃなくてもいい、という意味での伴走です。
数あるSES企業の中で、なぜここを選ぶのか
川端:伴走していくことで、心理的なセーフティネット、安心感がある状態になると思うんです。塩漬けにされて1人で孤独ですね、という状態だと、いろんな悩みを抱えて考える時間がすごく多い。そういう悩みが少なければ、土日にちょっと勉強してみようかなと思えたりする。いいスパイラルに入っていける可能性が高い。努力した分が還元されるので、成長も早いんじゃないかと思っています。
渡井:数字で言うと、1人あたりの管理人数が少ないんです。自分は8〜9名くらい。月の営業日数って20日前後じゃないですか。それなら物理的に、全員としっかり1on1に行ける。前職は、決めたら20人、30人を不定期に見てくださいみたいな感じだったので。
しかもその1on1は、業務報告の場だけではないんです。正直、仕事以外の話、プライベートの話もしています。8人いたら8人とも。最近サッカー行きましたとか、いつもそんな話です。現場の近くや家の近くまで自分が行くので、実際に会いに行ったりします。
児玉:普通の会社や前職だと、案件を紹介して、入れて終わりというのが多かった。でもうちは継続的にフォローして、困ったときに相談できる環境がある。人間関係の悩みもキャリアアップの相談も、悩んだときにすぐ相談できるところは強い部分だと思います。
窓口も担当営業だけではありません。人事も含めて複数のルートがある。小さい悩みなら気軽に相談するうちにより関係性も深まりますし、大きな悩みなら事業部の全員で解決に動きます。
相談への向き合い方は、全員共通しています。まず最後まで話を聞くこと。そのうえで原因を一緒に、こういうことだよねと整理します。そのあとに、うちでどうしていこうというゴールを決めて、現場と調整する。基本的には解決するまで一緒にやります。それでもダメなら、必要なら、このタイミングで案件を変えようね、というところまで。
最後に|これを読んでいるエンジニアへ
聞く。整理する。ゴールを決める。現場と調整する。解決するまで一緒にいる。特別な方法はない。ただ、この当たり前を全員が徹底している会社は、思っているより少ない。
この事業部の説得力は「理想」ではなく「原体験」から来ている。放置される寂しさを知っている。塩漬けにされる悔しさを、担当エンジニアの隣で見てきた。だから、そうならない場所を自分たちで作った。まだ講師はいないし、研修も道半ばだと正直に認める。それでも、1人にはさせない。孤独にはさせない。そこだけは確実にやり切っている。
もし今、キャリアが止まっている感覚を抱えているなら。まずは話を聞かせてください。最後まで聞きます。そこから一緒に考えるのが、僕らの仕事です。